劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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前にもどこかの前書きに書きましたがこの小説でのエリカさんと西住殿の関係は当然公式じゃありませんので悪しからず。

ただ…もうね、ほら、やっぱみほエリ良いよね!!って話です、最終章の続きでこの二人の絡みが見れる事を願います。


月明かりの下、彼女と彼の本音。

夜、突然窓を叩いてやって来たその来訪者にはさすがの俺も予想外…というか、想像すらしていなかった、とさえ言える。

 

逸見 エリカ、黒森峰女学園戦車道チームの現副隊長。

 

決して知らない仲では無いが、知らない仲という言葉はなにも気安い間柄だけに使われる言葉でもない。

 

「…ひどい顔ね」

 

「人の顔見るなりいきなりそれかよ、…誰かさんに寝ている所を起こされたからじゃねぇの?」

 

「なら感謝なさい。その目の腐りようならよほど悪い夢でも見てたんじゃないの?」

 

「むしろ悪夢真っ只中なんだよなぁ…」

 

まぁ…だいたいこんな感じだ。彼女とは初めて会ったのが戦車道喫茶でのあの一悶着な事もあって浅からず因縁のような物がある。

 

というか、黒森峰のこいつがなんで大洗に?いや、黒森峰はFa223という自家用…てか、自学園用ヘリ持ってるし、どうやって来たかは疑問にはならないんだが。

 

問題は何をしに来たか、だ。

 

「西住なら居ないぞ、なんなら熊本に帰ってる」

 

こいつがわざわざここに来るという事は西住に関係する事だろうが残念ながら見事に入れ違いだ。まったく気が利かない、もう少し来るのが早ければ西住もそのままヘリに乗って帰れたかもしれないのに。

 

茨城県から熊本県まで、しかも親の印鑑を貰う為の帰省。旅費…勿体無くない?文科省はそこんところちゃんと補填してくれんの?

 

「そう」

 

だが彼女は短くそれだけ答えた。てっきりまた姉住さんの指示でアッシーとして西住を迎えに来たと思ったが…。

 

「今から少し話せるかしら?」

 

「…俺と?」

 

「察しが悪いのね、他に誰が居るのよ」

 

いや、俺とお前が何の話をするんだよ?初対面ではないがお前はすでに俺の事が嫌いでしょうに…。鬼の勧誘ならあのポーズくらいしろ、たぶん似合うぞ。

 

「いや、こっちはもう寝る所なんだが」

 

もちろん嘘だが。なんなら布団に入った所できっとまた余計な事を考えて眠れないだろう。

 

だが、今はこいつの相手をしている気分じゃない。とんぼ返りにはなるがそもそも何の連絡も無しにやって来たわに!!する方が悪い。

 

「そ、永遠に寝たいのなら好きにすればいいわ」

 

「Fa223で来た奴に言われると冗談に聞こえないんだよなぁ…」

 

確かあのヘリ、航空機とはいえMG 15機関銃が機首に装備されてたはず。学園艦用だしさすがに取り外してるとは思うが。

 

「だいたい今何時だと思ってんだよ?」

 

しかも連絡も無しに来ちゃった(はぁと)とか、別にやましい事なんて無いけど急いでカーペットコロコロしなくちゃいけない気持ちになっちゃうじゃん…。

 

「…仕方ないでしょ、あまり時間も無いのよ」

 

「はぁ?」

 

「…こっちの話よ。それに、さすがに私も悪いと思ってるわ」

 

そう言って現副隊長はコトリとマックスコーヒーの缶を窓枠に置いてきた。

 

「…なにこれ?」

 

「はぁ?あんたこれ好きでしょ?」

 

「いや、普通に好きだけど…え?なにこれくれんの?」

 

「えぇ、これでチャラね」

 

「…ならねーだろ。とりあえずこいつにはマッ缶渡しときゃ文句言わないでしょ、みたいな魂胆が透けて見えるんだが?」

 

「あら、違うの?」

 

いや、そこでそんな意外そうな顔すんなよ。だいたいこれ、来る途中に思い付いたからとりあえず自販機で買っときました感がバリバリなんだが?

 

「そこまで安くなった覚えはねぇよ、もう後二、三本は持ってこい、話はそこからだ」

 

「500円もあれば文句は言わないのね…、まったく…安い男ね」

 

いやいや、そこはコスパが良いと言って欲しい。…しかし、こいつがわざわざ手土産持参で来るとかね。

 

「時間は取らせないしそのままでいいわ、少し話をするだけよ」

 

「…話、ねぇ」

 

…別にマッ缶に買収された訳ではないが、このままほっといてもこいつは帰りそうにないだろう。

 

置かれたマッ缶を手に取り、その場に座り込むと窓際の壁に寄りかかってプルタブを開ける、そのままでいいと言うなら外に出る必要もない。

 

「で、何の話だよ?」

 

「…大洗学園、廃校になるのね」

 

…わざわざ聞いといてこう言ってはなんだが、知ってた。そもそもこのタイミングでこいつがここに来る理由だ、それ以外の何がある。

 

なんせ学園艦一つ取り潰しになるのだから大洗学園廃校は世間的にも大きめなニュースだ、黒森峰のこいつが知らない訳がない。

 

「…西住なら戦車道は続けるだろ。たぶん、知らんけど」

 

西住をライバル視してるこいつだ、気になるのはやはりそこだろう。

 

それは俺の身勝手な答えだ、願望だってあるのかもしれない。

 

一度は戦車道を止めた西住が、今回の事でまた戦車道関連で多くの物を失ってしまった彼女が、それでも戦車道を続けて行くのかは正直わからない。

 

そういえば西住の転校先はどうなるのか?と、ふと気になった。なんせ大洗学園全国大会優勝の立役者だ、転校先をドラフト会議にかけるなら1位指名は間違いないだろう。

 

もしかしたら黒森峰に帰る可能性だってある、元々自分が居た学校だ。それに、かつてのしがらみももう無いだろう。

 

「はぁ?そんなの当たり前でしょ?」

 

「…へぇ」

 

「なによ?」

 

「いや、なんでもねーよ」

 

当たり前、と現副隊長はキッパリ答えた。そこには彼女なりの西住へのある種の信頼のような物さえ感じる。

 

正直、少し嬉しくなった。…壁に寄りかかったのは正解だったな。顔を見られずにすむ。

 

「…別にあの子の事は心配なんて…いや!その前になんで私があの子の心配なんてしないといけないのよ!!」

 

「知らねーよ…勝手に逆ギレしてんのそっちだし」

 

本当、素直になればいいのにね。いつまでも自称ライバル宣言じゃゆんゆんして来るだけなんだし。

 

「で、あんたはどうなの?」

 

「あ?」

 

「誤魔化さないで、戦車道よ」

 

「………」

 

…あぁ、せっかく少しはほっこりしてたっていうのに台無しだ、自分でも心が冷めていくのがすぐにわかった。

 

「お前天下の黒森峰の副隊長な癖して知らねぇの?戦車道って乙女の武道らしいぞ」

 

「誤魔化さないで、と言わなかった?」

 

…いつもなら乗ってくるはずのこの手の挑発に、彼女は声色を変えず答えた。

 

「あなたと討論するつもりはないわ、だって時間の無駄だもの」

 

あぁ…そう。戦車喫茶から戦車道全国大会決勝戦ときて多少は煽り耐性はついたのね。

 

「…それこそんな事聞く為にわざわざ大洗に来たのが時間の無駄だとは思わないのかよ、暇だな、黒森峰の副隊長も」

 

「思わないわね、だってこうでもしないと話を聞かないでしょ?あんた」

 

まぁメールなら無視するし、電話ならそもそも出ませんしね。やだ、この現副隊長さん俺の事超わかってるぅ…。わかりすぎててひょっとしたら嫌いなの一周回って俺の事好きなんじゃないの?

 

「…強引だな」

 

「私はただ後悔したくないだけよ、二度も同じ過ちは繰り返さないわ」

 

「…あ?」

 

「去年の戦車道全国大会、その決勝戦で元副隊長のした事に文句を言うつもりはないわ、実際、その場に居なかった私にはその権利もないもの」

 

…去年の戦車道全国大会決勝戦、西住が氾濫した川に落ちた戦車の乗員を助ける為に試合を放棄してまで助けに行った。その結果黒森峰は10連覇を逃した。

 

あの試合にこいつが参加していたのかまでは知らない。が、同じ黒森峰の一年だ、当事者ではあるのだろう。

 

「だから、その時の私はあの子が立ち直るまで待つつもりだった。…まぁ、結果的には黒森峰から出ていっちゃったけどね」

 

窓際に寄りかかっているので現副隊長の表情は見えない。ただ、自嘲するような呟きだけが聞こえてきた。

 

「待っていてもどうしようもないなら、待たないで、こっちから行くしかないでしょ?」

 

「………」

 

それが彼女の後悔、そして本音なのだろう。

 

あの時、もしあの場に居たのなら。

 

あの時、もし西住に声をかけていれば。

 

…戦車道喫茶で初めて会った時からずっと、こいつが西住に敵意むき出しだった理由も今ならわかる。

 

去年の戦車道全国大会、状況が状況とはいえ、西住は黒森峰の敗北の原因となった。

 

当然非難はされるだろう。だがそれよりも問題は西住本人だ、あいつの場合、自分のせいで黒森峰は負けたという罪悪感の方が強く出る。

 

その頃の西住がどんな様子だったのかはわからないが、立ち直るまで待つつもりだったこいつと、黒森峰から去って行った西住。

 

そんな西住が、他所の学校でひょっこり戦車道を続けていたとなれば…まぁ、そうだよな。

 

「…まったく、こんな事隊長にだって話した事ないのに」

 

「…お前が勝手に話したんだけどな」

 

ただ、それでも彼女は本音を告げてきた。こいつのプライドの高さから言えば考えられないカミングアウトだろう。

 

なんだよこいつ、西住の事めっちゃ心配してたしめっちゃ大好きじゃねぇか。さっきは俺の事好きかもなんて思ってごめんね。

 

とはいえ、彼女がここまで本音を話したのならもうどう誤魔化しても無駄だろう。…過去の西住は話があるなら尚更引く事もない。

 

だったら、俺も本音を話す。そうする…べきなんだろう。

 

「…大洗学園の廃校の原因は俺だ」

 

「そう」

 

さして驚いた風も見せず、彼女はただ短く、それだけ答えを返した。

 

「文科省が言うには由緒正しい乙女の武道な戦車道に男子が混じってる学校は優勝校に相応しくないんだと」

 

「妥当ね、私もそう思うわ」

 

まぁ、お前ならそう言うだろうな。元々最初から俺の事なんて毛嫌いしてたんだし。

 

「ならちょうど良かったな」

 

ただ一つだけ意外というなら。初めて口にするこの言葉を、まさか大洗の誰でもなく、こいつに向けて言うとは思わなかったが。

 

「戦車道に関わるのは間違っていた。だからもう、関わる事はない」

 

それはもう、あの廃校を言い渡された日からずっと決めていた事だ。

 

そもそも最初から間違っていて、間違い続けた結果が出たのだ。せめて、その責任くらいは取らなければならない。

 

戦車道は止める。その“全て”と関わりを絶つ。

 

そうすれば、今後も戦車道を続けて行くだろう彼女達が、今回のように後ろ指を指される事はもう無いだろう。

 

「…ふざけないで」

 

「…あ?」

 

「そんな逃げ方、許されると思ってるの?」

 

「…別にそっちからしても文句無いだろ、俺みたいに男子が戦車道に関わるとか嫌いなタイプじゃねぇのか?」

 

「そうね、あんたみたいな男が戦車道に関わるのは嫌いね」

 

みたい“に”な、それだとピンポイントで俺が戦車道に関わるの嫌いみたいじゃん…。いや、実際嫌いなんだろうが。

 

「だからハッキリ言わせて貰うわ、戦車道に関わるのは間違っていた?当然でしょ、これは由緒ある武道なんだから」

 

…ここまでバッサリと言われてしまえばいっそ清々しいまである。他の誰でもない、俺の事が嫌いであろうこいつだからこそ言ってくれる言葉だ。

 

正直、ありがたいまである。

 

「あぁ、だからーーー」

 

「それでも、あんたは今日まで戦車道をやってきた。周りを振り回すだけ振り回しておいて、今さらその被害者面が気に入らないのよ」

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