劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
C-5Mスーパーギャラクシー。
アメリカが開発した大型輸送機にてその最高速度はおよそ920km/hだとか。
そのスーパーギャラクシーに描かれている校章こそ、サンダース大学付属高校のものだった。
…サンダース大学ってあんなのまで持ってんのね。いや、てかなんで大洗に?
「はぁい!みんな、待たせたわね!!」
「ケイさん!」
「ナオミ殿とアリサ殿まで!!」
スーパーギャラクシーが校庭に着陸すると中からケイさん達が降りてきた。
「待たせたって…何かあったんですか?」
しかもこんな夜中に、スーパーギャラクシーなんて大型輸送機まで持ち込んで。
「?、エイトボールは知らないの?」
「…なにがです?」
「うーん…こういうアイディアはあなたが考えるものって思ったんだけど」
俺の言葉が意外だったのか、ケイさんは腕を組むと何やら考えている。
「…そっか」
だが、その視線が俺をじっと見つめるとやがて納得したように呟いて。
「えいっ!!」
「!?」
不意打ちで、いきなり抱き締められた。…え?は?ふにゅ!?
「sorry、そうね、あなたも大変だったものね…」
だが、その抱擁はいつものこの人が見せているアメリカン的な勢いのあるハグとは違い、優しかった。
突然で驚きはしたが、俺が抵抗しなかったのは不意打ちではなく、その心地良さの方が原因だろう。
「隊長ぉぉお!?ちょっと何やってんですか!!」
「あはは!ごめんアリサ、ついね」
なんかアリサがすごい剣幕でケイさんに詰め寄ってきた事でケイさんは謝りながらパッと身を引いてくれる。
「つい、ってなんですかついって!?」
いや、本当になんでいきなり抱き締められたんですかね俺、ついで抱き締めたくなる程には抱き心地良さそうだったの?
ヤバいよぉ、比企谷 八幡の抱き枕カバーとか商品販売されちゃうよぉ…。ないか。…ないよね?頼むから無いって言って!!あと絶対検索とかしない事、いいね?(圧力)。
「…八幡君」
あまりに突然の事で驚いていたのは俺もそうだが、あんこうチームの面々も同じだろうが、彼女達は彼女達でなにやらじとーっと俺を見ている。
え?やだ嫉妬?大丈夫、抱き枕カバーなら俺なんかより君達の方がよっぽど需要あるはずだから!!
「まぁその、あれだな。…あの人達、マジで何しに来たんだ?」
このままだとただ単に俺を抱き締めに来ただけになっちゃうんだけど…。いや、本当にそれ目的なら俺としても構わんけどね!毎日来てくれても良いんだよ!!
「良かったぁ、サンダース…間に合ってくれたんですね」
校舎から校庭に出るなり、安心したように小山さんが一息つく、生徒会の人達、こんな時間まで残ってたのか。
「あの、会長…?」
突然のサンダースの来訪に戸惑っていたのは当然俺達だけではない、他の戦車道メンバーももちろん状況が飲み込めていない。
なんならスーパーギャラクシーって目立つし、これを目撃した大洗の生徒の大半はこの夜中のいきなりの襲撃に戸惑ってるんじゃ?
「サンダースでうちの戦車を預かってくれる事になった」
「戦車って…え?戦車を?」
大洗学園の保有戦車は学園廃校と同時に文科省が預かる事になっていた。
文科省が大洗の戦車をどうするかは知らないが、少なくとも取り上げられる事に違いはない。
「…大丈夫なんですか?それ」
要するに文科省に戦車を取り上げられる前にサンダースに一度逃がしてしまおうって話なんだろうが、後々問題になったりしないんだろうか?
「紛失したという書類も作ったの」
小山さんが自信満々に【紛失顛末書】を見せてくる。…遅くまで残ってたのはこれを作ってたのもあるのか。
「…それって要するに書類偽造なのでは?」
いや、要しなくても書類偽造なんだけど…。
「紛失したのよね?ね、比企谷君?」
「あ、はい…そうですね、失くしたもんは仕方ないっす」
わー、小山さんの有無を言わさない笑顔。うちの生徒会やっぱ真っ黒なのでは?
「そんな訳で、サンキュー、ケイ」
「ノープロブレム!こんなのお安い御用よ!!」
会長の言葉にケイさんは手を振って答えた。
「さぁみんな!戦車を乗せなきゃね、ハリアップッ!!」
…笑顔で号令を送るケイさんだが、サンダースにとってこの戦車を預かる事が決して『お安い御用』でも『ノープロブレム』でもない作業なのはわかる。
そもそもサンダースも今日は試合をしていたはずだ、加えてサンダース大学付属高校の母校は長崎にある。
試合が終わってから、長崎からここまでスーパーギャラクシーで来てくれた、それだけでも燃料費やらなんやらは馬鹿にならないだろうに。
「…秋山、いけると思うか?」
「正直、難しいと思います」
俺の言葉の意味を秋山は気付いているのだろう。スーパーギャラクシーに真っ先に気付いた秋山だ、俺よりもその性能は把握しているだろう。
確かにスーパーギャラクシーは大型輸送機として戦車を運べるものではあるが、何せ運ぶ物が物だ、戦車の重量を舐めてはいけない。
スーパーギャラクシーで言うならM4戦車6両が搭載限界…といった具合だろうが、大洗の戦車は全部で8両。
中には比較的小型の戦車もあるにはあるが、ポルシェティーガーレベルの重量のものもある。
「ボールコンビの二人、そんな顔しないの」
「いや、なんですかそのボールコンビって…」
なにその、ちょっと卑猥な感じのコンビ名…初めて言われたんですが?
「オッドボールとエイトボールだからボールコンビね、ふふっ、ナイスだわ!!」
いったい何がナイスなのかよくわからんが、ケイさんは楽しそうに微笑んだ。
「それは…な、ナイスかもしれませんね」
ついでに秋山的にもなんかナイスらしい。そんなにこのコンビ名気に入ったの…?早くも方向性の違い出てきてコンビ解散しちゃいそうだが。
「それにしたってギリギリでは?」
なんならギリギリアウトでは?いや、コンビ名じゃなくって、スーパーギャラクシーの事ね。
「ノープロブレムって言ったでしょ。重量のバランスならアリサが今考えてくれているし、ナオミの腕前は保証するわ。燃料が足りないなら途中で補給すればいいだけよ」
「それ、むちゃくちゃ大変って事でしょう…」
重量のバランスにパイロットの腕前、燃料費用、聞いてるだけで問題は山積みだ。
「…なんでそこまで」
確かにサンダースとは試合後も交流は続いている。が、それでもあくまで他校は他校、大洗の問題にここまで彼女達が親身になって動く理由にはならない。
「私達は他の学校と比べて、設備が充実しているからね」
「まさかの金持ちアピール」
「比企谷殿、言い方…」
いや、だってねぇ…そりゃサンダースはお金持ちではあるんだろうが、まさかこの人の口からそんな言葉が出てくるとは思わないでしょ。
「あはは!あなたのそういう正直な所、私は好きよ」
俺のヒガミや嫌味にも聞こえたであろうその言葉をケイさんはけらけらと笑い飛ばす。
「そう、私達は他の学校と比べても恵まれている。なら…それに相応しい自分達であるべきじゃない!!」
「………」
あぁ…そうだ。そもそもこの人、嫌味とか皮肉とか通じないタイプの人だった。
「…格好いいですね」
そんなこの人の前だから、きっと俺の口から思わず出たその言葉も正直なものだったのだろう。
「サンキュー」
ケイさんは手でOKサインを作るとそれからあっと気付いたように言葉を続ける。
「そうだ、エイトボール、この後暇?」
「まぁ…暇ですけど」
これから戦車道メンバー達はスーパーギャラクシーに戦車を乗せるべく、各チームで準備が必要な訳だが…よくよく考えると戦車に乗ってない俺はこの後やる事がない。
「だったら一つ手伝ってくれないかしら?」
ーーー
ーー
ー
「…ここをこうして、重量のあるポルシェティーガーやルノーを───」
ぶつぶつと先ほどからずっと資料とにらめっこしているのはアリサだ。どうやら大洗戦車8両をスーパーギャラクシーに乗せる配置を考えてくれているらしい。
これがなかなか曲者で、重量のバランスがかたむけば当然フライトにも影響が出てくる。
「そんな訳で手伝いに来たんだが…」
ちなみに秋山も手伝いたがってはいたが、そこはⅣ号戦車の準備が優先だし、そっちに戻ってもらった。
「アリサ、聞いてんのか?」
「…へ?な!なな何の用!?」
アリサは俺に気付くなり資料をバサリと落とし、俺からズィッと離れる。
「いや、ケイさんからお前を手伝ってくれって言われたんだが…」
あと、その反応はひどくない?普通に傷付くんだが…。
「たた、隊長から!?またあの人は余計な事を…」
アリサは俺の後ろに居るケイさんを見る、つられて俺も見るとケイさんは満足そうに微笑みながら親指をぐっと立てていた。
…なにあの後方先輩面?いや、面ってか普通に先輩なんだけどね。
「いや、手伝いがいらんなら別にいいんだが…」
「いる!いるわよ!むしろ手伝いなさい!!」
いや、どっちなんですか。相変わらずヒステリーの気があるというか…。
「スーパーギャラクシーに乗せる戦車の配置か?」
「そうよ、まったく…バラバラの戦車ってのはこれだから困るわ」
「まぁM4戦車の空輸だけならまだ楽なんだろうが」
そもそもがスーパーギャラクシーだってそれを想定して作られた輸送機な訳だし。これ、思った以上に難解というか…パズルゲーかな?
「…苦労かけるな」
「まったくよ!この貸しは高くつくわよ…」
「お前ん所の隊長さんはお安い御用と笑ってくれたんだが…」
いや、本当にそういう所だからね、そんなんだとタカシ君に嫌われちゃうぞ?
「そりゃ隊長はそうでしょうね。でも私は違うわ…貸しはきちんと返して貰うんだから」
…それ、スーパーギャラクシーの燃料費用とか、戦車の運搬費とか、そういったものになってくるの?やめて!大洗の残金はゼロよ!!…リアル過ぎて笑えない。
「この貸しを返させる為にも大洗の子達には戦車道を続けて貰うわ、来年優勝するのは私達サンダースなんだから」
「………」
「…なによ、何か文句でもあるの?」
「…いや」
今の言葉、タカシ君に是非とも聞かせてあげたい、なんなら俺がタカシ君だったら一発でベタ惚れしてるまである。
「まぁ、戦車だって戻って来るんだ、転校しても戦車道は続けるだろ…」
「まるで他人事みたいに言うのね」
「…そう聞こえたか」
だったら今のは失言だったか。とはいえ、借りを返せと言うこいつを前に何の保証にもならない言葉を並べるのは無責任にも程がある。
「…あんたの転校先は決まってるの?」
「いや、まったく聞いてない、別に俺だけじゃないが」
そういえば…転校先に関しての情報は何もない。いや、今日決まった事なので当たり前といえば当たり前なんだが…。
問題はその転校先だ。そこに関しては文科省が全権を握っている、先の会長とのやり取りでもあの役人はそこだけは譲らなかった。
「だったらサンダースに来ると良いわ、うちは共学なんだし問題はないでしょ」
「…いや、そもそもが転校先を選べないんだが?」
「なら転校先から転校してくれば良いじゃないの!!」
なにそのリセマラ、転校ガチャとかやらされんの…?
「サンダースの設備はすごいわよ!甲板3段をぶち抜いたプールビーチがあって、流れるプールだったりの一通りのレジャー施設は整ってるわ!!」
「…ふむ、プールか」
「そう、なんなら海だってあるから、プールに飽きたら海水浴も出来るわ!!」
「…それ分ける必要あるの?」
そもそも海の上を進んでいる学園艦内に海があるとか、ちょっと何言ってるかわかんないんだが…。金持ちのやる事って。
「どう?サンダースに来たくなってくるでしょ!!」
「…いや、あんまし」
「なんでよ!?」
いや、むしろなんでこのプレゼンで来たくなると思うのか…。推しがプール、海と海水浴場縛りでも食らってんの?毎日が水着回じゃねーか。…あれ?サンダース良くね?
「いや、だってそういう施設ってリア充共の巣窟だろ、パリピ達が気分上々にウェーイってパーリナイツをGTしちゃってんでしょ?」
あとたまに孔明が罠とか張ってるんでしょ、俺は詳しいんだ。
「何言ってるのかわからないけど、ひどい偏見ね…」
アリサはため息をつくがすぐにニヤリとした、なんとも悪そうな笑みを見せて。
「安心なさい、サンダースに来たらあなたもすぐに立派なリア充の仲間入りよ」
「…一つも安心できねぇ、何?サンダースでパンデミックでも起こってんの?」
ふぇえ…パリピウイルスに感染しちゃうよぉ、パリピ八幡として【いいね】を求めるだけの人種になっちゃう!!
「そして…私も彼氏持ちのリア充に」
あまりの恐怖にアリサがぶつぶつ呟いていた言葉がよく聞き取れなかったんだが…、あれか、俺にタカシ君との仲を取り持てという事かな?
タカシ君かー、きっとイケメンでクラスの人気者でサッカー部で親が弁護士とか、なんかそういう雰囲気を感じるなー。知らんけど。