劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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え?カバさんチームのお悩み解決回?むしろ悩み解決回が必要ないのが彼女達、歴女チームの良い所なまである。


そして、武部 沙織はその関係を終わらせる。

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末様でした…なんちゃって」

 

いや、お粗末とかとても言えないくらいのクオリティだったんですけどね。なんならダージリンさんは聖グロリアーナでサンドイッチ職人として武部を雇っても良いレベル。

 

「どう?美味しかったでしょ?」

 

空になった弁当箱にランチクロスを丁寧に結びながら武部が聞いてくる、不意打ち気味の最初とは違い、今は幾分心持ちにも余裕が出来た。

 

「極上だな」

 

まぁ…余裕の使い所が照れ隠しに茶化す方に向いてしまうのが俺らしいといえば俺らしい。とはいえ普段から教室でも隠密でスパイみたいな活動もしてるしね、これが本当のスパイ教室だ。…上手く無いな、うん。

 

「でしょ?外で食べるご飯って美味しいのよね」

 

いや、別に外で食べなくてもこのサンドイッチは充分美味いんだろうが…。きっと、彼女からすれば今日、ここで食べた昼飯には俺とはまた違う思いもあるのかもしれない。

 

「比企谷も、たまにはこういうのも悪くないでしょ?」

 

「違うな武部。知らないようだから言っておくが、俺は学園艦に居た時は基本的に昼は外で食ってたんだよ」

 

なぜなら教室にも食堂にも居場所が無いもんね!なので昼飯は基本的に外、中庭近くのベストプレイスに陣取っている。…そういえば西住と初めて話したのもそこだったか。

 

あの頃は西住もまだぼっちだったからあの場所にはぼっちを引き寄せる謎の磁場的な何かがあったのかもしれない。もしかしたら近々、やたらギターの上手いぼっちな子が来る可能性も…?

 

「それ、教室じゃ食べづらいだけじゃない…」

 

普通にバレてた。まぁ…バレてますよね、なんなら戦車道メンバー全員、俺が教室でお昼食べづらいからそこで飯食ってるの知ってる可能性だってある。…あれ?やだこれ死にたい。

 

「それなら私達と一緒に食べればいいのに、教室でも食堂でも」

 

「は?嫌だよ、変に目立っちゃうだろ」

 

せっかく教室でスパイやってるんだから、そろそろコードネームの一つでも貰っても良いんじゃない?

 

「良いじゃない目立っても、比企谷だって頑張ってたんだから」

 

「あぁ、超頑張ったな。…頑張ったからこれ以上疲れたくねぇんだよ、変に注目されたら疲れんだろ」

 

むしろ俺は影の実力者ポジションで居たいから、目立ってたらアトミック出来ないでしょ。

 

…もちろん、彼女達戦車道メンバーとはまた違う意味で注目される。それはきっと、俺だけじゃなく、当の彼女達にも影響は出てくるだろう。

 

武部程じゃないにしても、高校生にとってその手の話題は噂話の格好の餌だ。無責任に広まるだけならまだマシだが、最悪なのはそれにおひれもはひれもついて回ってくる事だろう。

 

「比企谷は別の意味でもう目立ってるけどね…、いつも一人で居るから悪目立ちするし」

 

「おい馬鹿止めろ、ぼっちにその手の話は戦争だぞ」

 

一人で居る事こそが目立っちゃうとか、ぼっち最大のジレンマなんだから…。そこデリケートなんだからね。

 

「あと生徒会によく呼び出されるし、一年の時から結構教室でも目立ってたと思うよ」

 

「それもうほとんど生徒会のせいじゃねぇか…」

 

なんなら俺の目立ってた理由の九割くらい、生徒会が原因なのでは?あの人達マジろくでもねぇ…。

 

「でもそっかぁ…そういえば私達、一年の時、同じクラスだったんだよね」

 

「…そーだな、まぁ全然会話とかしてなかったけどな」

 

とはいえ、これは別に武部に限った話という訳ではないが、なんなら一年のクラスメイトでまともに会話した奴居たかも覚えてないんだけど。

 

「それがこうやってお昼一緒に食べてるんだもんね、なんか不思議」

 

「まぁ…そうだな」

 

大洗学園で戦車道が始まらなければ…たぶん、こんな風に彼女の手料理をお昼に食べる事は無かったのだろう。

 

…あぁ、ヤバいな、それだけで戦車道を始めて良かったと思えてしまう。胃袋を掴め…と昔の人は言ったらしいが本当に鷲掴みするやつがあるか。

 

だって、俺は後悔しなければいけないのだから。

 

「…うーん」

 

ふと武部を見るとなにやら真剣に考え事をしている。急にどうした?

 

「…一年の時から知り合いだったって事はアドバンテージはあったのよね、うー…せっかくのチャンスだったのに」

 

…いや、マジで急にどうしたの?

 

「…武部?」

 

「え?…な、なんでもない!とにかく、比企谷は一年の時から目立ってたんだから、今さらって話よ」

 

…そういう話だったっけ?あとぼっちにその手の話題は戦争だって話、さっき言わなかった?

 

「私だってその時は比企谷の事、生徒会の人だなってくらいしか…」

 

それだけ言ってまた武部が考え込む。まぁ武部がそう思っていたのも仕方ない、校内スピーカーで何度生徒会から呼び出しのご指名を受けたかことか。

 

これがホストクラブなら指名数NO.1は確実、高々と積み上げられたシャンパンタワーを背景に飲んで飲んでとウェイウェイ姿が目に浮かぶようだ。

 

「…そっか、うん…そうよね」

 

ふと呟いた彼女の小さな一言。だが、とても強く、決意するような呟きにも聞こえた。

 

「…武部?」

 

その一言の意味を聞こうとするより先に。

 

「あれ?沙織さんじゃん、どうしたの?こんな所で」

 

ふと二人組の女子生徒に声をかけられた。相手は武部の知り合いだろうが俺はもちろん知らない顔だ、テント組の生徒だろう。

 

…しまったな。意識しながら歩いて大洗の生徒が集まっている広場からは離れたつもりだったんだが、さすがにまだ距離が近かったか。

 

「えーと、そっちの男の人は?」

 

こういう事態を考えて昼は別々にとる事を考えてたんだが、あんな顔でお昼を誘われたら断れるはずがない。…西住がナンパされてホイホイ付いてっちゃったのも納得なんだよなぁ。

 

だが、此方にも一応、最低限の免罪符は用意している。普段人を利用するだけ利用しているのだから、こういう場面で使っても罰は当たらないだろう。

 

「あー…ここにはちょっと生徒会の仕事でな、その休憩中」

 

それで二人並んでベンチでご飯を食べてたと…うん、厳しいなぁこれ…。

 

「あ、じゃあ生徒会の人かぁ」

 

「まぁ、そんな感じの人」

 

…どんな感じだよそれ。しかし大洗の生徒の大半は基本的に何かあっても「うちの生徒会のやる事だから」で済ませてしまう傾向がある。慣れって怖い。

 

付け加えるなら、生徒会関連の話題を出せばほとんどの生徒は深く追及してはこない。何故って基本、みんなあんまり関わりたくないもんね。

 

「あ、ううん…この人は生徒会じゃないの」

 

「…は?」

 

「いや、なんでそこで驚くのよ…、比企谷は生徒会じゃないのよね」

 

「…いや、まぁ違うけど」

 

そこはもちろん否定したい所ではあるんだが…いや、この状況なんだし、わざわざ否定しなくてもだ。

 

「え!?じゃあやっぱり!!」

 

「沙織さん、ついに?ようやく!?」

 

ほら見ろ、やっぱり変に誤解されるだろ。…ついにとか、ようやくとか、武部さん、普段どれだけアピールしてるんですかね…?

 

「うん、比企谷は…戦車道の仲間だから」

 

武部 沙織は笑顔でそう答える。これが自分の出した答えだと告げるように、俺を見る。

 

「だから、私達の友達…かな」

 

…クラスでは。というか、基本的に戦車道の授業以外では俺は彼女達と関わる事は極力避けていた。

 

彼女達も察してか、教室では基本的にお互い会話はしていなかった。…いや、チラチラ見られているのはなんとなくわかってはいたんだが。

 

クラス内にもヒエラルキーというものは存在する。いや、教室という密閉された空間こそ、それが如実に浮き彫りになる。

 

戦車道全国大会優勝の戦車道メンバーと、いつも一人でぼっち飯食ってる奴だ。カーストならばピラミッドの上と下、普通に考えれば接点なんて考えつかないだろう。

 

それで良い、下手に接点を持ってしまえば妙な勘繰りが生まれる、悪意ある噂の的にされる。それが俺だけで済めばまだマシだが、彼女達まで嫌な思いをさせる事もあるだろう。

 

だから、極力関わりを避け、最悪【生徒会】という切り札まで用意していたというのに…。

 

そんな曖昧な、欺瞞だらけの関係を、武部 沙織はその決意と覚悟で終わらせてみせた。

 

本当にやってくれた、全部台無しじゃん…。

 

「そっかぁ…」

 

「あーうん、…友達かぁ」

 

「え!?なんで私、がっかりされてるの!?」

 

いや、ここでがっかりされてる武部が逆にすげぇな…。どんだけ周りから応援されてるの?まぁ…これも彼女の人柄なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「…なぁ、さっきの」

 

「良いでしょ、本当の事なんだし」

 

二人の女子生徒が帰った事を確認し、ため息混じりに声をかけるが彼女の方は悪びれる様子はない。

 

「…変な噂が出てくるかもしれないだろ」

 

「うん、そうかも…」

 

「西住達だって…あれだ、巻き込まれるかもしれん」

 

「みぽりんなら大丈夫、華も、ゆかりんも、麻子も、もちろん私も気にしない」

 

…その五人、あんこうチームのメンバーの名前を上げた意味は深く考えないようにする。

 

「要するに、気にしてるのは比企谷だけって事ね」

 

うわぁ…そこだけ聞くとそいつ、自信過剰すぎてちょっと引くわ。

 

「それに…ほら、比企谷だってさっき言ってたじゃない」

 

「…何を?」

 

「顔が見えなくて今後会う事が無いなら何しても後腐れはない、負けそうになれば最悪切断?…でしょ?」

 

あぁ…ネット対戦の話ね、人の話ドン引きしながら聞いてた癖して、しっかり覚えてんのね。

 

「大洗学園は廃校になっちゃうんだし…みんなバラバラになるんなら、これくらいの事はしても良いじゃない」

 

「…それ言われたらもう反論できねぇだろ、なんかズルくない?」

 

何がズルいって、言った本人の言葉が引用されてるのだ。負けそうになると切断厨とかマジ引くわー。

 

「ふふん、女の子はちょっとズルいくらいがモテるんだから」

 

「まぁ女の子に限らず、人間なんてだいたいみんなズルいんだけどな…」

 

「比企谷なんかは特にね」

 

おい、その理論だと俺がモテモテになってないとおかしいじゃねぇか。

 

「あ、そうだ、はいこれ」

 

「…ん?」

 

武部が思い出したように書類を渡してくる。

 

「転校手続きの書類、さっきの子達から貰ったんだけど、比企谷から生徒会に渡しといて」

 

「結局、生徒会の仕事からも逃げられないんだよなぁ…」

 

生徒会だろうとなかろうと、あの人からすれば関係なく仕事を振ってくる。…やっぱり生徒会系の人じゃないですかー!!

 

「私も一度実家に戻んなきゃなー」

 

「あー、転校手続きの書類に親の判子がいるんだったか」

 

そういえば確かそんな事が書いてあった気がする。…学園艦解体から廃校での仮住まい、そっから一度親元に帰る必要のある面倒臭さ。いや、文科省マジ計画性無さすぎねぇか?

 

しかし、この資料が配られた辺り、いよいよ転校開始は秒読みの段階まだ来ているのだろう。

 

「…親の判子か、そういえば西住は大丈夫なのか?」

 

親の判子…西住の場合、西住流師範…いや、もう家元になったんだったか?まぁ西住の母親であるしほさんから貰う必要がある。

 

結局、西住が黒森峰から転校した後も母親とはずっと会ってはいない。まぁあの人、なんだかんだ娘の試合には見に来てるんだけどね。

 

「うん…私達も一緒に行こうかなって思ったんだけど、みぽりんは一人で帰れるって」

 

「…そうか」

 

西住の実家というと熊本だったか…親の判子を貰う為にわざわざ熊本まで行かないといけないとかそれだけでキツイというのに、そこであの母ちゃんと対決せねばならないと来ている。

 

「…みぽりんが心配?」

 

「…いや」

 

とはいえ、そこは西住の家の問題だ。あの黒森峰の現副隊長さんでは無いが、部外者が口を挟む事ではないだろう。

 

「となると西住はしばらく帰省か、お前らもか?」

 

「そうね、みんな一度実家に帰るかな」

 

あれ?なんだろ…この実家に帰らせて頂きます的な感じ。

 

「まぁ五十鈴の家は大洗だし、秋山もすぐ近くで親父さんが簡易的だが床屋やってるみたいだしな、冷泉なんか婆さんのお見舞いも出来てちょうど良いかもしれん」

 

そう考えたら帰省らしい帰省は西住くらいか、まぁ母港が熊本の黒森峰からわざわざ大洗に転校してきたんだしな。

 

「………」

 

「…なんだよ?」

 

なんか知らんが、武部は急に不機嫌な表情でぶーと頬を膨らませつつ、俺を見てくる。

 

「いや…私、私は?」

 

拗ねたように彼女はちょんちょんと自分を指差してくる。何そのアピール、可愛いなこいつ。

 

…とはいえ、確かに目の前に居るというのに話題にも出さないのは彼女に失礼だろう。えーと、あぁ、うん。

 

「いや、お前の家族知らないし…」

 

「紹介!今度紹介するから!!」

 

「…いや、なんでだよ」

 

本当に誰か早く貰ってやらないと間に合わないかもしれないからね?…こんな素敵な女の子が、いつまでも残っているとか思うなよ。




沙織さんより先に河嶋さんの家族が出てくる事を予想出来た人0説、いや、わりとマジで。
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