劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
なんなら温めすぎてもう溶けちゃってるまである。
「だから私達は学園の風紀の為に…ちょっと冷泉さん、ちゃんと聞いてるの!!」
「ちゃんと聞いてるぞ…そど子」
いや、まぁ…そど子さんがいつもの調子に戻ったのはなによりなんだが…。
「聞いてるが…その話もう何度目だ?」
ぐぃっとコップの水を飲み干してくどくどと話を続けるそど子さんだが、先ほどから話がループしている。
「これ、アルコールでも入ってんじゃねぇの…?」
「私達もいただいてますし、ただの水のはずですが…」
完全にめんどくさい酔っ払いムーヴだ、闇落ちやさぐれから不良、最終的に行き着くのが酔っ払いとか、ここ数日で大概の駄目人間ムーヴを制覇したんじゃねぇの?この風紀委員長。
「よほど言いたい事が溜まっていたのではないでしょうか?」
「まぁそうなんだろうが…」
とはいえ風紀委員の不良化という問題は解決しただろうし、正直そろそろ帰りたいのが本音ではある。
「こうなるとそど子は長いから…」
「帰れる内に帰った方が良いと思う」
そんな俺の雰囲気を察してくれたのか、パゾ美とゴモ代がひそひそと合図をくれる。
これはアレだな、宴会の席で飲むと説教が始まる近寄りたくない上司とその扱い方を知ってる部下。
「五十鈴」
「そうですね…」
そして酔っ払い上司に絡まれる新入社員…この場合は俺と五十鈴だろう。顔を見合わせると彼女も頷いて立ち上がる。
「わ、私もそろそろ…」
「ちょっと冷泉さん、どこ行くつもりよ!話はまだ終わってないわ!!」
乗るしかない!このビッグウェーブに!!と、冷泉も立ち上がろうとするがそど子さんにがっちりマークされているのですぐに声をかけられてしまった。
「いや、もう帰らないと風紀がまずくないか…」
「そう!その風紀よ!私達は学園の風紀の為に…」
そして物語はループする!!基本的にこういった場での酔っ払い上司は話さえ出来れば満足なので誰か一人が犠牲になれば解決する。
そう…冷泉は犠牲になったのだ。古くから続く宴会のお約束。その犠牲の犠牲に…。
「…二人共、表にⅣ号が停めてあるから、それで帰ってくれ」
「いや、助かるけど…お前はどうすんだ?」
「私はルノーで帰る、仕方ない…今日はそど子に付き合ってやるとする」
「なによそれ!私があなたに付き合ってあげてるのよ!!」
「はいはい…」
なんかもう、この二人実はもう付き合っているのでは?なんかシレッと朝に帰って来たりしないよね?【大洗の風紀が乱れる!!】。
「一応私達も居るんだけどね…」
まぁパゾ美とゴモ代の二人も居るし…風紀が乱れるあれこれが起こる心配は無いだろう。…無いのかぁ。
「五十鈴さん、その…連絡、ありがとう」
「いえ、皆さんには私からお話しておきます」
「あぁ、そうしてくれ」
西住達も心配してるだろうしな…、というより慌てて一人で戦車走らせてここまで来たとか、どんだけそど子さんの事気にかけていたのか。
「比企谷さんも…いや、いいか、ラーメン、ご馳走様」
「ゴチになります!比企谷パイセン!!」
「いや、奢らねぇし…」
…ま、俺にお礼が無いのは当然だろう、そもそもが何かした訳でもないのだし。というか心なしか俺への当たりが強い気さえする。
まだ話を続けるそど子さんとそれに付き合う冷泉、そしてゴモ代、パゾ美を残して俺と五十鈴はお会計に向かう。
「…帰んのかい?」
「えと、俺達は先に…すいません、長居しちゃって」
ラーメン屋の店主が声をかけてくる。しまった…思えばただでさえ深夜の時間帯だというのに騒ぎすぎた。
「…あれならあいつらにも出てくように言っときますが」
ことラーメン屋において客の回転率というものはなによりも重要視されるものである、入店から注文、そこから食して店を出る。これをスムーズに行う事こそラーメンマナーの一つともいえる。
どれくらい重要かって、親子連れで店に来た者が親が先に食べ終えたという理由で子供がまだ食べているのに店から出された事例なんかもあるくらいだ。子供がまだ食べてる途中でしょうが!!…マジで食べてる途中なんだよなぁ。
まぁそれはやりすぎにしても、だ。これはラーメン屋に限った事でもないが飲食店には守るべき最低限のルールがある。正直ろくに注文もせずに仲間内で喋ってばかりで延々と居続ける客こそ迷惑な者はいない。
そう考えるとやはり全ての飲食店をお一人様専用にするべきなのでは?ぼっちを基準にすれば誰でも飲食店に入りやすく、店の回転率も上がる。やべぇよ…飲食店コンツェルンの才能まで発揮してきたよ。
そんな自分の才能を恐ろしく感じる反面、約束通りに五十鈴とラーメン巡りをしたとすれば外に出て俺の完食を待つ五十鈴の姿を想像してしまった。…八幡がまだ食べてる途中でしょうが!!
「いや…いいさ、学校があんな事になってんだ、こうなるのも無理はねぇよ」
…大将(トゥクンッ)。いや…本当に迷惑かけてごめんなさいね、またお店にも通わせて頂きます。
「これはサービスだ、良かったらあんたらも食べてきな」
大将!!
そういってラーメン屋の大将が皿いっぱいに持ってきてくれたのは…。
「まぁっ!美味しそうなきゅうりですね!!」
「…あぁ、うん、そうね」
…なぜラーメン屋できゅうり?いや、きゅうり入ってるラーメンもそりゃあるんだけどね。ただ、なぜここできゅうりが出てくるのかしら?
「今朝、新鮮なやつが聖グロリアーナの学園艦から届いたんだ」
「…あの学園艦マジなんなの?」
なにこれ?生産地は聖グロリアーナなの?【私が作りました】的な感じでダージリンさんとか出てくるの?
あの学園、銘菓としてグロリアーナ煎餅なんかも売り出してるんだよなぁ…お嬢様学校とはなんなのか、今一度考え直す良い切欠なのかもしれない。
ーーー
ーー
ー
「ラーメン屋の駐車場に…Ⅳ号とルノー」
なんというか…さすがにもう慣れたというか、最早日常まである。そもそもが今からこのⅣ号で帰ろうとしている手前文句も言えまい。
「では帰りましょうか、比企谷さん」
「…あー、まぁその、ちょっと待ってくれ」
「はい?」
不思議そうに首を傾げる五十鈴の返事も聞かず、俺は店の入り口に置いてある自動販売機に向かう。
ラーメン屋の自動販売機設置率はガチ、これはラーメンの後の一杯が格別だという証明にもなるのではないだろうか?…スープ?スープもジュースも飲むんだよ!!
小銭を取り出して投入、指先は吸い込まれるようにいつもの物へと誘導される。なんかもう、「マスター、いつのも」で通用するのでは?とさえ思ってしまえる。
ガタン、と出てきたのはそのいつものマックスなコーヒー、その黄色と黒のギザギザな缶を取り出すと五十鈴に向けた。
「えと…比企谷さん?」
「その…今日は助かった」
あの時、あのタイミング。五十鈴が冷泉に連絡を入れてなければ俺は事情を風紀委員の三人に、そしてその場に居た五十鈴にも話していただろう。
結果その必要は無くなり、安堵している。…そう、安堵してしまっている。
悪い事が見つからなくてホッとしている子供のように、バレなくて良かったと、安堵してしまっている。
「だから…まぁ、これはその…報酬的な、もんだ」
違う。これは単なる罪悪感からの逃げだ。それをただ誤魔化すだけの自己満足の行為がこれなのだ。
「…報酬、ですか」
「…あれだったら別のを買い直すが」
「いえ、報酬という事なら頂きます、ですがその前に…」
と五十鈴は俺からマッ缶を受け取るとぎゅっと握りしめ、てくてくと足取りを俺の隣へ。
「…五十鈴?」
何をするかと一瞬警戒したが、五十鈴は俺よりもその隣にある…自動販売機の前に立って小銭を入れる。
ガタンと出てきたそれは先ほど俺が購入した物と同じ、自動販売機の光に照らされながらも黄色く、黒いギザギザコーヒー。
「どうぞ」
五十鈴はそれを、俺の目の前に差し出した。
「いや…どうぞって、何が?」
マックスコーヒーが2つ…来るぞ!遊馬!!いや、何が来るの?ただでさえマックスを吟っているのに。
「今回の報酬です。今度は私から、比企谷さんに」
「…いや、今回俺何もしてねぇし」
いやはや、そんなマックスコーヒーなんて最高の品を頂く訳には…いや、マジで俺今回なんもしてねぇな。
最初こそ風紀委員の暴走に付き合ってはいたが、問題を解決したのは冷泉で、その冷泉を呼び出したのも五十鈴だ。
「そうかもしれませんね」
…そこは否定しないんですね。いや、否定のしようが無いんだろうが。
「ですが、何もしていない事が報酬を受け取らない理由にはならないと思いますよ」
「まぁ世の中ろくに仕事してないのに同じ職場にいるってだけで仕事の出来る奴より給料貰ってる奴なんかは山ほどいるが…」
「比企谷さん、私は真面目な話をしているんですが?」
怖ぁ…五十鈴さん目、怖ぁ、暗がりなのにギラっと光ってさえ見えるよぉ…。
「…冷泉だってお礼は五十鈴にしてただろ、今回の仕事はお前が解決した、それが全てだ」
「麻子さんがどうして比企谷さんにお礼を言わなかったのか、わかりませんか?」
そりゃ…ほら、冷泉ってちょっとツンデレ入ってるし…。いや、世間一般のツンデレとはまたタイプが違うんだがそこがまた良いというか、ちなみに僕は凄く良いと思います!!
「比企谷さんが何もしなかったから、ではありませんか」
「やっぱ何もしてねぇじゃねぇか…」
「麻子さんが風紀委員の方々を心配していたのは知っていたはずです」
「まぁ…そりゃな」
それは風紀委員が不良を目指して暴走行為をする前のやさぐれモードの時から、冷泉はそど子さんの様子を気にしていた。
もちろん直接聞いてきた訳ではなくて、それとなく探りをいれる感じではあるが。全く…安達も見習え、いや、安達を見習えと言いたい。
「でしたら、比企谷さんが麻子さんを呼ぶ事だって出来たはずです、それこそ今日なんかよりも…ずっと前から」
「………」
冷泉を頼り、事情を話して協力して貰い、風紀委員と話をさせる。
確かに出来ただろう。なんなら風紀委員達がここまで拗れる事もなく、問題はよりスピーディーに解決出来た。
その最初から目の前に転がっている答えを、俺はあえて見ないでいただけだ。
「…生徒会の報告書の事も、私達には言わずに自分だけでやっていましたし、今回も本当は一人で解決したかったのではありませんか?」
「…依頼だからな、それも仕事だろ」
そう、仕事だからだ。仕事なんてそんなものだ、仕事だから仕方ない。引き受けた以上責任というものがある。
「比企谷さん」
「…なんだよ?」
そんな、仕事という言い訳を、逃げ道を。
「今回、依頼者は誰も居ませんよ」
彼女は、五十鈴 華は許さない。
「………」
この風紀委員の不良化問題は別に奉仕部として生徒会から依頼されたものではなく。
五十鈴から手伝って欲しいと言われた訳でもなく。
冷泉からそど子さんを頼まれた訳でもない。
もちろん、当の風紀委員からすればむしろ不良化の邪魔をされただけだ。
それを仕事と無理やり結び付け、目の前の問題にただ飛び付いた。
そうすれば、少なくとも奥底にある一番の問題からは目を逸らせる。
「…比企谷さん、その、何かありましたか?」
「…労働の尊さについ最近目覚めたところでな」
あと愛しさと切なさと心強さにも…いや、愛しさはねぇな、なんなら労働には切なさしかないまである。
「………」
五十鈴がじっと俺を見る、あぁ…これ絶対信じてないやつだわ。…だよね!俺だって八幡がいきなりそんな事言い出したら「誰だよこいつ」とはなる。
だが、五十鈴がここまで踏み込んでくるのなら、ここら辺が潮時…なのだろう。
想定よりずっと早いが。それでも…このまま彼女達を欺き続けるよりはずっとマシなのかもしれない。
そんな偽りの青春は…きっと間違っているのだから。
「…五十鈴」
「…そろそろ戻りましょうか、夏とはいえ、少し寒くなって来ました」
「…は?」
「Ⅳ号は私が操縦してもよろしいでしょうか?ふふっ、これでも元操縦手ですし」
元操縦手(校内模擬戦の一戦のみ)。いや、そういやあんこうチームって全員戦車の免許は取ってるんだっけか…?
いや、今はそんな事はどうでも良くて…。
「良いのか?その…」
「大切な話なら、私は…いえ、私達は話してくれるまで待ちます」
…やめてくれ、頼むからまたそうやって逃げ道を作らないでくれ。そんな物が目の前に現れたら、俺はズルズルとそこに逃げ込んでしまう。
「いや、話ならーーー」
「ただ比企谷さん、これだけは一つ覚えていて下さい」
言いかけて、止まる。俺の心境の全てを吹っ飛ばすように、五十鈴は指でピストルの形を作り、その指先を俺に向けていた。
「私は砲手ですので、ここぞ…という場面では外すつもりはありませんよ」
その指先を、ちょこんと俺の胸に当てて微笑みかける。
「…それでピストルの形って、なんかちょっと違わない?」
それもう砲手じゃなくてただの銃じゃん、ハジキにしてチャカじゃん。…なんであれ、どっちにしろ撃たれるんだよなぁ。
「そこは…あの、気持ち的に、です」
彼女は恥ずかしさを誤魔化すように照れ笑いを浮かべるとそそくさとⅣ号へと向かっていった。
…なんならもうとっくに撃ち抜かれてるまである気さえしてしまったが、たぶん、まぁ、大丈夫だろう。
その証拠にさっきからどくどくとうるさいくらい、心臓が早く動いているのだから。