劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
これに関しては同意しかない。
「朝はなぜ来るのだろうか?」
これに関しても同意しかない。
「早朝ランニングゥ~?」
「その…バレー部が主催で朝6時にランニング活動をするらしいんですが」
結局、無難な落とし所としてはこんな所だろう。
バレー部の主張としてはスポーツで汗を流してスッキリしようとの事だが、大々的に大会を開くには今の大洗には予算も人手も足りない。
そもそも参加人数すら不明とくれば、ある程度頭数の必要な団体競技は不可能。道具も予算も人手も最小限とくれば出来る事なんて限られる。
その点、ランニングとなれば身体一つで参加可能で参加人数に左右されず、やることも走るだけとコスパが良い。
わざわざ皇居周辺まで行かなくても、どこでも出来るのもポイントが高い。てか…なぜわざわざ皇居の周りをぐるぐるランナーするの?あれってなんの儀式?
「それで、風紀委員の人にも許可を貰おうと思ったんですが…」
しかし、一般生徒も巻き込んでのランニングとなるとバレー部を俺に紹介してきた生徒会はともかく風紀委員に黙ってやれば後で何を言われるかわかったもんじゃない。
そう思って適当に資料を作って風紀委員を訪ねて来てみれば。
「…なんで放送室?」
しかもこの校舎の放送室がかなり狭い。こんな場所で風紀委員三人組が何をしてかというと…寝ていた、それはもうぐうたらと。
「何よ?何か文句あるの?」
「まぁ…これ、その資料です」
文句というか…三人でここで寝てるの?狭くない?と疑問は浮かぶが、寝ている所を起こされたそど子さんの機嫌もすこぶる悪そうだ。
これはまたタイミングの悪い時に来たものだ…。
重要な資料とか提案の通る通らないは、その場の上司の機嫌によるものが大きい。これ、わりとマジで馬鹿にできないから覚えておくように。
「ふーん…、好きにすれば?」
だが、そど子さんは資料を受け取るとろくに読まずに、それだけ言うとまた布団をかぶってしまった。
「…はぁ」
え?それで終わり?資料は?
いや、作った資料が読まれないなんてよくある事だからね、それも上司の機嫌次第なとこあるから。…やっぱ働くって糞だわー…。
「あー…風紀委員の人達は参加とかします?ランニング」
「はぁ?行くわけないじゃない」
それにしたってちょっと風紀委員の人達やさぐれすぎじゃない?
風紀委員が参加して他の一般生徒を見て貰えればこっちの仕事もだいぶ楽になりそうだったが…この分じゃ望みは薄いだろうな。
「…いいの?そど子、他の生徒が問題を起こすかもしれないけど」
「風紀にも影響が出るかもしれないし…」
「…二人共何言ってるのよ、その影響が出る学校がもう無いじゃないの」
…放送室の扉を閉める直前、布団から三人のそんな声が聞こえてくる。
「………」
俺はただ静かに扉を閉める。…風紀委員としてずっと学校の風紀を取り締まって来たのが彼女達だ。
やさぐれすぎ…ってのは言い過ぎなのだろう。
「比企谷さん、どうでしたか?」
「風紀委員の人達はなんて?」
教室兼自室に戻った俺をバレー部とあんこうチームのメンバーが不安そうに見つめていた。
「ん、まぁ…OKだと」
あれを許可と言って良いのかは疑問があるだろうが、好きにやれとの事だし、あの様子じゃ文句も言ってこないだろう。
「よーしみんな、早速準備だ!!」
「はい!キャプテン!!」
「熱中症対策にスポーツドリンクを用意します」
「タオルもたくさん用意しないと、ですね」
意外と段取りがきちんとしているのは普段から早朝練習を欠かさない彼女達だからこそか。
「これできっと大洗の生徒の根性も復活する!ありがとうございます、比企谷、あんこうチームの皆さん」
「言っとくが強制はさせんなよ。あくまでも自由参加、なんなら誰も集まらんかもしれん」
なんせ状況が状況だ、一般生徒の多くはまだ気持ちに整理もついていないのが現状だろう。
そんな状況でとりあえず運動してスッキリしよう!!とか言われても、俺なら立場が同じなら参加しない自信しかない。
「来るさ」
「…そうか?来ないと根性注入も何も無いと思うんだが」
自信満々に答える磯辺に思わず率直に疑問で答えてしまった。普段の根性論も最初から参加しない者には通用しない。
「比企谷は知らないんだな、私達バレー部は大洗に練習場所なんてほとんど無かったんだ」
「いや、それは知ってっから…」
知ってるから聞いてて悲しくなる話止めようね…。他の部活動が活動していない僅かな時間でゲリラ的に練習をしてきたのがバレー部だ。
「それは他の部活動のみんなが、大洗の生徒が体育館やグラウンドを使っていたからだ。みんな別に運動が嫌いな訳じゃない」
「…なるほどな」
そんなバレー部だからこそ、大洗の誰よりもいろいろな部活動を見てきた彼女だからこそ、自信を持って言えるのだろう。
確かに…運動部に興味が無い俺には知らない事だ。どこかに天使みたいな子がテニスしているとかなら話は別だったが。…なぜテニス?いや、テニスといえば王子様的なものがあるし。
「よーし、みんな!早速大洗の生徒達にも参加を呼び掛けに行こう!!」
「「「はい!キャプテン!!」」」
バレー部連中はそう言いながら意気揚々と教室から出ていく、ここからどれだけ人を集めれるかは彼女達次第だろう。
「バレー部の皆さん、張り切ってますね」
「はい!さすがはアスリート、と言うべきでしょうか」
「ランニング勧誘にバレー勧誘をセットで付けなければいいけどな…」
「だ、大丈夫だよ!…きっと」
いや、バレー勧誘してる時のバレー部って目がやたらとギラギラしてて怖いから絶対警戒されるぞ…宗教かな?
「しかし、あのそど子がそんなに簡単にOKを出すとはな」
「…気になるか?」
「…別に」
いや、絶対気にしてるだろ…。そど子さんの様子がおかしいのは冷泉だってとっくに気付いてるはずだ。
「風紀委員の人達はどんな様子だったのよ?」
そんな冷泉の気持ちを察したのか、武部が代わりに聞いてくる。こういう所はやはり幼なじみというべきか。
しかし、どんな様子かと聞かれてもな…。
「まぁ…闇落ちしてたな」
「闇」
「落ち…?」
「つまりは…闇の風紀委員、という事ですね!!」
五十鈴がウキウキと嬉しそうに答える。何それ格好いい、学園バトル物で学園を裏から牛耳ってるポジションだな、何故か教師より偉い連中。
…それもう、ただの大洗学園生徒会では?
「あー…とりあえず、風紀委員の参加は望めないっぽいな」
ここからは少し言いにくい事になってくるのでどうにも言葉がたどたどしくなってくる。
とりあえず企画は通ったが、むしろ問題はここからだ。風紀委員から人員を確保出来ないとなると運営サイドがバレー部だけではどうしても人員は不足するだろう。
やる事はただのランニングとはいえ、それをバレー部四人で回すのはさすがに無理がある。…そうなると。
「うん、もちろん私も参加するよ」
「…良いのか?わりと朝早いんだが」
「大洗に居た時も毎日走ってたから大丈夫」
…毎日走ってたかー、西住さんこう見えて意外とストイックだよね。そこら辺はやっぱり西住流。
「毎日とは…さすがは西住殿です!もちろん私もお供させて頂きます!!」
「えぇと、単にずっと習慣だったから…でも、うん、優花里さんも一緒に走ろう!!」
「西住殿と一緒に走れるなんて…幸せです!!」
うーん、このご主人と一緒に走れて喜ぶわんこ感…、しっぽブンブン振ってそう。
…いかん、一緒に走るシーンがもうそれにしか見えなくなる。
「まぁ、乗りかかった船だし、それにダイエットにもなるかもだし」
「そういう参加理由は沙織さんくらいでは?」
「そ、そんな事ないわよ!ランニングの勧誘にダイエットの話もすれば参加する人だって増えるはずだから!!」
「あー…まぁそれはあるかもな」
「ほら、比企谷もあぁ言ってるし!!」
「とりあえずダイエットって付けとけば女子は釣れるもんな。良いアイディアだ、武部」
「言い方!女の子にとってダイエットは永遠のテーマなんだから!!」
むしろダイエットが永遠のテーマとか、要するに永遠に体重減ってないって事になるのでは?
「…まぁその、当日は走る以外にもいろいろやって貰う事になると思うが、良いのか?」
「うん、手伝うよ」
「てか、最初から手伝うって言ってるし」
「…助かる」
あんこうチームが手伝ってくれるなら運営の方もそこまで問題はないだろう。
「そうか、みんな頑張ってくれ」
「いや、この流れでさらっとそれ言えるとかすげぇなお前…」
誰がって?冷泉しか居ないでしょ…。いや、俺も人の事言えた義理じゃないけどね。
「もー、麻子!あんたって子はー!!」
そして武部のそれがもう完全にただのおかんなんだよなぁ…。
「…なぜか誰も言わないようだから私が言っておこう、なんでわざわざ始まりを朝の6時にする必要がある?」
それな、マジそれ、どうせ日中だってやる事ないんだからわざわざ朝早くに走る必要もないだろうに。
「毎日暑いですから、熱中症の対策にとの事ですが」
「この時間ならいつも比較的涼しいと磯辺さん達も言ってましたし」
…ぐぅの音も出てこない正論と同時に毎朝6時前から活動している事が発覚したバレー部に戦慄すら覚える。
「…朝だぞ、人間が朝の6時に起きれるか!!」
…なんか久しぶりに聞いたなぁそれ。
「あー…ちなみにスタートが朝6時だから、運営の準備やらなんやらを考えると5時半頃には集まる必要があるぞ」
「五時…半、だと?…私には無理だ、昼にしてくれたら手伝う」
「…いや、さすがにもう変更できねぇよ」
俺だって五時半起きとか勘弁願いたいが熱中症患者なんて出してしまったら大問題になりそうだし、冷泉の一存で変更は出来ないだろう。
「せっかくの機会なんだし、麻子も早起きに挑戦してみたら?」
「そうですよ冷泉殿、私がモーニングコールをしますから」
「朝走ると気持ちいいと思うな」
「…早起きして、走る」
冷泉はこの世の終わりとでも言いたげな絶望的な表情を浮かべる…まぁ気持ちは正直わからんでもないし、参加は強制できない。
「…わかった、参加しよう」
「え?マジか?」
「ただし条件がある、比企谷さんが私をおぶってくれるなら参加する」
「いや、それもう絶対寝てるじゃねぇか。早起きもランニングも参加してねぇし…」
なんならただ俺がしんどいだけでは?冷泉おぶりながらランニングコースの完走を目指せと?普通に無理っす。
「…人には出来る事と出来ない事がある、すまないが今回はパスさせて貰う」
そう言うとガラガラと扉を開けて冷泉が教室から出ていった。まぁランニングが早朝に決まった時点でなんとなくこの展開は予想できてはいたが。
…違うな。今のやり取りは冷泉にしてはどうにも違和感がある。
「…なぁ、冷泉のやつ、なんかあったか?」
「麻子が朝に弱いのは今に始まった事じゃないでしょ…」
「いや、そもそも昼にしてくれたら手伝うってわざわざ言う奴でもないだろ…」
それじゃあ自分から働きたくて仕方ないというか…。いや、冷泉だって手伝う時はきちんと手伝うだろうが、わざわざ口に出してまで言うものか?
「そっちですか!?」
「…よく見ているんですね」
「いや、なんとなく…だけどな」
「…八幡君がそうだから?」
「西住?」
「あ、えぇっと…麻子さんと八幡君、ちょっと似てる所あるから」
「あー…ちょっとわかるかも」
うんうんと頷くあんこうチーム、いや言う程似てるか?俺と冷泉との共通点なんて基本的に仕事は面倒だからやりたくないくらいしか思い浮かばない。…あぁうん、違和感の正体これかー。
「やはり、温泉での事を気にしているんでしょうか?」
「…温泉?」
「えぇと、エキシビションマッチの後の打ち上げの話です」
「あぁ…」
…まだ数日しかたっていないというのに、なんだかずっと前の出来事のようにも思えてくる。
エキシビションマッチの後の温泉での打ち上げといえば【潮騒の湯】の事だろう、俺は受付係だったが。
「あの時はまだ学校がこんな事になるなんて思いもしませんでしたから、夏休みが終わってまた学校が始まるという話になりまして」
「その時に麻子さんがね、ほら…学校が始まるとまた朝に起きなくちゃいけないから」
「…学校なんてなくなってしまえばいいって」
「…冷泉らしいな」
「もちろん本心ではありませんよ!冷泉殿からしたらその…単なる愚痴というか」
「まぁ…そうだろうな」
『学校なんてなくなってしまえばいい』
その言葉には何の力もない。当然だ、言った事がいちいち現実になるのなら、誰だって苦労はしない。
だが、言ってしまったものはどうしようも出来ない。
例えそれがただの偶然で、周りがどれだけ気にしなくても良いと声をかけたとしても。
一度それを口に出してしまった本人には、それはずっと付いて回る。
「…悪い、明日ちょっと遅れるかもしれん」
「えぇ、構いませんよ」
「こちらは私達に任せて下さい」
自分で言っといてなんだが、あんこうチームはあっさりと頷いてくれた。手伝い先が遅刻とか、普通にどうかと思うんだが。
「でも…大丈夫なの?麻子が朝起きるかも怪しいんだけど…」
「まぁ条件付きなら参加するらしいしな、最悪おぶる。たぶん力尽きるからマッ缶の用意だけは頼む」
「か、カッコ悪い…、てかそこは普通にスポーツドリンクとかじゃなくていいの?」
「はっ、マッ缶舐めすぎだ。肉体疲労時の栄養補給にも最適なんだぞ、俺調べでは茨城の農家の皆さんとか高確率で箱買いしてるしな」
「本当に比企谷殿調べですよね…それ」
「八幡君、麻子さんの事、お願いするね」
「あんまし期待すんな、ちょっと話してみるだけだ」
「うん、お願いします」
いや、そんな良い笑顔で返されても…。人の話聞いてた?
『学校なんてなくなってしまえばいい』
それが本心ではないにしろ、一度口に出してしまったそれが現実になってしまった以上、責任を感じるのはどうしようもない。
とはいえ、冷泉は知らないのだ。
自分以上の戦犯がいることに、本当に責任を取るべき人物が誰なのか?という事に。
ーーー
ーー
ー
「………」
「…みぽりん?」
「麻子さん、やっぱり温泉での事を気にしてるんだね」
「…うん、でも私達に心配させたくないから、きっといつも通りにしようって思ってるんだと思う」
「気付いてたの?」
「まぁ長い付き合いだからね。でも、それが逆にサインになっちゃってるというか、比企谷も言ってたけど麻子の場合、ちょっぴり働き者になったりとかね」
「…そっか」
…普段よりちょっぴり働き者になる。
八幡君と麻子さんは似ていると思ったから。きっと、私の違和感の正体はそこなんだと思う。