劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
思わぬ長期連載となってしまった作品なので、ある種の集大成ともいえます。
「これがシャーマン・イージーエイト」
ようやくメンバーも決まった事で一安心…といきたい所だが、実際はまだスタートラインに立っただけだ。
いや、今のままではスタートラインにすらまだ立っていない、というのが現状か。
「なんだか自分の高校以外の戦車に乗るのは新鮮ですね…、アンツィオも最近ようやくP40が購入出来ましたけど、それまではずっとセモヴェンテとカルロ・ヴェローチェしかありませんでしたから」
問題はカルパッチョの言う通り、全員が全員、慣れない戦車にぶっつけ本番で乗る事になる事だろう。
はいそこ、戦車なんてどれも一緒とか言わないように、それ禁句だから。
むしろいろんな国がいろんな戦車を開発していたのだ、操縦性が国によってバラバラなのは当たり前だろう。
このままではサンダース出身のアリサはまだ良いが、他メンバーは慣れない戦車での戦いになってしまう。
「とりあえず試合開始までまだ時間はあるし、それまでに動かせるだけ動かして慣れて貰うしかないな」
一応、今はまだ試合開始までの作戦立案等の為の準備時間という事になっている。少ない時間ではあるが、これも蝶野教官が調整して作り出してくれた貴重な時間だ。
試運転、試し撃ち、通信テスト、装填の感触、ローズヒップの操縦への適応…と、やるべき事は山ほどある。特に最後の、マジで慣れないとね。
「心配はいりませんわ!!」
「自信満々だな…、わかってると思うがクルセイダーとは違うんだぞ?」
「もっちろん!わかってございますわ!」
本当にわかってる?リミッターとか外れないからねこれ。
「なんてったってイージーですから!つまり簡単って意味なのでございましょう?」
「…とりあえず、ローズヒップは後で全国のシローさんに謝るように」
「その前にうちに謝りなさいよ!?イージーエイトはシャーマンシリーズの中でも最終型なのよ!!」
およそ5万両生産された大ベストセラー戦車の名前は伊達ではなく、シャーマンシリーズは世界大戦中に幾度と改修され、後継機が生み出された。
このイージーエイトはその中でも大戦末期に開発された決定版…と言っても過言ではない。
「私、あんまり良く知りませんがシャーマンってそんなすごい戦車なんですの?」
「当然よ!なにせ、五万両も作られた大ベストセラー!丈夫で壊れにくいし、おまけに居住性も高い!!」
「確かに、T-34に比べても中は広いですね」
むしろT-34シリーズが狭めなんだよなぁ…、とはいえ、中が広いのは助かる。
なんでって?そりゃ、今からこの五人で戦車に乗る事になるので…ほら、男女比を考えればわかるでしょ?察して。
「そうでしょうそうでしょう!しかもバカでも乗れるくらい操縦が簡単で、バカにも扱えるマニュアル付きよ!」
「あのー…それは自慢になっていないのでは?」
「いや、量産機として見れば理想的ではある、操作が複雑で練度が無いと動かせないもんを大量生産しても仕方ないからな」
大量生産に加え、ある程度訓練を受けた兵士ならすぐに動かせるアドバンテージ。それこそシャーマンシリーズが長期に渡って使われていた利点なのだ。
ちなみにそのマニュアルなんかもイラストが多用されてて、下手な家電の説明書なんかよりも余程分かりやすくらしい。会社の作業手順書とか、もっと見習えと言いたくなる。
「…えぇと、ではやはりイージーという事で合ってますの?」
「まぁ、他の戦車よりかはまだ取っ付きやすいだろうな」
…そこら辺もこのシャーマン・イージーエイトをチョイスしてくれた蝶野教官の狙いなのかもしれない。
「どう!これでシャーマン戦車の素晴らしがわかったかしら!!」
「ですが速さならクルセイダーの方が速いですわ」
「火力も85㎜砲のT-34/85の方が上です」
「あ、あんた達…」
「ううん…クルセイダーよりずっとはやーい!!」とはさすがにいきませんし、火力をT-34/85と比べるのはさすがに酷だろう。こいつら自分所の戦車好き過ぎる…。
「まぁ待てアリサ、まだイージーエイトにはとっておきのプレゼンが残ってる」
だが、ローズヒップもクラーラもこれから乗る事になるのはこの戦車だ。ここはやはりとっておきのプレゼンでピーアールをせねばなるまい。
「…なんの話よ?」
「かつて朝鮮戦争の中で中国義勇軍を震わせた、赤い悪魔モードの事に決まってんだろ」
イージーエイトといえば車体に悪魔や虎を描く事で心理戦を仕掛けた事は有名だ。詳しくは各々方で調べて欲しい。
「…大学生相手に効果あるのかしらね」
「まぁ、向こうの隊長はまだ13歳くらいだし…」
案外…効果あるかもなぁ。なんなら同じ戦車に絵を描くならボコの絵を描いても良いかもしれない。向こうの隊長もそれなら狙いにくく…。
…おかしいな?それだとなんか逆に狙われそう、それも向こうの隊長というか。
「八幡君、やっぱりここに居たんだ」
こっちの隊長にも「それがボコだから!!」の一言で砲撃撃ち込まれても違和感ないんだよなぁ…。
「…えと?どうしたの、八幡君」
いや、君があまりにもタイミングが良いもんだからボコセンサーでも反応したのかと思ってね…。いや、西住以外のあんこうチームメンバーも居るけどね。
「あぁいや…、お前らこそどうした?」
まぁそれはさすがに無いと思うけど。…無いよね?ボコが絡むとこの子、ちょっとテンションおかしいから。
「うん、そろそろ作戦会議をしようと思ったから、八幡君にも参加して欲しいなって」
「…いや、それ俺も出るもんなのか?」
もっとこう…各高校の隊長級のメンバーで集まるもんだと思ってたんだが。
「もちろんです!比企谷殿にはしっかりと参加して作戦を伝えて貰わないと」
「じゃないとまた私達の知らない所で変な事しそうだもんね」
秋山と武部の言葉から俺が各高校に応援を頼んだ事を黙っていた事への棘を感じる…。
「…これが比企谷さんのチームですか」
「ん、まぁ…そうなるのか」
見れば俺以外の四人はイージーエイトの操縦性の確認中のようだ。まぁ…特に操縦も砲撃も装填も通信もしない車長の俺が今から作戦会議の為に抜けても問題は無いだろう。
…ん?これってもしかして俺、必要無いのでは?大洗一般生徒Eさんの判断は正しかった…?
「副隊長であるカルパッチョ殿とアリサ殿、強豪プラウダの留学生のクラーラ殿、そしてクルセイダー隊を率いる隊長のローズヒップ殿」
「…ちょっと盛り過ぎじゃないか?」
「自覚はしてる」
冷泉の鋭いツッコミには頷くしかない。なんならちょっとどころかだいぶ盛ったまである、あれだけ戦力がーとか言ってた癖してずいぶんとガチなメンバーになったものだ。
とはいえ…彼女達あんこうチームと一緒に戦うとなるなら、これくらいは必要だろう。
西住以外初心者からスタートしたあんこうチームだが、全国大会の決勝戦での一騎討ちで姉住さんを倒した以上、高校戦車道チームでは最強の実力者チームにまで成長した。
…君ら本当に元初心者?なんならあんこうチーム以外の大洗メンバー全員に言えるので、大洗は戦闘民族の集まりと思って欲しい。
とはいえ、これで少しは近付けるだろうか?彼女達の隣で戦うと言うのなら、これくらいは盛ったとしてもバチは当たらないと思いたい。
「…そういえばみぽりん、名前どうしよっか?」
「名前?なんの名前だよ」
「もちろん、比企谷さんのチームの名前ですよ」
「私達でいうあんこうチームのように、比企谷殿のチームにもチーム名は必要です」
あー…まぁ、そういや何も考えてなかったな。
「そもそもチーム名って誰が考えてんだ?」
あんこうだったり、カメだったりウサギだったり、かと思ったらレオポンだったり、思えば統一性が無いんだが…。
「基本的にはみんな好きに決めてるよ、後はみぽりんが決めたりとか」
そういえばカモチームは西住が命名だったか、確かルノーがカモっぽいとかそんな理由だったはず。…カモっぽいかなぁ?
その説を習うならばイージーエイトはやはり【赤い悪魔】からちなんで【悪魔さんチーム】とか【デビルさんチーム】辺りになっちゃわない…?強そう(確信)。
「じつはね八幡君のチームの名前は、ずっと前から決めてたんだ」
「そうなのか。…てか、ずっと前から?」
「うん、いつか八幡君のチームが出来たら。私はこの名前が良いなって思ってたんだ」
「…そりゃまた、ずいぶんと気の長い話というか。そもそも名付けるタイミングの無い話だな」
「私はいつか、こんな日が来るかもって思ってた。だから…その、【キツネさんチーム】…なんて、どう、かな…?」
もじもじと恥ずかしながらも、それでも西住は確信したようにチームの名前を告げる。
「…あぁ、なるほど。そりゃそうだわな」
【キツネさんチーム】
そりゃまた、ずいぶんと俺に相応しい。と、あまりに府に落ちていて思わず頬が緩んでしまう。
「キツネさん…ですか?」
「確かに比企谷さんのイメージとはなんとなく合っている気はするが…」
「でも、どうしてキツネなのですか?」
「比企谷さんもなにやら満足気ですが…」
そんな俺と西住の様子に他のあんこうチームメンバーも怪訝な表情で詰め寄ってきた。
「…えへへ、それは内緒かな」
「えぇ!みぽりんズルい!!」
【大洗学園:キツネさんチーム】
【戦車:シャーマン・イージーエイト】
【車長:比企谷 八幡】
【通信手:アリサ】
【砲手:クラーラ】
【装填手:カルパッチョ】
【操縦手:ローズヒップ】
きっと…いや、間違いなく。俺が試合に参加出来るのは今日、この日だけになるだろう。
戦車だって、この日の為の借り物で。
なんなら俺以外の大洗生徒が一人も居ないこのチームのメンバーも、二度とは集まらない。
借り物で、偽物で、間違いだらけのチームが完成したものだと、自分でもそう思う。
だだ、それでもきっと。あの日、木の上の葡萄を諦めたキツネは本物を手に入れる事が出来たのだろう。