劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
…大掛かりな準備が必要な反省会とは?
私事ですがコロナにかかりダウンしてました、本当ツラいので皆さんも気を付けて下さい。
「それで、他のメンバーはどうするんですか?」
まぁ…そこだよね、元々定員オーバーだったアンツィオのCV33だから悩む必要は無かったが、他の人員はどれもポジションは決まっている。
「ちなみにカルパッチョ、誰か希望とか無いのか?」
「あ!ならたかちゃんとかどうでしょう?」
いや…どうでしょうって。逆にそれでどうしろと?
「いやほら、たかちゃんだと装填手被っちゃうし…」
「たかちゃんはカバさんチームのリーダーとも聞いてますから、大丈夫なのでは?」
「あぁ、そういやカバチームは車長のエルヴィンじゃなくてたかちゃんがリーダーやってたな」
ややこしいとは思うが仲間内で決めた事なので口出しはしないが。
「たかちゃんたかちゃんと呼ぶな!カエサルだ!!特にヘルマン、わざとやってるだろ!!」
いや、この場合素でやってるカルパッチョの方がどうかと思うんだけど。
「しかしだ、良いのかたかちゃん?」
「なんだエルヴィン?…あとカエサルだ」
「このままではひなちゃんがヘルマンに盗られるのではないだろうか?」
「組発足の初期メンバーといえば隊内での番付も上位、比企谷組の夜明けぜよ」
なにその逆に取り締まられそうな組、というか人が集まらなすぎて組自体機能しなさそう。
「や、やはり私も入った方が良いのだろうか…?」
…なんかカエサルが入ると戦車内で延々と「たかちゃん」「ひなちゃん」とか言い合ってそう。最早ただの百合組なんだよなぁ。
「…なんの心配してるのか知らんが。まぁあれだ、カエサルのものはカエサルに、とか、なんかそういうやつだから、心配するな」
あとでちゃんと返すから、そこは気にしない事。いいね?
「…カエサルのものはカエサルに、か」
ちなみに意味は本来の持ち主の元へ返せと等で使われる。神の物は神の元へ、カエサルの物はカエサルの元へ、返さないとカエサルがカエセルにランクアップしたりするんだろう。いや、カルパッチョがカエサルのものなのかはこの際置いておくとして。
そこでこのイージーエイト、シャーマンシリーズの持ち主…という訳ではないが、この試合でシャーマンを運営するなら当然、あの学校は外せないだろう。
「…比企谷さん?」
「カルパッチョ、メンバーの一人なんだが…」
ーーー
ーー
ー
「いったい楽しそうになんの話してるのよ…」
そんな比企谷とカルパッチョのやり取りを遠巻きに見つめる少女が一人。
「そうよ!盗聴器でも仕掛けてやれば…」
やや思い詰めた表情でなにやら物騒な事を口走る彼女こそ。
「そんな事しなくても自分から行けば良いだろ」
「ナオミ!隊長まで!!」
「はぁい!アリサ、どうしたの?さっきからずっとエイトボールの方を見て」
サンダース大学付属高校の生徒、アリサ。そして彼女に声をかけたのは同じくサンダースのケイとナオミだ。
「アリサ、話が気になるのはわかるが盗聴器はさすがにちょっとどうかと思う」
「うっさいわね!冗談に決まってるでしょ!!」
「いや、冗談でその発想が出てくるのがどうかと思うんだが…」
「なに?なんの話?」
アリサからすれば幸運にも盗聴器の部分は聞こえていなかったようで、キョトンとした表情でケイが話を進める。
「エイトボールが誰をチームに選ぶのか気になってるんですよ」
「確かに気になるわね、(試合の)今後を左右する重要な問題だもの」
「そうなんですよ!(私の)今後を左右するかもしれない重要な話ですから!!」
「隊長もアリサも、何か噛み合ってない気がするが…、アリサは彼のチームに入りたいんだろう?」
「ちょっとナオミ!!」
「だったら立候補すれば良いじゃない、なんなら私から言ってあげようか?」
「いいから余計な事はしないで下さい!いいんですよ…どうせ私なんて選ばれませんから」
最初から選ばれないのなら立候補した所で余計に恥をかくだけだ、とアリサは顔をうつ向かせた。
「ワッツ!?どうしてそう思うのよ?」
「いやだって…通信傍受とかも、しましたし」
戦車道全国大会の一回戦、ルール違反という訳ではないとはいえ、アリサは大洗の通信を傍受するというやり方に出た。
それが彼の目にどう映っていたのかを当のアリサには知る術はないが、印象を悪くした自覚や負い目はもちろんある。
「あぁ、ずいぶんとつまらない事したものね」
「反省会もやりましたからね」
「反省会…うぅ、思い出しただけで寒気がするわ」
サンダースの反省会がどんな内容だったのか…それは身をもって体験した彼女がよくわかっている。
「でも、もうしないんでしょ?」
「い、イエス!マム!!」
「グッド!それにそんな事しなくてもあなたは優秀よ、だからーーー」
言葉を続けようとしたケイだが、近付いてきたある人物を見つけるとニッと微笑んで軽くアリサの肩を叩いた。
「…続きはエイトボールから聞くといいわ」
「はっ…?て、えぇえ!!?」
言われてアリサはすぐ近くに比企谷が来ていた事に気付いた、ケイは軽く手を振りながらその場を離れ、ナオミはクールにその後に続く。
「あー、アリサ、うちのチームの【通信手】なんだが…頼めるか?」
ーーー
ーー
ー
イージーエイトはシャーマンシリーズでも後期に生産されたものだが、シャーマン戦車の改良型だ。
カエサルのものはカエサルに、餅は餅屋に。これからシャーマン戦車に乗るならそれに詳しいメンバーは必要だろう。
そしてシャーマン戦車とくれば、高校生戦車道でシャーマン軍団を率いるサンダース大学付属高校。
「…そんな訳で通信手、やってくれると助かるんだが」
「そ、それならナオミでも良いじゃないのよ!砲手もまだ決まってないんでしょ!!」
「いや、ファイアフライの砲手をナオミ以外にやらせるのは論外だし」
ファイアフライは長距離狙撃にも適しているが、それはあくまで超高校級の砲手のナオミの腕があってこそだ。
ここでナオミをイージーエイトに乗せればファイアフライは狙撃力が損ない、結果的に全体の総合力は大幅減だろう。
「で、でもほら…私前に通信傍受とかしちゃったのよ?」
「…ん?それ、何が駄目なんだ?」
「…え?」
「…は?」
俺の疑問にアリサが首を傾げてきたので釣られてこちらまで首を傾げてしまう。
「別にルール違反してた訳じゃないんだし、問題ないだろ」
「…いやでも、戦車道のモラル的にも良くないでしょ?」
「仮にそうだとして、んなの通信傍受機を使ってはいけない、とかをちゃんとルールとして設けなかった連盟が悪いに決まってんだろ」
実際、そういう機械が実戦可能であるのだから。それを想定していなかった運営側のミスだろう。
「使えるもんはちゃんと使って勝ちを狙いに行く。ルールの穴をきちんとついたやり方はむしろ優秀なまである」
「…それで大洗には負けたんだから、なんだか皮肉にも聞こえるわね」
「まぁ、そこはそれ、バレバレだったから利用させて貰った訳だけどな」
「あんたらが偵察なんか来なければバレてなかったわよ!あんなの卑怯じゃない!!」
「いや、試合前の偵察はルール上OKだし…」
よくよく考えてみれば他所の学園艦に無許可で乗船するという、戦車道のモラル以前に、法律的なものとしてこっちのがずっとグレー寄りなのでは?
「まぁ、その通信傍受の件も含めて通信手はアリサが適任だと思ったんだよ、そもそも無線傍受にだって技術は必要だからな」
「…わかっているじゃないの」
ふふんと、先ほどまでの自信の無さげな彼女から一転、不適に微笑みながらアリサは顔を上げる。
「し、仕方ないわね、やったげるわよ!あなたの通信手にね!!」
【通信手:アリサ】
「…ところでアリサ」
ケイさんがちゃんと遠くに言ったのを確認して…、確かに遠くには行ってるけど、なんかしっかりこっち見てるんだよなぁ…あの人。
しかもうんうんとなにやら満足気に頷いたかと思うとグッと親指を立ててサムズアップ、横のナオミはというと腕を組んでじっとこちらの様子を見守っている。
…なにあの二人の後方保護者っぷり。仕方ないので二人には聞こえないようにする為にアリサに近付いた。
「ななな!き、急に何!?なんなのよ!!?」
「いや…大事な話があるんだが、ちょっといいか?」
確かに急に近付いたのは悪かったが、何もそこまで狼狽えなくても…え?急に近付いてキモかったとかならごめんね?
「だ、大事な話!い、今から試合なのよ!?」
「今から試合だからこそなんだが…」
「こ、これはアレね!アレなのね!!もしかしてこの戦いが終わったら…とか、そういうーーー」
「…その通信傍受機なんだが、今日持ってきてたりしない?」
「………………は?」
「いや、だから通信傍受機だよ、それで大学選抜側の動きが読めれば勝率も上がると思うんだが」
え?そんなのすぐにバレるって?まぁバレるはバレるかもしれないが、個人的な意見としては通信傍受機は打ち上げる事にこそ意味がある。
想像してみて欲しい、試合開始と同時に打ち上げられた通信傍受機、それを確認した相手がどういう行動をとるかを。
「この通信は傍受されてるかも…?」と疑心暗鬼を産み出せるだけで士気は確実に落とせる。
要するに、通信が傍受されてようがされてなかろうが、相手は傍受されている前提で行動するしかない。チームによる連携は確実に制限されるだろう。
仮に俺達大洗がしたように通信傍受を逆手に取るとしても、そうなると当然不自然なやり取りは必ず生まれてくるだろうし。
「持ってきてる訳ないでしょう!あの後私が反省会でどんな目にあったのか知らないでしょう!!」
普通にキレられた、なんならヒステリック気味に…、つーかサンダースの反省会ってマジでなんなの?
「はぁ~あ…、そうよね、あんたってそういうやつだもんね、心配してて損したわ」
「ちょっと、人にエーミール見たいな事言うの止めてくんない?」
そうかそうか、つまり俺はそういうやつだったのか、とか思っちゃうだろ…。
「なら、もう一つ…頼みがあるんだが」
「なによ!言っとくけど無線の傍受とかはもうしないわよ!!」
「いや、試合が始まる前、今だからこそ緊急でやって欲しい事がある」
「…試合の前に?」
俺はアリサにその【やって欲しい事】を告げる、それに対しての彼女の反応はと言えば…。
「…よくそんな悪魔みたいな発想が生まれてくるものね」
普通にドン引きされた。…うん、これに対してはそう思われても仕方ないとは思う。
「…自覚はあるけどな。それでも、大学選抜側の士気を落とすには試合前のこのタイミングこそベストだと思う」
「…でもこれ、また私が隊長に怒られるんじゃないの?」
「そん時は俺の指示だと言えばいい、まぁ…実際そうだしな。安心しろ、最悪本気だす、俺が本気出せば土下座も靴舐めも余裕だ」
「反省会送りでもそう言えるかしらね!!」
「サンダースの反省会ってマジなんなの?」
あの時あぁすれば良かったにゃーと5秒で終わるような反省会とは別物だったりするんだろうか…。
「はぁ…もし反省会になったら、あんたも私と一緒に参加すんのよ」
「…いや、そこは別に俺だけ出れば良いだろ」
自分で出した指示だ、それくらいの責任は取るつもりではある。…本当にそれくらいで済むのか不安になってきてるけど。
「馬鹿ね…」
だがアリサはスマホを取り出すと早速、俺の【やって欲しい事】に向けて操作を始めてくれた。
「さっきも言ったでしょう?あんたの通信手、やってあげるって」
少し意地悪く微笑む彼女を見ると、俺の作戦の効果自体はきっと覿面なのだろうと安心する。
ルールの穴をついて通信傍受機を打ち上げる。あの時の俺はまだ戦車道のルールについてそこまで詳しいとは言えなかったが、そういうやり方もあるのかと素直に感心した。
きっと、来年は彼女がサンダースの隊長になるだろう。もともと正攻法、正面からの戦いにはめっぽう強いだろうケイさんの下でその戦いを見てきたアリサ。
「さぁ、情報戦を始めるわよ」
そんな彼女が隊長として、こういう搦め手も使ってくるとなれば…来年のサンダースは恐ろしく強いのかもしれない。
そう思わせるような笑顔から、彼女の試合は一足早く幕を開ける。