劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
まぁいろいろ言われてますけどこの人も仕事ですから、許してやって…ごめん、やっぱ許せねぇわ(笑)。
「や、比企谷ちゃん」
「げっ…あ、いや、会長」
げぇっ関羽!!じゃなかった、会長だ。いや、武勇的には似たもんかもしれんが。
放送で二人同時に呼ばれたのでそりゃ一緒になる可能性はあった訳だが、ちょうど大洗学園の入り口で会長とばったり出くわしてしまう。
「どうせ一緒に学園に行くんだから潮騒の湯の前で待ってても良かったのに」
それが嫌だから先に学園に向かったんだけどなぁ…、なんでこの人もう着いてんの?生徒会専用の裏道とかあったりする?
お風呂上がりのまだ乾いていない髪にふわりと香るシャンプーの香りが隣を歩いていているだけでどうにも気恥ずかしさを感じさせる。
「一緒に歩いてる所見られて友達とかに噂されたら恥ずかしいですからね」
「おー、比企谷ちゃんから友達とか聞けるなんてね」
いや、今のはそういう意味で言った訳じゃないんだが…。やだ恥ずかしい、まだ「比企谷ちゃん友達居たの?」とか返してくれた方がやりやすい。
「ちゃんと良い関係を築けてるみたい良かったよ」
「そうですね、容赦なく砲撃ぶちこまれるくらいには良い関係築けてるみたいですから」
「まぁいーじゃん、そっちが勝ったんだから」
試合ラストはあんこうチームⅣ号の砲撃をカチューシャさんのT-34が受け、その隙にダージリンさんのチャーチルがⅣ号を撃破した。
まぁ俺はそんな激戦を呆然と観賞してただけなんだけどね。
「…ちなみにあの砲撃、会長が撃ったって事は?」
「ないよ、かーしまも喜んでた」
ないかー、まぁ砲塔と弾着位置を歪ませるなんてとんでもな芸当はあの人にしか出来ないよね。もちろん誉めてはいない。
「比企谷ちゃんもラッキーだったじゃん、滅多に出来ない経験だよ?」
「それはさすがに河嶋先輩が可哀想では?」
まぁあの人の砲撃が命中する所自体初めて見たんだけどね。いっそあのまま当たらなければそういうお守りとかで売り出せて一儲けできそう。
「て言うより、ダージリンやカチューシャと一緒にうちと試合したからこそ、かな」
言われてみれば…。俺が河嶋先輩の初撃破をくらう話はまず、俺が大洗の相手チームにならなければ前提条件にすらならない。その為にはもちろん、ダージリンさんやカチューシャさんに俺のチーム入りを認めて貰う必要があり。
そもそも男の俺が本来参加すら許されない試合に参加する、という前提条件が必要になってくる訳で。
つまり男の俺が試合に出て、たまたま相手チームで、たまたま河嶋先輩の砲撃が直撃したと。なにそれミラクル、特に河嶋先輩の部分ミラクルすぎんだろ…。
「このエキシビションマッチだって比企谷ちゃんが企画して、人を集めたんだから、良い関係築けてるってそういう事だよ」
「…そういう事ですかね」
そのほとんど成り行きとか、流れとか、仕事の押し付けとか、その他負の諸々で成り立っている感は否めないがこの人が言うと不思議と説得力が出てくる。
「そうそう、みんなで何かするのって楽しいでしょ?」
「別に一人で何かするのが楽しくないって訳でもないですけどね」
「そういう所は変わってないねぇ」
会長は何が楽しいのか、足取りも軽く数歩前に進み、振り返る。
「今日はあんがとね、私は楽しかったよ」
「…会長、試合中何してました?」
「干し芋食べてた」
それもう干し芋あればなんでも良いじゃん、試合関係ないじゃん、てか聖グロリアーナ・プラウダ相手に余裕すぎんだろ。といろいろツッコミたくなる。
ツッコミたくなるにはなったが…試合中に紅茶がぶ飲みしていた聖グロリアーナ勢がどうやっても頭に浮かんでくるので何も言えねぇ…。
「次は何して貰おっかなー、今度は罰ゲームであんこう音頭とかあるといいかもね」
「それなら今回のが罰ゲームありでも良いですよ、どうせ俺は免除されてますし」
「でも比企谷ちゃん、かーしまに撃破されたからなぁ…」
「それで罰ゲーム扱いはあの人可哀想すぎでは…次?」
え?まだエキシビションマッチ終わったばっかりなんですけど…、なんなら試合だってしばらくはないはずだ。
「そ、新学期に入れば私ら生徒会も終わりだからね」
「…そういえばそうですね」
三年の二学期ともなれば受験に向けて部活でもなんでも引退の時期になる。生徒会の任期も三年の一学期まで、現生徒会のこの人達は解散する事になるのか。
「ありゃ、ひょっとして寂しいとか?」
「というより、なんか想像つかないというか…」
俺が一年の時から大洗の生徒会といえばこの人達だったので、いざ解散と聞いてもピンとこない。
「だからこういう面白そうな企画は今後、別の人に考えて貰わないとねー」
「それ、俺がやる必要もないのでは?」
なんなら一瞬、マジで次の企画考えちゃったよ。っべーな俺、自分でバンバンイベント発案して企画とか並みの社蓄でもやらないだろ。
「そういうのは新しい生徒会がなんかやるでしょ、知らんけど」
それがどんなメンバーになるのかは知らないけど、この人達の後釜ってだけでプレッシャーヤバそうだが。
「ま、新学期までは一応まだ生徒会だけどね、だからこうして呼ばれたんだし」
「あと一週間限定ですけどね、となると…会長も呼ばれた理由は知らないんですか?」
「そりゃさっきまで試合してたんだし」
まぁ…そりゃそうか、と歩きながら話していると生徒会室の前でなにやら人だかりができていた。
「どうしたの?」
「あ…会長」
会長が生徒会メンバーの一人に声をかける、彼女は不安そうな表情で俺達に向き合った。
「その…文科省の役人の方が来ています」
ーーー
ーー
ー
「わざわざ呼び出してすいませんね」
俺と会長が応接室に入るとそこには一人の男が座っていた。
スーツ、メガネ、七三分け、となんとも特徴がない事が特徴というか、キャラ付けにしてもここまで典型的なキャラデザインはあんまり見ないレベルの絵に描いたような、見た目からもう文科省から来たお偉いお役人様という雰囲気の男である。
「試合、見させて貰いましたよ。残念でしたね、大洗学園が負け…」
「要件はなんですか?」
会長がそんな役人の言葉を遮る、会長の表情を見るにあまり会いたくない相手だというのは一目でわかる。
「そうですね、なにぶん私も忙しい身ですから、要件だけお話しましょう」
対する役人の方はそんな会長の態度にも表情一つ変えず、淡々とした口調のまま机の上に資料を置いた。
【県立大洗学園の廃校及び、それに伴う学園艦統合案】
「大洗学園は8月31日をもって廃校、学園艦は解体します、これは決定事項です」
…は?
こいつ、いきなり来て何を言ってる?
大洗が、廃校?
「戦車道全国大会で優勝すれば廃校は免れる、という約束だったはずですが」
戸惑いながら会長を横目に見る、彼女は役人を前に怯む事なくまっすぐに向き合った。
「その約束、何か書類でもありましたか?」
「…っ」
「口約束は約束ではないでしょう」
…つまり、きちんとした契約ではなかった、とこの役人は言いたいのだろう。
正論ではある。が、それで「はいそうですか」と納得できるかとなると話は変わる。
「そもそも廃校の話は来年の3月で、8月31日ではなかったはずですが」
「検討した結果、3月末では遅いと判断しました」
それで急遽8月末に変更?しかも期限はあと一週間?本当に検討してその結果なら文科省にはアホしかいないのか?
…アホしかいないならまだ良かったのだろう。だが実際は恐らく違う。
単純な話、理由はわからないが文科省は大洗学園を廃校させたいのだろう。だから期限を与えない。
期限を与えれば先の戦車道全国大会の優勝のように、大洗が何かしらの『結果』を残してしまう可能性もある。そうなるとまた廃校に持っていく事が難しくなるだろう。
相手がここまで大洗を廃校させたいとなれば、もうこの場で何を言ってものらりくらりと柳に風のようにかわされるだけだろう。
「その話を聞いて、私達が納得できると思いますか?」
だが、それでも抵抗しない理由にはならない、会長は更に言葉を続けた。
「困りましたね、速やかな退艦ができないとなればこちらとしても学園艦に住む一般の方々への仕事の斡旋が滞ってしまう可能性があります」
たいして困っていない、まさに予定調和とでもいうように役人は答える。
学園艦にはなにも生徒だけが住んでいる訳じゃない、生徒の親が住んでいたり、学園艦で仕事している大人達だっている。
なんならうちの両親だって学園艦で仕事をしているのだ、つまりーーー。
「それは脅しですか?我々が抵抗すれば、学園艦に住む一般の人々は解雇すると」
「あくまでも可能性の話ですよ、そうならない為にもご協力をいただければと」
学園艦に住む、全住人を人質に取られたようなものだ。もちろん、俺の両親もその中に含まれている。
文科省は本気で、大洗学園を潰す算段をつけてここに来たんだろう。
「それに戦車道全国大会優勝といっても、大洗学園は優勝校として相応しくはないでしょう?」
「…どういう意味でしょうか」
…だったら、文科省が、国が本気なら、用意しているはずだ。
学園艦全住人を人質に取るくらいだ。それよりももっと簡単で、ずっと手っ取り早いやり口がある。
だって、身近に居るじゃないか。【戦車道】全国大会で優勝した学園の穴になる存在が。
こういう時、こういう嫌な考えがすぐに思い浮かぶ自分に嫌気がさす。考え方だけで見れば、この役人と同じ発想だという事だ。
「そこの男子生徒、名前は…」
ずっと会長と話していた役人が手元の資料を見ながら始めて俺を呼ぶ。
「あぁ、ヒキタニ君、だったね」
…誰だよヒキタニ君、呼ばれてんぞ。
まぁそこはいい。とにかくこの役人が用があるのは俺なんだろう、用は用でも、利用の方だろうが。
今までの会長とのやり取りだけを見れば俺を呼ぶ必要はないのは明らかだ。では、何故ここにわざわざ俺を呼び出したのか。
「伝統的で由緒正しい戦車道の競技に男子生徒を参加させるような高校が戦車道全国大会の優勝校に相応しいとは、とても思いませんね」
そう言いながら役人は一枚の写真を机の上に置く。
エキシビションマッチの試合中、クルセイダーからT-34へと乗り換えようとしていた、俺の姿がそこには写っていた。
もちろん、観客の目は気にしていたし、乗り換えは人の居ない所でやっていたつもりだ。
…この役人が試合を見ていたってのも、この為なんだろう。
「試合に参加してくれた聖グロリアーナ、プラウダ高校、知波単学園さらには戦車道連盟の許可は頂いています」
「そこが悪影響だと言えるんですよ」
会長と役人のやり取りが続いていく中、もう二人の声もだんだんと遠くなっていき、耳には入って来ない。
…いったい俺はどこから間違えたのか?
試合中に戦車を乗り換えた事?違う。
エキシビションマッチに参加した事?それも違う。
それはたぶん、最初からずっと。
やはり、俺の戦車道は間違っている。