劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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劇場版を書き始めてわりと結構たってますが、ようやく彼女達と八幡の会話を書く事ができました。

…なんならまだ大洗学園生徒すら全然出せてないまでありますが八幡は大洗の生徒です!!(笑)


微笑みながら、五十鈴 華は未来の話をする。

静かな夜だった。

 

基本的に学園艦は住民が中高生で構成されている特色上、普段でも夜中に出歩く者もそう多くはないが、今日は余計静かに感じる。おおよそ、大方の住民が家で荷造りに追われているのだろう。

 

夕方あれほど忙しなく往き来を繰り返していたトラックも今はもう見えない。

 

そんな静かな夜を自転車をこいで進んでいく、小うるさい風紀委員もこんな状況になってまで仕事なんぞしないだろう。

 

つまりうちの両親の方が社畜レベルが高い、大人って本当に悲しいなぁ…。

 

「………」

 

大洗学園の校門前についた時、それを見て思わずブレーキをかけてしまった。

 

校門に設置されていた【大洗学園高等学校】の看板は外され、取り外しに使ったとされるバールは無造作に立て掛けられていた。

 

…バールかこれ?まぁバールだな、バールのようなものだ。

 

学校の看板なんて普段は目にも止まらないはずのものが、それがそこに無いだけで逆に一際存在感を放っている。

 

文科省が看板だけ先に持っていったのか…。生徒の心を折るという意味では効果的なんだろう。

 

そのまま駐輪場を無視して校門から戦車倉庫へとペダルをこぎ進める、あぁ…やっぱりだ。

 

ふー、と短く息を吐く。…小町に言われて顔を洗ってきたのは正解だったな。

 

「あ…、八幡君」

 

「もー、遅いよ比企谷!みんなもう来てたんだから!!」

 

「いや、別になんか約束してた訳じゃねぇだろ…」

 

戦車倉庫を前に並べられた大洗学園の戦車、そして各チームが自分達の戦車の前に集まっていた。

 

「ちっちゃい身体で、よく頑張ったよな」

 

「短い間だったけど、どうもありがとう」

 

そう言って頭を下げているのはバレー部連中だ。八九式…、カタログスペックだけを切り取れば決して強いとは言えないだろうに、その活躍ぶりは最早逆スペック詐欺に等しい。

 

「お前のサンダース戦の一撃はすごかった」

 

「プラウダ戦も良かったぞ」

 

そう言い、自分達の戦車の健闘を称えたのは歴女チーム。Ⅲ号突撃砲、火力の乏しい大洗にとってその存在は頼もしく、試合の勝敗を左右する戦略の要にもなった。

 

他にも大洗戦車道メンバーの各々が、自分達の戦車に語りかけている。

 

「みんな、戦車にお別れを言いに来たんですね…」

 

ぽつりと嬉しそうに呟いたのは秋山だ。確かに、この光景は戦車道のなかった時の大洗から見れば想像もつかないものだろう。

 

…あれ?風紀委員のそど子さんが大事そうに抱き抱えているあれ、【大洗学園高等学校】って書いてあんだけど?

 

「なぁ、あの看板…」

 

「そど子がさっきバールで無理やり取り外していた」

 

「あぁそう…」

 

バールのようなもので無理やりこじ開けたの文科省じゃなくて風紀委員かよ、風紀とは?

 

…まさか持ってくつもりなの?それ。

 

「んで、冷泉はなんで枕持って来てんの?」

 

風紀委員の所業も気になるが、冷泉の奴は何故か枕を持参して来ている。

 

「もう…お別れかもしれないからな」

 

ぎゅっと枕を抱き締めながら冷泉が答える。もしかしてここで寝るつもりだったのか…。

 

「別に枕が無くてもどこでも寝れるだろ、お前…」

 

そもそもここで寝るつもりだった事へのツッコミを入れた方が良いのでは…?まぁ冷泉だし、そういうのもありなんだろう。

 

「眠りの質が全然違う、せっかくなら一番気持ちよく寝たいんだ」

 

違うらしい。何この睡眠に対する飽くなき欲求心、どこぞの魔王城に囚われているお姫様の後釜狙ってるの?

 

「そんなにも違うものなんですか?」

 

「もちろんだ、ちなみに一番気持ちよく眠れるのは沙織の膝だな」

 

五十鈴の疑問に頷くと冷泉はさらに話を進める。…えぇ?この話まだ進めるの?こいつ、睡眠の事になると早口になるよな。

 

「え?私!?」

 

「あぁ、ぷにぷにした肉感が寝心地抜群だな、もっと自信を持って良いぞ、沙織」

 

急に枕扱いされて驚く武部に冷泉はうんうんと頷いて答える。何この子、枕ソムリエなの?

 

「持たないわよ!それだとなんか太ってるみたいじゃん!!」

 

あー、枕は枕でも膝枕の話ね…。ぷにぷにした肉感が寝心地抜群と。

 

俺も冷泉程じゃないが寝るのは嫌いじゃない。むしろ好きだ、好き好きだいしゅきまである、冷泉が寝心地抜群と太鼓判を押すなら気になってしまうのは仕方ない。

 

つまり自然と視線が武部の膝に向かうのは快適な睡眠への探求心からくる学術的興味な訳で嫌らしい意味は全くない。肉感って言葉にもエロスは感じないし。いや、エロいな、肉感って響きがなんかもうエロい。

 

「…太ってないよね?」

 

「いや、知らんし…」

 

だからそうやって膝を隠そうとしてスカートの裾抑えない、それで膝が隠れるとか、もうスカートがすり落ちる時だから…。

 

「えぇっと…枕は柔らかい方が眠りやすい、って事かな?」

 

「みぽりんまで!?」

 

「いや、その日の気分で固い枕が恋しくなる時もある」

 

「わかります、私も普段はドイツ戦車が好きですが、時にはイギリス戦車が恋しくなる時もありますから」

 

「なにそのおせちもいいけどカレーもね、みたいな感じ」

 

うんうんと納得したように頷く秋山だが。要はこれ、結局は冷泉のその日の気分次第って事だろう。

 

「比企谷さん」

 

「…ん?」

 

ふと冷泉が口元を隠すように抱き締めていた枕を少しだけ上げて、小さく呟く。

 

「…たまには、固い枕が恋しくなる時もあるんだが」

 

…まぁこれもたぶんあれだ、睡眠へ対する冷泉の飽くなき探求心とか、学術的興味の為なんだろう。睡眠には妥協しないからね、この子。

 

いや、それにしたって冷泉の奴、様子が妙にしおらしいというか…いつもはもう少しふてぶてしくなかったか?

 

「そういや、戦車直ったんだな」

 

「あ、うん…」

 

エキシビションマッチでの最後にダージリンさんのチャーチルから砲撃をくらったはずのⅣ号なんだが。最初は夜も暗いせいで単純に見えないだけかと思ったが、こうして近くで見てみると整備されたてのようにピカピカしている。

 

「…なんで直ってんの?」

 

いやこれ、煽りでもなんでもなくて本当に単なる疑問なんですがね、エキシビションマッチやってたのって今日のお昼なんですが?

 

「自動車部の皆さんが頑張ってくれましたから」

 

「最後になるかもしれないから、なるべく綺麗にしたいって、みんな戦車を直してくれて…」

 

「比企谷が来る前にみんなで戦車を洗車してたんだから」

 

戦車を洗車とか、まぁそこはもう今さらだから置いておくとして…。Ⅳ号だけじゃなく、並べられた大洗の戦車全てがピカピカに整備されている。

 

つまり…こういう事だってばよ。今日の昼間に試合で破壊されたりなんやりされた戦車を夕方、あの廃校宣言を受けてから全て直した、と。

 

…ちょっと文科省ー!これ見てまだ大洗学園には目立った功績無いと言えるとか、ちょっと無能過ぎないー?

 

文科省が無能というか、この場合自動車部が有能すぎる…。

 

「あー、ちと遅れたが…試合、お疲れさん」

 

試合が終わった後も打ち上げの準備から大洗学園への呼び出しときて、ようやく今日の試合の締めくくりを口にした。

 

「八幡君も、今日は大変だったね」

 

「まさかクルセイダーからT-34へ乗り換えているとは思いもつきませんでした、というかズルいです!!」

 

「いや、別にズルくないだろ…、試合中の戦車の乗り換えはルール違反じゃないんだし」

 

まさか卑怯とは言うまい?というか秋山ならそれくらいのルール把握しているもんだと思っていたが。

 

「T-34に乗った事がズルいんですよぉ!ソ連の傑作中戦車、私も乗ってみたかったです!!」

 

「そっちかよ…」

 

相変わらずのブレなさ…、どんな状況になってもこいつの戦車好きは筋金入りだな、むしろ安心さえしてくる。

 

「ズルいって言うなら…壁を壊して道を塞ぐのもなんかズルくない?」

 

「いや、それだってルール違反してる訳じゃないし…。いや待て、そもそもなんで俺がやった前提なんだよ」

 

「え?比企谷がやったんじゃないの?みぽりんもそう言ってたし」

 

いや、俺がやったというか、俺が頼んでKV-2にやって貰ったのは確かなんですが、こう決めつけられるとさすがにへこむぞ…。

 

「えと、私達の通るルートを予想できるとなると、大洗の地理に詳しくないとできないから…」

 

西住が少し慌ててフォローするように言葉を続ける。ふむ、一応根拠があっての推理だった訳か。

 

「あとはその、八幡君だから…かな?」

 

「いや、それだと何の根拠にもならないんだが?」

 

やっぱり決め付けじゃないですかー。

 

「根拠ですか…。ところで比企谷さん、先ほどから聞いていて思ったんですけど、もしかしてルールに違反してなければズルくないと思っていますか?」

 

「え?違うの?」

 

デュエリスト曰く、『ルールを守って楽しくデュエル!!』つまり、ルールさえきちんと守っていれば便所にこもってワンキルしようが鼻くそ握手強要しようがズルいとは言えないという事になる。…違うか?うん、さすがに違うな(確信)。

 

「では、それが根拠という事で」

 

五十鈴がニッコリ微笑むと他のあんこうメンバーもうんうんと頷く、やっぱり釈然としねぇ…。

 

「…そういうお前らはあの状況からどうやって脱出したんだよ?」

 

釈然としないというならまさにそれだ。狭い通路、砲塔も回せなければ旋回も当然不可能。

 

そんな状況から仕掛けた挟み撃ちを、あんこうチームは見事に切り抜けて見せた。…金田一の孫を思わせる不死身っぷり。

 

「えと…あの時はーーー」

 

 

 

 

 

 

それからも俺達は話を続けた。

 

エキシビションマッチの始まりから、お互いの試合の流れ、狙い、戦術。

 

大洗の各地で起こっていた俺が知らなかった攻防とか、知波単連中の突撃とか、ダージリンさんもしかして試合の半分以上お茶飲んでね?とか、まぁいろいろだ。

 

「…八幡君の狙いはT-34へ乗り換えて、私達を待ち伏せ」

 

「あれにはヒヤリとさせられました…、生徒会の人達が居なかったら危なかったです」

 

「まっ…結局やられたんだけどな。…河嶋さんに」

 

だが、どれだけ話を続けようとした所で終わりは来る。話題は湯水のように沸いて出てくるものではない。

 

「うん、私達もやられちゃった…」

 

俺がやられてからすぐ、あんこうチームもダージリンさんとカチューシャさんの連携によって撃破された。

 

そして試合は終わり。…あぁ、そうだ、終わってしまったのだ。

 

「…最後に、みんなと試合が出来て良かった」

 

「そうね」

 

「えぇ、本当に」

 

「はい、私もとても楽しかったです」

 

「…私もだ」

 

西住の呟いた一言に、あんこうチームが答える。

 

その後は知っての通りのあの廃校宣言。つまり…今日のエキシビションマッチが大洗学園にとっての最後の試合になってしまった。

 

「本当を言うとね。ちょっぴり…ううん、すごく残念な事もあって」

 

「あー…負けちまったもんな」

 

最後の試合だ、勝って終わらせたかったのは当然だろう。

 

今回は聖グロリアーナ・プラウダ連合と相手が悪かったというのもあるが。…この事だって事前に知っていればもう少しやりようがあったかもしれない。

 

「うん、それもあるんだけど…」

 

そんな今さらどうしようもない後悔を考えている俺とは違い、彼女達あんこうチームはまっすぐ俺も見つめる。

 

「一度くらい、八幡君と一緒に戦いたかったなって…」

 

「まさか最後の最後まで、敵として戦う事になるなんて思いませんでした」

 

「いや、それは俺も思わなかったんだが…」

 

くじ引きの結果と言ってしまえばそれまでだが、ここまでくると作為的なものを感じる、具体的に言うと生徒会的な。

 

「その割りには全力で私達を狙いに来ていましたが?」

 

「あぁ、なかなか良い中ボスっぷりだったな」

 

「いやまぁ…試合だし」

 

ていうか中ボスレベルかよ…。うーん、その評価には納得しかない。

 

「いつか…どこかで、今度は八幡君も、みんなで一緒に試合、出来ないかな?」

 

「…みぽりん」

 

すがるように、願うように、西住みほは口にする。

 

「ごめんね…みんな、ただの私のわがままなんだけど」

 

「わがままでもなんでもありませんよ、みほさん」

 

うつ向いた西住に、五十鈴は優しい微笑んだ。

 

「一度と言わず、何度だって集まれば良いんです。皆さんが集まれば試合だってきっと出来ますから」

 

「でも華…、転校先がバラバラになっちゃうかもしれないんだよ?」

 

「だから集まるんです、例えどんな場所にだって花は咲きますから。知りませんか?生花は、いろいろな花を集めて仕上げるんですよ」

 

…知ってる。それはもう経験者は語る、と身に染みるくらいに。

 

とはいえそれは別に生花の話じゃない。五十鈴流華道教室に半ば強制的に参加させられてはいるが、俺に生花のいろはを語る資格はない。

 

「私は例え皆さんが離ればなれになったとしても、月に一度、年に一度でもこうやって集まりたいと思っています」

 

俺が知っているのは、五十鈴のその芯の強さだ。

 

「そうでしょう?比企谷さん」

 

「………」

 

そんな五十鈴にまっすぐ見つめられ、言葉が出てこない。

 

心を見透かされ、釘を刺されたような気分にさえなってしまう。

 

きっと五十鈴の言う通り、あんこうチームは集まるのだろう。例え転校先がバラバラになったとしても、何かにつけて遊びに集まったりするのだろう。

 

いや、あんこうチームに限らず、他の戦車道メンバーだって声を掛ければ集まる事もあるはずだ。

 

五十鈴にそう言われれば…なるほど。その光景は用意に想像できてしまう。

 

…その中に居ないであろう、自分の姿だって。

 

言葉に詰まり、どう答えたら良いか迷った俺は五十鈴の視線から逃げるように空を見る。

 

「…?」

 

キラリと、何かが光った。

 

…飛行機?いや、それしてはデカイな…。つーか、なんかあれ、だんだんこっちに向かって来てない?

 

その疑問は一瞬で、吹き荒れる突風と共に吹き飛んでいく。

 

あ、あれは何だ!?鳥だ!飛行機だ!!いや…。

 

「サンダース大付属の…C-5M、スーパーギャラクシーです!!」

 

秋山が変わりに答えてくれた。スーパーの所はあってるよ…うん。

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