劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
菊代さんはオリジナルキャラクターではなく、漫画版『ガールズ&パンツァー』やスピンオフ作品の『リトルアーミー』に登場しているキャラクターです。
和服の似合う年齢不詳な美人さん、気になる人はそれらの作品を要チェック!!(ダイレクトマーケティング)。
…最終章にも登場とか、しませんかね?
「うぅ…」
「だからアイスの食べ過ぎは身体に悪いと言ったのに…」
歩きながら頭を抑えてうーんと唸っている西住に姉住さんが心配しながら声をかける。
結局当たり棒は引けなかったようだが仕方ない。単発引きで星5が出ないのは当然だが、そこから泣きの一回を回した所でお目当てが引ける訳でもなく、もう一回もう一回とズブズブとガチャ沼にハマっていくものだ。
…もしボコを題材にしたソシャゲとか出たら西住の破滅する姿が見えそうなんでボコ人気はこのまま下火のまま過ぎて欲しいものである。
まぁ今回は物がアイスの当たり棒という事で「出るまで回せば出現率は100%」理論も通用しない。ガチャの天井より早く、アイスを食べ続けるのにはすぐに限界がくる。
「うぅ、ごめんね、お姉ちゃん」
「全く…仕方のないやつだ」
ま、西住も久しぶりに姉に会えて甘えたかったのかもしれない。小町だってまた俺に会ったらこんな風に甘えてくれるだろうしね。くれるだろうしね!!(確信)。
「…あ」
ふと西住が立ち止まる。その意味は言われなくてもその建物を見れば一目でわかるものだ。
古風ながら立派な屋敷、表札なんてなくても西住の実家の前まで来たのだろう。
…何より庭先にⅡ号戦車置いてあるからね、これを見て空き巣や強盗を考えるチャレンジャーはそう居ないだろう。
「………」
門の前まで来て、西住は立ち止まる。思えば大洗で西住が帰省する事は今まで無かったか。
あの黒森峰の決勝戦の一件から大洗に来て、一度も家に帰らなかった西住の帰省がこんな形になるとは思わなかっただろう。
立ち止まったまま、西住は動かない。それを見た姉住さんは西住より先に一人門を潜った。
「…お姉ちゃん?」
「みほ、ここはお前の家だ。戻ってくるのになんの遠慮がある?」
そう言って優しく微笑みかけ、西住に手を差し出す。
「…うん!ただいま、お姉ちゃん」
「あぁ、おかえりみほ」
西住はそんな姉の手を嬉しそうに掴むと門を潜る。…姉住さんが黒森峰から帰ってきてて良かった。久しぶりに実家で再開した二人を見てそう思える。
「…あ、えへへ、ごめんね八幡君、なんか恥ずかしい所見られちゃたかも」
ふと西住が俺に気付いて少し顔を赤くしている。まぁ知り合いに姉に全力で甘えている姿を見られるのは恥ずかしいものだろう。小町が普段周りに人が居る時には塩対応になるあれだ。
「いや、気にするな。俺も将来的に実家になんの遠慮も無しに戻れるんだなと再確認できたしな」
「…そこは遠慮しようよ」
「…そうだな、君は少し遠慮した方が良い」
あれれー?姉住さん?さっきと言ってる事違くないですか?妹さんとの対応の差が露骨なんだが。
ま、これで西住は大丈夫だろ。なんてったって対応の差が露骨な姉住さんが付いてるんだし。
「…んじゃ西住、また後でな」
そんな姉妹のゆりゆりゆるゆりも見届けたので軽く手を上げてその場から立ち去ろうとする。ゆるゆりに挟まってはいけない、比企谷 八幡はクールに去るぜ!!
「え?えぇ!?八幡君どこ行くの?」
「どこって…とりあえずさっきの駅の売店か?」
そう聞かれてもあては無いのでふと思い付いたように答えた。姉住さんと会った最初の公園でも良いんだが、そこよりはまだ暑さを凌ぐ手段はありそうだし。
「…なんで?」
「いやなんでって、まだ蝶野教官から連絡ないし」
そもそも俺が一人で放置少年やってたのも蝶野教官と会長からの連絡待ちだ。…あの二人が頑張ってアポ取ってる中、西住家の前まで来ちゃったんだが。
「その、今日は暑いし、家で待たない…かな?」
「その家に入る為に待たされてるんだよなぁ…」
何この矛盾?しかも連絡も無いのにお目当ての家に先にお邪魔するのはどうかと思うんだが。
「許可なく勝手に入るのも悪いだろ」
「…そっか、うん、そうだよね」
しゅんとした表情を見せる西住だが、まぁ納得はしてくれただろう。
「…勝手に、ではないだろう」
そんな俺達の要素を見て姉住さんが声をかけてきた。
「君は私とみほの友人だ。その…友達を家に招待するのに、許可は必要ないのではないか?」
「お姉ちゃん…うん!そうだよ八幡君!!お友達をうちに呼ぶだけだもんね!!」
からっと表情を変えた西住は嬉しそうに俺に向き合う、今度は強きに、ぐいぐいと。
「いや…それはだな」
「ね!」
「そうかな?そうかも…」
ほんとにそうか?(カカロット感)。とはいえ、こうまで言われてしまえばこっちも断る理由がなくなってしまう。
「…じゃあ、お邪魔します?」
「えぇっと…うん、どうぞ?」
西住からしても久しぶりの我が家という事でお互い少し気恥ずかしくも感じながら、西住家の門を潜る。
「…いや本当に良いんですかこれ、お母さんに見つかるかもですが?」
「心配しなくても良い、こっちだ」
そう言いながら先を歩く姉住さんを見ると玄関とは違う方へ歩いていく、あぁ…裏口でもあるのね。
いや、裏口通らなきゃいけない時点で不安になってくるんですが?
「お母さん…えへへ、お母さんかぁ…なんか変な感じかも」
西住の方は当然裏口の方も知ってるんだろうが…なんかぽやぽやしてない?大丈夫?
「まほ」
「!?」
ビクッと心配全体が硬直したのがわかる、声の主は間違いない。西住の母親、しほさんだ。
しかしその声は障子で仕切られた奥から聞こえてきたので、俺達の姿が見られた訳ではないのに少し安堵した。
「お客様?」
…いや、いやいや。どこに安堵する要素があるのこれ?障子越しでこっちの姿が見えないはずなのに、姉住さんと、他にも誰か居るのさえばっちり把握されてるんですが?
これが西住流…。え?これも西住流なの?本当は戦車流派一本だけじゃなくていろいろ実戦的な裏流派があったりしそう。
…さて、どうする?ここで逃げようとすればすぐにでもあの障子が開いて来そうだし、西住はさっきのぽやぽやから一転、怯えた様子だ。
となれば頼みの綱は姉住さんだ。チラリと姉住さんを見ると彼女は大丈夫だと言いたげに頷いた。
先ほども心配しなくても良いと言ってくれたくらいだし、きっと何か策があるのだろう。…良かった、これでなんとか。
「学校の友人です」
…姉住さん?黒森峰は今絶賛新学期ですよ?あなた今帰省の許可貰って来てるんですよね?あと学校に友達居たんですね。
いや!嘘下手かよ!?…まぁ下手だよね、生真面目な性格してますから…。
抗議の意味を込めて視線を再び姉住さんへと向けると彼女は無表情で頷き返してくれた。…いや、ありがとうとかそういう意味で見てる訳じゃないからねこれ…。
…仕方ない、ここは見つかるのを覚悟して逃げとくか。…なんなら土下座のスタンバイしてても良いかもしれない。
「…そう」
だが、障子の奥からの声はそれだけの短いもので、その障子が開かれる様子は無かった。
「………」
これで誤魔化せるなら母住さんも相当天然さんなんだが…これは西住の家系か。いや、たぶん違う、きっとこの人は…。
あれこれ考えは浮かんだが、今はこの場にとどまる場合じゃない。先を進む姉住さんの後をついていくとやはり裏口が見えた。
「おかえりなさいませ、みほ様」
「菊代さん!!」
出迎えてくれたのは西住家のお手伝いをしている和風美人の菊代さんだ。ゆりえさんではない、菊代さん。
「すいません、せっかく帰ってきていただけたというのにお出迎えもせず」
「ううん、私もきちんと連絡してなかったから」
…本当、西住は姉住さん帰ってきてなかったらどうするつもりだったのか。
「しかも男性の方を連れてとは…そうと知っていれば私も存分に準備をしていたんですが」
「え?ち、違うの、八幡君とはさっき偶然会ったっていうか…その、えぇっと…」
「ふふっ、大洗からお客様が来る、という話は聞いてますよ。やはりあなたでしたか、比企谷さん」
「…知ってたんですね」
それを踏まえてさっきは西住をからかっていたと…。もう!菊代さんってばお茶目!!…年齢いくつですか?
「本来はこちらの準備が出来るまでもう少しお待ち頂く予定でしたが…」
「菊代さん、彼は今は友人として家に招いています」
「えぇ、わかっています。比企谷さん、まほ様とみほ様のご友人として、歓迎しますよ」
物腰柔らかに菊代さんは俺に家に入るよう促してくれる。…とはいえ、裏口で、そして先ほどの姉住さんの言い方も気がかりではあった。
『今は友人として』やはり、本来の目的の方となると、この人は味方にはなれないのだろう。
「…さて、しかしそうなると待つのにどの部屋を使うのがいいか」
どの部屋を使うか迷うくらい部屋多いんですね…まぁ多いだろうね、だって家超デカイもん。
ただいくら部屋が多くてもしほさんの居る近場の部屋を使う事は出来ないし、見つからない為には普段使ってない部屋がベストだろうが。
「でしたらまほ様、みほ様のお部屋はどうでしょう」
「…え?わ、私の部屋なの!?」
驚く西住だが、それ以上に俺の方が驚きというか、戸惑いが大きい。
「みほ様のお部屋なら、奥様が不意に訪れる事もないでしょう」
「…いや、お手伝いさんとして良いんですかそれ?」
「ふふっ、奥様には内緒ですよ」
そう言って菊代さんは片目だけ閉じて人指し指でしーっとポーズを取った。本当に可愛らしいお茶目な人だなぁ…。年齢いくつだろう?
「えと、でも…ほら、私の部屋もちょっと…恥ずかしい、かも」
「あら、みほ様は大洗で比企谷さんをお部屋に呼んだ事があると聞いたのですが」
…その話をどこで?まぁたぶん前に大洗の西住の部屋に行った時に聞いたのだろう。本来、家政婦っていろいろな物を見たり聞いたりするものだから…。
「…ほう?」
ゾクリと冷たい視線を背中から感じる…やだ!超怖い!!先ほどのしほさんと良い、プレッシャーのかけ方がマジ親子!!
「…あれ?そういえばあの時はそんなに抵抗無かったかも。…なんでだろね?八幡君」
「いや、知らんけど…」
一人首を傾げてうーんと考える西住、君はそのままで居てね…頼むから。
「…だが、そうだな。みほの部屋ならお母様もそう来る事はないだろう」
「う、うん…そうだね。…大丈夫かなぁ、き、汚くない?」
まぁ、当の本人でさえずっと帰ってなかった部屋だ。いきなり他人をあげるのは抵抗はあるだろう。
「心配はいらない」
「う、うん…八幡君、こっち」
「お、おう…」
だが俺としては右も左も、トイレの場所さえわからない他人の家、ここは大人しく西住の後をついていくしかないだろう。…マジでトイレ行きたくなったらどうしよう?
これが冷泉の家なら勝手は知ってるので、トイレ行きたくなっても問題ないのに。…ん?それはそれである意味問題しかないのでは?八幡は訝しんだ。