劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
【日本戦車道連盟】
当たり前の話だが、戦車道の試合は野球やサッカーといったそこら辺の試合とは一試合の規模が違いすぎる。
なんせ戦車を使ったドンパチだ。「磯野ー戦車道しようぜー」とか気軽に試合なんてできるものではないだろう。
日本戦車道連盟はその為の組織であり、試合を行う時は例え練習試合だとしてもこの組織に話を通すのが基本である。
先の大洗学園優勝記念エキシビションマッチはもちろん、最初にやった聖グロリアーナとの練習試合だってもちろん連盟にきちんと話は通している。
つーか話を通さないと試合で壊れるであろう建物への対応とかどうすんの?って話なんだが。
ちなみにその日本戦車道連盟さんの対応だが戦車道保険というのがあるらしい…。いや、それは最早ただのマッチポンプなのでは?
とはいえ、試合で戦車が突っ込んで全壊した大洗の旅館は「これで新築にできる!!」と喜んでたりしてるので保険料とかは知らないが、それほど悪い条件でもないのだろう。
え?ここから入れる保険があるんですか?そう、戦車道連盟保険ならね。
あとは試合の運営や審判団の派遣等、要するに日本で戦車道をするに辺り切っても切れない相手だという事だ。
もちろん戦車道全国大会の運営にも関わっている。その優勝校である大洗学園の廃校問題も、その発端に男子学生が関わっている事も知らないはずがないだろう。
だが、実際にやり取りに来たのは文科省の役人で戦車道連盟の方は静観を続けている。男子学生が戦車道へ関わる事が問題だというなら、文科省よりまず先に戦車道連盟が動くはずだ。
「そろそろ戦車道連盟の本部よ。二人共降下の準備はOK?」
「…なんかそれだとヘリから直接降下作戦するみたいに聞こえるんですが?」
「ふふっ、『空の神兵』ならもちろん歌えるわよ」
「いや、現役の自衛隊の人がここでそれ歌ったらちょっとシャレにならないんで…」
ていうかこの人いくつだよ。いつの時代の軍歌だと思ってんの?まぁ自衛隊で習うのかもしれないけど。
「…すいませんね。わざわざヘリまで出して貰って」
運転してくれてるのはもちろん蝶野教官だ。まだ朝も早いというのに大洗からヘリで俺達を戦車道連盟の本部まで送り届けてくれている。
昨日の夜に黒森峰から逸なんとかさんが来たと思ったら、今日は朝から自衛隊のヘリと大洗の住民達もさぞ困惑しただろう。
「いいのよ、今回の件、エキシビションマッチであなたの参加を許可した私達にも責任はあるもの」
そう答えた蝶野教官の声は優しい。だが、優しいからこそ、引っ掛かるものがあった。
「…やっぱ問題でしたか」
そう、そもそもの話だが『戦車道連盟は俺のエキシビションマッチ参加を許可している』のだ。
この時点で文科省が問題に上げていた『男子学生が関わっている高校は優勝校に相応しくない』という主張と食い違っている。
大洗を是非とも廃校に持っていきたい文科省が叩きどころとして見つけた主張だろうが、戦車道連盟も俺のエキシビションマッチの参加を許可した事で状況を静観せざるをえなくなったのではないだろうか?
それが弱味として文科省側から圧力をかけられた。なんて可能性もあるだろう。
「あら、比企谷君の言う問題って何かしら?」
含みを持った言い方で試すように蝶野教官は問いかけてくる。その問題についてはもう嫌になるくらい掘り下げて来たはずなんですが?
「何って…あれでしょ、戦車道は乙女の武道ですからね。本来なら男子禁制ってやつじゃないんですか?」
「そんな小さい事、問題にもならないわ。バーっと流しちゃいなさい!!」
「えぇ、雑ぅ…」
わりと主題というか…。そこら辺で散々うだうだやってた時間全部バッサリ切り捨てちゃったよこの人。マジか?
「比企谷ちゃん」
「…なんですか?」
蝶野教官の相変わらずなアバウトさに若干辟易気味なんですが、会長ならまだ…この人も大概アバウト寄りなんだよなぁ。
「私が比企谷ちゃんを待ってた理由なんだけどね、会って欲しい人が居るから」
「…会って欲しい人、ですか?」
「そ、戦車道連盟の理事長の人」
「…まぁ、そもそも連盟の偉い人に会いに来たんですけどね」
にしても、理事長って事は戦車道連盟のガチでトップの人だ。そもそも男の俺が会いに行って良い顔をするものだろうか?
なんせ相手は乙女の武道たる戦車道、その連盟の代表とくれば西住しほさんのような女傑(誉めてますからね?)が出てくるに違いない。
日本戦車道連盟会館の前にヘリは着陸し、蝶野教官を先頭に俺と会長は後を着いていく。
「ここよ、もう理事長に話は通してあるわ」
扉を前に蝶野教官は立ち止まる。…この先に戦車道連盟の理事長が居る。
「失礼します。蝶野亜美です」
蝶野教官が扉をノックし、開けるとそこに居たのはーーー。
「あぁ蝶野君と、大洗学園のお二人だね。話は聞いているよ」
…おっさんだった。いや、この言い方は良くないな、うん。
恰幅の良い、ハゲたおっさんだった。…もっと悪くなったじゃねーか。
なにこれドッキリ?戦車道連盟の理事長は?
「比企谷君、この人が戦車道連盟の理事長を勤める…」
「児玉七郎です。はじめまして、比企谷八幡君」
「あ、ども。えーっと…」
…この人が戦車道連盟の理事長…らしい。
「困惑される事には慣れているよ。戦車道は女性がメインの競技だからね。その連盟の理事長となると女性が勤めていると思うものだろう」
「…まぁ正直に言えば、そうですね」
「だが、私はこの通りお飾りではあるが理事長をやらせて貰っている。君の話ももちろん聞いているよ」
うちの学園の小さな先輩の話。…だから会長は俺を待っててくれたのか。俺をこの人に会わせる為に、ここまでギリギリになってでも。
「私も子供の頃から戦車が大好きでね。よく男のくせになんて周囲に揶揄されながらも模型なんかを何台も作ったものだ」
「あ、じゃあ理事長も一人戦車ごっことかやった口ですか?」
「…いや、そういうのはちょっとしとらんが」
しとらんかぁ…、あの遊びの面白さを知らないなんてなんともったいない。
「てゆーか、一人でどうやって戦車ごっこすんの?車長は?」
「そりゃ俺ですよ」
「砲手や通信手なんかはどうしてたの?」
「もちろん俺です」
え?なんでみんなそんな微妙な顔してんの?ほら、同じごっこ遊びでも有名な電車ごっこの歌だって「車掌さんは僕だ。運転手も僕だ。」って歌詞なかったっけ?
しかしこれ今思い返せば最強じゃね?「俺が22人いればそれがドリームチームだ」ってアメフトのすごい選手も言ってたしね!死にたい!!
「あっははは!なかなか難易度の高い遊びをしてたのね!!」
まぁ、一人野球とかに比べればよっぽどイージーだったんですけどね。ただそれを言えば今度は一人で野球とかどうやってたの?って聞かれるだけだろうけど。
「まぁとにかくだ。そんな私も今ではこうして戦車道連盟の理事長として、戦車道と関わりを持たせて貰っているよ。比企谷君」
「…はい」
「『戦車道に男子が関わってはいけない』なんて事は無いんだ。そうじゃないと、私の立場もないだろう」
理事長はそう言いつつ、冗談めかして笑ってみせた。
「…ありがとうございます」
…この人に会えただけでも、今日ここに来て良かった。本当に蝶野教官の言う通り、問題にもならない小さな事だったのだ。
「では理事長、これで彼の関わりによる大洗学園の優勝の問題、という文科省の主張は取り消せますね」
「うぐっ…」
続けて蝶野教官が本題に入ろうとすると、理事長はわかりやすく言葉を詰まらせてその大きめな身体を縮める。
「蝶野君、あー…それはだね。それとこれとは話がちょっと違うというかね」
あーうん、この理事長の様子を見てなんとなく察しはつくけど、やっぱりそこは乙女の武道、男性の肩身が狭いのは変わらないのね…。
「正直、君達の力にはなりたいとは思うが、文科省が一旦決定した事は我々にもそう簡単には覆せないんだよ。向こうにも面子というものがあるだろう」
まぁ、そもそもが大洗学園廃校の話は大洗学園と文科省が『優勝したら廃校は撤回する』というやり取りをしたので、戦車道連盟は関係無いといえばそれまでの話だ。
戦車道連盟が認めた所で、文科省が認めなければ意味がない。
「ですが、私達は戦車道全国大会に優勝すれば廃校は撤回される。そう信じて戦いました」
「面子というならば、優勝するほどの学校をこのまま廃校にさせては、それこそ戦車道連盟の面子が立ちません」
「蝶野君も連盟の一人ならわかるだろう。我々にも立場がある」
戦車道連盟としても、文科省と正面から対立は出来ないという事だろう。この人の立場からすれば余計に事を荒げるのは避けたいという事か。
「それに向こうは二年後の世界大会の誘致と、その為のプロリーグ発足の計画で取り付く島もないんだ」
「…世界大会にプロリーグ」
そういえばそんな話があった事を思い出した。それは大洗学園が廃校を撤回する為に、戦車道という競技を選択した理由だ。
二年後の世界大会と、その為のプロリーグ設立、今文科省が一番力を入れているのが戦車道で、その戦車道で優勝する事で学園に実績を残す。
「お、比企谷ちゃん、なんか思い付いた?」
「…いや、世界大会やらプロリーグやら、話を聞けば文科省は戦車道を盛り上げたいんですよね?」
「あぁ、その為我々の話にも耳を貸そうともしない」
…なら、なぜこうまで強硬して大洗を廃校になんかするんだ?全国大会の優勝校が廃校とか、戦車道的にも盛り下がるニュースになるだろうに。
「…なら、世界大会やプロリーグに関する事なら耳も貸してくれません?」
「…それはつまり、文科省に協力する。という事かね?」
はっはっは!協力?冗談じゃない。
「いや、邪魔してやりましょう。向こうが話を聞かざるをえない状況を作ってしまえばいい」
相手の舞台に上がった所で勝てないのはわかっている。なら、相手からこっちの舞台に降りて来て貰うべきだ。
「いいわね、耳を貸す気がないのなら、耳を奪っちゃえばいいのよ!!」
その表現はちょっとグロテスクすぎるんだよなぁ…、耳無しな芳一さんじゃないんだから。
「…彼は大丈夫なのかね?その、妙にイキイキとしているというか」
「大丈夫ですよ。むしろこういうのは比企谷ちゃんの得意分野ですから」
「全然大丈夫には聞こえないんだが…」
ちょっと会長ー聞こえてますよー。…というかだ、そもそも文科省の奴らだって多少の嫌がらせは覚悟して貰いたい所ではある。
「なら、比企谷君に良い情報があるわよ」
「なんですか?」
「プロリーグ設立委員会の委員長は是非西住流家元に、という声が多く上がっているわ」
「…いや、まぁ」
妥当ではある。なんせ戦車道の最大流派が西住流なのだ。プロリーグ設立となればその家元が話に出ないはずがない。
ただ、それは確かに文科省の邪魔をするには良い情報ではあるが、俺個人として見ると…うん。
「どうやら、次の目的地が決まったみたいね」
「いいねぇ、比企谷ちゃんもそろそろ西住ちゃんのご両親にご挨拶に行かないとだしねぇ」
「…会長、それわざと言ってません?」
渋る俺の事なんて関係無く、蝶野教官と会長はトントン拍子に話を進めていく。このコンビ無いわぁ…。
…しかしここに来てまたあのラスボス系母親と会う事になるとは、本当に何の縁があるというのか。しかも今回はその母住さんを説得して行動を起こして貰う必要がある。
そういえば、西住も今は実家に帰ってるんだったか…。あれ?これタイミング被ったらヤバくない?マジでなんかご挨拶みたいになっちゃうんだが?