劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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来た来た来た!劇場版で一番熱くて胸の踊る神場面がついに来た!!

男の子ってこういう展開好きだよね?はい、大好きです!!



そして、その声は平原に響き渡る。

「良い天気になって良かったですね」

 

「ですが予報では少し通り雨があるらしいですよ」

 

「えー…濡れちゃうのはやだなぁ、お肌にも悪いし」

 

「そこか」

 

「大事な所でしょう!!」

 

ドアの向こう、廊下からあんこうチームのそんな会話が聞こえてくる。…こんな日だというのに、呑気というべきか…頼もしいというべきか。

 

ジャケットを羽織り、改めて鏡に映った自分の姿を見つめた。…うーん、似合ってのかこれ?ちょっとモデルの男の子の目が輝いてないせいかいまいちよくわかりませんねぇ。

 

パンツァージャケット、もしくはタンクジャケットでも良いが、これは戦車に乗る為のユニフォームみたいなものだ。

 

基本的には大洗の戦車道メンバーが着ているものと違いがある訳でもない、単純にスカートがズボンに変更されたもの。…うん、そこ変わらなかったらとても着れたもんじゃないからね。

 

それは被服科の生徒達が作ってくれたこの世に一つとない特注のオーダーメイド品。男子学生用のパンツァージャケットだ。

 

うーむ…、大洗のパンツァージャケットなら散々見慣れているだろうに、鏡に映る自分の姿にはどうにも見慣れない、ぶっちゃけ違和感ハンパない。

 

…それもそうか。これを着て、しかも試合に出る日が来るなんて誰が想像出来たって話だし。

 

「…準備できたぞ」

 

まぁ、似合っても似合わなくても、これを着てないと試合に出られないので着てくしかないが。ちなみに先のエキシビションマッチでは制服で参加させて貰ってたがあれはあくまで非公式での話だ。

 

「もー!遅いよ比企谷!!」

 

「まだ着なれてねぇんだよ、てか普段お前らのがこういう支度遅いからな?」

 

「そりゃ女の子は準備に時間がかかるものだからね、今日もばっちり決めたんだから!!」

 

「沙織さん、今日は朝早くから無駄に気合い入れてましたもんね」

 

「おかげでうるさくて起きてしまった…ちゃんと二度寝したが」

 

辛辣ぅっ!五十鈴さんさらりと容赦ないよね…、いや、試合中も戦車の中にいるんだし、そりゃ誰が見るんだって話なんだが。

 

あと冷泉、二度寝すんな…と言いたい所だが、Ⅳ号の操縦手故に寝不足で調子出せませんでした。とかならなくて良かったとここは思いたい。

 

「だってほら、今日の試合も決勝戦の時みたいにテレビで中継されるかもだし」

 

「いや無理だろ、今日の試合は特例も特例だぞ?」

 

確かに戦車道全国大会の決勝戦はテレビ放送がされていたし、試合の規模だけでいえば今回はその試合よりもずっとスケールも大きい。

 

【大学生の選抜チームVS全国大会の優勝校】とその実態を知らずに字面だけ見てとらえればなんとも視聴率が取れそうなタイトルだ。

 

「なんせ比企谷さんが出ているからな、テレビで映せるはずがない」

 

「…そこだけ切り取ると俺が放送禁止の対象みたいになってんだけど?」

 

「…別に間違ってはいないのでは?」

 

間違ってはいないんだよなぁ…。

 

乙女の武芸たる戦車道の試合に男子生徒が参加する。というイレギュラー故、今回試合のテレビ中継は行われない。

 

まぁお茶の間からすれば俺の事情なんて知ったこっちゃないだろうから、戦車道の試合見る為にテレビをつけたら目が腐ってる男子生徒が映ってた。なんて放送事故にも繋がりかねないしな。

 

いや、お茶の間を凍りつかせるだけならまだマシだが熱狂的な戦車道ファンからクレームが来る事だって考えられる。

 

戦車道の男子部門は戦車道連盟も考えてはいるが、あくまでもそういう話がある、というだけでまだ公表している訳でもないのだから。

 

「うっうう…おかげでこの試合を録画して永久保存しようと思ってた私の予定が…ダビングして観賞用と保存用と布教用に分けようと思ってたのに」

 

「いや、布教すんなよ…」

 

みんながみんなしてテレビに映る俺見て「誰こいつ?」みたいになるじゃん…、扱いがもう呪いのビデオなんだよなぁ。

 

「これから試合に出るんですから録画は必要ないのでは?」

 

「試合も良いですけどテレビで見るのもまた違った視点と迫力があるんですよぉ!特に相手チームの動きなんかも見れますから」

 

なんでも秋山は全国大会の試合もテレビ中継された決勝戦だけでなく、他の試合も全て録画しているらしい。地上波には放送されてないだけで戦車道用のチャンネルがあるとかなんとか。

 

「そうだ!比企谷殿の顔にモザイクをかけて貰うのはどうでしょう?声も機械で誤魔化せればテレビ中継だっていけるはずです」

 

「もう完全に扱いが犯罪者のそれなんだよなぁ…」

 

あと、言わないけどわいせつ物扱いじゃん…。俺がアップになるとテレビ画面にモザイクしか映んない事になるんだけど、それ永久保存するつもりなの?

 

「ゆかりんは戦車道の事になると一直線だもんね」

 

「てか、例え俺にモザイクかかっててもテレビ中継は無理だ、文科省側がNG出すに決まってる」

 

意外…でもなんでもないが、この一件に関しては文科省のメガネ役人と初めて意見が一致したと言える。

 

俺はもちろん先ほどの理由からテレビに出る訳にはいかない。女子武芸に紛れ込む男子学生とかいう全国デビューはごめんこうむるからだ。

 

もし放送されるなら秋山の言ったようにモザイクかけてプライバシー保護の為に音声変えて貰わないと。…やっぱり犯罪者なんだよなぁ。

 

一方文科省側の方は…。

 

「8両VS30両の殲滅戦仕掛けといて、それを全国放送された日には文科省側にもクレームが来るのは目に見えてるからな」

 

【大学選抜チームVS全国大会優勝校】と、タイトルだけ見れば視聴率は稼げそうだが、実際はクソマッチングを仕組んだ事が全国放送で露見する事になる。そんな糞試合、誰が見たがるのか。

 

「だから文科省側もテレビ中継はNGだと、表向きは俺への配慮だのなんだの言ってたけどな」

 

「…大人の事情、か」

 

「まっ…これくらい予想できた事だ、こっちに直接ダメージがないぶんまだマシだろ」

 

「でも、私は納得できません!!」

 

「まだ言ってんのかよ…」

 

「だって、せっかくの比企谷殿の初試合なんですから、大切に残しておきたかったんですよ…」

 

「…いや、例えそのやり方で残せたとして、俺にモザイクかかってるからね」

 

きっと、この試合は記録には残らない。結果がどうなっても、試合の詳細は文科省も戦車道連盟も、決して表には出さないだろう。

 

「なら、せめて私は比企谷殿の勇姿を目に焼き付けます!…あの、そのパンツァージャケット、似合ってますよ」

 

「…まぁ、そういう事なら無修正で一つ頼むわ」

 

「えぇ!もちろんモザイク無しですからね」

 

だからこれは、ごく一部の人達だけが知る、記憶に残る戦いにすればいい。…あと秋山、あんまりモザイクモザイク言わないでね?ほら…別のあれ連想しちゃうじゃん。

 

今はそのごく一部の人達を増やしたい所なんだが…。

 

「………」

 

チラリとスマホを見るが連絡はない。当日、ここまで動きが無いのなら…。

 

「…どうしました?」

 

「あぁいや、そういえば西住はどうした?」

 

あんこうチーム…とは言ったが、西住の姿は見えない。

 

「…みぽりんなら先に行ってるよ」

 

「まぁ隊長だしな、準備もあるか…」

 

試合開始までもう時間はない。あの夜、西住はあぁ言ったが大洗の命運がかかった試合、そしてこの戦力差。

 

「………」

 

プレッシャーを負うな。…てのは無理な話か。

 

「…比企谷」

 

「ん?」

 

「行ってあげなよ、みぽりんの事…気になるんでしょ?」

 

「いや、こっちもまだ試合の準備があるだろ」

 

砲弾の積み込みに戦車の最終チェック、試合前だってやることはたくさんある。

 

「こちらは私達でやっておきますから」

 

「任せておけ」

 

「えぇ、みほさんの事、よろしくお願いしますね」

 

ここまであんこうチームが背中を押してくれるなら、ここで動かないのは嘘だろう。

 

「…悪いな、ちょっと行ってくる」

 

背中を向け、歩きながらも、せめて彼女達の気持ちには答えようと軽く手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「相手を山岳地帯に誘き寄せて、分散させて…」

 

「…西住」

 

「各個撃破できれば勝機は見えてくるはず…」

 

「西住」

 

「でも、相手は経験も実力も上。…もしかすると今回ばかりは…」

 

「西住!!」

 

「ひゃうっ!?は、八幡君!!」

 

「…あぁ、良かった、俺ちゃんと見えてる?」

 

「え?うん…見えてるけど」

 

いや、あんまり声かけても反応無かったからてっきりスキル【ステルスヒッキー】が知らんまにパッシブスキルになったのかと。

 

いやでも、ただでさえ最近レベル落ち気味なステルスヒッキーだしなぁ。…これに気付かないとか、西住も相当余裕が無いのだろう。

 

「…もしかして聞いてたの?」

 

「…少しだけだけどな」

 

「八幡君に恥ずかしい所見られちゃったなぁ…」

 

…西住さん言い方、ちょっとその言い方誤解を招かないかな?

 

「てか、今のが恥ずかしい所か?」

 

「指揮官はどんなに苦しい状況でも、それを周りに見せないように…っていつも言われてたから」

 

まぁ…状況が状況とはいえ、あの西住が「今回ばかりは…」と言いかけたもんな。

 

「ほーん…立派だな、俺なら不平も不満も山ほど言う所だ」

 

「あはは…、うん、八幡君はそうかも」

 

「だろ?これがあんがいすっきりするもんだしな、科学的に見ても愚痴ってのはストレス発散のやり方の一つとして効果的らしい」

 

つまり、仕事に対して愚痴を溢す事はメンタルケアの為に必要不可欠な動作なのだ。仕事のストレスを仕事の愚痴で打ち消す。…初めから仕事なんて存在しなければ愚痴も生まれないやさしい世界が出来上がるのでは?

 

「でも、あまり言いすぎるのは良くないと思うけどな…」

 

「言わなすぎるのも良くないらしいぞ」

 

「…じゃあ、八幡君なら聞いてくれる?」

 

くるりと西住は顔をこちらに向ける、少し不安げにじっと俺を見つめてきた。

 

「自慢じゃないが俺は人の愚痴を言いふらせる程仲の良いやつが…まぁ居ない訳じゃないが。そんなには居ないからな、ある意味最適解まである」

 

「本当に自慢じゃない…、八幡君が誰かに言いふらす心配なんてしてないよ」

 

「…なら、壁だとでも思って、不平も不満もぶつけてくれればいい」

 

「…不平も不満も無いよ。だってこの試合は会長と八幡君が頑張って取り付けてくれたんだから。不安は…今はもう、なくなったかも」

 

「…そうか?」

 

「うん、確かに相手は数も、実力も、経験も上だと思う。けど、今回は私達もいつもと違うから」

 

「…なんかあったっけ?」

 

全国大会では決勝戦へ向けて自動車部のポルシェティーガーの参戦、生徒会のヘッツァーカスタム、Ⅳ号へのシュルツェン装着と、微力だが戦力増強は出来た。

 

だが今回は試合までの期間も短く、その手の戦力増強は不可能だ。あの時と比べれば時間も経った事で選手個人としての技量は上がってるだろうが…。

 

「今回は八幡君が試合に出て、私達と一緒に戦ってくれる。それがわかったから、もう不安もないよ」

 

「うわー…プレッシャー」

 

つまりそれ、俺一人で相手との戦力差を埋めろって言ってるようなものですよね?相変わらず無茶振りするなぁ…。

 

「正直、ご希望に添えれるかはわからんぞ?」

 

「…でも、無理とは言わないんだね」

 

「俺一人ならすぐにでも両手を上げてる所だけどな。なんなら今回も両手ならとっくに上げてる、もちろん降参って意味じゃないが」

 

「…えーと、じゃあどういう意味なのかな?」

 

知らんのか西住?降参以外で両手を上に掲げる必要のある動作なんてこの世に一つしかないだろう。異論?もちろん認めない。

 

「あれだ、力を集める元気の玉。あれみたいなもんだから実際集まるかはまだ微妙なんだよ」

 

なので今は「高校のみんな!大洗学園に戦力を分けてくれ!!」の真っ最中なのだ。…両手上げ続けてもう試合当日かぁ…、そろそろ手がしんどくなってきた。

 

「ごめん、本当にどういう意味なの…?」

 

え?あの技は邪悪な心を持った人には扱えないって?いやほら…作中、どう見ても邪悪な敵サイドの人造人間さんも出来るって言ってたし…。

 

…うーん、これは集まらないのは俺のせいなのでは?きっと西住が声をかけたらウルトラな元気の玉が出来上がるんだろなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「ではこれより、大洗学園対」

 

審判団を率いた蝶野教官の号令に西住と。

 

「大学選抜チームの試合を行います」

 

そして相手チームの隊長、【島田 愛里寿】が前に出る。

 

その姿は間違いなく、あの日、ボコミュージアムで出会い、一悶着のあったボコ好きの少女だ。

 

…まさか大学生で、しかも対戦相手で、隊長とかね、どんな確率なの?

 

「………」

 

「っ!!」

 

ふと、彼女と目が合い睨まれた…気がする。いや、前に出ているのは西住と島田の少女の二人なので俺達試合選手は後方で待機しているだけなんだが。

 

…いや、ボコミュージアムでの一件を考えれば睨まれてもおかしくはない。あれもまた、俺がその場しのぎでやらかした結果のツケが回って来たともいえる。

 

つーか、別に俺を見てるのは島田 愛里寿だけじゃないんだけどね、なんなら相手チーム全員俺の事見てるまである。

 

そらゃそうだ、大学選抜チームからすればマジで「誰?こいつ…」みたいな場違い感があるからね。

 

…だからこそ、よくわかる。

 

島田 愛里寿の後ろにずらりと並ぶ大学選抜チーム…その圧倒的な人数が、俺達大洗学園との戦力の差が嫌でも目に入るのだ。

 

30両の戦車と、それに乗る選手。その数の差が一目でわかってしまう。

 

「一同…礼!!」

 

…始まってしまう。8両VS30両の殲滅戦が、圧倒的な物量差による、蹂躙が。

 

「よろ…」

 

西住が頭を下げ、試合開始の挨拶を言いかけた。

 

ーーーその、瞬間だった。

 

「待ったーーーーーーーっ!!」

 

その声が、平原全体を駆け抜けるかのように響き、俺は深く、大きく、安堵の深呼吸をついた。

 

来た、来て…くれた。

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