劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
ガチで戦車に乗ってる風にすると他戦車と会話すらほとんどなくなりますから。
『もうじきⅣ号がそちらに向かうわ、準備はよろしくて?』
「あぁ…まぁその、ぼちぼちです」
『なによその曖昧な返事!試合中よ、集中なさい!!』
寧ろ、その台詞は試合中にお菓子をペロリと食べ終えたローズヒップに言うべきでは?
とはいえ、素直にローズヒップにお菓子食べさせてました、とか報告する訳にはいかないし…ここはただ黙って叱咤を受ける、中間管理職の辛い所である。
え?あーんとかラブコメではって?どっちかというとイルカに餌あげてる感じなんだよなぁ…。大洗にも水族館があるし、俺も将来はそこでがまがまでがばがばな水族館職員ライフをなんくるないさーする時が来るのかもしれない。
「…大丈夫なのか?」
「お任せあれ、エンジン全開バリバリでぶっ飛ばしますわー!!」
お菓子パワーが充電されたようでローズヒップも気合い充分だ、これなら遅れをとる事はないだろう。
分断作戦を狙った大洗だが、聖グロリアーナ、プラウダは徹底してフラッグ車のⅣ号を狙う作戦だ。今もカチューシャさん達が西住のⅣ号を追いかけている。
そこを俺達、足の速いクルセイダー部隊が回り込んで囲む…というのが狙いである。
「ちょっとⅣ号の様子を見る、クルセイダーへの指示は任していーか?」
「了解ですわ!バニラ!クランベリー!ジャスミン!!」
そういえば、ローズヒップはこれでも本来ならクルセイダー部隊を率いてる隊長なんだよな…こいつが普段、どういう指示を出すのかは気になる。
あ、ちなみにバニラ、クランベリー、ジャスミンは他クルセイダーの車長だ、本当聖グロリアーナの隊員名って…。
「私に続くのですわ!!」
『『『了解!!』』』
…指示の仕方が戦国武将かな?
とにかく今はタイミングを計る上でもⅣ号だ。この道なら建物を挟んだ向こうの様子も見る事ができる。
…しかしこれ、正直見えづらいな。西住が普段戦車から上半身乗り出してる気持ちが少しわかる。怖いからやらないけど。
まぁ怖い以前に、この試合は男性である俺がこっそり試合に出ている無法試合なので、バレない為にも身体を出す訳にはいかないけど…本当に戦車道連盟よく許可したよね、蝶野教官やりたい放題かよ。
「…居た」
プラウダの主力部隊に追い掛けられているというのに、怯える様子もなく、西住はいつものようにⅣ号から上半身乗り出して周りの様子が探っている。
…ここでの周りの様子とは、つまりこちらの動向もばっちり見ているという事だ。そりゃそうだ、こっちから見えているんだ、向こうから見えないはずがない。
「もうじき曲がり角ですわ、囲みますわよー!!」
Ⅳ号を包囲すべく、クルセイダー部隊が回り込む。このまま行けばⅣ号と鉢合わせを狙え、囲むならここだろう。
…いや、待てよ。
「停車ッ!!」
「なんですの!?」
急な指示だったがローズヒップはよく反応してくれた。急停車する俺のクルセイダーの横を他のクルセイダー三両が勢いそのままに追い抜いていく。
…そのクルセイダーに向けて、先に曲がり角を抜けて来たのはⅣ号ではなく、風紀委員カモチームのルノーだった。
しかもかなりの速度だ、完全にスピード違反なんですが風紀委員としてそれは良いんですかねぇ?
速度を上げたルノーの重量にクルセイダーは次々ぶつかり、弾き飛ばされる。
その混乱の中、Ⅳ号はその隙を狙ってこちらに向けてスピードを上げてきた。
ーーーやっぱ来たか!!
「撃てッ!!」
砲撃は届かず、Ⅳ号は俺の真横を通り抜ける。まぁさすがにプラウダ主力に追い掛けられている今、向こうも足を止めての撃ち合いはしないだろうが。
…通り抜ける一瞬、目が合った気がしたが振り向けばもうその背中が見える。
『ちょっと!逃げられちゃったじゃない!!』
『こちらが分断作戦に乗ってこない事はみほさんももうわかっているわ、つまり…』
「主力はもう集まっちゃってるでしょうね…」
こちらを分散させる為にバラバラにした戦力もまた合流させてるだろうし、また街中で防衛陣形を組まれると厄介だ。
『それにしても…よくあそこで急停車できたわね。みほさんの狙いがわかったのかしら?』
「そりゃ西住がこっち見てましたからね。なら、あいつが何もやってこないはずないでしょうよ…」
…西住は戦車に乗る時、だいたい上半身を乗り出している。これは試合中に周りの状況を把握するのに最適ではあるが。
だが、逆を言えばこちらからも西住の様子が見えるのだ、状況の判断材料の情報としてはこれ以上の価値はないだろう。
つまり、西住がこちらを把握していない、見ていないその時こそが一番の狙い目になるだろうが…あいつ見える子ちゃんなんだよなぁ。
『…本当に、みほさんの事をよく見ているのね』
「趣味の人間観察の賜物ですよ」
『そ、そう…』
え?あれ?引かれてる?人間観察立派な趣味でしょ?
『で、ここからどうするのかしら?』
『決まってるわ、あんなちっちゃい連中、削って削って削りまくってピロシキの中のお惣菜にでもしてやるわ!!』
まぁプラウダの主力部隊なら任せても良いんだろうが…、あーもう向かってるし。
『ではプラウダにはそのまま追撃をお願いしましょうか、マチルダにも後を追わせるわ』
「…ダージリンさんは?」
『そうね、私達はそろそろお茶をいただくとしましょう』
…うーん、これは間違いなくローズヒップの上司ですねぇ。いや、本当に何言ってんだこの人。
「…さっきゴルフ場で飲んでたんじゃないんですか?」
確か茶柱がどうのこうのって言ってましたよね?しかも敵戦車に囲まれた状況で。
『それとこれとはまた別の話よ』
「…そっすか」
まぁチャーチルはこの試合でのフラッグ車だし、下手に前線に出るよりはその方が良いんだろう。ダージリンさんだってただ単にお茶が飲みたいだけじゃないはずだ。…ですよね?
「…ん?じゃあ俺達はどうするんです?」
プラウダがこのまま追撃、ダージリンさんはお茶会とくれば、一応聖グロリアーナのクルセイダー部隊としてはお茶会の方に参加した方が良いのかしら?マチルダはそのまま追撃に向かってるけど。
『任せるわ、あなたは下手に指示するより好きに動いて貰った方が面白そうですもの』
「丸投げっすか…」
しかも面白そうって…そんな雑な指示の仕方ある?
『それだけ期待しているのよ、よろしくね、マックス』
そんな雑な指示と共にチャーチルは移動を始める、ガチでお茶会に行く気だよこの人達。大洗マリンタワーの三階に素敵なコラボカフェがあるんだけどどう?
「どうするんですの?」
「どうするっつってもな…」
そんな訳で放り投げられた俺達だが、まぁ好きに動いて良いと言うなら甘んじて受け入れよう。
「まっ…そりゃフラッグ車狙うだろ。それに…どうやら主力はカチューシャさん達プラウダが率先して引き受けてくれるみたいだしな」
「…そういう話でしたの?」
そういう話だったの。
ーーー
ーー
ー
「あー!比企谷先輩だー!!」
「裏切り者だぁ!!」
試合前、聖グロリアーナとプラウダの控え室に向かう途中で声をかけられた、というか普通に指差しである。
「人を指差すんじゃねぇよ…」
元々俺を先輩と呼ぶ奴の数は少ないので確認するまでもない。こいつらはウサギチームの一年共だ。先輩に指差しとかだいぶナメてる。てか、俺がナメられている。
「てか裏切りってなんだよ、抽選の結果だろ…」
「そんなの断れば良いじゃないですか」
「そーだそーだ!!」
うん…まぁそうね。ちゃんと断れればここまでややこしい事にはならなかったんだけどね。
「ちょっとみんな、言い過ぎだよ。比企谷先輩にそんな断れる度胸なんて無いのは知ってるでしょ?」
…フォローしてくれているんだろうが、むしろ澤のフォローが言い過ぎなまである。
「あんこうチームの先輩方、可哀想…」
「私達で仇を取らなくちゃね」
「うんうん!!」
…もう仇討ち扱いされているんだが、てかあんこうチームも別にやられた訳じゃないからね?
「ほら、沙希だって言いたい事たくさんあるんですよ!!」
「………」
そう言って山郷が丸山の肩に手を置いてずぃっと俺の前に出す。いや、言いたい事って…この子そもそも喋らないよね?
「………」
…ごめんなさい、何言っているか全然わからないけど本当にごめんなさい。だからそんな悲しそうな顔しないで?
「という訳でぇ、比企谷先輩は私達が倒しま~す、覚悟して下さいねぇ」
「私達には取って置きの秘策がありますから!!」
「…秘策?なんかあんのか?」
「ふっふっふっ、裏切り者の比企谷先輩に教える訳ないじゃないですかー!!」
「あぁ…そう」
とりあえず何かしら秘策がある事は教えてくれた訳だけど気付いてないんだろうなぁ…。
とはいえ、戦車道全国大会では自分達で考えた作戦で黒森峰のエレファント、ヤークトティーガーの重戦車を撃破した一年チームだ、もう油断していいチームではない。
「なんてったって私達!」
「重戦車キラー!!」
「…あーうん、頑張れ」
なんかこう、重戦車を倒す為の作戦なんだろうなぁ…。ひょっとしてこの子達に倒されたエレファントとヤークトティーガーの乗員は反省会案件では?
「そして重戦車の次は!」
「比企谷先輩キラー!!」
…俺への殺意がひどい、そういやウサギチームのイラストって包丁両手に持った猟奇的なウサギのイラストなんだけど…。
この子ら大洗の首狩りウサギでも目指してるの?
ーーー
ーー
ー
『ちょっとノンナ!遅れてるわよ!!』
『なんでもありません』
ん?ノンナさんが隊列から遅れるとは珍しい事もあるもんだ。元々プラウダの隊列の練度の良さは凖決勝でも見ていたもんだが。
『…いえ、そうですね。M3リーと交戦をし、撃破しました』
ノンナさんがそう報告を入れてくる、俺が居る手前伝えてくれたんだろうが…。
「え、あいつらノンナさんに挑んだんですか?」
『はい、どうやら待ち伏せして直接私を狙っていたようですね』
「はぁ、そりゃ怖いもの知らずというか…」
重戦車を狙うのはわかっていたけどよりによってノンナさんに挑むとか、これが若さか…。本当、認めたくないものだね、若さ故の過ちとか。
『…なにか?』
「いえ、なんでもないっす…。それで、何かしてきましたか?あいつら試合前に妙に自信満々でしたけど」
『えぇ、こちらの砲身が狙えない位置まで突っ込んできました、接近戦を狙ったのでしょう』
…それ?ただの決勝戦の時と同じ戦法では?
『狙いは悪くなかったのですが、詰めが甘かったですね』
まぁ重戦車相手には決して悪い戦い方ではないんだげどね、さすがにそう何度も通用する戦法ではない。
「…そっすか、ウサギチームの連中が」
『…比企谷さん、嬉しそうですね』
「そう聞こえますか?」
『えぇ、とっても』
ははは、無線越しで何を仰る。
「まぁ最初は戦車捨てて逃げ出す程度にはダメダメだった子達が自分達で作戦考えて率先して重戦車に真っ向から立ち向かえるようになったとかわりとくるものがあってわりとエモいですけどね、あー…こいつらちゃんと頑張ってるんだなぁとか考えると超エモい」
『思った以上に語るのね…。ところでノンナ、エモいってなんなの?』
『そうですね…、カチューシャの事です』
…その説明はどうなのか?まぁカチューシャさんもエモい所あるよね、そもそもオタクはすぐにエモくなるエモエモの実の能力者なのだが。
『それにしても、相変わらずハチューシャ、あの子達の事好きよね。…もしかして年下が好きなの?』
『良かったですね、カチューシャ』
『私は年上よ!!そもそもどういう意味よノンナ!!』
…そもそも年下に対しての俺の意思というか、意見は?いや、これは言わない方が良いと思うけど、ノンナさんも聞いてるし。
『とにかく、そろそろ無駄話はおしまいよ!ノンナ!!』
『はい、どうやら待ち伏せされていたみたいですね』
「…やっぱり防衛陣形組んでましたか」
そりゃそうだ、大洗側がこのままフラッグ車単独で行動する意味はない。
『どうしますか、カチューシャ?』
『決まってるわ、このOY戦線を突破してやるのよ!!』
…なんか勝手に名前付けてるけど、大洗役場だからOY戦線なのね。
これは恐らく、プラウダ主力部隊の足止めが目的だろうか?プラウダの火力ならここの突破も可能だろうが、やはりどうしても時間はかかる。
「ノンナさん、見える範囲での敵戦車を教えて下さい」
『わかりました』
防衛陣形に居る相手戦車を教えて貰う。ポルシェティーガーやⅢ突といった主力戦車、というか相手のほとんどが今この場所に居るようだ。
ただ、1両、居ないのは
「…Ⅳ号は?」
『えぇ、“もちろん”居ません』
…となると、単身こちらのフラッグ車のチャーチルを狙っている可能性もある。あの人達今頃たぶんお茶飲んでるんだよなぁ…本当になんなの?
『加えて向こうには地の利もありますから、厄介ですね』
『何言ってるのノンナ、地の利ならこっちにもあるじゃない。そうでしょ?ハチューシャ』
「…まぁ、大洗は庭みたいなもんですからね」
要するに、西住と直接対決してこいって事である、ここも大概ブラックなんだよなぁ…。