劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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去年から続く伝統ある行事として泥んこプロレス大会は是非とも新生徒会になっても継続してやっていく必要があるのでは?
早速新生徒会長に進言して来ます!!


そして、彼は扉を開く。

この仮校舎での生活も存外長くはなってきたがやはり寝起きにはどうにも慣れが来ない。

 

単純な暑さに加えて外からは俺よりもよほど早起きなセミが今日も今日とてミンミンと朝から婚活アピールに勤しんでいる、タイムリミット一週間の婚活とか陰キャは絶命しろとでもいわんばかりの生態だ。

 

つまりやたら婚活アピールしてくる武部はセミ界隈では最強なのでは?なお、セミはオスしか鳴かない模様。

 

等と頭の中でひとしきり愚痴りながらまだ覚醒していない頭をどうにか働かせる、はたらけ細胞。

 

学園艦の利点は比較的虫が少ない事もあったんだなぁ、と改めて再確認した、まぁ季節感なんて無いもんね。

 

とはいえ、寝起きは慣れなくとも寝付きに関していえば昨日は久しぶりにぐっすり眠れた気がする。その証拠にほら、鏡の前に立てばそこには目が腐った男が。

 

…いや、マジでぐっすりだったんだけどね、なんなら眠り過ぎててゾンビにでもなっちゃったんでないの?

 

黒森峰の現副隊長…、えっと、逸なんとかさん?が言うには昨日までの俺の顔はこれより酷かったのだろうか。

 

そんな顔をぶら下げて周りに心配や同情をするな。とは被害者面をするな、と彼女が言った言葉も多くの意味で間違いではないのだろう。

 

洗面台で顔を洗い、もう一度鏡を見る、良し!立派な加害者の面だね!!…いや、それだとただの犯罪者じゃねぇか。

 

ついでにボサボサになった髪を軽く整え、部室に戻ると簡単に身支度を整える。

 

部室というか、部屋というか、この仮校舎での俺の生活圏にしてプライベートルームだったこの部屋を見渡した。

 

…プライベートルームだったっけ?その割りにはなんかちょくちょく侵略されてた気がするけど。

 

だが直近は奉仕活動の依頼も無い。アヒルチームの早朝ランニングが効いたのか、そもそも大洗の生徒も転校先が見えてきたドタバタでそれどころではないのか。

 

…とはいえ、もうここで依頼を受ける事は無いのだろう。

 

「…行くか」

 

誰に言うでもなく、一人呟いて俺は部屋を出て廊下を歩く。途中、見かける生徒が少ないのは転校手続きの書類の為に親元に帰っているからだろう。

 

そんな微かにセミの鳴き声だけが聞こえてくるような静かな廊下を通り抜け、生徒会が臨時の生徒会室として使っている旧校舎職員室を前に立ち止まる。

 

少し深呼吸しつつ、ゆっくりとその扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

小山さんの声に扉を開くとそこには小山さんと河嶋さんの二人が書類仕事をしている最中のようだ。

 

「…比企谷か、何の用だ?」

 

河嶋さんがチラリと一度俺を見ると目線をまた手元の書類へ戻す。…なんか扱いがちょっと淡白な気がする。

 

「あー、その、会長…居ますか?」

 

「会長なら奥においでだ」

 

「…そっすか、じゃ失礼します」

 

河嶋さんに言われて職員室の奥…間取り的には校長が使っていた所だろうか?そこに向かう。

 

大洗学園から持ち込んだらしい、お気に入りの椅子に座りながら、会長は窓の外を眺めていた。

 

改めてその背中を見るとこの人マジ小さいんだよなぁ…。まぁ戦車乗るのにも届かないから毎回踏み台(河嶋さん)使ってるくらいなんだが、一応言っとくけどあの人進んで踏み台やってるからね…。

 

そんなこの人が大洗学園の全てを背負ってるのだ、生徒会の多少の横暴も多少は許されても良いのかもしれない。…多少?いや、多少じゃねぇな、巻き込まれた身としては正直堪ったもんじゃないんだが。

 

「どうしたの?比企谷ちゃん」

 

だが、例え巻き込まれた身だとしてもこのまま終わってしまえる立場ではないのは昨日、あのプライドの高い現副隊長にお叱りを受けたばかりである。

 

「…仕事、しに来ましたよ」

 

どんな形であれ、一度仕事を引き受ければ責任は生まれ、実績が残り、そこからは無限に派生して続いていく。

 

大好きなおもちゃに囲まれてずっと子供でいたいトイザ○スキッズ達よ!これが社会だ!!

 

「遅かったね、もう置いてこうかと思ったよ」

 

会長は器用に椅子をクルリと半回転させるとこちらを向き直り、勢いのまま立ち上がった。

 

…置いてこうと言いつつ。きっとここまで待っていてくれたんだろう、じゃなければこの人がこんなギリギリになるまで何もアクションを起こさないはずがない。

 

「んじゃ行こっか?」

 

「…え?今すぐっすか?」

 

「そ、何事も善は急げってね。ま、誰かさんのせいで思ったより遅くなっちゃったけど」

 

いや、マジすんませんね、こう見えてわりといっぱいいっぱいだったんですよ。

 

「…いや、でも行くってどうやってです?そもそも足が無いんじゃありません?」

 

この人の事だ、たぶん狙いは俺と同じだろうがその為には長距離の移動がどうやっても必要になる。

 

そんな当たり前の事が今さらになって考えに出てしまう辺り本当、動くのが遅すぎたな、俺は。

 

長距離の移動となると…やはりヘリか。よーし、ここは黒森峰の現副隊長、逸なんとかさん…いえいえ、イッツミー・エリカさんに戻って来て貰おう!カムバックミー・エリカ!!

 

とはいえ昨日の夜帰っちゃったばかりなんだよなぁ…。いや、本当になんで俺も格好つけてあそこで帰しちゃったのかね、移動にヘリとか必要になるのなんてわかってたんだし、「今夜は帰さないから(移動的な意味で)」って無理にでも引き止めた方が良かったのでは?

 

「それなら大丈夫、蝶野教官にはもう話つけてあるから」

 

「…ちょっと手際良すぎません?」

 

蝶野教官って、確かにあの人なら自衛隊の人だし、ヘリの用意くらいはできそうではあるんだが。

 

「昨日逸見ちゃんが来る事は聞いてたからね」

 

「…それで俺が来なかったらどうするんですか?」

 

「いーじゃん、ちゃんと来たんだから」

 

…お見通しというか、実際、何から何までこの人の手のひらの上だったりしない?

 

「蝶野教官、協力してくれるんですね」

 

蝶野教官は陸軍自衛隊の1等陸尉、女性としてあの若さでわりとトンでもない肩書きなんだが、あの人個人の裁量でヘリの用意までしてくれるものなのだろうか。

 

「教官は最初からずっと私達に協力してるよ」

 

「…そっすね」

 

元々会長と蝶野教官に関わりがあったのかはわからないけど、大洗が戦車道を立ち上げた時から特別顧問として練習を見に来てくれた人だもんな。なお、いきなり実戦だった模様。

 

その後だってちょくちょくタイミングを見ては練習を見に来てくれてしたし。なお、練習の指示はバーっとやってズサーってやるタイプの長島式教育の模様。

 

さすがに審判長として試合で大洗を優遇する事はなくても、それ以外で蝶野教官は大洗をずっと目にかけてくれていた。

 

「それに行くんでしょ?戦車道連盟の本部」

 

「…はい」

 

戦車道全国大会での大洗学園の優勝とそれに関連付けた男子学生…まぁ俺だが、に対する難癖。そして大洗学園の廃校。

 

それらは全て文科省主導で全ての出来事が進んで来た。

 

だが戦車道に対する難癖となるなら、本来なら文科省よりももっと早く対応するだろう所がある。

 

日本戦車道連盟、今日までだんまりを続けて来たが、戦車道に関わる問題事でこの組織が何も動いていないのだ。

 

男子学生が伝統ある女子の武芸、戦車道に関わるのが許せないなら、文科省よりもまず先にこの組織が文句を言って来ないとおかしいまである。

 

それがただ単純に大洗学園なんてどうでも良いから動かないのか、それとも…動けないのか。

 

現状では敵とも味方とも言えない立場ではあるが、少なくとも蝶野教官は味方をしてくれるのだろう。…あの人も戦車道連盟の一員なのだし。

 

文科省を相手に俺達一学生がどれだけ騒いでも一蹴されるだろうが、もし戦車道連盟を味方につければ…。

 

「そんじゃ、こやまー、かーしま」

 

「はっ」

 

「はい」

 

会長の掛け声と共に小山さんと河嶋さんが入ってきた。…ちょっとタイミングの良すぎない?何?スタンバってたの。

 

「そういう訳だから、私達、ちょっと出掛けてくるね」

 

「はい、留守は私達に任せて下さい」

 

「ふん、比企谷、しっかり会長をサポートするんだぞ」

 

「…まぁ、やれる事があるならやりますよ」

 

なんならこの人にサポートとか居る?という疑問は置いといて。

 

「なんだその返事は!頼りないぞ!!本当なら私が会長のお側でサポートするべき所をお前に任せる屈辱がわかるか!!」

 

「でも桃ちゃん、さっき比企谷君が入ってきた時は嬉しそうなの見られたくなかったからわざと顔を下げてたよね?」

 

「ゆ、柚子ちゃん…、ゴホン、柚子、なんの話だ?」

 

いや、わざとらしく咳き込んでも何も誤魔化しきれてないんですが…。誤魔化すならもっとこう、けぷこんけぷこんととごぞの剣豪将軍くらいわざとらしくしないと。

 

「ともかくだ、我が校の命運がかかっているんだ、もっと気を引き締めろ」

 

「かーしま、固い、もっと気楽でいいよ」

 

「か、会長まで…」

 

「大丈夫大丈夫、比企谷ちゃんが居るから」

 

「そうね、会長と比企谷君が一緒に動いてくれるんだから、大丈夫だよ、桃ちゃん」

 

「…わりと今までだって無理矢理働かされてましたけどね」

 

無理矢理の部分はわざと強調させておく、本当に巻き込んでくるのはあなた達ですからね?そこんところわかって?

 

「ふん、貴様だって私達を働かせた事くらいあるだろう」

 

「基本的には、どっちかがどっちかを巻き込んでばかりなのよね…私達」

 

それもう完全に少年週刊誌のライバルポジションキャラじゃん…。しかし言われて見ればそうか。

 

「そういや、こうやって二人で組んでなんかやった事って無いですね」

 

基本的に生徒会が仕事を振ってくるか、俺の都合に生徒会を巻き込むか、まぁその俺の都合も大元の原因を辿ればだいたい生徒会にある訳で、なんやかんや生徒会が悪いって結論に落ち着くんだが。

 

「比企谷ちゃん、だいたいは一人でやっちゃうからね」

 

「会長はだいたい人に仕事押し付けて来ますもんね」

 

それにいや…ほら、去年やった泥んこプロレス大会の生徒会行事とかめっちゃ協力しましたし、カメラ撮影バリバリでしたでしょ?シャッターチャンス見逃さなかったんだから。

 

…泥んこプロレス大会、今年はやれるかなぁ(遠い目)。

 

「…比企谷、なんだその顔は?」

 

いや、今ちょうど河嶋さんがチョークスリーパーかけられてた場面思い出してる所なんで。

 

「ま、そんな訳で頼りにしてっからね」

 

「えぇ、やってやりましょう!!」

 

「おぉ!比企谷、そうだ、良い返事だぞ!!」

 

「…大丈夫かなぁ?」

 

全ては今年の泥んこプロレス大会…じゃねぇや、大洗学園の為にだな、うん。

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