劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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小町の中学の制服と大洗学園の制服ってなんとなく似てて良いですよね、これはもう小町は大洗の生徒なのでは?(錯乱)


それでも、比企谷小町は兄を送り出す。

人生にセーブ&ロードが許されるなら、と考えた事くらいは誰にでもあるだろう。

 

タイムマシンやタイムリープ等といったループ物の作品が多くの人々を魅了しているのは人間の持っているその願望が故に、なのかもしれない。

 

あの時あぁすれば良かった、こうすれば良かった、そんな後悔は誰にだって一つくらいあるはずだ。

 

はい、反省会終わりー。くよくよタイムなんて5秒あれば充分!!

 

…そんな前向きな思考を持っていたら、そもそもセーブ&ロードなんて考えもしないだろうが。

 

いや、むしろここで必要だったのはセーブ&ロードより、むしろニューゲームの方だ。

 

考えてみれば大洗学園はスタートからすでに間違えていたのだから。

 

それは戦車道で大洗学園を盛り上げる事…ではなく、その人員に男子学生も混ぜてしまった事だ、それだけで文科省の叩き所としては充分な理由付けになってしまう。

 

そもそもあの時は会長達生徒会にとって、最後の悪あがきのつもりだったのだろう、素人集団が集まって全国大会で優勝するなんて絵空事、誰が実現すると思うのか。

 

だが、実現した。

 

…実現したからこそ、今さらながらそれは深く大洗学園の問題として浮かび上がる。

 

戦車道は清く正しい乙女の武芸、その競技に男子学生を関わらせている学校は優勝校として相応しくない。

 

叩き所、いちゃもん、ケチの付け方、文科省にとって大義名分として利用できる材料はそれだけで無数に用意できる。

 

…絵空事は実現した。彼女達の歩み、努力、奇跡によって。

 

だが、その全ては始まりに異物を一つ混ぜていただけで無駄になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

校門いっぱいに貼られた【KEEP OUT】のテープ、たった今廃校の話を持ってきたと思ったらもうこれである。

 

準備が良すぎる、というより、最初からそのつもりであの役人も来ていたのだろう。

 

「大洗学園は…8月31日付けで廃校が決定した」

 

エキシビションマッチの打ち上げも終え、戦車を学校に戻す為に一度戻ってきた戦車道メンバーに向け、会長はそう伝える。

 

「え…」

 

「廃校って…」

 

『君から説明しておきたまえ』

 

役人はそれだけ言うと会長に全ての説明を丸投げし、どこかへ去っていった。

 

…この人の口から、この言葉を言わせるのか。

 

「戦車道全国大会で優勝したら廃校は免れるって…」

 

「あれは、確約ではなかったそうだ」

 

「そんな…、ひぐっ、酷すぎる」

 

「桃ちゃん…」

 

当然この話は河嶋さんも小山さんも初耳で、泣き崩れそうになる河嶋さんを小山さんが支える。

 

「じゃあ…」

 

戦車道メンバーの多くが驚き、どよめく中、ウサギチームの澤が声をあげる。

 

「私達の戦いはなんだったんですか…?学校がなくならない為に頑張ってたのに…」

 

「………」

 

会長は何も答えない。いや、たぶん答える事ができないんだろう。

 

…何を答えても、きっとこれまでの全てを否定するものになってしまうのだから。

 

「…みんな、聞こえたよね?」

 

そんな会長を見て小山さんが話を進める。結局、これ以上ここで何を話しても事態は解決しない。

 

「申し訳ないけど、寮の人は寮へ戻って、自宅の人も家族の方と引っ越しの準備をして下さい」

 

「あ、あの!!」

 

そう告げた小山さんに西住が声をあげる。…俺はその顔すらまともに見る事が出来なかった。

 

「戦車は…どうなるんですか?」

 

大洗の戦車道が始まってから、彼女達が自力で探し当て、整備し、共に戦って来た、彼女達の戦車。

 

「全て…文科省預かりとなる」

 

それも文科省は持っていくという。学園の備品として、回収すると。

 

「そんな!戦車まで取り上げられてしまうんですか…」

 

「…みんな、すまない」

 

そう言って会長が頭を下げる。それはずっと、その場の戦車道メンバーが一度落ち着いて家に帰るまで続いていた。

 

俺はただ、そんな会長の背中を黙って見ているだけだった。

 

役人とのやり取りも、戦車道メンバーへの説明も、全てこの人に丸投げて。

 

…廃校の原因、ある一つの問題について会長が最後まで口にしなかった事に安堵すらしている。

 

そう、安堵している。その事実を知って彼女達が俺にどう接してくるのか?そんな事考えたくもない。

 

嫌われるのが怖いのではない、そんな感情をぶつけられるのには慣れているし。いっその事、「お前のせいだ」とはっきり言って貰えるならずっと楽だっただろう。

 

だが、彼女達がそんな連中じゃないのはわかりきっている。なんなら俺の為に自分達の戦いが無駄だった事も受け入れてしまうのだろう。

 

受け入れ、納得し、あの戦車道全国大会の日々は綺麗な思い出として終わる。

 

…そんな最悪な展開に吐き気すら覚える。

 

「比企谷君も一度帰らないと…」

 

「…え、あぁ、はい」

 

気付けばこの場には生徒会メンバーと俺だけが残っていた、みんなもう寮か家に帰って引っ越しの準備を進めているのか。

 

「…生徒会の人達は帰らないんですか?」

 

「私達はいろいろと準備があるから、ほら、桃ちゃんも立って」

 

「柚子ちゃん…」

 

泣き崩れていた河嶋さんを小山さんが立ち上がらせる。…この人ずっと泣いてたな。

 

「決議案や予算案の書類の整理しないと…ね?」

 

あぁ、生徒会室だってあのままにもしておけないのだろう、この人達の学園での最後の仕事…になるのか。

 

「…できるだけ持っていくぞ、あれは私達の、歴史だからな」

 

泣いていた河嶋さんも顔を上げる、その目にはもう涙は無かった。

 

「椅子も持っていくぞー、本当は比企谷ちゃんにもいろいろ手伝って貰いたいんだけどね」

 

え?椅子って会長がいつも偉そうに座っているあれですか?あれを今から運べと…?

 

「ま、それは後でいいや」

 

「…どうも」

 

…また気を使われたのか、それとも学園での最後の仕事を三人で行いたいのか。

 

どちらにせよ、俺も一度家に帰る必要がある。小町は当然だが、そういえば両親は大丈夫だろうか?

 

両親てか、率直に言えば二人の仕事なんですけどね。学園艦が廃校とくれば当然、両親の勤めている会社も一緒に無くなる訳で。

 

まだバイトくらいしか経験のない、いっそその経験のまま人生を過ごしたいと思ってはいる俺にだっていきなり一週間後に会社が無くなるとか聞かされたらヤバい事はわかる。

 

…ん?あれ?しかもよくよく考えたらその原因の一つが息子じゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「…たでーま」

 

さもたった今帰ってきたかのように玄関の扉を開ける。実際にはもう少し早く帰ってはいたが玄関先でなかなか家に入る踏ん切りがつかず突っ立っていた。

 

廃校の話はもう小町にも届いているだろう、なんなら小町の通う中等部の学校もまとめて廃校になるのだ、知らない訳がない。

 

「あ、お兄ちゃんお帰り、ご飯にする?お風呂にする?それともこ・ま・ち?」

 

「小町で」

 

「うわー即答、気持ち悪いなーこの人」

 

「いや、エキシビションマッチの後風呂入っちゃったし、小町ライスのご飯が食べたい」

 

「はいはい、今用意するね」

 

出迎えてくれた小町といつもの小芝居を挟みつつ、小町は台所へと向かう。

 

「あー、親父達は?まだ帰ってないのか?」

 

「二人共今日は遅いって、…なんなら今日中には帰れないかもって言ってた」

 

そりゃ突然会社が無くなるってなればねぇ…。むしろ会社が無くなるのがわかってるのに遅くまで残業して仕事しなきゃならないとか、社畜って本当に哀れだ…。

 

「そっか」

 

「うん、だから本格的な引っ越しの準備は明日からだって」

 

「…そっか」

 

家に帰る途中、多くの引っ越しのトラックが忙しそうに往き来しているのを何度か見た。

 

なんせ学園艦全住民の一斉移動、それも一週間以内にだ。生徒会…会長が交渉してくれたおかげで学園艦に住む住人の引っ越し費用や今後住む場所、仕事場所については文科省にしっかり補償させた。

 

…それにいったいどれだけ予算がかかってるのか、こういうのこそ税金の無駄遣いなんじゃないんですかねぇ?

 

ふとリビングの隅を見ると段ボールが積み重なっていた。これを見るといよいよ退艦も現実味を帯びてくる。

 

学園艦が解体されるなら、この家も同時に潰されるのだろう。

 

物心ついた時からずっと住んでいた家から、出ていかないといけない日が来る。

 

そういえば親父はどうしてわざわざ学園艦の上に一軒家を構えたのか、聞いた事がなかったな。住んでいるのが当たり前で、考えた事もなかった。

 

いや、学園艦内で仕事をする以上、そりゃ学園艦の中に家があった方が都合は良いんだろうが…。マイホームさえ仕事に左右されるとか社畜って本当に哀れだ(二回目)。

 

「…この家にずっと住んでるつもりだったんだがなぁ」

 

「いや、そこは普通に出ていこうよ…、どのみち卒業したら出ていくでしょ?」

 

「ちょっと、お兄ちゃん今感傷的な気分に浸りたいんだから…」

 

まぁ、俺の場合出ていくのが一年早くなっただけ、と考えられない訳じゃない。なんなら追い出される…という点だけみれば今回も卒業後も結果だけならたいして変わらないだろう。

 

「それに大学卒業した後出戻る選択肢がなくなっちゃうだろ」

 

「捨てても戻ってくるとか、いよいよ呪われた人形じみて来たなぁ」

 

いや、別に捨てられてないし…、捨てられてないよね?

 

そんな会話もそこそこに、小町が夕飯の用意が出来たとの事なのでそれを受け取りテーブルに並べていく。

 

あれ?なんかいつもよりおかずが多いな?小町も二人で食べる時はもう少し節約していたはずだ。

 

「明日にはもう小町達、出ていかなきゃ行けないから、今日はちょっと豪勢にしてみたよ、ほら、カーくんも」

 

ふと見ればうちの飼い猫のカマクラも普段はなかなか頂けない猫ちゅーるんを貰えてご満悦のご様子。

 

あれやりすぎると普通のエサ食わなくなるんだよなぁ…。食べる時目ががんぎまりになってて怖いし。猫にとっての麻薬にも等しい。

 

「あー、冷蔵庫の中空にしなきゃもったいないもんな」

 

買い置きの食材とか、余らせても仕方ないし。

 

「言い方…。少しでもプラスな言い方した小町の配慮を返して欲しいもんですねー、ちょっと多いんだけど食べられる?」

 

「しばらく小町の手料理が食べられなくなるんだ、マッ缶用に空けといた胃袋にも詰めとく」

 

「ここまでの状況でやっとマッ缶に勝てるんだ…」

 

いや、そもそもあれは血液とか、赤血球さんみたいなもんだから…身体の中ぐるぐる回って働いてくれてるから。

 

「お兄ちゃん達はバス移動だっけ?」

 

「あぁ、なんか転校先が決まるまで大洗のどっかにある昔廃校になった学校に住むらしい」

 

なんせ今日決まって一週間後には廃校と計画性の欠片も感じない急な話だ、学園艦でも中等部の生徒は一度親元へ。

 

そして俺達高校組はその今は使われていない廃校を転校先が決まるまで仮の校舎として使う事になったらしい。

 

…いや、おかしいでしょ。完全に島流しじゃんそれ。

 

「…廃校、本当になっちゃうんだね」

 

「…だな」

 

言って少ししまった…と後悔した。俺も小町も、直接的にその言葉を口にしようとしていなかったのだから。

 

「なんで…廃校になっちゃうの?みほさん達、あんなに頑張ってたのに」

 

「………」

 

だが、一度言ってしまえば小町も止める事ができない。溢れでた思いが止まらないのか、ぽつりぽつりと言葉を続ける。

 

「…小町も、来年は大洗の皆さんと…お兄ちゃんとだって、戦車道ができるかもって」

 

「…悪かったな、小町」

 

「…なんでお兄ちゃんが謝るの?」

 

「…悪い、廃校の理由な」

 

「なんでお兄ちゃんが謝るの?」

 

それ以上は何も言わせないとでも言うように、小町がピシャリと俺の言葉を遮る。

 

そんな小町を無視して強引に会話を進めようかとも思ったが、それをすれば小町は今後、一生口を利いてはくれないだろう。

 

なんせ小町だ、俺の妹だ、それくらいの事はわかる。

 

「飯食ったら引っ越しの準備でも進めるか…」

 

わざとらしく話題を変えて、この話は一度終わりにする。今は小町の作ってくれた料理が冷めてしまう前に食べきりたかった。

 

「あ、お兄ちゃんは別にいいよ、てか居ても邪魔だし」

 

「え?こ、小町ぃ?」

 

「だってお兄ちゃんに荷造り任せて大事な物とか捨てられちゃったら困るじゃん」

 

お兄ちゃんこの家の住人だよ?荷造りだって大丈夫だから、とりあえずなんでもかんでもしまっちゃえばいいんだよね?ほーら、しまっちゃおうね~。

 

「それにお兄ちゃんはこの後行く所、あるんでしょ?」

 

「………」

 

それが嫌だから、わざわざ引っ越しの準備を名乗り出た訳ですが。そこはお見通しというように小町は微笑んだ。

 

「ま、戦車はな、文科省に回収される前に…その、見納め的な?」

 

戦車好きを名乗る以上、そこはね…?鉄道オタクだって廃線の前には撮り鉄共が集まって撮影会が始まるものだし。…気持ちはわからんでもないがもうちょい周りの迷惑考えてね?

 

「はいはい、いってらっしゃい。…みんなもう着いてるんじゃないかな?」

 

「…だろうな」

 

明日にはもうこの学園艦を出ていく事になる。戦車を持ち出す事ができない以上、大洗の戦車を見るのは今日が最後になるだろう。

 

戦車道メンバーの全員がそれに気付いているはずだ。

 

「あ、でもねお兄ちゃん、行く前にちゃんと顔くらい洗ってきなよ」

 

「いや、風呂にはもう入ったし、なんならサウナで整えてるまであるんだが…」

 

「そんな顔で会いに行ったら、みんなお兄ちゃんの事心配するよ?」

 

きっと、玄関を開けた時から、なんなら玄関先で俺がうだうだとやっていた時から気付いていたのかもしれない、それでも小町はいつもの調子で俺に合わせてくれたのだ。

 

「…そうするわ」

 

呟いて小町の作ってくれた料理を一口、最近は武部主催の料理教室の元でバリバリ料理の腕が上がっているのか、日に日に美味しく感じる。

 

これがしばらく食べられなくなるとか、なんなら小町にもしばらく会えなくなるとか、コマチニウム不足がヤバくなりそう…。

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