劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
もう気付いてる人も居るかもしれませんが、しつこいくらいあんこうチームメンバーと八幡がマッ缶を飲むシーンがあるのは仕様ですので。ゲーム的にはここで1枚絵みたいなもんです。
「ねぇ比企谷、そこのベンチとか良いんじゃない?」
「…ん」
外で昼食をする事になったが手頃なブルーシートなんて持っていない、俺一人なら地べたに座っても問題は無いがさすがに武部に芝生とはいえそれをさせるのは気が引ける。
さてどうしたもんかと辺りをぶらついてみると二人座るにはちょうど良さそうなベンチを見つける事ができた。
別段なにかの特異点になりそうでも百合展開が起きそうでもなく…もちろん作業着姿の男が座っている、なんて事もない。ごくごく普通のベンチだ。
「…ちょっと狭くねぇか?」
ただ問題なのはちょうど二人座るには良さそうな…という部分だ。なにこのベンチ、生意気にもカップルシート気取ってんの?
「もう歩き疲れちゃったし…良いじゃない、それくらい我慢しなさいよね」
早速バスケットをベンチに置いた辺り、武部はもうここで決めたようだ…。諦めて俺はベンチの前、地べたに座り込む。
「いや、何してんの…?」
普通にドン引きされた。座り込んでいた分、完全に武部に見下ろされる形でちょっと危ういシチュエーションまである。
「いや、弁当置いたら俺座れないし…」
二人座るにはちょうど良さそうなベンチだ。片側を武部が座り、もう片方に弁当を広げてしまえば俺の座るスペースが無くなるのは当たり前だろう。
「ちょっと置いただけだから!これだと私完全に悪者じゃん!?」
まぁ相手地べたに座らせて自分はベンチに座って食事とか端から見られたら悪役令嬢とかそのものだもんね…。
「…じゃあ弁当どうすんだよ?」
立ち上がりぱっぱっとズボンをはたく、弁当を広げるスペースはどうしても必要になるが、地べたに広げた弁当をベンチに座りながら食べるとか絵面的にどうかと。
「うーん…じゃあこうすれば」
武部はバスケットから弁当箱を取り出すとそれを膝の上にちょこんと乗せ、バスケットを降ろした。
「…ね?比企谷も座れるんじゃない?」
「いや、まぁ…座れるは座れるけど」
今度はバスケットさんが犠牲にあってるんだよなぁ…。武部も朝から大事そうに持っていたし、芝生とはいえ地べたに置いておくのも…。
「ほら比企谷、早く」
「…じゃ、まぁ、ありがたく」
あれこれ考えているが武部がぽんぽんと空いたスペースを叩いてくるのでおっかなびっくりとベンチに座り込む。予想通り、すぐ隣には武部がね、まぁ…うん。
…いや、なんならむしろ予想以上に近いんですが?マジでこのベンチ、スペース狭すぎねぇ?世の中には全長460mとかのベンチもあるんだからもうちょい頑張れなかったのかね…。
「えーと…じゃ、お弁当なんだけど」
武部は膝の上に置いたランチクロスをしゅるしゅるとほどいて広げる。そこには女の子っぽい、可愛らしい弁当箱が一つ。
「…ん?一個か?」
俺の分も作ってきてくれた…という話だったが出てきた弁当箱は一つだ。まぁサイズ的には大きめではある所を見れば武部さん、普段ダイエットだなんだよく言ってるけど案外食べる気満々なのね。
「えへへー、これはね♪」
「その大きさの弁当一人で食うのか…」
「違うわよ!?私そんな食いしん坊じゃないから!中!中身よ中身!!」
武部はぶーっと頬を膨らませながら弁当箱を開ける。あぁ…なるほど。
「サンドイッチか」
「うん、これならいろんな物も食べられるし、お弁当箱も一つで済むかなって」
ふっふーん、と武部は得意気に微笑む。それも頷けるのはサンドイッチ各々の具材にもいろいろな種類が分けてある細やかさだろう。
定番のハムサンドや玉子サンドはもちろんだが、デザート用にかフルーツを挟んだ物まで用意されている。
「その量の弁当を一人で食うのか…」
「二人分よ!だからなんでそんなに私を食いしん坊にしたいの!?」
いや、普通に凄すぎて反応に困るんだよ…。マジこの子女子力の化身!早く誰か貰ってやれよ、間に合わなくなってもしらんぞー!!
「いや、しかしこれ結構手間かかってんだろ…」
二人分のサンドイッチに中身もいくつか種類を用意して…となると作るのにどれだけの手間がかかるのか。
「ううん、具材を用意すれば後はパンを挟むだけだから」
その具材を用意するのが手間なんだろうが…、玉子だってゆで玉子バージョンと玉子サラダバージョンの2パターンを用意してるし。とにかく具材のバリエーションが豊富ときている。
「これならお昼に食べるのにもちょうど良いでしょ?あんまり重いと午後からキツくなるし」
「まぁ、そうだな…」
「ね!これなら重くないでしょ!!」
「なんの確認だよ…、いや、確かにチョイスとしては完璧だけど」
まぁ別の意味でも重くはない。サンドイッチという、手軽に食べる事のできるイメージの強い食事は昼の弁当として100点満点といえる。…まぁほら、いろいろと別の意味でもね。
「良かったぁ、ちゃんと朝早く起きて何が良いかなって考えたんだから」
「…なんか一気に重くなったなぁ」
「なんでよ!?」
…いや、ほんとそういう所ですからね、武部さん。
「あー…まぁ、じゃあ俺からはこれな」
お昼を食べる、という事で武部に昼飯を用意して貰った手前、こちらが手ぶらというのはどうにも気が引ける。
どうしたもんかとせめて飲み物くらいはと、ここにくる前に適当に目についた自動販売機で買った飲み物を武部に渡した。
「本当にそれで良かったのか?」
「うん、ちょうどサンドイッチにも合うし」
選ばれたのはマックスコーヒーでした。いや、マジでなんか最近こればっかり飲んでる気がするけど、美味しいし問題ないよね!!
「いや、お前いつもカロリーがどうとか言ってるし…」
「…あー、うん、そうなんだよねぇ、これカロリーゼロとかないかなぁ」
ない、マックスコーヒーはこの暴力的なカロリーがあってこそ成立するのだ。…ところでマックスコーヒーゼロとかどうですかね?バカウケ間違い無しですよ?
「でもせっかくだし、比企谷と同じ物を飲みたいかなって」
「まぁマックスコーヒーは神の飲み物だからな」
「いや、そういう意味じゃ…うん、まぁ比企谷だし、そこはいいかな…」
雑…なんかマックスコーヒー関係はツッコミがえらい雑になってない?
「ていうか、わざわざ奢って貰わなくても良かったのに」
「まぁ…そこはほら、日頃の感謝っつーかなんつーか、されてばかりじゃ悪いっつーか」
「なんでちょっと韻を踏んだの?」
いや、俺の頭ん中のオオイシさんが歌い始めるんだよ、急にワォッとか叫び出すんだからねこの人、マジ困ったもんだ。
「…正直これでも釣り合いは全然取れてもないんだが、四の五の言わず受け取ってくれ」
朝早く起きて、きちんと考えて、手前をかけて作ってくれたサンドイッチとか…正直俺から釣り合いの取れる返しは出来そうにない。
「わかった、でもこのお弁当は私が作りたかったから作ったんだし…ね」
「…そうか」
「うん、そう」
「………」
マックスコーヒーを受け取りながらも気恥ずかしそうに頬を赤くさせる武部にこっちまで赤くなってしまい、お互い不意に沈黙が続く。
なんなら頭の中のオオイシさんが今度はそれってもしや恋じゃない!?とか歌い上げそうになってくる。…いや、マジ困ったもんだ。
「あー、その…食べるか」
「あ、うん!食べて食べて!!」
危ない危ない、このままじゃお隣(物理的)の武部さんに駄目人間にされてしまう…と気を持ち直してそろそろお昼としよう。
「…そうだな」
いや、そうだなじゃない…。よくよく考えたらサンドイッチの弁当箱は武部の膝の上ときている。
「………」
「…どうしたのよ?」
「いや…」
どうしたもこうしたも…ひじょうに手を伸ばしづらいんですが?その弁当箱、一旦地面に起きません?
武部がじっと俺を見る、どうやら俺が先に食べないと彼女も食べ始めるつもりはないらしい。
目の前には色とりどりの美味しそうなサンドイッチがあり、手を伸ばせば届く距離。…ただし彼女の膝の上。
やだこれ取りづらい!?なに?なにか試されてるの?こんなの財宝を前に斧みたいなのが振り子でぶんぶんやってるアレじゃん…。
「比企谷?」
そんな俺の様子をさすがにいぶかしんだ武部がじっと見てくる。
「いや、ほら、弁当箱がそこにあるとな…」
「へ?…あ!!」
このままだと埒があかないので正直に話すと武部も気付いたのか慌て出す。危ねぇ、弁当箱落ちちゃうじゃん…。
「わ、わた、私は別に、そんなの気にしないし!!」
普段恋愛強者自称してんのにこういう所の恋愛弱者っぷりがね…。だがこれは仕方ない、経験豊富な恋愛マエストロだって本番には弱いのだ。…なぜって本番の経験ないもんね。
「き、気にしないけど!比企谷!お弁当箱持ってて!!」
「それだとただ問題が逆になるだけじゃん…」
「…比企谷の膝の上のお弁当」
「やめろ」
なにこれ、武部の時は絵になるシチュエーションが途端に恐怖的な絵面に変わるんだけと?モデルって大事だなぁ…。
まぁ恋愛クソ雑魚弱者が二人揃えばこうなるのは当然ともいえる。いや、恋愛ってのはアレだけど…状況的にね。
「…どっか別の所探すか?」
もうこうなったらとりあえずベンチが悪いという事にしておこう。二人座ってギリギリとか、ベンチとして恥ずかしくないの?
「…ううん、ここで食べよ」
だが武部は立ち上がる素振りも見せず、立ち上がろうとする俺を引き止めた。
「いや、だから…」
「比企谷、どれを食べたい?」
「…え?」
「サンドイッチ、どれから食べたいのよ?」
「…あー、えと、その玉子サラダのやつとか」
言われるがまま、とりあえず目についたの玉子サラダのサンドイッチをチョイスしてみる。玉子サラダの中に細かく刻んだゆで玉子の白身が見え隠れする辺り、彼女のこだわりが感じられた。
「これね」
武部はそのサンドイッチを手に取ると…え?手に取っちゃってそのまま食べるの?なんで食べたいやつ聞いた?
だが、そんな俺の予想に反して彼女はそのサンドイッチを俺の口の前に差し出した。
「…ほら比企谷、食べて」
「…え?あぁ、えと、いただきます?」
あまりに突然の出来事に、そのまま口を開いてサンドイッチを一口。
「えと…どう、かな?」
「…いや、美味い…けど」
本当はひどく後悔した。これは絶対、間違いなく美味しいサンドイッチだろう。
だというのに…その美味しさを味わう余裕もないくらい、先ほどから心臓の鼓動がうるさいのだ。
「…そ、なら良かった」
だが、そんな俺の不誠実な返答にも彼女は安心したように、柔らかく微笑んでくれた。
「じゃあ比企谷、もっと食べて食べて!!」
そのまま嬉しそうに続けてサンドイッチをぐぃっと前に出してくる。
「…あぁ、えと…じゃあ」
釣られてまた口を開きそうになったが…いや、うん、ちょっと待ってね。
「…このやり取りしなくても、普通に渡して貰えればよくね?」
「…あ、なんならお弁当箱を渡し合えばそれで良かったのかも」
脳内シミュレーションは完璧な癖して、いざって時は尻込みしつつ、不意の出来事には応用力が発揮できない。
…恋愛クソ雑魚弱者が二人揃えばこうなるんだよなぁ。