劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
あのメンバー…てか、大洗のヨハネスブルグの生徒達があっさり従うとは思えない、あれ?大洗治安悪くない?
【寄せ書き】
その歴史は意外とまだ新しく、元々は出征する兵士に向けて日の丸の旗をこしらえてあてらわれたものである。
兵士の無事を願う意味も込めて、もしくは、二度と会う事が無いかもしれないその人に向けて、人々は寄せ書きを書いた。
現代日本に置いてもその思いは受け継がれているのか、寄せ書きと聞けば卒業式を思い浮かべる人も多いだろう。
卒業の記念品として、クラスでその人々に向けて思いの寄せ書きを集める…となれば聞こえは良いだろう。
だが…まて、しばし。どれだけ聞こえは良さそうでも、その実態はただ在学中にどれだけ人気を集める事が出来たかのバロメーターに過ぎないのだ。
クラスの人気者の色紙には多くのコメントが集まる中、日陰者の色紙は真っ白のままとなる。
在学中の集大成、コミュ力の通知表としてこれ程わかりやすく、残酷な手段はそうないだろう。
だが、嬉々として寄せ書きを書き、そして書かれている連中だって卒業後、何割がその交流を続けているかはわからないだろう。
そう、結局の所それはただの在学中のコミュ力通知表でしかない。気に入らないなら家に帰るなり、押し入れに封印してもいいし、なんならゴミ箱にダンクしたって構わない。
『おーい、誰か比企谷の色紙に何か書いてやってくれー!!』
…うーん、これは殺意の波動に目覚めもしますね。あの中学教師解雇されねぇかなぁ…あ、されたか。
ーーー
ーー
ー
アリサと考えた順番通りに戦車をスーパーギャラクシーに積み込む。後はサンダースがフライト前の最終チェックをして出発だろう。
戦車がなくなり、空っぽとなった戦車倉庫はいつもより広く感じられる。
それを感じているのは俺だけじゃないのか、みんな口数が少ない、そもそもスーパーギャラクシー出発までやることもないんだが。
「みんなーせっかくだし、これに何か書いてかない?」
そう言って自動車部が倉庫からガラガラと引っ張ってきたのは黒板だった。
なんの変哲もないそれには中央に【ありがとう!大洗学園】とその下に【戦車道チーム一同】の文字。
「寄せ書き…か」
黒板を持っていく事は出来ないし、この学園艦が取り壊される以上、後に残る物でもない。
それでもチョークを手にし、黒板に文字を書いていく彼女達にとって、それは決して無意味なものでないと言われている気がした。
各チームメンバーからあんこうチームまで、黒板のおおよそが埋まって来た所で。
「はい、比企谷」
「いやはい、って」
そんな当たり前のようにチョーク渡されても困るんだが?
「八幡君、書かないの?」
西住が少し不安げにこちらを見てくる、いや、書かないってか…。
「正直、こういうのって何書けばいいかわからん…」
「正直ですね…」
秋山が苦笑いをするが、思い浮かばないものは仕方ない。
「そもそも寄せ書きそのものにあんまし良いイメージって無いんだよな」
「えー!なんで?素敵じゃない」
「うん、私も黒森峰のみんなから貰った時、すっごく嬉しかった」
そりゃ西住が受け取る寄せ書きとか、そうでしょうね。
西住が黒森峰から転校してきた時、その手の品が何も無かったのは彼女が黙って転校した事が大きいのだから。
「いや、俺達が寄せ書きとか書く機会なんて卒業式とか転校の時くらいだろ?中学の卒業式とか、クラスの一人一人に色紙が配られた訳だ」
「あー!あったあった、懐かしい」
「そうなるとクラス内でも人気のある奴に寄せ書きのコメントは集中する事になるから、俺なんかだと真っ白な色紙をただただ眺める事になる、別に書きたい相手も居なくて暇だしな」
「あー…」
「…すいません、私とした事が」
いや、待てお前ら、絶対何か勘違いしてるだろ。
「…お前ら俺の寄せ書きが白紙だったとか思ってないか?」
「なるほど、自分で書いたのか」
いや、さすがに書かないからね…。てか答えを導き出すの早すぎだろ。
「なんなら最終的にはクラス全員が書き込んだまである」
「えぇっと…それはすごい、けど」
「ですが、それなら寄せ書きに悪いイメージを持つ事はないのでは?」
「いや、担任主催のクラス全員強制参加のノリでな…」
「「「「「………」」」」」
「ちなみに書かれたコメントは『おめでとう』ばっかだった」
どこのアニメの最終回だよ、あんな色紙見ちゃったら誰だって強制的にでも「僕はここのクラスに居ていいんだ」って思わされちゃうでしょ。
…新劇場版?あぁ、そういうのもありましたね(遠い目)。
「ご自分達も卒業するのにおめでとうのコメントですか…」
「たぶん他に書く事が思い浮かばなかったんだろう」
「てか、どれだけクラスメイトと交流なかったのよ…」
「いや、そこを冷静に掘り起こして考察すんの止めてくんない?」
そういやあの色紙どこやったっけな…、押し入れに封印したのか、ゴミ箱にダンクしたのか。
「まぁ、それを参考にすんならこれにおめでとうとでも書く事になるんだが」
「いや、駄目でしょ…」
「だよな…」
そんなエセ人類補完計画が許される訳がないだろうし…。
だいたいこれ、大洗学園艦に向けての寄せ書きになるんだろうが、これから取り壊される学園艦に『おめでとう』とか、学園艦がゴールデンメリー号でも魂宿って復讐にくるレベル。
「なにも難しく考える必要はないのではありませんか?」
「…五十鈴?」
「比企谷さんにとって、大洗学園がどのような場所だったのか、それを書けば良いと思います」
「…そういうもんか?」
「そうだね、私もこういうのってあんまし得意じゃないけど…」
そういう西住の書いたコメントを見ると【感謝】の一文字が綴られていた。
「…ありがとう、大洗学園ってもう書いてあるんだが?」
しかも中央にでかでかと。
「そ、それはそうなんだけどね、私もちゃんとお礼が書きたかったというか…」
まぁ、彼女らしいといえば彼女らしい。
だったら俺も俺らしく、変に気取らずに思った事を書くべきなんだろう。
黒板の端っこ、なるべく空いたスペースを見つけるようにチョークを持つ手を移動させる。
戦車道チームの全員が書き込んだ事であまりスペースも空いていない黒板の端っこに、俺は短いその言葉を書き込む。
長く住んでいた学園艦だ。別に良い思い出ばかりという訳でもないし、先の寄せ書きの一件も含めて振り返れば死にたくなる過去だってある。
【お疲れさん】
…それでも、物心ついた時からずっとこの学園艦には住んでいたのだ。となれば、そう悪い思い出ばかりという訳でもない。
「わぉ!寄せ書き、いいわねこういうの!!」
「隊長は書いちゃ駄目ですからね」
黒板を見つけて嬉しそうなケイさんにアリサがジト目で釘を差す、どうやら出発の準備も出来たようだ。
「さて、いよいよ出番か」
スーパーギャラクシーを見つめるナオミが呟いた。…そういや、ケイさんが言ってたけどスーパーギャラクシーのパイロットはナオミだったか。
いや、高校生がこれ操縦すんの?免許持ってる?
「…大丈夫か?操縦結構キツそうだが」
茨木から長崎までの長距離輸送、そもそも操縦した事のない俺にはそれがどれだけ難しいものかもわからない。
「問題ない」
だがナオミはさらりと短く答えると視線をスーパーギャラクシーから俺の方へと向けた。
「不安かい?」
「…いや、別にパイロットの腕を信用してない訳じゃないんだが」
「安心していい、預かった戦車は必ず送り届けてあげるさ」
これくらいなんでも無い、と言うようにポンッと軽く俺の肩に手を乗せてきた。
…トゥクンッ!やだもう…この人ちょっとイケメン過ぎない?乙女心揺さぶられちゃう!!
ナオミはそのまま背中を向け、クールに手を振ってスーパーギャラクシーへと乗り込みに向かう。なにこれ乙女ゲーかよ、きっとモブには厳しい世界なんだろうなぁ…。
「それじゃあ、移動先が決まったらまた連絡ちょうだいね」
「はい、ありがとうございます!!」
西住との会話を終えたケイさんとアリサもスーパーギャラクシーに向かうナオミと合流する。
サンダースの三人が乗り込んだスーパーギャラクシーは大洗の校庭からゆっくりと離陸し、すぐに見えなくなった。
「学校は守れなかったけど、戦車は守れたんですね」
「…うん」
すでに廃校が決まった大洗にとって、それはほんの小さな抵抗の一つに過ぎない。
おそらくは文科省だって今さらこの程度の抵抗に文句をつけにくる必要は無い程の、悪あがき。
…それでも、彼女達とあの日々を共にした戦車はまた、彼女達の手元に戻ってくるのだ。
ーーー
ーー
ー
翌朝、大洗学園艦は大洗港に停泊し、生徒や住人達を降ろす。
それは言ってみれば学園艦にとって最後の仕事のようなもので、もう艦内に残っているのは船の運行に必要な一部の船舶科の生徒だけだろう。
汽笛を鳴らしながら、大洗学園艦が港からゆっくりと離れていくその姿を、俺達生徒は陸の上から見送るしかなかった。
「…初めて見たな、大洗学園艦が港から出る所」
「そうですね…、なんだか変な気分です」
大洗学園艦が港から出港する事自体は珍しくもないが、俺や秋山のような自宅が学園艦にある者にとってはその光景を普段見る事はない。
「そっか…二人共、自宅が学園艦にあるもんね」
他の生徒が帰省やらなんやらで学園艦を離れる時だって、元々大洗に実家がある俺達には無縁の話だった。
「うわぁぁあんっ!!」
「行かないでー!!」
「ちょっとみんな…笑って見送ろうよ!!」
ウサギチームが離れていく学園艦を走りながら追っていく、やがて港の端っこで立ち止まった彼女達は学園艦が見えなくなるまで別れの言葉を口にしていた。
丸山も口にこそしないが、いつもの無表情とは違いどこか寂しそうに見える。…そろそろ俺も丸山検定三級くらいは頂けるのでは?
「…こんなの、彼氏と別れるよりも辛いよ」
「別れた事もないのにですか?」
しかしこの五十鈴さん、相変わらず容赦ない…。
「みんな、バスに乗りましょう」
小町達のような中等部の生徒は一度親元に戻る事になっているが俺達高校生組は転校先が決まるまでの仮の住まいにバスで移動する事になっている。
「だんだんバスが別れていくね…」
とはいえ、さすがに大洗の高校生全員を受け入れる宿泊先がある訳でもなく、最初は多くのバスでの集団移動だったそれも、一つ一つと数が減っていった。
「生徒の数が多いから、みんな学科毎に分かれて宿泊するそうです、戦車道をとっている人達はみんな固まっているみたいですけど」
きっと生徒会がまた何か根回しをしたんだろう、そもそもこのバスに乗っているのが戦車道受講者しかないないし。
…いや、なんかこう、男女比率おかしくない?こういう時は男女男男女男女で交互に座れ!!って教わらなかった?…今の若い子教わってないかー。
とはいえ、どんな席順だろうがこの状況で元気に騒ぎ立てれる奴はそう居ないだろう、普段は根性根性ど根性と騒がしいバレー部連中だって今は静かなものだ。
そりゃそうだ。ついさっき、学園艦が出港していく姿を見たばかりなのだから。
この状況にはどこか既視感がある。遠足の帰り道とかで生徒達が騒ぎ疲れた事と名残惜しさから静かになるあれだ、基本的にはバス内のテレビで流れる国民的アニメ映画をただ黙って見ている時間となる。
騒ぎ疲れる事も名残惜しむ事も無かった俺はそのアニメ映画をBGM変わりにして、ただ冷めた目で窓から流れる景色を見つめていた事を覚えている。…あれ見ても結局は最後までやらないまま学校につくからいつも中途半端に終わるんだよ。
…今回も同じように、窓から流れる景色を眺めていると。
「…?」
なんか見覚え…という程でもないが、わりと最近ここら辺の景色を見た記憶がある。
…ここ、ボコミュージアムの近くじゃね?
「あ!!」
当然西住もそれに気付いたのか、窓から視線を俺に移して。
「八幡君!ここ、ボコミュージアムの近くだよ!!」
…あぁうん、ようやく笑顔を見せてくれたのは良かったけど、ちょっと黙ってよーか?
「ここ、ボコさんのミュージアムの近くなんですね」
「私も知りませんでした」
「へー、大洗市街とはだいぶ離れた場所にあるのね」
…なんだ、思ったより大丈夫そうだな、何がとは言わないけど。
「じゃ、せっかくだしボコミュージアムの話聞こう?ね、比企谷?」
…大丈夫じゃなかった!何がとは言わないけど!!
「…いや、まぁほら、ボコの話なら西住に聞けば良いだろ、いろいろ聞けるぞ?」
本当にいろいろ…なんならボコについて一から延々と語ってくれる事になる、これならボコミュージアムの件自体うやむやにできるだろう。
我ながらナイスパスだ、ほら西住もさっきから語りたくて目をギラギラさせている。…正直ちょっと怖いなー。
「みぽりんに聞くとボコの話がメインになるでしょ?」
…さすが、良くわかってらっしゃる。いや、俺がわかっているならこいつらも当然わかってるか、ユウジョウだなー。
「ほら、比企谷殿もこちらに、おかしもありますよ」
やだ、なにそれちっとも惹かれない。そのパックリと後ろを開けたポテチを見せてくるの止めません。
「…あとはほら、冷泉も寝てる事だし静かにしてやらんと」
「起きているぞ」
ムクリと後ろで長椅子を独占していた冷泉が起き上がってきた。なんだかんだ朝早かったから爆睡していたくせに…。
「…寝てただろ」
「今起きた」
…いつもそれぐらいすぐに起きて来ませんかね?人があれだけいろいろやって(意味深)も起きないくせに…朝飯だって片付かないんだから。
あれ?俺おかんだったっけ?