劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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たっぷり尺を使わせて貰った八幡の仮校舎奉仕部編?もいよいよ終わり。落とすだけ落としたんですから、あとは上がるだけ…だと思いたい。

たぶん、ここからが本番!ノンストップの劇場版編が始まります!!


開口一番、彼女はその言葉を告げにくる。

「またサボる時は誘ってくれ、私も…そうする」

 

冷泉 麻子はひっそりと耳打つようにそう呟いた。疲れたらサボれば良い、自分も共犯関係として付き合うと。

 

彼女がただ本当にサボりたいだけな可能性も…まぁ否定出来ないが。

 

「だから、比企谷殿が気にする必要はないんですよ」

 

秋山 優花里は笑顔でそう答えた。彼女なりの精一杯の笑顔で、両親が店を失った事は気にするなと。

 

俺のボサボサの髪をくしで優しくとかしながら、ふと将来について語り合った。

 

「大切な話なら、私は…いえ、私達は話してくれるまで待ちます」

 

五十鈴 華は俺が話をしてくれるまで待つと答えてくれた。今までだって何度か話そうとはしたが、それらの状況はなし崩し、どうしようもない状況での事だ。

 

俺が自分から、率先して話すと決める時を彼女は待ってくれるのだろう。

 

「うん、比企谷は…戦車道の仲間だから」

 

「だから、私達の友達…かな」

 

武部 沙織は彼女なりの決意でそう宣言した。曖昧で欺瞞だらけの関係を終わらせる為に。

 

生徒会の人ではなく、戦車道の仲間だと。はっきり一般生徒の前で俺と自分達との関係を告白した。

 

転校手続きの書類も回って来たという事はこの仮住まいの生活もいよいよ終わる。…だからか、ここ最近は依頼という依頼も特にない。

 

暇な時間が増えれば、それだけ考えてしまう時間が増えてしまう。

 

虫の鳴き声しか聞こえてこない静かな夜だが、寝苦しい夏の暑さもあって布団に入った所で思考のループに陥り眠りに逃げる事も許されない。

 

「…気を使われてんな」

 

たぶん、それは間違いない。

 

きっと彼女達ももう気付いているんだろう。大洗の廃校、その原因に俺が関わっている事を。

 

だからこそ、俺がここで奉仕活動を始める話になったとき、彼女達はサポートに回ってくれたのだろう。

 

朝に弱い冷泉が条件付きとはいえ、早朝ランニングに参加しようとした。

 

本来なら自分一人でも解決できたであろう一年生キャンプの依頼も、秋山は俺に声をかけてきた。

 

風紀委員の不良化問題で何も出来なかった俺に、五十鈴は解決の道を示してくれた。

 

生徒会という建前を立てて、一般生徒の前では距離を置いていた俺と自分達の関係を、武部は良しとしなかった。

 

自分達だって大変な状況だというのに、彼女達は各々のやり方で俺に関わってくれている。

 

あぁ、最悪だ。

 

もちろん彼女達が、ではない。こういう時、この手の発想しか出てこない自分にだ。

 

結局、長年培われたぼっちの思想はそう簡単には治らない、一度ひねくれた物はまっすぐに戻らないのだろう。

 

彼女達のまっすぐな思いを、俺はわざとねじ曲げる。言葉の裏を探ってしまう。

 

心配されて。

 

気を使われて。

 

…同情されて。

 

彼女達の気持ちを無視したそんな身勝手な解釈はどんどん膨れ上がり、また俺を思考のループに落とす。

 

あぁ…思い出した。だから俺は優しい女の子が嫌いなんだ。

 

優しくされて、勝手に勘違いして盛り上がる。昔と今とではその中身こそ違うが、本質的な所は何も変わっていない。

 

優しい女の子は誰にでも優しく、昔の俺はそれを好意から来るものと勝手に勘違いして惨めを晒した。

 

そして今も、あんこうチームのメンバーからの優しさを勝手に同情とすげ替え惨めになっている。

 

…だから、俺は俺が一番嫌いだ。

 

「…?」

 

コンコンっと窓を叩く音が聞こえた。扉ではなく、窓。

 

あんこうチームの誰かではない、あいつらは転校手続きの書類の印鑑を貰う為に親元に帰っている頃だろうか。

 

そうなると生徒会か、他の戦車道メンバーか、どちらにせよ、扉ではなく窓を叩いてくるのは変だろう。

 

俺はのそのそと布団から起き上がり、窓を見る。

 

夜の、僅かな月明かりに照らされてようやくそれが誰なのかわかる。

 

そこに…信じられない人物を見た。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「今日も来ませんでしたね、あの男は」

 

生徒会が仮の生徒会室として使っている旧校舎職員室で、河嶋は書類を束ねながらため息混じりに呟いた。

 

「…あんこうチームのみんなが様子を見てくれてるみたいなんだけどね」

 

そんな河嶋のため息混じりの言葉に小山が答える。1日の終わり、残るは簡単な書類整理だけという事で生徒会室に残っているのはいつものカメさんチームの三人だけだった。

 

「まったく…これだけ人に心配させておいて」

 

「ふふっ、桃ちゃんも心配してるのね」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!それに私は別に心配なんてだな…あっ!!」

 

と言いつつ、河嶋は動揺したのか床に書類を落としてばらまいてしまい慌てて拾い集める。

 

「…でも、比企谷君の場合、心配するのは反って逆効果になるのかも」

 

「どういう事だ?柚子」

 

「うん、比企谷君が入学式で事故にあった時、私達生徒会でお見舞いをしてたでしょ?」

 

「おー、あったねぇ」

 

少しだけ懐かしむように角谷が答える。あの頃はまだ戦車道も、学園艦廃校の話もない頃。

 

彼と生徒会の長い関わりが始まった日でもある。

 

「その時に比企谷君が同情とか責任を感じてお見舞いに来るのは迷惑なだけだって、会長に言ってたのよね」

 

「あいつ!会長になんて口の聞き方を…!!」

 

「まーまー、かーしま、昔の話だから、そんで?」

 

今すぐにでも殴り込みに行こうとする河嶋をなだめつつ、角谷は小山に話を続けるように促す。

 

「うん、だから比企谷君の場合、私達が心配しても同じように考えちゃうんじゃないかなって。…人の好意を素直に捉えない、というか」

 

「…全く、どれだけ面倒な奴なんだ」

 

そう、入学式からずっと、比企谷 八幡が大洗で最も長く関わりを持っていたのが彼女達生徒会なのだ。

 

「あー、じゃあさ」

 

…だからこそ、核心を付ける事が出来たともいえる。

 

「比企谷ちゃんの事が‘嫌い’な人の言葉だったら、逆に素直に話も聞くんじゃない?」

 

「…それは、難しいですね」

 

生徒会長、角谷の出したその言葉に珍しく河嶋が否定しつつメガネを上げた。

 

「あれ?桃ちゃん意外…」

 

「だから桃ちゃんと呼ぶな!…残念ですが会長、比企谷を嫌ってる者がここには居ません」

 

「桃ちゃん!!」

 

「…そもそも、人に嫌われる程、人と関わって居ないですからね、あいつは」

 

「…桃ちゃん」

 

とはいえ、小山も苦笑いしながらもそこは否定は出来ない。

 

実際、比企谷 八幡は自分で言う程嫌われている訳ではない。大洗において彼の事を知る者が少ないので、嫌う以前の問題というだけだが。

 

「そしてあいつと関わっている人の中であいつを嫌ってる者は…その、我が校には居ないのでは?」

 

「それは桃ちゃんもって事?」

 

「うるさい!!」

 

ようやく床に落とした書類を拾い集めた河嶋は乱暴に束にして机を叩くように置いた。

 

「でもほら」

 

そんな河嶋の様子を見つつ、角谷は少しだけ意地悪そうに微笑む。

 

「それって大洗学園では、って話だよねぇ?」

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「小梅、ここに居たか」

 

「た、隊長!お疲れ様です!!」

 

黒森峰女学園。戦車道チームがその訓練を終え、一息ついていた時に隊長、西住 まほは赤星 小梅に声をかけた。

 

「今日の訓練は終わりだ、そう気を張らなくて良い」

 

「ありがとうございます、あの…それで何かご用ですか?」

 

「明日からの練習メニューの確認がしたいが、時間はあるだろうか?」

 

「はい、もちろん大丈夫です」

 

「そうか、訓練の後で疲れているだろうがもう少しだけ付き合って欲しい」

 

まほはそう言うと歩き出し、赤星もそれに付いていく。

 

「明日から隊長もしばらくお休みなんですよね」

 

「あぁ、こんな状況ですまないとは思うが」

 

「いえ、大事な用事で家に帰らないといけないのなら仕方ありませんよ」

 

まほは数日、黒森峰の学園艦から実家に帰る事になっている、その打ち合わせもあって赤星に声をかけた。

 

「やはり、家元就任の関係ですか?」

 

まほの母親、西住 しほが西住流の師範から家元に就任する話は黒森峰では誰もが知っている事だ。このタイミングで彼女が実家に帰る事に異議を唱える者は居ないだろう。

 

「いや、みほが家に帰ってくる」

 

「…えーと」

 

「…どうした?」

 

スタスタ歩くまほだが、ふと赤星が困惑して立ち止まっている事に気付いて心配して声をかける。

 

「いえ、その…みほさん、帰ってくるんですね」

 

この話は他のメンバーには黙っていよう…。と、心の中で呟きつつ、赤星は再び歩き出した。

 

「あぁ。…大洗学園の廃校の件は聞いているだろう」

 

「…はい」

 

赤星は力なく頷いた。大洗学園廃校の話は当然だが、大洗学園の中だけの話ではない。それも彼女達黒森峰は決勝戦で戦った相手だ、知らない訳がない。

 

「転校手続きの書類の関係で一度家に帰る必要があるらしい」

 

「隊長!私…納得出来ません!!大洗学園が廃校なんて、そんなの」

 

「小梅…」

 

「あの決勝戦、もし大洗学園が負けたら廃校だった…という話は後から知りました。正直、もしその話を先に聞いていたら、全力で戦えたかはわかりません」

 

本当は、こんな事を、それも尊敬する隊長を前にして言ってしまうのはダメな事なんだろう。それがわかっていても、一度口に出してしまえばもう止められなかった。

 

「でも、あの時の私は全力でした…それでも、大洗学園は勝ったのに、これじゃあ…あの決勝戦はなんだったんですか?」

 

結果を無下にされたのはなにも大洗学園だけの話ではない。

 

決勝戦で戦い、敗れた彼女達黒森峰からしても…いや、戦車道の全国大会に参加した全ての戦車道チームから見ても。

 

大洗学園の廃校という結末は、あの大会全ての結果の否定にも繋がる。

 

「…私だって全力だった、みほは…大洗はその私達に勝利した、あの条件、あの状況でだ。大洗は良いチームだ」

 

今にも泣き出しそうな赤星にまほは優しく諭す。

 

「だからこそ来年はその大洗を倒し、黒森峰が優勝する。その為には小梅の力も必ず必要になる」

 

「…はい」

 

「…そして、エリカもだ、副隊長が居ない今、私まで休日を取るのは申し訳ないが」

 

「いえ、みほさんが帰ってくる、ですもんね」

 

「あぁ」

 

いっそ清々しいまでに即答するまほに、やっぱりみんなには…特に今話に出てきた副隊長にはこの事は黙っていようと思う赤星だった。

 

「…来年また大洗が黒森峰と戦う為にも、彼が必要になる」

 

「…エリカさん、大丈夫かなぁ」

 

「エリカなら問題ない」

 

心配する赤星にまほはまた即答で答えた、そこには信頼の意味が強く込められているのだろう。

 

「かつて一度、誰よりも後悔したエリカなら…いや、エリカだからこそ、任せられる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

「こんな所で何をしてるの?」

 

夜の月明かりの下、俺がガラガラと窓を開けると彼女はノックのポーズもそのままに開口一番、そう告げる。

 

「…いや、それ絶対こっちの台詞だろ」

 

逸見 エリカ、黒森峰女学園戦車道チームの副隊長。

 

彼女がそこに立っていたーーー。

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