劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
そしてここまで来るのが本当に長かったぁ…。
どうすれば男子学生である八幡が試合に出る大義名分を作り出せるか、ずっと捻ってました…やっぱ女装かな?
「そうと決まれば早速文科省へ乗り込むわよ!さぁ!ハリアップ!!」
蝶野教官の号令と共にヘリは次の目的地へと飛び立つ。
大洗学園から戦車道連盟の本部、そして西住流の総本山と続いた弾丸ツアーも次でラストになるだろう。
操縦するのはもちろん蝶野教官、その助手席に座るのは会長である。
そうなると自然と俺の隣に座るのは一緒に文科省に行く事になった西住流家元、西住 しほさんになるんだが。
「………」
「………」
…なにこれ普通に気まずいんですが?なんで隣の席にラスボスが座ってるの?
『隣の席のラスボスさん』とかいうまーた新しいラノベ作っちゃえそうだよ。なお、隣のラスボスさんは同級生の母親な模様。
「…そういえば戦車道連盟の理事長はどうするんです?」
いよいよ文科省へ乗り込むとなれば戦車道連盟のトップにも出張って来て貰いたいのだが。
「そうね、連絡は入れてあるからついでに拾っておきましょうか」
「扱い軽っるぅ…」
一応あなたの所属する連盟のトップなんですよ、あの人…。
「ノープロブレム、理事長だっていつでも出発できる準備はしているはずよ」
「それは…ありがたいですね」
スタンバっててくれてるのはありがたいんだが。しほさんが大洗の後ろ楯になってくれたから良かったものの…もしダメだったらどうするつもりだったのか。
「人を動かす、というのはそういうものです。あなた方が戦車道連盟を訪れた事で連盟は大洗学園の存続に対する決断を決めなければなりません」
「…巻き込んだ自覚くらいはありますよ」
事実、文科省とのメンツ問題やらなんやらな大人の事情で静観に徹していた戦車道連盟は俺達大洗学園の訪問で対応を余儀なくされている。
戦車道連盟だけではない、そもそも西住流のこの人だって渦中に巻き込んで強制的に舞台に立たせたようなものだ。
だから、それくらいの自覚はある。
「そう、なら…あの子もこうして巻き込んだ自覚はあるかしら」
「………」
ピリッとした空気に喉が一気に渇いた気さえする、本当にあっさりと核心をついてくる。
それは今回の廃校問題よりももっと前、戦車道が嫌になって大洗に逃げてきた西住を俺は戦車道に巻き込んだ。
「…はい。当然西住の事情は知ってましたし、知った上で巻き込みました。…遅くなりましたが謝ります」
「私に謝る必要はありません。そしてみほにも、あの子が自分で決めた事ならば必要ないでしょう」
…西住が自分で決めた事か、確かにあの時の西住は武部と五十鈴、友達の為に戦車道を再び再開する決断をした。
だが、それだって俺がそうなるように仕向けたようなものだ。きっとそんな話をして謝った所で西住は怒るか悲しむのだろうが。
「それでも、巻き込んだ自覚はありますんで責任はとるつもりです」
西住がこの先も戦車道を続けるというなら、彼女を戦車道に巻き込んだ俺にはそれを叶える責任がある。
「せき…にん?」
…おや、なんかしほさんの様子がおかしいのでは?この人のこんな呆けた顔初めて見るんだが。
「…コホンッ」
だがそれも一瞬、咳払いと共にいつものピリッとした雰囲気を纏うしほさんが戻ってくる。
「…どう責任を取るつもりですか、具体的に、聞きたいのですが」
…やけに具体的にの所強調してくんな、やっぱ娘さん勝手に巻き込んで怒ってんじゃないのこれ。
「どうって…大洗の廃校阻止じゃないですか」
「…なんの話ですか?」
えぇ…そこまで具体的に話さないとダメなの?普通にちょっと恥ずかしいんですが。
「西住を戦車道に巻き込んだんです。その西住が大洗で戦車道を続けたいって言うなら、その…責任もって叶えますよ」
「………」
「えーと、どうしました?」
「いえ、なんでもありません。…その責任ならあなたはもう充分取っています。ここに私が、そして戦車道連盟が文科省へ向かっている、それが答えです」
「…って言ってもまだ何も解決してませんし、だいたいあの文科省が素直に言うこと聞きますかね?」
「心配いりません、西住流に敗北は無いのですから」
…本当、味方にすると超頼もしい。ラスボスが常に仲間にいる安心感よ。
「…それはそれとして、あなたには別の責任を取って貰う必要があるかもしれませんが」
「急になんの話ですか!?」
…安心感、ねぇな。よくよく考えたらすぐ隣にラスボスが居るってやべぇだろ、其りゅうのおう様だって海挟んだ島に城を構えてるのに。
ーーー
ーー
ー
文科省、応接室に通された俺達を出迎えたのは例の大洗に廃校を伝えにも来てた七三分けにスーツなメガネの役人だ。
会長とも顔見知りっぽかったし、たぶんこいつが大洗廃校計画の責任者なのだろう。
まぁその挙動を見れば明らかに歓迎されていないのがわかるが、さすがに西住流家元を相手に追い返すような真似は出来まい。
「若手の育成なくしてプロ選手の育成は成し得ません、これだけ考えの隔たりがあってはプロリーグ設置委員会の委員長を私が務めるのは難しいかと」
…なんせ初っぱなからこれである。さすが西住流、初手から文科省に取って一番嫌なカードを切ってくる。
「ま、まぁ落ち着いて下さい!そうだ!!アイスでもいかがですか?これは茨城から取り寄せた物で干し芋も入っているんですよ」
なんとか話題を反らそうとするメガネ役人だが、ここで茨城産アイスとか…完全に煽っているとしか思えない。
「………」
当然、ここでアイスに手を伸ばす者が居るはずもなく。…さすがの干し妹好きな会長もじっと二人の出方を見守っている。
あ、一応言っとくけどマジで道中で拾った児玉理事長も居ますからね。立場上しほさんと文科省の板挟みでずっと冷や汗をかきっぱなしだが。
「んんっ…今年度中にプロリーグを設立しないと、戦車道世界大会の誘致が出来なくなってしまう事は先生もご存じでしょう?」
「優勝した学校を廃校にするのは文科省が掲げるスポーツ振興の理念に反するのでは?」
続けるメガネ役人の言葉をしほさんがばっさりと切り捨てる。つーか文科省、裏で廃校計画とか進めてるのにそんな理念掲げてんのかよ…。
…やはり文科省にとって西住流が世界大会から降りるのは相当な痛手なんだろう。なんせ戦車道の最大流派だ。
さぁ、次はどう出る?なんならしほさん、出された水をぐびぐび飲んでてまだまだヤル気満々なご様子。
「しかし…まぐれで優勝した学校ですから」
ダンッ、としほさんの持っていたコップが机に置かれる。
…その役人の言葉に俺だって思うところがない訳じゃない、きっと会長だってそうだろう。
だが、それを考えるよりも早く、しほさんのその行動は俺達全員の視線を彼女へと集めた。
「戦車道にまぐれ無し、あるのは実力のみ」
それを俺達の、西住 みほの率いる大洗学園の生徒の前でこの人は言ってくれたのだ。
…きっと、西住の事だってもうとっくに認めているのかもしれない。いや、そこは俺が言うことでもないが。
「…どうしたら認めていただけますか?」
しほさんがじっとメガネ役人を見る、メガネ役人はその視線に耐えきれないのか目をそらして逃げている。…うん、気持ちは良くわかるよ、怖いもんね。
だが、どれだけ目をそらしても身体を動かす訳にもいかない。戦車道連盟が、西住流がそうであったようにこのメガネ役人にも決断する時がきたのだ。
だがここで大洗の廃校を撤回…なんて一番都合の良い言葉は出てこないだろう。文科省がここまで急ピッチで進めてきた大洗学園の廃校には何か裏がありそうだ。
それはしほさんもわかっている。だからこそこの人は「どうしたら認めてくれますか?」と聞いたのだ。
要するに…これはメガネ役人に対する逃げ道のような物だ。
「ま、まぁ…大学選抜チームに勝ちでもすればーーー」
まぁ、それも罠なんですけどね。
「わかりました!!」
ここぞとばかりに会長が立ち上がる。
「勝ったら廃校は撤回して貰えますよね」
「えっ!?」
これである。わざと敵に逃げ道用意しといて、そこに逃げる相手を潰すとか、西住流…と、うちの会長は鬼か。
「今、ここで覚書を交わして下さい」
ずずぃっと会長は『せいやくしょ』とわざとらしく書いた紙をメガネ役人に突きつける。
「噂では口約束は約束ではないようですからねぇ~」
…本当はちゃんとした『誓約書』も持ってきてる辺り、この人マジ良い性格してんなぁ。
「………………!!」
苦し紛れにメガネ役人がそらした視線はちょうど俺へ、やべぇ、目と目が合っちゃったよ。
「…いえ、待って下さい、まだ解決していない問題が残ってますよ」
だがそれがメガネ役人にとって幸運だったのか、とたんに冷静さを取り戻してくる。
「…彼の、えぇっと…そう、ヒキタニ君の問題がまだ残ってます」
…誰だよヒキタニ君、呼ばれてんぞ。
つーか、最初からずっと比企谷君ならここに居たんですけどね、それをここまで追い詰められるまで問題にしなかった辺り、マジで相手にされてないな俺。
「男子生徒による戦車道介入は優勝校にふさわしくありません、これでは大学選抜チームとの試合以前の問題ですね」
…ふっ、やっぱりそう来るか。悪いけど読んでいたぜ!!
文科省の大洗学園廃校の理由に男子学生の戦車道介入がある以上、俺の事が指摘されるのは織り込み済みだ。
だからこそ、そこにもきちんと対策を…してないんだよなぁ。
いや、マジで無いんだよ…。いや、正確には教えて貰えなかったというか。
文科省がそこをついてくる事はわかっていたし、どうするが蝶野教官としほさんにも聞いてみたんだが、あの二人…なんか意味深にお互いアイコンタクト交わして頷くだけなんだよ。
つまりノープランというか、プランは完全に二人任せなんだけど。
「彼が戦車道に関わる事に問題があるとは思えません」
「戦車道は由緒ある女性の武芸、そこに男子生徒が関わる事は問題でしょう」
蝶野教官の言葉にメガネ役人がメガネをクィッと上げる、優位差を取り戻したとでも言わんばかりだ。
「彼は男子戦車道の候補生ですから、その生徒が戦車道に関わる事に、何か問題が?」
「…はい?」
…はい?
と思わずメガネ役人と同じリアクションをとってしまった、え?なにそれ初耳。
戦車道の男子部門を立ち上げる話がある。というのは戦車道全国大会の後、蝶野教官から聞かされた事はあった。
まぁ断ったが。【比企谷 八幡 男子戦車道編】なんて無いんだが…。え?断ったよね?
「まだ試験段階ですが、文科省の役人ともある人が戦車道の男子部門立ち上げを知らないとでも?」
「…それくらい知っています、ですが、頂いた候補生リストに彼の名前が無い事は確認しています」
「はて、おかしいですな、ここにはきちんと名前が載っているのですが」
理事長が困惑する役人に持っている資料を見せ、慌てて確認した役人が顔を上げた。
「なっ…そんな、偽装じゃないのか!?」
「なんせまだ立ち上げたばかりですからね、書類に何かしら不備があったのかもしれませんな」
メガネ役人の悪態に理事長は持っていた扇子もぱたぱたと仰ぎながら涼しい顔で答えた。
『理事長だっていつでも出発できる準備はしているはずよ』
ふと、到着前の蝶野教官の言葉を思い出す。…これ、まぁ間違いなく偽装なんだろうが。
そんな危ない橋を渡ってまで、戦車道連盟が決断してくれたんだろう。
「戦車道の男子部門の候補生は厳選して選んでいるはずだ!それをこんな一般の男子生徒が選ばれるはずが無いでしょう!!」
「我々西住流の推薦です。…何か問題が?」
「…いえ、それは」
「納得いただけないようですね、では…こうしましょう」
しほさんは居住まいを正すとメガネ役人…ではなく、はっきりと俺を見た。
「大学選抜チームとの試合、それに彼にも出場して貰い、その実力を見せれば納得頂けるのではないでしょうか」
「…俺が、試合に」
先のエキシビションマッチのような、半ば練習試合や記念試合のように負けていい試合とは訳が違う。
正真正銘、大洗の命運がかかった試合に…出る?
「…いえ、ちょっと待って下さい」
メガネ役人は慌てた様子でなにやら資料を取り出して見つめている…が、やがて頬を緩めながら。
「…私は構いませんよ、特例で彼の出場を認めましょう」
努めて冷静を装っているのだろうが、笑いを堪えるのに必死なのが見てわかる。…たぶんあれ、俺の資料かなんかだろうか。
大洗廃校の為にいろいろ調べたんだろうが…そりゃ笑うわ、俺は別に戦車道の経験者なんて肩書きは一つも持っちゃいない。
文科省側からすれば体よく大洗に足手纏いを増やせる算段なのだろう。
というか、そんな資料あんならふりがなくらいちゃんとふっておけよ、ヒキタニ君可哀想だろ。
「いいんですかねぇ、こっちの覚書もちゃんと書いて貰いますよ?」
「えぇ、構いませんよ」
このメガネ役人からすれば大洗に足手まといを増やせる絶対の機会なのだろう。
「では、比企谷さん、後はあなたが決断するだけです」
しほさんの視線は変わらず、ずっと俺を見ている。
大洗学園の廃校問題だけなら、俺が戦車道に関わる事を止めれば解決する話だ。
俺抜きでも大学選抜チームに勝てば、大洗が廃校を撤回する事も出来るのだろう。
「自分の居場所なら、自分で勝ち取りなさい」
それでも、多くの人を巻き込んだ。
多くの人に決断させてきた。
「俺はーーー」
だったら…今さら自分だけ、都合良く決断から逃げる訳にもいかないだろう。
「…戦車道、やります」
もちろんわかっているとは思いますが男子戦車道部門辺りは完全にオリジナルですので悪しからず。
比企谷八幡男子戦車道編は…葉山や戸塚や材木座とかとチーム組んでるの勝手に妄想して愚腐腐してます(笑)