劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
ここら辺の役人の徹底的な大洗潰す算段の暗躍、正直嫌いだけど好き。
戦車道の試合形式には大きく分けて2つのルールがある。
一つはフラッグ戦。文字通りフラッグ車に定められた戦車を撃破すれば勝利のまるで将棋だなルール。
高校の戦車道全国大会では基本的にこのフラッグ戦ルールが適応されている。まぁ…そうでもしないと強い戦車を数分揃えた学校が力押しでなんとでもできてしまうからだ。
そしてそのなんとでもできてしまうルールが殲滅戦である。
ルールは単純明快、どちらかのチームが全滅すれば決着。
他にも時間内まで耐えきる耐久戦や指定されたチェックポイントを巡って素早くゴールを目指す、自動車部歓喜な目標地点到達ルールなんかもあるらしいが…試合で行われる形式は主にこの2つだろう。
無論、大洗だって殲滅戦が初めてという事はない。聖グロリアーナとの練習試合では殲滅戦ルールで戦った。
ただ、それはダージリンさんがこちらに合わせて参加車両を5両にしてくれたから成り立ったようなものだ。…成り立ってたかな?こっちは素人集団だったんだけど。
8VS30の戦力差で、どちらかが全滅するまでの殲滅戦?そんなもの、どう考えても試合として成り立つはずがない。
「あ、あの…8両に対して30両で、それもいきなり殲滅戦というのは…」
『予定されているプロリーグでは殲滅戦が基本ルールとなっているので、それに合わせて頂きたい』
テレビ電話のモニターに映っているのはメガネ役人と戦車道理事長だ。西住の言葉にも当然、聞く耳を持っていない。
しほさんの前ではあんだけたじたじだった癖に…、その子あのしほさんの娘さんですからね?あんまり怒らせない方が良いんじゃない?
「えと…その」
…うん、時々はやっぱり親子だなーとか思う時あるけど、あくまでも時々なんだよなぁ。あと、そう思う時ってたいてい俺に対してなのでは…?
『もう試合準備は殲滅戦で進めてるんだって…』
戦車道連盟の理事長が申し訳なさそうに答える。…そりゃずいぶんと準備が良いこって。どこぞの検討するばっかりな政治家辺りは見習って欲しいくらいだ。
だいたい、殲滅戦で試合準備を進めているからって別に今からフラッグ戦に変えて何か問題でもあるのかって話だが。
そもそも本来ならプロリーグの試合形式に高校生であるこちらが合わせる必要だってない。だが、このメガネ役人に何を言っても無駄だろう。
【試合の規則、形態等については主催者たるものが定める権限を有する】
誓約書のこの一文を主張されればそれまでだ。
『辞退するなら、早めに申し出るように』
メガネ役人はそれだけ伝えると通話を切る。
全国大会ではフラッグ戦が試合形式だったのもあり、殲滅戦を仕掛けてくるのは完全に想定外だ。
…正直、してやられた。事態が良い方へと傾いてきた事で気持ち的に気が緩んでいた。
本当、何やってんだ…まだ全然気が抜ける所じゃねぇだろ。
「わ、私達8両で相手の車両30両を…全部倒さないといけないんですか?」
「…そういう事になるな」
「も、もう駄目だ!おしまいだぁ!!」
河嶋さんがどこかのサイヤの王子のようにへなへなと床に膝をつく。
「大丈夫!私達バレー部だって人数が居なくてもなんとかなってますから!!」
「お前ら人数居ないからそもそも試合してないだろ…」
「戦車道は人数足りなくても試合出来ていいなぁ…」
あー…うん、なんかごめんね。あと足りてないのは人数もそうだけど戦車がそもそも足りないんだよ。
人だけなら最悪、大洗の一般生徒から助っ人を募集するって手があるだろうが、戦車だけはどうしようもない。
「………」
どうしようもない…事もない、か。いや、この際形振り構ってもいられないのは事実だ。
「会長」
「…何?比企谷ちゃん」
フラッグ戦だと思っていた時から8VS30の戦力差をどう埋めるかはずっと考えていた。
しかし大洗の保有戦車は8両、これはどうやっても埋めようがない。
「…これから試合会場まで行くとなればまだ時間ありますよね?」
「そうなるね、会場は北海道だから船の移動になるかな」
ちなみに試合会場は北海道にある。ちなみになぜ北海道?と言われても試合会場は相手側の大学選抜チームが決めたのでわからない。
そう、誓約書でさらっと決められたが試合会場はなぜか対戦チームの大学側に選ぶ権利が与えられたのだ。
資料を見た所山岳地帯と潰れた遊園地跡が目立つフィールドだが大学側がここにした辺り、向こうにとって有利な地形の可能性は高い。
8両VS30両、殲滅戦、試合会場は相手側へ決める権利を与える。
…あのメガネ役人はずいぶんと嫌がらせが得意なようだ。
「なら、これから俺はちょっと別行動してもいいですか?」
だったらこっちも遠慮はいらないだろう。…むしろ、今までの相手と比べれば気持ち的にずいぶん気が楽なまである。
「…もうすぐ試合なのに今からどこ行くっていうのよ?」
「安心しろ、試合前にはちゃんと戻るつもりだ」
「あ!わかりました!!大学選抜チームへの潜入偵察ですね?」
秋山がウキウキとしながら答えた。あー…そうか、試合前に動くといえばそれもあったな。偵察とかしばらくしてなかったからなぁ。
「なら!もちろん私もお供させていただきます!!」
「秋山院…」
「ええっと…優花里さんですが」
「院ってなんだ?どっから出た?」
いや、だってそんな「やはり偵察ですか…、いつ出発します?私も同行しましょう!!」みたいノリされたらね。
「悪いけど同行はいらないから。つか、そもそも潜入偵察行かないし…」
「えぇ!せっかく大学選抜チームのパンツァージャケットを着る機会だったのに!!」
「やっぱそっちが主目的かよ…」
つーか高校戦車道だけじゃなくて大学選抜チームのパンツァージャケットまで持ってるのね…。こいつのクローゼット、いろんな学校の制服やらパンツァージャケットやらがぎゅうぎゅうに詰まってそう。
「そもそも…ほら。今回は俺も試合に出るからな、偵察に出て捕まったら元も子もないだろ」
今までなら捕まって捕虜扱いにされてもどうせ試合には出ないのでダメージは無かった訳だが、今回ばかりはそうも言ってられない。
捕まって試合に出れませんでしたー!!とか、男子学生である俺の試合参加の為に労力をさいてくれた戦車道連盟やらしほさんやらに申し訳なさすぎる。
「じゃあどこ行くのよ…」
「これって八幡君の隠してた事…かな」
あんこうチームがじっと俺を見てくる。…これは、まぁ、誤魔化す訳にもいかないか。
「…聖グロリアーナ、ダージリンさんの所」
「えぇっ!?」
俺の言葉があまりにも意外だったのか、あんこうチームの5人は顔を見合わせた。
「は、八幡君…大丈夫なの?」
「え?何が?」
「何がって…ダージリンさんに決まってるじゃないの!!」
それ、遠回しにダージリンさんが大丈夫か?って聞いてない?まぁ俺も時々、この人大丈夫かな?って思う事はあるが。
「いや、まぁ…なんか警戒しすぎじゃないか?」
「…それは、その、相手がダージリンさんですから」
「比企谷殿が心配です…」
「だから何の心配だよ…」
「知らぬが仏、だな」
心なしか少し機嫌が悪いようにも見える冷泉がボソッと呟いた。なんか異様なまでにあんこうチームの面々がそわそわとしている。
まぁダージリンさん、大洗との戦いには全戦全勝であんこうチームも毎回やられてるからな、警戒する気持ちもわからんでもない。
「大丈夫だろ、別に取って食われる訳じゃないんだから」
「取って…」
「食われる」
「いや、そこ繰り返すなよ…、なんか不安になるだろ」
…とはいえ、やはりダージリンさんに連絡を取るしかない。これが上手くいくかは別として、ここで何もしないのは論外だ。
『遅かったわね、マックス』
数回のコールでは繋がらず。…さすがにいきなりはまずかったかと一度電話を切ろうかと考えたがダージリンさんが出てくれた。
あのエキシビションマッチからまだそれほど日はたっていないというのに、ずいぶんと久しぶりにこの人の声を聞いた気がする。
それにしても、遅かった…か。この人の事だ、もしかしたらおおよその状況はもう掴んでいるのかもしれない。アッサムさんとか、情報収集得意だし。
「…ずいぶんと待たせてしまいましたね」
『待つ事は嫌いではないわ。Good things come to those who wait、待つ者には良い事がやってくると言うでしょう?』
『19世紀のイギリスの詩人、ヴァイオレット・フェインですね。マックスさん、こんにちは』
電話越しでもきちんと解説が入るペコの有能っぷりよ。要するに【果報は寝て待て】とか、【待てば海路の日和あり】みたいなもんだろうか。
「あぁ、ペコも久しぶりだな」
『ふふっ…はい、エキシビション以来ですね』
『ペコ、今は私がマックスと話しているのだけど?淑女として、人の電話に割り込むのはどうかしらね』
『なかなか電話に出ないダージリン様に代わって、私から電話しても良かったんですが』
『残念ね、マックスは私に電話をくれたのよ』
『そんな事言ってもダージリン様、最初は電話に出ようかずいぶんと悩んでいたじゃないですか』
…なにこれ?もしかして地獄のホットラインにでも繋がっちゃったの?通話料安そう。
『こほん…それで、あなたの方はもう大丈夫かしら?』
「そりゃあもう、風邪も引いてませんよ」
『そう、それは良かった』
その彼女の声色に、本当に心配してくれていた事が伝わってくる。
思えばエキシビションマッチが終わってからすぐ大洗廃校の問題が起きたおかげでろくな挨拶も出来なかったのが今さらながら申し訳なく思う。
「…俺は問題ありませんが、大洗に関して、その、ちょっと相談したい事があります。今から会えませんか?」
アポも無しの当日。ぶしつけなのはわかっているが、大学選抜チームとの試合まではとにかく時間がない。
『えぇ、構いません事よ』
だが、ダージリンさんは悩む素振りもなく、すぐに答えてくれた。…なんか電話出るのに悩んでたっぽいので不安だったんだが。
「…助かります」
『いいのよ、私もちょうどあなたに相談したい事があるの』
「はぁ…俺に相談ですか?いや、こっちがお願いしてる手前、もちろん構いませんけど」
もうこの際プロムでもなんでもやったって構わない。なんなら芸能人の格付けをチェックする社交ダンス部門で絶対選んではアカンクラスのダンスを見せても良いだろう。
『それは良かった、あなたが聖グロリアーナに転校して来た時に着る執事服のデザインについて、是非あなたの意見も聞かせて貰いたいの』
「…はい?」
『あぁ、サイズの方は心配いらないわ。前に着て貰ったタキシードのデータはアッサムが残してくれてますのよ』
…やべーよ、取って食われそうだぞこれ。
「まぁ、そういうのも含めた相談って事で」
とはいえ…まぁ、行かないといけないよな。
結局、文科省との交渉はそのほとんどがしほさんと戦車道連盟、そして会長によって進められていた。
情けないが俺はといえば、後半ほとんどやる事もなかったので出されてた干し芋アイスをモグモグと食べてたくらいだ。いや、アイス溶けちゃうと勿体無いし…。
だから…まぁ、ここからは俺の番、という事だろう。結局、試合に出ても出なくても、試合前にやれる事は全部やっておかなくてはいけない事に変わりは無いのだ。
『えぇ、素敵なお茶の場をご用意しますわ』
…これがたぶん、最後の交渉の舞台になるだろう。
「…そんな訳で俺は別行動で聖グロリアーナに行ってくる」
後は細かい打ち合わせ…というか、主に俺の移動の手段だが、そこは聖グロリアーナ、迎えは寄越してくれるらしい。
「そもそも私達はどういう理由で聖グロリアーナに行くのかも聞かせていませんが」
あんこうチームがじーっと俺を見てくるのに居心地の悪さを感じるが、それは当然の疑問だろう。
「…あー、うん、ちょっと一杯飲みに?」
だが、その疑問に答える訳にはいかない。そもそもが俺のやろうとしている事は実現するかもわからない、言ってみれば机上の空論でさえある。
まだ作戦に組み込める段階でもないし、下手に話して実現出来なかった日には最悪の結末しか想像できないまである。
「そんなうちのお父さんみたいな事を…」
「私達にも内緒で、しかも聖グロリアーナだよ!ダージリンさんの所だよ!!」
「いや、だからダージリンさんの事警戒しすぎだろ…」
今から大学選抜チームとの試合だというのに、なんならダージリンさんの方を警戒してるまであるんだが…。
「…八幡君にはなにか作戦があるんだけど、今はまだ言えないんだよね?」
「まぁ…そんな所だ」
ずっと黙っていた西住が確認するように聞いてくる。その表情は真剣で、いつもの戦車道をやる西住のものだ。
「…うん、わかった」
だが、彼女はそれを了承してくれた。
…隊長である彼女にとって、理由も話さない俺のこの行動は厄介なものでしかないだろうに。
「西住殿…」
「みぽりん、いいの?」
「八幡君には何か考えがあると思うから…任せてみよう」
「…悪いな」
…俺のこんなやり方を彼女は信じて任せてくれる。なら、この交渉は絶対にしくじる訳にはいかなくなったな。
「それと…みんな、ちょっと良いかな?お願いがあるんだけど」
「え?なになに?」
「どうしました?みほさん」
「わかった」
「なんでもおっしゃって下さい!西住殿のお願いならなんでも聞きますから!!」
秋山の模範解答に心の中で頷きながら…ここまでの信用を貰ったのだ。俺だってなんでもはともかく、できる事があるならしようと思う。
例えば女子五人に混ざって輪を作るのが恥ずかしいとか、そんな事も今さら言ってられない。そこは仕方ないので許して欲しい。
はて?しかしここに来てお願いとは、まだ何かあるのかしらと近寄ると…ビッと手でストップのジェスチャーを食らわされた。
「…えーと、西住さん?」
「八幡君には…えと、その、内緒の話だから」
「…むしろ俺にだけ内緒なの?」
…まぁ、俺も聖グロリアーナに行く理由を内緒にしてるから人の事とやかく言えた義理じゃないんだが、こうして本人が目の前に居るのに内緒話はさすがにひどくない?
「うん。私達も八幡君に隠してる事、作るから」
…そうそうその感じ。それをさっきのメガネ役人とのやり取りで発揮できないもんですかね。うーん…やはりあのしほさんの娘さんだなぁ。
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ー
【おまけ:八幡捕虜ルート】※ノリと勢いで書いたマジおまけです。深く考えず、適当に見て下さい。
「…いや、潜入ルートじゃなくて、もうこれ捕まってんの?展開はしょりすぎだろ」
しかも捕虜として連れてこられたこの部屋、テレビとレコーダーのセットが一つ置いてあるだけなんだが…。
「ここはあなたの為に用意した部屋」
この子は…大学選抜チームの隊長、島田 愛里寿?まさか隊長自らが捕虜に拷問…は、さすがに無いか、そもそもこんな小さい子どもだし。
「あなたにはここでボコの良さを知って貰う為にボコのアニメを見てもらう」
「…はい?」
「まずテレビシリーズのDVDから」
…まぁ、どうせ捕虜の間退屈だろうし、良いんだけど。
「それが終わったらブルーレイ版」
…はい?
「それが終わったら私が録画したバージョンも」
「それ、中身全部同じじゃないの?」
「…全然違う、やっぱりボコの事がわかってない」
「全部同じじゃないですか!?」と言った俺に対して「これだから素人だ駄目だ」とでも言いたげに、彼女はDVDをセットするとちょこんと俺の隣に座った。
「ちなみに私がここに居るのはあなたの監視があるから」
…あー、うん。ボコのアニメ見たいのねこの子。
「…ちなみにテレビシリーズ全部見終わったらどうすんの?」
「大丈夫、劇場版もあるから」
「劇場版もあるのかぁ…」
「それが終わったら最終章…はまだ4章までだけど」
「なるべく早く5章が公開されるといいな…」
「…うん、待ってる、あと最終章だけど、それが終わってもボコはまだ続くはず」
「そうだな、続くといいな…」
「うん」
ガルパン最終章も4章が公開され、残す所あと2つ…早く来て欲しいような、そうでないような…。