劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
…あれ?むしろ一話にしか出てないのでは?
仕事の成果というものは基本的には目に見える数値のパラメーターでしか評価されるものではない。
例えば売り上げや出来高、ノルマ、在庫量。それらの目に見える結果が全てであり、現場の人間達がどれだけ頑張っていたのか?的な感情論は上司からすれば単なるノイズでしかない。
「え?頑張ってたの?でも数字出てないよね?」とか言われればそれまでの話で上司というものは基本的に過程より結果を好む、つーかそれしか見てないまである。
その為に必要なものが結果報告書であり、仕事という物は仕事を終えてはい終了。という物でもない最悪なものだと改めて認識させられるまである。
「…そんな訳でこれ、アヒルチームの早朝ランニングと、ウサギチームのテント生活の報告書です」
「奉仕部の活動報告書ね、はい確かに…お疲れ様、比企谷君」
要するに、先のアヒルチーム早朝ランニング計画とウサギチームのテント生活も奉仕部の活動として事の顛末を報告書にまとめて生徒会に報告する必要があったのだ。
「…どんな訳だかは知らないけど、その苦虫を噛み潰したような表情は止めて欲しいかな」
活動報告書を受け取った小山さんは苦笑しながらチェックに入るがそりゃ苦虫を噛み潰したくもなる。…いや、ならねぇけど。
「そりゃようやく仕事が終わったと思ったら今度は報告書作りですからね」
「比企谷君、報告書作りも仕事の内、なのよ」
「なんですかその家に帰るまでが遠足、みたいなの」
なんなら家で資料作りとかしてる分、家に帰っても仕事。なんだよなぁ…。
よくよく考えてみれば俺が今仮住まいしている教室は自室兼奉仕部の部室のようなもの。言い変えれば自宅から会社まで徒歩0分と社畜にとって夢のような労働環境だ、死にたい。
「失礼します。…あら、比企谷さん?」
「…五十鈴?」
と、小山さんの報告書のチェックを待っていると五十鈴が生徒会室に入ってきた。まぁ生徒会室といっても(仮)とはつくんだが。
現状、この仮住まいの校舎の職員室を生徒会が生徒会室として占拠しているのだ。…元々居たはずの大洗の教師陣はどうしたって?君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
「なんだ、お前も生徒会からの呼び出しか?」
「いえ、私はお花を届けに参りました」
見ると五十鈴の手には何本か花の束が握られている。まぁ冷泉じゃあるまいし、五十鈴が何かやらかして呼び出しくらう事は無いとは思うが。
「私がお願いしたの、やっぱり花があると良いかなって」
「ふふ、大洗でもよく生徒会室にお花を飾って頂いてましたね」
あー、そういえば大洗の生徒会室でもよく花が飾られていたがあれも五十鈴が用意してたのか。
「ありがとう、本当はこういう事をわざわざ五十鈴さんにお願いするのもちょっと気が引けるんだけどね」
まぁ五十鈴も華道の家元の娘さんな訳で、なかなかに贅沢なお願い事というか…。
「いえ、こうしてお花を飾って貰えるのなら私も嬉しいですから」
そう答えながらも五十鈴は手の花束を花瓶に移していく、その手際の良さはさすが家元の娘といった所だろうか。
「それで、比企谷さんはいったい何をしたんですか?」
「そう聞くと俺が悪い事して呼び出されたみたいに聞こえるんだが?」
「奉仕部の活動報告書をずっと出さなかったの」
「その言い方も俺が悪い事して呼び出されたみたいに聞こえるんですけど?」
いや、実際放置してたんですけどね。まだ直近だったウサギチームの件はともかく、アヒルチームの早朝ランニングについては小山さんもわりとぴくぴくと頬を吊り上げ気味でしたし。
「活動報告書…言って貰えれば私達もお手伝いしたんですが」
「…いやほら、一応仕事だしな」
「比企谷さんも変な所で責任感が強いですよね」
「そうね、その責任感の強さで次から報告書は早めに出して貰えると助かるわ」
圧が…小山さんからの圧がすごい、この人わりとにこやかに脅しかけてくるんだよなぁ。
「ですが仕事なら余計に、私達の事も頼って下さいね」
「…いや、その」
「頼って下さいね」
「…まぁ、次は頼むわ」
「はい」
…いや、それを言うなら五十鈴も似たようなものか。なにこのおっとり物腰柔らかな脅迫コンビ、口調こそ柔らかいけど有無を言わさない迫力があるんだよなぁ…。
「…ごめんね比企谷君、本当は報告書なんて必要なければいいんだけど、今はそうもいかなくて」
「…みたいですね」
今ここに居る生徒会メンバー以外の生徒は俺や五十鈴だけではない。いや、俺や五十鈴は単純に呼び出されたり、依頼だったりだが、それよりも多く目立つのは先ほどから一般生徒達が生徒会室にひっきりなしに出入りしている。
「すいません、虫刺されの薬が切れました」
「わかった、手配しておく」
「給食用のお米が足りません」
「わかった、農家の方々に手配しておく」
「廊下の電球が切れました」
「わかった、後で電気屋に来てもらう」
と、生徒達から来る要望を先ほどから河嶋さんが次々と捌いているのだ。…あの人も試合中とかテンパるとあんなだがやはりそこはあの会長と長年一緒にやってきただけはある。
…むしろ戦車に乗らないのなら有能なのでは?まさかの西住と逆パターン、陰と陽、対なる存在なる者だったりするんだろうか。
「皆さんお忙しそうですね」
「そうね、まだまだ問題は多いかしら」
まぁ突然の大洗からの退艦勧告からのこの生活だ。設備も備蓄も足りない物だらけで生徒会は基本的にそれらの対応に追われる訳になる。
つまり今回の活動報告書も奉仕部までは手が回らないから後で報告書にまとめて経緯を知る為のもの、という側面の方が強いのだろう。
「…会長は居ないんですか?」
そんな忙しそうな生徒会メンバーだが肝心の会長はというと姿が見えない。
「会長ならまだ奧に居るわよ」
…まだ?いや、居るならあの人にも仕事をさせるべきなのでは?
「大変です!!」
と、疑問に思った瞬間、生徒の一人が大慌てで開口一番そう告げると生徒会室に入ってきた。
「風紀委員の三人が地元の生徒とケンカしてます!!」
…え?風紀委員ってそど子さん達三人組の事だよな?あの人達マジでなにやってんの?
「まぁ!ケンカですか!!」
…なんで五十鈴さんはちょっとウキウキなんですかねぇ?
「つーか地元の生徒って何?ここ大洗なんだし地元は大洗学園だろ」
「ですが、話を聞いた感じだと相手は大洗の生徒ではないみたいですよ」
大洗学園は中高の学園艦だからそれ以外の地元の生徒となると…え?マジで相手誰?どこ中だよ?
「それにしても困ったわね、私達生徒会はここを離れられないし」
「あぁ、しかしこうなると誰かケンカの仲裁にいく者が必要になるな」
小山さんと河嶋さんがわざとらしくため息をついて。…いや、なんか明らかに俺の事見てるよね?嘘つけ、チラチラ見てたでしょ?
「いや、ケンカの仲裁とかちょっと…」
しかも相手がまったく誰だかわからない。どこからか生えてきた謎の地元生徒とか…いや、普通に怖ぇな、むしろその情報だけでケンカ関係無しにもう怖い。
「わかりました!!」
「五十鈴!?」
「さぁ比企谷さん、ここは突撃です!!」
五十鈴さん、案外こういうの好きですよね…。アグレッシブというか、やっぱり仁義の無い戦いとか見ていたりするんだろうか。
…え?マジでこれ俺も行くの?いや、行かないと五十鈴一人に行かせる事になるんだろうがケンカの仲裁となると…。
ーーー
ーー
ー
「…で、ケンカしてると聞いたんですが」
「何よ、なんか文句でもあるの?」
現場についてみると風紀委員の三人は居たが相手の姿は見えない。ケンカとは聞いていたがそれほど大事という訳でもなかったのだろう。
「いや、文句というか…相手は誰だったんですか?」
「はぁ?そんなの地元の生徒に決まってるじゃない!!」
いや、だから大洗以外の地元生徒って誰だよ…?
「ケンカはもう終わってしまったみたいですね…」
なんで五十鈴はちょっとがっかりしてるんですかね…。
「あ、あのぉ…比企谷さん、ケンカって何の事かにゃー?」
「私達、トレーニング中にいきなり呼び出されたから何の事だかわからないなり」
「あぁ、風紀委員の三人がケンカしてると聞いたから一応声をかけたんだがもう終わってたみたいだな、わざわざ来て貰ったのにすまん」
ケンカの仲裁と聞いて保険としてアリクイチームにも付いてきて貰った訳だが、その必要はなかったようだ。
「ひ、ひぃい!!ケ、ケンカとか無理だっちゃ!?」
「ぼ、僕達にそんな事させるつもりだったのかにゃ…」
「ひどいなり!謝る所が違うもも!!」
「いや、お前らはとりあえず後ろで待機しながらその手に持ったダンベル持ち上げててくれれば良かったから…」
「「「?」」」
いや、そこで何言ってるのかよくわからない、みたいな顔をされても。
トレーニング中に声をかけた俺も悪いんだが、ダンベル持ったまま駆けつけてくるアリクイチームの筋肉力よ、筋肉力ってなんだ?
まぁ後ろでダンベル持ち上げながら筋トレしてる女子高生が待機してたらケンカとかする気も起きないよね…。
…それはそれとしてあのダンベル、なんか段々と大きくなってない?こいつらダンベル何キロ持てるの?
「そ、そもそも風紀委員がケンカなんてするはずないんじゃ…」
「そうぴよ、風紀を守るのがこの人達風紀委員っだっちゃ」
「私も学校でゲームをやってて何度も没収されたなり!酷いもも!!」
…それは普通にももがーが悪いのでは?
「…風紀なんて、守っても良いことなんて一つも無かったじゃない」
「…園さん?」
「そう、これからは不良の時代よ!私達は大洗にその名を轟かせる不良になったんだから!!」
…闇落ちした風紀委員が不良落ちしたらしい、何を言ってるかわからないだろう。安心してくれ、俺もわからん。
「そ、そんな訳でよろしくお願いします」
「これから悪い事いっぱいしてくんで、ヨロシク」
ペコリと頭を下げるごも代とわりとノリノリなパゾ美、普段から消極的なごも代はともかく、パゾ美の奴はどこまで本気なのかわからんな…。
「…マジで不良になるんですか?」
「そうよ!私達は今日から不良になるのよ!風紀なんて知ったこっちゃないわ!!」
いや、そんな今日から俺は!!みたいなノリで言わんでも…。少なくともこの人は本気っぽいな。
「あらあら…」
「いや、あらあらって…」
あらあらまぁまぁって…そんな悠長に構えてていいのこれ?絶対面倒な事になった気がする。
「比企谷さん、どうしましょうか?」
「いや、どうするもなにもこのままほっとく…と碌な事にならない気しかしないんだが?」
下手すれば風紀委員がなにかやらかす度にその対応が俺に回されそうまである。てかあの生徒会なら絶対奉仕部案件として回してくる。
「…あ!」
と、ここで五十鈴が何か思い付いたようににこやかに微笑み、手を上げた。
「では、私も不良になります」
…………………………はい?