劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
当然、八幡が(笑)
被害者面、と彼女は言葉をぶつけてくる。
…手が酷く冷たく感じたのは手に持っていたマッ缶を強く握り締めたせいだろうか。
そしてイライラしているのは夏の暑さと寝ている所を無理矢理起こされたせいだろう。…これはマジでそう。
「…またずいぶんな言いぐさだな、誰が被害者面だって?」
それを彼女に気取られないよう一呼吸置く、努めて冷静に振る舞いながら言葉を返した。
「そう、自覚が無いなら教えてあげるわ。ひどい顔…って言わなかった?」
「目が腐ってる、とはよく言われる」
「そうね、確かにあなたは死んだ魚みたいな目をしてるわ、そもそも覇気が無いのよ。目付きの悪さは性格の悪さにも影響するのかしら?」
いや、別にそこまでは言われてねぇよ…。
「それでも、今よりはだいぶマシね。…まったく、なんて顔してんのよ」
その言葉が、声色が、いつもの彼女の刺々しい口調から比べるとずいぶんと優しいものに思えてきて。
「今さらそんな被害者面する必要ないわ。続けなさい、戦車道」
…それが余計に俺をイラつかせてくる。
「…俺は将来的には養われる気ではあるが、施しや憐れみを受ける気はない。同情ならどっか他所でやってくんない?」
わざわざ黒森峰からヘリで来て、大洗学園の廃校の原因である俺に戦車道を続けろと、彼女は言う。
酷い顔と言われれば…まぁ、よほど惨めに見えたのだろう。
「…そんなのする訳ないでしょ。自意識過剰ね」
だが、彼女はそんな俺の突き放す言葉に対して鼻で笑って見せる。
「私、あなたの事嫌いなんだけど?」
「…いや、知ってるけど」
「なんで嫌いな奴を同情なんてしなくちゃいけないのよ」
「…ごもっとも」
まぁ、そりゃそうだ。こいつが俺の事を嫌っているのは知ってたし、嫌いな相手に何があっても同情も憐れみもしない。
「…なら、別に俺が戦車道を止めても問題はないだろ」
「あるわよ、私にとっては」
「…はぁ?」
「私はこの先もずっと戦車道を続けるわ。まずは来年の黒森峰の優勝ね」
「…あぁ、うん、まぁ良いんじゃね」
そりゃこいつは続けるだろう。まだ正式ではないので姉住さんからは口止めされているが黒森峰の来年の隊長は間違いなくこいつだろうし。
「その後はプロになって西住隊長の隣で隊長に並べる程の実力をつけて…、あぁでも、隊長は西住流を継ぐから、私も将来的には西住流の師範代を目指すべきなのかしら」
「…あー?うーん?まー良いんじゃね?」
ちょっとこいつ、姉住さんの事好きすぎません?実家まで付いていくか迷ってるとか。なお、その頃には妹の西住も実家に居る可能性がある模様。
西住流って挟撃好きだもんね、これがかの有名な西住サンドというやつである。…違うか?いや、だいたいあってる。
「とにかく、私はこの先も戦車道を続けるわ」
「…いや、続ければ良いだろ、むしろなんの話?」
「…そんな中、ふと今年の戦車道の全国大会の事を思い出すのよ、決勝戦、あなたにハメられたあの瞬間を」
「…いやハメてねぇし、そもそもあの作戦失敗だったし」
あとその言い方はあらぬ誤解を生むから止めて、ふとした時にハメられた事思い出すとか、酷い字面だから。
今年の戦車道全国大会、その決勝戦。
最終的な展開は西住と姉住さんのフラッグ車同士の一騎討ちだが、それには当然黒森峰の副隊長が邪魔になる。
だから、俺はこいつを倒す為に罠を練った。
最終決戦の舞台が市街地になる事を考え、煙幕をはり視界を奪い、その中に連射力(筋肉)の高いアリクイチームの三式中戦車を配置して足止めさせる。
それで足止めできるならよし、後退させて回り道させても良し。
そして煙幕の中を突っ込んで来るなら、あらかじめ倒して潜ませて置いた電信柱に必ずぶつかる。
ぶつかれば後は必殺必中の一撃を食らわせるだけ。勝ったな!がははっ!!
なお、この作戦は黒森峰の大天使、小梅エルこと赤星のファインプレーにより失敗に終わった模様。なんだこの天使、可愛すぎてクライシスしそう…。
…いや待て、戦車道に関わる事が無くなるとこの先赤星に会えなくなるって事じゃん。え?やだ…死んじゃう、ただでさえ最近ずっと会ってないのに。
「…急に黙ってどうしたのよ?」
「いや待て、今俺史上紀最大の審判の天秤がぐらついてんだから…、古代エジプト的なアレなやつ」
「あなたの心臓とか、ずいぶん重そうね…」
ばっかお前、片方赤星が乗ってんだぞ?ぐらつくに決まってんだろ。…いや、それだとなんか赤星が重いみたいだけど。
「あなたがどう思おうと…あれは私にとって最悪の汚点ね」
「お前を倒せなかったんだし、作戦は失敗だろ。ギリギリ間に合う可能性すらあった」
モニターから見ていたからわかるが、最後の瞬間、こいつは西住の乗るⅣ号戦車を射程に捉えていた、ほんの数秒の差ともいえる。
「結果的にはね、小梅に助けられただけよ」
「まったくだな、これからは毎朝起きたら赤星にお辞儀しとけよ、俺ならそうする、誰だってそうする」
「いや、しないわよ、感謝は…してるけど」
え?しないの?感謝は…まぁしてるんだろうな、その口振りだと。
「…ただ、あの瞬間は間違いなく負けたと思ったわ。その屈辱があなたにわかる?」
「………」
こいつにとって俺は戦車道に素人として突っ込んできた男で、戦車道喫茶の件で憎むべきまである相手だ。
そんな相手に一杯食わされたとなれば…プライドの高いこいつからすればよっぽどの事だっただろう。
「あなたがこのまま戦車道を止めれば、その雪辱も果たせないまま。私はこの先もずっとふとした瞬間にあの屈辱を思い出すのよ。…それって最悪でしょ?」
「…最悪だな」
戦車道を続けていく彼女のこの先に、ふと浮かんでくる決勝戦のあの瞬間、罠にハメたのは目の腐った素人の男子生徒。…呪いかな?
「だからあなたは戦車道を続けなさい、勝ち逃げ…いえ、負け逃げなんて許さない」
「すげぇ理屈だな…、お前、後悔しない為にここに来たってのは」
「私の為に決まってるでしょ!最初からそう言ってるじゃない!!」
…だよなー。なんなら安心したまである。
だからこそ、彼女は被害者面は止めろと言うのだろう。
「…他の戦車道やってる子までは知らないけどね、それくらいは自分で考えなさい」
別に被害者を気取ったつもりは無いが。それでも、経緯はどうあれ曲がりなりにも戦車道に関わってきた俺が、今までやってきた事は被害者の言い分ではない。
「…どう?これでもまだ、あなたが戦車道を止める理由がある?」
…むしろ逆まである。今までやってきた事への精算を取れと、その為に戦車道を続けろと彼女は言うのだろう。
戦車道に関わるのは間違っていた。…それはたぶん、そうなんだろう。だから大洗の廃校の理由にも利用された。
たが、例えそれが間違いだったとしても、彼女達に関わり、少なからず影響を与えた事は事実だ。
このまま戦車道を止めれば、それはきっと彼女達への裏切りになるのだろう。それは彼女からして最悪と称される呪いめいたもの。
止める理由はない。…止めたい理由はそもそも考えてもいなかった。
「…ははーん、さてはお前、良いやつだな」
「…何よ急に、気持ち悪いわね、私の為だって言わなかった?」
あぁうん、やっぱ気のせいだったかなこれ。その心底嫌そうな顔止めてね…。
「…っても、本当に続けれるのか?男の俺が戦車道だぞ」
「一度やったなら二度も三度も同じようなものじゃないの」
「お前それ犯罪者の理屈だからな…」
どうせ無銭飲食で捕まるならたくさん食べとけってのと一瞬じゃん…。いやほら、一発目だけなら誤射かもしれなし。…誤射も十分アウトなんだよなぁ。
「いや、そうじゃなくてだ。大洗だから戦車道に参加できたが、他所の高校じゃまず無理だろ…」
大洗は生徒会があんな感じだったから俺も戦車道をやれていたし、なんなら生徒会のせいで戦車道をやる事になったすらある。…ん?これ責任は生徒会が取るべきなのでは?
それが転校先で同じように出来るか?と聞かれれば普通に無理だろう。…知ってる学校ならもしかしたらワンチャンあるかもだが。
…ただ、そこで改めて戦車道をするか?と聞かれれば素直に首を縦に振る事は出来ない。…そう思える。
「そうね、あなたの場合、まず人と話せないし…」
「無理の条件がまず違うじゃん…、別に俺は人と話せない訳じゃないからね、話をしないだけだから」
「…同じじゃないの」
「同じかもなぁ…」
うん、どっちにしろ無理な事に間違いない。転校先で戦車道やってる所行って「戦車道やらせて下さい」とか言い出した日には通報は間違いないだろうし。
転校先初日で転校とか転勤族もびっくりだろう。
「そもそも、あなたみたいなのでも受け入れてくれるお人好しな隊長さんならもう居るでしょ?」
「…大洗は廃校になるんだが?」
「そうね、誰かさんのせいでこのままなら廃校じゃない?」
「…お前、マジそういう所だからな」
「つまり、その誰かさんを文科省に認めさせれば…文科省が学園艦を廃校にできる理由がなくなる。…そうでしょう?」
「…まぁ、それな」
口で言うだけならばどれだけ簡単な事か。
文科省の大洗学園廃校の主な理由は男子生徒の混じっているチームは戦車道全国大会の優勝校に相応しくないという事だろう。
当然詭弁だろう。そもそも俺は全国大会の試合に出ていた訳でもない。高校野球で女子マネージャーが居るから優勝は取り消しとか言われるようなレベルのいちゃもんの付け方だ。ひょっとしてホモなのでは?
いや、もしかしたら逆にあのメガネの役人や文科省が『百合に男を混ぜるな』過激派の可能性もあったりするのかもしれない、中には父親すら出てくるのも許せない勢もいるからね…。
とはいえ、実際の所文科省の狙いは大洗の廃校そのものだ。理由は不明だが、廃校時期の前倒しから考えても間違いない。
そんな文科省を相手に、俺の存在を認めさせて、廃校を取り消しにさせる…と。
「…無理だな、また難癖つけられて終わりだ」
「ふん…諦めが悪いのが大洗学園でしょ、諦めない事が勝利の秘訣、じゃなかったの?」
「それ、元はお前ん所の隊長さんの言葉なんだが」
…いや、違うな、それは西住の言葉でもあったか。
思えば彼女はずっと諦めなかった、どんなに試合内容が悪くても、最後の最後まで戦い抜いた。
…最初からそれを見ていたつもりだったのに、わざと見ないふりして俺は諦めて逃げようとしていただけだ。
「…文科省に俺を認めさせれば、大洗を廃校させる理由も無くせる」
その為するべき事、やるべき事を考える。
そもそも相手が文科省とくれば国だ、一介の高校生がどうにかできる相手ではない権力を持っている。
その権力の強さは今回の大洗学園廃校で存分に振るわれた俺達自身が一番良くわかってる。
「…なら、こっちもやる事は一緒だよな」
権力には権力をぶつけるんだよ!!
ふと浮かび上がる構図とあのメガネの役人が慌てる様子を想像し、ついでにあのVS映画を思い出して思わず笑みが溢れてくる。
「…なによそのにやけ面、気持ち悪いわね」
ふと、真上から投げかけられた言葉に上を向くと彼女は窓から俺の顔の覗き込んでいた。…ついでにいえばドン引き顔だ。
「…人の顔覗き込んで言う言葉じゃなくね?」
ふわりと垂れた彼女の長い髪が揺らめく、窓から差し込み月明かりに照らされたその姿に不意に綺麗だと思ってしまった。
「あんたが急にぶつぶつと呟くからよ…」
まぁ喋れば全部台無しなんですけどね、いや、本当に不覚だわ。
「でも、さっきよりはずっとマシね。その様子だと何か良い悪巧みでも思いついたの?」
「まぁな」
答えてマッ缶の残りをグイッと飲み干し、立ち上がる。
「まぁ…その なんだ、悪いな、わざわざ」
立ち上がり、ようやく俺は彼女の顔をまっすぐ見る事ができた。
「私の為って言ったでしょ、当然見返りは貰うわ」
「すまん、今ちょっと手持ちがあんま無くてな…」
「なんでナチュラルに私がお金要求する感じになってんのよ!!」
え?違うの?てっきり「おら!ジャンプしてみろよ、ジャンプ」とか言われると思ってたんだけど…。
「…じゃなんだよ、見返りって」
「この件が落ち着いたらでいいわ、その代わり…」
そして彼女は、逸見 エリカは俺に向け、ビッと人差し指を突き付ける。
「…私と戦いなさい、必ず決戦戦の雪辱は果たしてあげるから」
…あぁ、もう。本当にこいつ、そういう所だかんな。
「…戦えって、は?試合でか?」
「試合…となるとチームを巻き込むわね、さすがに隊長に迷惑はかけられないし、とりあえずは一騎討ちかしら?」
「俺に迷惑がかかるんだよなぁ…」
あと確実に自動車部の人達とか、整備している人が泣きを見る事を忘れてはいけない。
「…だいたい、俺は戦車どうすんだよ、それに他に乗員も居るだろ」
「それを揃える事も試合の内よ、そんなの常識でしょう?ふふ、ボコボコに叩き潰してあげるから楽しみにしてなさい」
そして彼女は本当に楽しそうな笑みを浮かべる。…ははーん、さてはお前、嫌なやつだな。
「…約束よ、一騎討ち、楽しみにしてるから」
楽しみ(ボコボコにする)ですか、なんかもう勝手に約束付けられてるし…。
「…もう帰るのか?」
「えぇ、話すことは話したもの」
「…別にこのまま残って手伝ってくれても良いんだぞ」
「嫌よ、自分の居場所くらい、自分で守りなさい」
こいつのヘリがあれば移動に便利だと思ったが残念だ、まぁ元々黒森峰のヘリだからこいつのでもないんだが。
「…ま、それでもどうしてもって時は声をかけなさい、暇だったら話くらい、聞いてあげない事もないかもね」
「へいへい…、手土産にマッ缶の一つくらいは付けてやるよ」
「ふん、私はそんなに安い女じゃないわよ」
そう言って彼女は背を向けて少し歩いたと思ったらふと、立ち止まりこちらを振り返る。
…忘れもんか?いや、そもそも手ぶらで来てたか、まだ何か用でもあるのかと不思議に見てると。
「…また会いましょう、次は一騎討ちでね」
それだけ短く呟くように言うとほんの小さく、少しだけ手を上げた。
「…あぁ」
まぁ、約束してしまったものは仕方ない。…約束、したのかな?なんかもう勝手に決められた感しかないんだが。
…しかし、決められてしまった以上は考えねばなるまい。俺の場合、戦車はもちろんだがまず一緒に乗ってくれる乗員から必要になる。
そうだな…装填手はアリクイチームのぴよたんに任せるのが良いか、アリクイチームでも装填手だし。
砲手は…ナオミに聞いてみるか、全国大会随一のスナイパーだし。
操縦手は…まぁ、うん。
車長はダージリンさんにお願いするとして。…まぁチームとしてはこれがベストだろうか。
え?俺?通信手のポジションに決まってんだろ。超重要なポジション。
これぞ正にドリームタンクチーム。現副隊長さん曰く、メンバーの準備も戦いの内なのは常識らしいからなー、細かな内訳を決めなかった向こうが悪い。
…ま、あんこうチームはさすがに止めとくけどな、そこら辺の決着はほっといてもいつかどっかで決めてくれるだろうし。