劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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こうして、その戦車は彼の元へ届けられる。

「俺の乗る戦車って…増援はこれで打ち止めでしょう?」

 

平原に駆け付けた21両の戦車、これに大洗の保有戦車8両を加えての29両。

 

残りの1両は見当たらないし、なんならこちらに向かって来ている戦車も居ない。

 

「ハァイダージリン!もういいかしら?」

 

「えぇ、お願いね、ケイさん」

 

不思議に思っている俺をそっちのけでケイさんが手を上げるとダージリンさんがそれに答えるように頷く。

 

「OK、じゃ、派手に降ろしちゃって!!」

 

『イエス、マム!!』

 

…はて、降ろす?

 

「頭上注意よマックス、Aprilwetter und Weiberwill ändern sich stets viel und schnell、4月の天気は変わりやすい、とは言うでしょう?」

 

「今はもう夏真っ盛りなんですが…」

 

「これはドイツのことわざだな」

 

珍しくペコではなく姉住さんが解説を入れてくれる。まぁ…別にドイツに限らなくても4月は『春に3日の晴れ間無し』とか日本でも言われてるくらいだ。

 

「へぇ、ドイツもそうなんですか?」

 

「あぁ、気温の高い日の翌日には雪が降る事もある」

 

日本とはちょっと思ったよりスケール違うなぁ。まぁ学園艦生活も似たようなもんだったけど、なんでわざわざ雪とか降ってる地域に運航すんの?あれ絶対住民への嫌がらせだろ…。

 

「4月の天気とトランプの運は瞬間事に決まる、ともいう」

 

「あら、まほさん、もう一つあるのではなくて?」

 

「…もう一つ?」

 

「4月の天気と女心はころころ変わる。という意味よ。覚えておくと良いわ、マックス」

 

「4月に限定されてる分、まだ日本よりはずっと温情がありますよね」

 

なんせ日本と来たら女心が変わりやすいのはは秋全般らしいからね、しかしこうやって世界中のことわざを拾ってけば結局、一年全て制覇出来てしまうのでは?

 

「それだけ女性の心は変わりやすいのよ」

 

「まぁ…そもそも女性に限らず、人の心なんてころころ変わりやすいもんですから」

 

「うわぁ…」

 

ペコが軽く引いてる気がするが気にしない事にする。というより、今の俺にはもっと気にするべき事があった。

 

「…というか、頭上注意?」

 

空を見上げると向こうから見えてくるものには見覚えがあった、廃校宣言を受けた日の夜に大洗の戦車を救ってくれたあの光。

 

昼間の今ならばその存在感は更に増して見える。

 

「C-5Mスーパーギャラクシー…」

 

サンダース大の保有する大型輸送機だ。このデジャブ、大洗の戦車を返して貰った時もこんな感じだったな。

 

...て事は、もしかしてアレ。

 

「さぁ!エイトボール!あなたの戦車の御披露目よ!!」

 

スーパーギャクシーから降下された戦車は俺達とは少し離れた場所へと直下する、相変わらず乱暴だが…まぁ、今回は町中じゃなかっただけまだマシだろう。

 

「あぁ!あれは…」

 

秋山の叫ぶ声が聞こえてくる。俺も、降下の最中からずっと目が離せなかった。

 

「M4A3E8…『イージーエイト』」

 

その優秀さにおよそ5万両は生産された大ベストセラー戦車ともいわれるアメリカ軍M4中戦車、通称シャーマン。

 

ちなみにシャーマンといってもキングを目指してるやつでもフラワーズしてるやつでもない。完結&続編、おめでとうございます。

 

その生産量での長期運用により、ファイアフライ等多くの派生シリーズも作られたシャーマン戦車。

 

このM4A3E8もそのシリーズの一つ、通称シャーマンイージーエイト。別名、赤い彗星…じゃなかった。赤い悪魔。

 

「…これ、サンダースの隠し球って訳でもないですよね?」

 

サンダース大学付属高校の主な戦力はM4、そしてファイアフライ。同じシャーマンシリーズではあるがイージーエイトはそのシャーマンシリーズの中でも大戦後期に生産されたものだ。

 

隠し球を今年の戦車道全国大会で出して来ない理由も無い、…いや、一回戦だからあえて出さなかったという可能性もあるが。

 

「今日の日の為に私達サンダースで預かっていた、ある人からあなたへのプレゼントよ!」

 

「え?じゃあこれ貰えるんですか!名義変更とか車庫証明ってどうやるんでしたっけ?」

 

いや、まずは名前を書いとこう、名前大事。これでもう立派なうちの子だよね。

 

「あら、比企谷君、何をしてるのかしら?」

 

「教官?いや、なんか戦車貰えるみたいなんで…」

 

「あらそうなの、それは良かったわね」

 

「いやー、世の中太っ腹な人も居るもんですよね」

 

「ところで比企谷君、戦車の維持費や燃料費がいくらくらいかかるかは知ってるかしら?」

 

「…あくまで私物として、大洗学園で預からせて貰います」

 

まぁ…ね。伊達に大洗の戦車道に関わって来ていない訳じゃない。戦車の維持においくら万円かかるのは貧乏学園の大洗が一番よくわかっているというものだ。

 

「そうね、あとでこわーい人達が返して貰いに来るかもしれないから、大事に扱った方が良いわ」

 

やだ、このお姉さんこわーい…。

 

「でも良いわねイージーエイト!あなたにもっとも似合ってる戦車だと思うわよ!!」

 

「…一応聞いときますけど、何でです?」

 

「あら、そんなの決まってるでしょう?」

 

蝶野教官はニコッと会心の笑みを浮かべると俺に向けてビシッと指を指した。

 

「あなたの乗る戦車だからよ、比企谷 八幡君」

 

「ダジャレかよ」

 

あぁ…そういやこの人、こんなノリの人でしたもんね。

 

しかし八幡だからイージーエイトって…ちょっと安直なのでは?まぁこれでなんの捻りもなく八九式とかだったらどうしようって話だが。なお、バレー部…。

 

「もしかして不満だったかしら?」

 

「いや、嫌いじゃありませんし、むしろ好きまでありますが…。良いですよね、イージーエイト、嵐の中でも輝けそうですし」

 

俺にはあの熱血は真似出来そうにはないが...。良いよね、寄せ集めのパーツで改修した主人公機とか、嫌いな奴居るの?

 

「では大洗学園、最後の30両目の戦車はM4A3E8、イージーエイトで登録するわ」

 

「…ありがとうございます、教官」

 

「さぁ、なんの事かしら?」

 

あくまでもシラを切る教官の背中に向けて頭を下げる、これ以上詮索するのは野暮というものだろう。

 

これで大洗学園、最後の出場戦車が決まった。

 

「…とはいえ」

 

もちろん問題はある、なにを隠そうその問題とは。

 

「これ、1人乗りじゃないよな…」

 

「当たり前です!シャーマンシリーズは基本的に5人乗り、車長、操縦手、砲手、装填手、通信手が必要ですからね!!」

 

いや、今更解説されんでもそこはわかっている…、わかっているから悩んでんだよ。

 

「まぁ、最悪操縦さえ出来ればなんとかなるか…」

 

とりあえず戦車が動かなければどうにもならないので操縦手は必要不可欠だ。

 

「砲撃はどうする?この戦車の火力を戦力に含めない理由は無いと思うが」

 

「…止まってからすればなんとかなりません?」

 

姉住さんのツッコミは当然だが、とりあえず停車して砲手の席に移動して…。

 

「それだと装填は誰がするの?自動装填機能は付いてないわよ」

 

「…そうですね、先に装填してからになりますか」

 

「各車との連携を取る為にも通信も必要よ、特にカチューシャの命令は絶対聞きなさいよ!!」

 

「…ワンオペでこれ全部やらされるとか、どこの牛丼チェーン店でもやらないブラックさなんだが」

 

「というか、一人で全部やる事が前提な比企谷殿がおかしいと思うのですが…」

 

いや、だってねぇ…。

 

「煮え切らないわね...。そもそもさっき操縦さえ出来ればって言ったけどあんたがまともに操縦出来るとは思えないんだけど?」

 

大洗生徒Eさんがイライラしているのが手に取るようにわかる。ふっ…あまり俺を舐めるなよ。

 

「整備後の試運転ならお手の物なんだが?」

 

「そう、素人に毛が生えた程度って事が良くわかったわ」

 

いや、それでもわりと剛毛な方だとは思うんだが。ほら、俺の頭にも1本、謎に髪の毛立ってますし…。

 

「その程度じゃ砲手の方も期待は出来ないでしょうね、あとは…装填はともかく、通信手の適正は無い」

 

「おい、最後のはおかしいだろ、俺は日常会話は苦手だが業務連絡系統には自信がある、むしろ通信手なんかは適正だと思うんだが?」

 

「今の話を聞いて確信したわ。車長以外、どこにあなたのポジションがあるの?良かったわね、リーダーになれて」

 

「技術が無いから仕方なく上に上げて仕事から遠ざけるやり口じゃねーか。なにその悲しい出世、確実に現場から陰口叩かれるやつじゃん」

 

しかし、得てして世の中不思議とこうやって出世していくやつの多い事…、まぁ技術のある人が現場を離れる訳にはいかないもんね。

 

「お前それ消去法って言うんだぞ…」

 

「わかってるじゃない、だから大人しく車長やんなさい」

 

大洗生徒Eさんはよほど俺にずけずけと言えた事にご満悦なのか、先ほどのイライラが嘘のように憎たらしく微笑む。

 

「…アッサム、例のものを」

 

「えぇ、わかってます、ダージリン」

 

そんなやり取りを見ていたダージリンさんが急にアッサムさんを呼ぶと、彼女もいつからスタンバっていたのか、なにやらスッとノートを取り出した。

 

「…なんですか、それ?」

 

「あぁ、これですか?せっかくこれだけの高校が一同に集まっているのですから、貴重なデータは残しておこうと思いまして」

 

「注目する必要のある生徒の情報は今後の為にも必要でしょう?」

 

「…いや、大洗の命運がかかってる試合なんでそういう事されるとちょっと」

 

集まってくれた各高校は今は大洗の生徒として一緒に戦ってくれるだろうが、それはあくまでも短期転校という形を作ったこの試合だけの話だ。

 

昨日の敵が今日の友、とは良く言うが、当然逆もある。来年の大会ではまたお互い敵同士だ。

 

つまりここでデータを取られるとわかれば警戒され、実力を発揮しきれない事もある。

 

「安心して下さい、戦車道とはまったく関係の無いデータですので」

 

「…じゃあそれ、なんのデータなんです?」

 

なんかそういうデータとかあるんですか?って言われた時の返し用かな?

 

「そんなに気になるのなら見てみるといいわ」

 

「いや、でもこれ、聖グロリアーナ的には機密扱いなんじゃ…」

 

「先ほども言いましたが、戦車道とは関係の無いものですので、問題ありません、そもそもそのリストには名前くらいしか書いてませんから」

 

「はぁ…じゃあちょっとだけ」

 

そう言われれば興味が沸かないはずがない、アッサムさんからノートを受け取る。

 

それには確かに名前だけ書かれている。あんこうチームの全員の名前や姉住さん、カチューシャさんの名前等だ。

 

これだけ見れば戦車道で注意するべき相手生徒の名前のリストっぽいんだが、ナオミやノンナさんとか、そこら辺の有名選手の名前が無かったり、やたら片寄った印象を受ける。

 

というか、名前の横にある◎や○や△も気になる…、本当にこれ、なんのリストだ?

 

「ふん、黒森峰だったらそんなデータになんて頼らないわ」

 

…またこの大洗生徒Eさんは横から一言多い、とはいえチラチラ横目で見ている所を見ると相当気になっているのだろう。

 

「…ちなみにお前の名前は無いぞ」

 

あと、も一つちなみに名前なんだったっけ?Eツミさん?Eリカさん?

 

「え”っ…、そ、そう?ま、まぁ…別に気にはしないけど」

 

いや、めっちゃ気にしてるし、なんなら軽くショック受けてるまでありそう…。まぁ聖グロリアーナが警戒するべき生徒の中に名前無いとか、こいつのプライド的にも傷付くだろうし。

 

「安心して、今ちょうどあなたの名前も加える所だったのよ、逸見 エリカさん」

 

「あら、それは光栄ね」

 

…うーん、そしてこの一見冷静を装っているように見えて内心めっちゃ嬉しそうな感じ、わかりやすいなーこいつ。

 

というか、マジでなんのデータだったのこれ?気にはなるがこれ以上関わると蛇が出てきそうなのでやぶをつつくのは止めておこう。

 

「…どうやら話が逸れたようね」

 

「いや、あなたが逸らしたんですが?」

 

いや、こちらとしても話が上手い事逸れて助かっていた所ではあったんだが、さすがにこの問題を放置する訳にもいかない。

 

「みほさん、あなたの意見を聞きたいのだけど」

 

「は、はい…」

 

と、ここまでずっと会話に入りたくても入れなくてそわそわしていた西住の登場である。まぁこの子、引っ込み思案な所があるから。

 

「イージーエイト、彼は一人で乗るつもりのようだけど、みほさんから見てどうかしら?」

 

「それは無いです」

 

「…即答かよ」

 

「うん、八幡君の実力を発揮する為にも、メンバーは5人、フルメンバーが必要だと思う」

 

「…それは買い被りだ、ここに戦力を集中させてみろ?自然と他の戦力が減る事になるだろ」

 

イージーエイトに乗員を増やすという事は、当然どこか別の戦車から選手を引き抜く事になる。

 

それでプラスになれば良いけど肝心要の車長がね…、素人に毛が生えた程度の人(大洗生徒Eさん談)、となると全体から見ればマイナスになる事もあるだろう。

 

「それでも、私は八幡君にはフルメンバーで戦って欲しいと思うな。それに、イージーエイトは性能から見ても十分戦えると思うから」

 

「それはそう。…なんだが」

 

シャーマン・イージーエイトはシャーマンシリーズの中でも大戦の後期に活躍した戦車だ、スペック的には申し分ない所か、大洗の戦車の中では上位の部類に入る。

 

…本当、蝶野教官には感謝だな。

 

「比企谷、この試合は大洗の命運をかけた試合だ」

 

「…わかってますよ」

 

だからこそ、負けられない。負けられないなら…負ける可能性は潰しておくべきだ。

 

「だが、それと同時に君の実力を認めさせる必要のある戦いでもある」

 

「…っ!!」

 

「今の君は西住流が推薦してここに居る、もっと胸をはって良い」

 

『我々西住流の推薦です。…何か問題が?』

 

ふと、あの文科省の一室でのしほさんの言葉を思い出す。

 

この試合で何も出来なければ、俺は西住流の、あの人の顔に泥を塗る事にもなるのだろう。

 

…いや、それはヤバくね?後が怖いなんてもんじゃない。

 

「…とはいえ、じゃあ誰を乗せるかって問題が残りますけどね」

 

「それはあなたが決める事よ、マックス」

 

「…マジですか?」

 

「えぇ、だってこれだけの生徒が集まっているのだもの、あなたに必要な人も、必ず居るわ」

 

戦車に必要な人材。

 

戦車を動かす【操縦手】。

 

砲撃を放つ【砲手】。

 

砲弾を込める【装填手】。

 

周りと連絡を取る為の【通信手】。

 

必要なのはこれだけのメンバー。

 

うーん…小学生の時の「はい、二人1組作ってー」を思い出して胃が痛くなるなぁ。




ずっと悩んでいた八幡の搭乗戦車ですがM4A3E8、イージーエイトに決めました。活動報告にて案を下さったtappe2004様、本当にありがとうございます!!
スペック的に大戦後期という事で強めなので悩みましたがそこは八幡の実力が…まぁアレなのでバランス取れてるかなぁと。
決め手はやっぱり名前です(おいっ!)、あと、イージーエイトってのが小説を書くうえで書きやすい(おいっ!!)。

というか、もっと単純にイージーエイトが好き、倍返しだぁぁぁぁあ!!

あとは戦車メンバーを残すのみ!八幡の乗る戦車のメンバー全員を当てれた方から抽選で100名様にマックスコーヒーをプレゼント!!とかは特にやらないですがいろいろと予想とかしてくれれば嬉しいです。
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