劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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ここからしばらくは辛い展開が続く事が確定していて俺は辛い、耐えられない!!
劇場版で見てても辛かった場面を書く事になるとは、あの時は夢にも思わなかっただろうに…。


試合が終わり、終わりが始まる。

「本日はみな、お疲れだった」

 

温泉で試合後の疲れを癒している彼女達に向けて、河嶋が音頭をとる。

 

エキシビションマッチ終了後、貸し切りにした大洗スパリゾート【大洗潮騒の湯】にて、本日の試合の打ち上げが行われていた。

 

「まずは勝利した聖グロリアーナ、及びプラウダ高校を称えたい」

 

試合の結果は聖グロリアーナ・プラウダ高校のチームの勝利に終える。

 

「そして、参加を承諾してくれた知波単学園にも感謝の念を禁じ得ない」

 

だが、試合が終わった今、彼女達は同じ湯につかり互いの健闘を称えあっている。

 

「さらには審判団を派遣してくれた日本戦車道連盟、北関東支部茨城第二管区」

 

いや、彼女達だけではなく、審判団達や試合に関わった人達はもうお風呂から上がり、一足先に宴会で盛り上がっている頃だろう。

 

『彼』の初めての試合は、終わったのだ。

 

「そして、私事ながら悲願の初撃破を…」

 

「かーしま、長い」

 

「では以上!みんなゆっくり楽しんでくれ!!」

 

「「「「「「はーい!!」」」」」」

 

これから長々と初撃破の心境を語るつもりだった河嶋の言葉を角谷がぴしゃりと閉じ、音頭を終える。

 

「エキシビションとはいえ、勝利の味は格別ですね」

 

湯船に浮かぶお盆、そこに置いてあるティーカップを取ると聖グロリアーナ、アッサムが紅茶を一口。

 

温泉で、ティーポットで、紅茶。

 

「勝負は時の運、ですわ」

 

そのままアッサムはお盆をダージリンの元へ、彼女もまたそれを受けとると紅茶を一口飲んで返した。

 

温泉で、ティーポットで、紅茶。

 

なんとも不釣り合いにも見えるが、間にいるオレンジペコも同じように紅茶を受け取っている辺り、聖グロリアーナは通常営業である。

 

「う~っ…もう出る!!」

 

「長く入っていないと良い隊長にはなれませんよ、肩まで浸かって百は数えて下さい」

 

プラウダ高校ではのぼせてきたのかすぐに出ようとするカチューシャにノンナがそう答える。

 

「ーーー」

 

すると隣にいたクラーラが数を数え始めた、もちろんロシア語で。

 

「日本語で数えなさいよ!!」

 

ロシア語がわからなくても数を数えている事はなんとなくわかるカチューシャが文句を言うが、クラーラが「百は数えて下さい」とノンナが言った日本語を理解している事には気付いていない。

 

「西住隊長、申し訳ありませんでした、我々が逸って突撃などしなければ…」

 

「あ、いえ…一緒にチームが組めて良かったです、いろいろと勉強になりました」

 

実直に頭を下げる西に西住が答える。

 

「どの辺りが勉強になりましたか?」

 

「そうですね…精神とか」

 

「なるほど!!」

 

力強く頷く西を見て西住が微笑む。

 

「それなら我々も存分に勉強させて頂きました、この試合に誘って下さった比企谷殿には感謝の言葉もありません。後で改めてお礼をしに行こうかと思います」

 

「あー…それは」

 

「…今はそっとしてやった方が良いんじゃないか?」

 

「比企谷さん、試合が終わった後もしばらくは呆然としていましたね」

 

あんこうチームは互いに顔を見合って苦笑いを浮かべる。

 

「ふん、一度撃破されたくらいで情けない」

 

そんなあんこうチームに河嶋は自信満々に答えた。

 

「なにより私の初撃破に選ばれたのだ、比企谷もさぞ名誉ある事だろう」

 

「というか、たぶんそれが原因なんじゃ…」

 

「比企谷先輩かわいそう…」

 

「初めての試合で河嶋先輩に撃破されたなんて…」

 

「かわいそう!!」

 

「どういう意味だ!おい!!」

 

そんな事を口々にしてわいわいと騒ぐ一年生チームを河嶋が怒鳴りつけた。

 

「…八幡君、ちゃんと楽しんでくれたかな?」

 

そんな様子を見ながら、西住 みほは試合が終わった後もしばらく呆然として動かなくなっていた彼を思い出す。

 

「それは大丈夫でしょ、試合中あれだけいろいろ仕掛けてきたんだし」

 

「私達を裏道に誘導して行き止まりを作って挟み撃ちしたり、ご自分の撃破を偽ったり…」

 

「改めて考えるとやりたい放題だな…」

 

「いつもの練習試合の時よりもずっと気合いが入っていて、私、とってもドキドキしました」

 

「…うん、私もすごくドキドキした」

 

あの瞬間、カメさんチームの砲撃が八幡君を倒してなかったら…?

 

試合の結果は変わらなくても、その結末は変わっていたかもしれない。

 

「…また、試合したいね」

 

「えぇ、そうですね」

 

「よーし、今度は私達で比企谷を撃破しちゃおう!!」

 

武部のその言葉にあんこうチームが微笑み合う。

 

「あと一週間もすれば新学期ですから、もちろん戦車道の授業も始まりますもんね」

 

「はぁ…また毎朝起きねばならないのか…」

 

来る新学期、また毎朝布団から出る事と格闘する日々を思いだし、冷泉はため息をつく。

 

「学校など、なくなってしまえばいいのに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「学校、なくならねぇかな…」

 

【潮騒の湯】の入り口で誰に言う訳でもなく、一人愚痴るように呟く、中じゃ温泉に浸かりながら打ち上げ的なものをやっている頃だろうか。

 

当然俺は不参加、見たい人は今すぐDVDなりBDなりを購入すべきだろう。なんなら映画館で4DXを見ると良い、シャボン玉とか出てくるから、本当、なんでシャボン玉?シャボン玉ってなんぞや?

 

試合は結局、聖グロリアーナ・プラウダ高校のチームの勝利、つまり俺の所属するチームが勝った訳だが、釈然としないのが正直な感想だ。

 

試合に勝って勝負に負けた…というより、勝負の舞台に上がる手前で階段から足を踏み外したというか、なんなら階段が腐っていたまである。

 

ていうか今まで散々砲撃外しまくっていた人の砲撃がなんであの場面で俺に直撃?あの生徒会俺に恨みでもあるの?

 

夏休みも後一週間、この気持ちを引きずったまま新学期を迎えろと言われる心境を考えれば冒頭の愚痴の一つくらい、勘弁して貰いたいものである。

 

「…ん?」

 

ふと、なにやら見覚えのある三人組がこちらにやってくるのが見えた、一応俺だが今は打ち上げの受付係を生徒会から仰せつかっている。

 

…なんで俺まだ仕事してんの?いや、そりゃ打ち上げに参加しないからなんですけどね。一足先にお風呂も頂いちゃいましたし。

 

なんならサウナで整ったまである、そのおかげか試合後の呆然とした気持ちも幾分かマシにはなった、やっぱサウナって最強なんだよなぁ…。

 

受付係の仕事といっても、このエキシビションマッチに関わった人達の受付はもう済んでいるし、もう誰も来ないとは思っていたんだが。

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

「…ども、来てたんですね」

 

「違う、風に流されただけさ」

 

それ、来てたのと何か違うの?とツッコミを入れるのも面倒ではあるが、その三人は継続高校の連中だ。

 

ミカさん、アキ、ミッコの三人組で学校にも行かずに各地を旅して回っている…らしい、自分でも言っていてどうなん?とは思うがそうなのだから仕方ない。

 

このエキシビションマッチで知波単学園に連絡を入れる前に継続高校にも声はかけたが、あの後もずっと音信不通だったし、てっきり連絡は届いていないと思っていたんだが。

 

「とりあえず比企谷さん、初試合お疲れ様ー」

 

「初めてっていうのは、それほど重要な事なのかな?アキ」

 

「えー、重要でしょ、だって記念すべき初めてなんだよ」

 

…まぁ、人によっては重要だったりするんでないですか?世の中やたら初めてにこだわる人っていますもんね、誰とは言わんが。

 

「その記念すべき初試合は初撃墜で終わったけどな」

 

「人は失敗する生き物だからね、大事なのはそこから何を学ぶか、じゃないかな」

 

…ひょっとしてこの人、この人なりに俺を慰めようとしているのでは?

 

「…で、どこに行くつもりですか?」

 

なんて感動すら覚えていると彼女達三人はずかずかと潮騒の湯に入ろうとしている。なんと自然な動き、俺でなかったら見逃しちゃうね。

 

「え?お風呂とか、サウナにも入れて、美味しい物が食べられるってミカが言ってたんだけど…」

 

「ここまで来るのも結構大変だったから、もうお腹ペコペコだよなー」

 

俺の感動返して?何この子達、試合見に来たんじゃなくてタダ飯食べに来たの?相変わらず逞しいというか…。

 

「悪いけどこれ試合関係者の打ち上げだから、関係者以外の参加禁止だ」

 

とはいえなんの脈絡もなく飛び入りで彼女達を参加させる訳にもいかない、そんな事をさせれば俺が生徒会に怒られちゃう。

 

「私達はみんな、戦車道という一つの道で繋がっている、その関係は大切にするべきじゃないかな?」

 

「その理論だとアンツィオ校とか試合の度に戦車道やってる全高校呼ばなきゃならなくなりますよ」

 

もう止めて!アンツィオの予算はゼロよ!!いや、あいつらならむしろノリノリで宴会やりそうだが。

 

「ほらー、やっぱり私達も参加するべきだったんだよ、どうして参加しなかったの?」

 

アキがぶーっと文句も言いながらミカを見る、となるとやっぱ連絡そのものは伝わってはいたのか。まぁここまで見に来てるんだし、そりゃそうか。

 

なんで継続高校が参加しなかったのかはわからんが、試合もわりとギリギリだった事を考えればもし、継続高校が大洗側に居たらまた試合結果は変わっていたかもしれない。

 

まぁどっちにしろ俺が撃破されてるのは変わらないだろうが。あの生徒会、俺に恨みでもあるの?(二回目)。

 

「参加すれば良いってものでもないんじゃないかな」

 

「まぁ、それはわかる」

 

「えー、二人共何言ってるの、参加する事に意味があるんじゃないの?」

 

ミカさんの言葉には素直に共感できたので頷くとアキが不満顔を俺にも向けてきた。

 

「いや、世の中行くだけ無駄だったなんていうもんは腐るほどあるだろ」

 

何事も参加する事に意味がある。

 

近代オリンピックの父、ピエールド・クーベルタン男爵が演説で取り上げ、広く知られた言葉だがこの言葉はしばしば、誤用され強制参加のための強迫文句となっている節がある。

 

「参加することに意義があるのなら、参加しない勢力に参加することにも意義があるはずであり、何事も経験というのであれば経験をしない経験にだって価値はあるはずだ。むしろ誰もが経験することをしないというのは逆に貴重と言える」

 

「…なんか、ミカと比企谷さんってちょっと似てるかも」

 

俺がスラスラと持論を並べているとアキがやや呆れたように呟いた。え?ミカさんこんな感じなの?一緒に居て面倒臭くない?

 

「人生には大切な場面が何度か訪れる、でも今はその時じゃない」

 

そんなアキにミカさんは笑顔でそう答えた。うーん…まぁ、公式じゃないエキシビションマッチですし、そう言われればこちらも参加しなかった事については何も言えない。

 

「で、打ち上げ参加は人生に大切な場面とでも?」

 

で、そこから打ち上げだけ参加しようとするのはどういう理屈だと?

 

「もちろん、美味しい物を食べてこその人生だからね」

 

思わず君はどこのパークから来たなんのフレンズなのか聞きたくなるくらいには納得の理屈、やっぱすげぇやミカさんは!!

 

そんな感じで三人の侵入をなんとか防ごうと四苦八苦している時だった。

 

『大洗学園、生徒会長の角谷 杏様、大至急学園にお戻り下さい』

 

ピンポンパンポンとそんな放送が聞こえてくる。

 

…大洗学園から直接大洗に放送をかけてくるとか、どんだけ急ぎの用なのか?しかも会長をご指名とか、あの人またなんかやらかしたのか。

 

まぁ会長が何かをやらかすのはいつもの事だが、そのやらかしたツケが高頻度で何故か俺にも回ってくるのがたちが悪い。

 

くわばらくわばら、触らぬ神に祟りなしとなるべく関わり合わない事を心の中で願っていると。

 

『続けて、大洗学園普通一科2年A組、比企谷 八幡さん、大至急学園にお戻り下さい』

 

「…俺?」

 

…会長はわかる、あれでもあの人は大洗学園の生徒会長で学園艦の運営にも関わっている、何か問題が起きて呼ばれるのは当然だ。

 

そんな生徒会長と、生徒会でもないただの一生徒でしかない俺が一緒に呼ばれるとか、どういう事だろうか?

 

「…あ、居ねぇ」

 

ふと気付くと継続高校三人組はすでに居なくなっていた、なんという手際の良さ、俺であっても見逃しちゃうね。

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