劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
これで君も今日からバレー部だ!!
「バレー部の皆さん、お茶をどうぞ」
生徒会が発足した生徒お悩み相談所兼自室のこの教室に依頼人第一号としてやってきたのはバレー部の連中だった。
…バレー部?いや、元バレー部?そもそも大洗も廃校になったので元もなにもないんだが…、まぁ今もバレーのユニフォーム着てるし、なぜかバレーボール持ってきてるし、そこは彼女達の気持ちは汲んであげよう。
そういやこいつらが大洗の制服着てる姿見たことないな、普段の授業もその格好で受けていたの?
「ありがとうございます!!」
バレー部連中は五十鈴が出したお茶を受け取るとぐぃっと一気に飲み干した。
「えと…おかわりはいかがでしょう?」
「ありがとうございます!頂きます!!」
気を利かした五十鈴がお茶のおかわりを注ぐとすぐにバレー部連中は一気に飲み干す、…水飲み鳥かな?
「えぇっと…」
「いやいい、たぶん話が進まん…」
相変わらず暑苦しい連中である、ただでさえ暑いのにこいつらが来た事で室内温度がさらに上がった気さえする。
「そんで、何か用か?」
「生徒会から紹介されたって事は、何か悩みがあるのよね?」
「はい、生徒会がここでなら悩みを解決してくれると聞いてやってきました!!」
完全に面倒臭そうな案件押し付けに来ただけじゃねぇか、あの生徒会。
「依頼、来ちゃったね」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ…」
西住はニコニコしているが完全に厄介事案件だぞこれ。
「そもそもここは悩みを解決する場所じゃない、生徒会の誇大広告だ」
もしくはおとり広告だろう。どれだけチラシで大々的にキャンペーンしてようが当店ではそのような品は取り扱っておりません。
「ですが比企谷殿、ここはお悩み相談の場所なのでは?」
「相談と解決は全くの別問題だろ」
「物は言いよう、だな」
「まぁあれだな、結婚相談所に行けば必ず結婚できる、なんて事がないのと一緒だ」
「え?違うの!?」
いや、そんなマジもんの顔でびっくりされても。
「でも、バレー部のみんなもせっかく八幡君を頼って来てくれたんだし」
「まぁ話くらいは聞くけどな…」
生徒会からの紹介となると無下にも出来ないというか、無下にすればここを追い出される可能性もある。
「んで、悩みってなんだよ?」
「はい、我々バレー部の一番の悩み!大洗学園バレー部の復活です!!」
「…よし、相談は終わったな?ほい解散」
「さすがにそれはちょっとどうかと思いますが…」
「そうですよコーチ!キャプテンがこんなにも悩んでいるんですよ!!」
「もちろん私達の悩みでもあります!!」
「いや、そもそもな…」
大洗学園バレー部復活ってより、まずその大元の大洗学園がもう無いんだが…。
「比企谷の言いたい事はわかる!!」
俺の言葉を遮り、磯辺が声をあげた。
「バレー部が復活すれば大洗学園も復活する、つまりはそういう事だと!!」
「そうはならんやろ…」
どういう因果関係なのそれ?いつの間にかバレー部と大洗学園が運命共同体みたいになってるんだが…。
「えーと、つまりはあれですよ」
「キャプテンが言いたいのは、バレー部が復活するって事は、大洗学園も復活しているって事で」
「あぁ…そういう」
河西と近藤がフォローというか、磯辺の言いたい事を通訳してくれる。
「…そうはならんやろ」
まぁ、通訳してくれた所で要するに大洗学園が復活するならバレー部も復活するよね?という話らしいが人数不足は変わらない。
「要するにバレーがしたいって話だったら校庭なら空いてるぞ?」
大洗学園が廃校になったので別にバレー部に限らず全ての部活動が廃部も同然の状況だ。まぁこんな状況下でスポーツに熱意を燃やせる強メンタルの持ち主も居ないだろうし。
「あ、それはもうやってきました」
「そういえば今朝も早くからバレーの練習をされてましたね」
「もちろん、この後もまた練習に行きますよ」
「暑いのによくやる…」
…いや居たわ、こいつらマジ強メンタル。
「うーん、やはりバレー部復活は難しいか」
「やっぱり無理なんでしょうか…キャプテン」
「諦めるな佐々木!難しいとは言ったが、無理とは言っていない!!」
そーだよねー、無理という言葉は嘘吐きの言葉らしいしねー、古事記(社員マニュアル)にもそう書かれている。
「という訳で、バレー大会とかどうでしょう!!」
「いや、どうでしょうって…どういう訳で?」
また突拍子もない案が出てきたな…。
「えぇっと、バレーの大会をして、少しでもみんなにバレーに興味をもって貰いたいって事かな?」
「なるほど、それでバレー部に入部希望者を増やそうと」
「いえ、バレーに興味をもって貰えるのはもちろん嬉しいのですが、今はバレー部復活は置いておきます」
「…置いておくのか?」
正直、磯辺達バレー部連中がここに顔を出した時から悩みの内容については決め付けていたし、実際バレー部復活と聞かされた時もやっぱりとしか思わなかった。
ここまでずっとバレー部復活を掲げて行動してきたのが彼女達だ、そもそも戦車道を始めた理由だってそれなのだし。
「私達、今朝からずっと校庭を独占してバレーの練習が出来ました」
「午後からは体育館だって使えるみたいです」
「大洗学園では練習場所なんてほとんど無かったんですよ、だから他の部活動が活動していない朝早くと夜からしか練習なんて出来なくて」
…うーん、聞いてるだけで悲しくなってくる。バレーに青春かけすぎでしょ、おまけに目も死んでない。
「学園艦が無くなって、他の部活動も活動を停止していますからね」
「良いこと、じゃないのか?」
むしろそんな状況でもバレーの練習をしているこいつらがヤバいのでは?
「はい、ですがそれを見て思ったんです、大洗学園には今!根性が不足していると!!」
「…はぁ、根性」
えーと、つまりはどういう事だってばよ?とあんこうチームをチラッと見るが彼女達も戸惑っている様子だ。
「あれだけ活気のあった体育館も、運動場も、ここでは静まり返っていて根性が全く感じられないんだ!!」
「いや、そもそもその活動する部活動が…」
なくなっただろ…、と言いかけた言葉を飲み込んだ。それはこいつらには反論にならない。
なぜなら彼女達には部活動がなくなっても活動し続けた実績があるからだ、廃部になってもバレーを続けていたその実績が。
「だから、ここは一度バレー大会を開いてみんなに根性注入したいと思います!!」
「みんなで運動してスッキリしよう…って事ですよね!キャプテン!!」
「そう、つまりは根性だ!!」
根性うんぬんは置いておくとして、ようやく磯辺の言いたい事は理解できた。
「確かに、こちらに移動してから大洗の皆さんの表情も暗いですね」
「うん、こんな状況だから仕方ないんだけどね…」
突然の大洗学園廃校からこの生活だ、一般生徒の多くはまだ塞ぎ込んでいる。
だからこそ、気晴らしになにか身体を動かせる事がしたいと考えているのだろう。
「で、なんでバレー大会なんだ?」
「それはもちろん、みんながバレーに興味を持つ事で今後のバレー部勧誘にも…」
はいアウト、何も考えてないように見えてちゃっかり打算的な意図も見えてくる。まぁバレーってあれで結構頭脳戦な所あるし…。
「とは言っても…例えバレーじゃなくても、サッカーでも、野球でも、なんだって良いんだ」
磯辺は手に持ったバレーボールをコロコロと膝の上で転がしながら呟いた。
「それで大洗の生徒に根性が復活するなら、なんだって」
「…キャプテン」
…あの磯辺の口からバレー以外のスポーツが出てくるとは驚いた。いや、ここは驚く所が違うか。
改めてうちのバレー部は強メンタル過ぎんだろ…。塞ぎ込んでいる大洗の生徒の為にバレーを二の次に考えての決断なのだろう。
「そして大洗の生徒の根性が復活すれば、大洗学園も、そしてバレー部だっていつかは…」
相変わらず根性とバレーと大洗学園の因果関係はわからんが…、彼女達はまだ諦めていない。
そもそもがバレー部の廃部からずっと諦めず、練習を続けていた彼女達だからこその説得力ともいえる。
だが、彼女達は肝心な事を忘れている。いや…忘れているのか、あえて考えないようにしているのかはわからないが。
「…転校先にはバレー部があるかもしれないぞ」
「うぐっ…」
「比企谷さん?」
「ちょっと比企谷!それはあんまりじゃない!?」
「いや、大事な事だ、特にバレー部にとってはな」
そもそも戦車道なんかと比べてもバレーの方がずっとメジャーなスポーツだ、大洗では廃部にこそなったが部活動として普通に活動している高校なんていくらでもある。
本当にバレーに打ち込むなら、そっちの高校で普通にバレー部に入り、頼れる仲間と共にバレーに青春をかける、そんな選択だってある。
「確かに…転校先にはバレー部があるかもしれない、練習機材だって、大洗よりもずっと充実しているし、試合にだって出れる」
「…キャプテン」
「だが、大洗学園バレー部は大洗にしかない!!そうだろ?みんな!!」
「「「はい!キャプテン!!」」」
…実際の所、大洗にも大洗学園バレー部はないんだが、まぁここでそれをつっこむのは野暮だろう。
「…わかった、依頼を受ける」
彼女達の熱意を前にそんな事は些細なものだろう。…些細かな?うん、まぁ些細の範疇にしておく。
「ふーん…」
「…なんだよ?」
ふと見ればあんこうチームがなんか微笑ましくニコニコしている。いや、本当になんだよ、見ててちょっと腹立つまであるな。
「なんだかんだ言って助けてあげるんですよね」
「まぁあれだな、この依頼で大洗の生徒の気分転換になれば結果的に悩みが減って仕事も減る可能性もあるしな」
「打算的!そこは普通に助けてあげればいいじゃないの…」
「わざわざ転校先にバレー部がある、とまで言い出すんですから…」
「うん…、でもちょっと思い出しちゃったな」
「西住殿?なにかあったのですか?」
「戦車道が始まって戦車を探す事になった時に私と八幡君がⅣ号戦車を見つけたんだけど…」
「おい待て西住、ストップだストップ」
「ストップするのは比企谷の方よ、みぽりん、続けて続けて」
「私達とはぐれてしまった時の事ですね、何かあったんですか?」
「見つけたⅣ号を八幡君が見つからなかった事にするか、直せないくらいにもっと壊しても良いって言ってくれたんだ」
「戦車を!壊す!!」
「はい、ゆかりんもストーップ!てか、そんな事言ってたの比企谷!?」
「…私がまだ戦車道に抵抗があるのを知ってたから、戦車が見つからなかったら戦車道も復活しないかもしれないって」
まぁ、結局は他の戦車道受講者が軒並み戦車見つけてたんですけどね…。あとどんだけ壊した所であの自動車部なら完璧にレストアさせたんだろうが。
いや、そんな事よりマジ止めて、なにその満面の笑み。笑顔で人を辱しめるとか、西住殿ドSなの?
「さっきのバレー部のみんなにもそうだけど、八幡君は大事な事はちゃんと話して、相手の決断を聞いてくれる人だから」
「………」
ドSだこの子(確信)!なんか顔赤くなってるって事は人を辱しめて興奮してるんでしょ!!てか部屋暑くない!バレー部がまた室内温度上げてるよね!?
八つ当たり気味にバレー部の連中を見ると…なんか連中もぼーっとしているというか、いや、その反応もなんか止めて…。
「む!どうしたみんな!顔が腑抜けていて根性が足りてないぞ!!」
「で、ですがキャプテン、あの雰囲気はちょっと…」
「目に毒というか…」
「も、もちろん私達はバレー一筋で、決して恋とかは…」
「恋?よくわからないが、恋なら私だってしているぞ」
「「「「え!?」」」」
…え!?
「え?磯辺さん!恋してるの!!」
磯辺の突然の告白に武部ががっついた。…おかげで先ほどのなんとも言えない雰囲気がぶち壊れた事に感謝しつつ、さすがに俺も驚いた。
「いや、恋…というより、もはや恋人、ですかね」
もじもじといつもの勢いはどこへ行ったのか、磯辺は恥ずかしそうに詰め寄る武部に答えた。
「えぇ!?いつ?どこで?誰?なに?なんで?どうやったの?」
「沙織さん…」
ひどい5W1Hを見た…。こいつ恋愛事になるとブレーキがぶっ壊れてアクセル全開になるんだよなぁ。
「常に私の心にあって、片時も離れない…気が付けばいつも私と一緒に居てくれる…」
「キャー!ステキー!!」
「私の恋人、それはバレーです!!」
「…そう、そうよね」
うわぁ!急に落ち着くなぁ!!
いやまぁ…なんとなく予想は出来てたんですけどね、うん。