劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。   作:ボッチボール

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前話の補足というか、説明不足でしたがこの試合は男子生徒である八幡の参加と文科省の策略もあり、極秘に行われています。
なので大洗学園に勝利した大学選抜チームが世間的に叩かれる…というやり口はさすがの八幡もしてません。試合に参加している人ならわかる程度の情報リークです、そもそもマジで手段を選ばないならもっとえげつないやり方がいくらでもありますし…。

え?今のでも十分えげつないって?それはそう(笑)


堂々と、島田 愛里寿は宣言する。

「西住みほさん…か」

 

愛里寿は西住みほの写真を見ながら呟いた。

 

今試合の対戦相手、大洗の隊長。

 

島田流である自身に対し、西住流である彼女。

 

ボコミュージアムで出会った、ボコが好きな人。

 

そして、あの話が本当なら、大洗学園は…。

 

私達が勝ったら…廃校になる?

 

「お待たせしました、愛里寿」

 

「…お母様、その、お呼びでしょうか?」

 

母である島田千代に呼ばれた愛里寿はなるべく表情を崩さないように、努めて冷静に答える。

 

「えぇ、と言っても...あなたの方が聞きたい事があるようね」

 

だが、母親であり、戦車道の家元である島田千代にこの動揺は隠しきれない。

 

「今日の試合ですが…その」

 

大学選抜チームのメンバーだけが入れる掲示板に投稿された、誰が投稿したかはわからないメッセージ。

 

その文面はーーー。

 

「大洗学園側が勝利すれば廃校は正式に撤回される…ですか?えぇ、真実です」

 

「…っ!!」

 

確かに、違和感はずっとあった。

 

急に決まった試合、文科省からの直々の使命、全国大会優勝校とはいえ、高校生との試合。

 

そして、30両対8両の殲滅戦という、試合の体裁すら成り立たない試合形式。

 

…なお、余談ではあるが相手チームに混じる男子生徒の存在を知り、愛里寿の闘志が燃えたのは内緒である。

 

「つまりわざと負け、大洗学園を救うという選択肢もあなたにはあるという事です」

 

「…え?」

 

愛里寿は思わずそう呟いてしまった、母親として千代は優しいが、戦車道の家元である彼女からは普段決して出てこない言葉だからだ。

 

「この試合は多くの盤外での要素が絡み、成立したものです。試合の外で、あなたとは全く関係ないそれぞれの思惑が絡みあって成立した」

 

本来、大洗学園の廃校問題に大学選抜チームが関わる事は無かったものだ。

 

大洗学園が西住流を動かし、西住流が戦車道連盟が動かし、最終的には文科省が島田流、大学選抜チームまで動かした。

 

「ですが、それはなにも今回の試合だけに限った話ではありません、これからはもっとこういった盤外での要素が絡む試合は多くなるでしょう」

 

千代は母親としてではなく、戦車道の家元として。愛里寿の今後の戦車道について話しをする。

 

「それでもあなたは心を乱される事なく、常に冷静にみんなの陣頭に立たねばなりません、それが指揮官というものです」

 

ただ試合の事だけに目を向ける事が難しくなる日は必ず来る、と。

 

「今日だけではなく、これからもあなたの取る行動はあなたの知るところで…いえ、あなたの知らないところでも大きく影響をされていきます。もう一度尋ねます、愛里寿」

 

島田千代は少し間を取る、戦車道の家元として、島田流の後継者へ向け。

 

「この試合にあなたが勝つつもりなら…大洗学園の息の根を止める、という決断をしなければならない。それができますか?」

 

「…私は」

 

愛里寿はすぐには答えられなかった。

 

そんな愛里寿に千代は優しい母親の顔に戻る。

 

「立ち止まっても良いのですよ、誰も責めたりはしません、あなたにはいつも多くを背負わせていますから」

 

そして、優しく頬を撫でようと手を伸ばそうとする。

 

「いいえ、お母様」

 

だが、愛里寿はその母の手をギュッと掴んだ。

 

「…必ず、やり遂げてみせます」

 

そんな愛里寿の決断に千代は少しだけ寂しそうな表情を浮かべるが、娘に悟られぬようにすぐに戻した。

 

「では愛里寿、何か欲しい物はありますか?」

 

「えと、欲しい物…ですか?」

 

「えぇ、盤外の要素が絡む試合です。大洗が勝てば廃校の撤回、なのにあなたが勝利しても文科省にだけ利があるのはおかしいでしょう?」

 

それは母親としての優しさは当然の事ながら、戦車道の家元としても大事な所だ。

 

「後の選択肢を手にする、勝者と敗者の最大の違いはそこにあります」

 

「…でしたら、その、お母様」

 

愛里寿は顔を赤くしながら…年相応の少女として、もじもじと言葉を続ける。

 

「私が勝ったら…ボコミュージアムのスポンサーになって欲しいの、たぶん、あのままじゃ閉館になっちゃうから」

 

「…ふふ、しょうがないわね」

 

そんな年相応の娘を前にして、千代は一人の母親として優しく微笑み返した。

 

「…ところで愛里寿」

 

「はい、お母様?」

 

娘の様子を見て安心した千代は最後に一つ…とはいえ、千代本人としてはさほど気にしてはいない事ではあったが。

 

「もう知っているとは思いますがこの試合、大洗側に一人男子生徒が参加していますが普段通りに」

 

大洗学園側に参加している男子生徒、比企谷 八幡の存在については当然千代も了承はしている。

 

名目上はあくまで西住流の推薦…という話だが、千代にその話をしたのは文科省の役人であり、役人からすれば彼はなんの経歴も持たない戦車道経験0の一般生徒の一人、たいした資料が用意されている訳でもない。

 

つまり、この普段通りとは文字通りの意味で、小さな頃からずっと戦車道を続けていたゆえに周りに異性が少なかった愛里寿に向け、気にする事はない…という意図で言ったつもりだった。

 

「えぇお母様、普段通りに…必ず叩き潰します」

 

「…えと、愛里寿?」

 

だが、ふと垣間見えた娘のそんな闘志にはさすがの千代もわずかにだが動揺を隠しきれなかったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「ねぇ、この試合の話聞いた?」

 

「聞いた聞いた、あれマジなのかな?」

 

「この試合に勝ったら大洗の廃校撤回って…じゃあ私らが勝ったら?」

 

「大洗を廃校させたのはうちらって事じゃない?」

 

「そんなの完全に悪者じゃない...」

 

「隊長はこの話、知ってたのかな?」

 

噂の伝達力は速い、この手の悪意あるものは余計にだろう。

 

さらには元々試合に向けて準備の為に固まっていた大学選抜チームだ、広まるのにたいした時間はかからなかった。

 

「…マズイな~」

 

「おかえりルミ、みんなの様子は…聞かなくてもわかるわね」

 

「もうどこもその話ばっかでみんな試合どころじゃ無いって感じだな」

 

「隊長が帰ってくるまでになんとかしないとマズイわよ」

 

大学選抜チームが作戦会議に使用しているテントに集まっているのは選抜チーム中隊長の三人だった。

 

赤みを帯びた茶色のロングヘアが特徴的なメグミ。

 

大人っぽい雰囲気とナイスボディが特徴的なアズミ。

 

メガネをかけたスレンダーなルミ。

 

秋山からバミューダ三姉妹と言われ、比企谷からはミミミ三姉妹と称された、大学選抜チームの中隊長、三副官である。

 

「ていうか、みんな気にしすぎなんだよな、相手チームの事をいちいち考えても仕方ないだろ」

 

「あら、結構シビアなのね、ルミ」

 

「あぁいや、もちろん本当なら同情はするけどさ。私だって前の高校じゃ戦車を賭けてアンティルールで試合もしてたし」

 

「継続高校って確かそれでプラウダからKV-1も手に入れたのよね」

 

「まぁそれは私が卒業した後の話だけどさ、それだって負け続けたらチームは成り立たなくなるんだ」

 

「実際の話、今は相手よりもまず自分達よね、社会人チームに勝ったって言っても前半戦はボロボロだったし」

 

「あぁ~…それを言わないで」

 

メグミが机にぐったりと頬をつく。

 

「連携の甘さが浮き彫りになって、そこを突かれてボロボロにされて」

 

「最後はほとんど隊長が決めちゃったようなもんよね」

 

「まぁ、アレを見せられるとヘコむわよね…たぶん、それでみんな自信を無くしちゃってるのよ」

 

「大学の選抜チームに選ばれて、自分は特別だって気持ちになって」

 

「そんで、練習で隊長にボコボコにされるまでが通過儀礼みたいなもんだよな」

 

彼女達…いや、大学選抜チームの誰もがそうだ。

 

各高校の戦車道エース級の選手が大学に進学し、その中からさらに選別された選りすぐりのメンバーが集められたチーム。

 

それが大学選抜チームだ、チームに選ばれた者は誰もが自分こそ特別な存在だと自負をする。

 

そして、そこで自分よりもよほど特別な才能と強さを持った存在を知るのだ。

 

「本当、なんなのかしらね、隊長のあの強さと…可愛さ」

 

「特に可愛さ、あれはもはや兵器ね」

 

「どんだけ練習でボコボコにされてもあの可愛さで全部許せる…むしろもっとボコボコにして欲しい」

 

「あぁ…隊長にもっとしごかれたい、鬼軍曹な隊長に笑ったり泣いたりできなくして欲しい」

 

※彼女達は大学選抜チームの中隊長です。

 

「だいたい、あの年齢で大学生を率いる大変さをみんな理解しているのかしら」

 

「おまけに流派まで背負ってるんだからな」

 

「それを決して表には出さない健気さ、心配だわ…ねぇ?今度抱き締めて良いかしら?良いわよね?」

 

「良いわけないでしょ!!」

 

「そうだぞ、それは私の役目だ!!」

 

※彼女達は大学選抜チームの中隊長です。

 

「まぁ、それは冗談…ではないけど」

 

「おい」

 

「…なにか、隊長の力にはなりたいわよね」

 

「…そうね」

 

彼女達は大学選抜チームの中隊長です。だからこそーーー。

 

「全国から優秀な選手を集めたのに、チームとしてはいまいち噛み合わない」

 

「実際、隊長単騎で試合展開を覆しちゃったもんね…みんなの気持ちもわからなくはない」

 

「…けど、みんなと隊長をもっと繋げないと」

 

彼女達は、チームの誰よりも愛里寿の為に行動する。

 

「隊長は島田流の後継者として、ずっと一人で戦ってきたのだから、そうじゃない戦車道も知って貰いましょう」

 

「えぇ、もし本当に大洗の廃校がこの試合にかかっていても、隊長一人にその重みは背負わせないわ」

 

「当然だ、流派の看板だって、私らも島田流家元に選抜されてここにいるんだ」

 

「どちらもみんなで背負う。だって私達はチーム、ですものね」

 

「よし、早速みんなを集めて話をーーー」

 

三人が決意し、立ち上がった時だった。

 

「アズミ、メグミ、ルミ」

 

テントの入り口で、愛里寿は三人に声をかけた。

 

「あ、愛里寿隊長!?」

 

「すまない、お母様と話をしていて少し遅れてしまった」

 

「い、いえ、それは別に良いんですが」

 

「あの~…隊長はどこから話を聞いてました?」

 

三人にとってなにより重要な所はそこである。…当然、聞かれて欲しくないあれやこれやの会話がある。

 

「…それより、みんなを集めて欲しい、試合を前に大事な話がしたい」

 

「…わ、わかりました」

 

愛里寿がどこから話を聞いていたのか、そこが気になって仕方ない三人だが。

 

「…それと、その」

 

「…隊長?」

 

「…三人共、その、ありがとう」

 

「「「は、はい!隊長!!」」」

 

普段は決して感情を表には出さない愛里寿の、少し照れた表情とその言葉に全てがどうでも良くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「全員、試合を前に聞いて欲しい事がある」

 

試合を前に大学選抜チームメンバー全員を集め、愛里寿は彼女達の前に立った。

 

選抜メンバーの空気は当然ながら重い、この試合が大洗学園の廃校がかかった試合、自分達が勝つと相手の学園が廃校になる。

 

噂の真偽はともかく、その話はもはやチームの全員が知っている事だった。

 

「この試合の結果で相手チームである大洗学園の廃校が決まる、という話は全員が聞いていると思う。それらは全て事実だ」

 

だから、愛里寿は隠さない。それは先ほど三人の中隊長達が言ってくれた言葉にも繋がるからだ。

 

みんなで背負う、それがチームだと。

 

「本当…なんだ」

 

「え?じゃあこの試合…勝ったらマズイんじゃ?」

 

「さすがに学校を潰す試合っていうのは…」

 

ざわざわと騒ぎだす大学選抜チーム。当然だろう、自分達の試合結果が大洗学園に関わる多くの人生を左右する事になると告げられたものだ。

 

「…だからこそ、私は全力で戦う」

 

だが、次の愛里寿の言葉には選抜チームの全員が思わず耳を疑った。廃校がかかったこの試合で、彼女は全力を出すと宣言したのだ。

 

「全力で戦い、勝ち、この試合を仕掛けた文科省に交渉しようと思う。交渉内容は大洗学園の処遇について」

 

だが、次の愛里寿の言葉に、選抜チームのメンバーは目を輝かせた。

 

「後の選択肢を手にする為に、文科省と対等に交渉する為に、私はこの試合に全力で取り組む」

 

これが愛里寿の決断。後の選択肢を手にするという、母親からの教え。

 

ボコミュージアムはあくまで彼女だけの希望だ、愛里寿と千代の二人の問題だけで話は終わる。

 

だが、大洗学園の処遇について文科省と対等に交渉する為に必要な事は?

 

「だからみんなにもそうして貰えると嬉しい、私が指揮し、みんなで挑む」

 

それには大学選抜チームメンバー全員の了承が必要だと、彼女は考えた。

 

「そして文科省に我々の強さを示した上で大洗の待遇について交渉をする。我々が勝負においてできる事はそれだけだ」

 

「…お」

 

「おぉぉぉぉぉお!!」

 

そんな彼女の宣言に異を唱える者が居るはずがない。

 

普段の練習でどうやっても勝ち目が無いと思わせた才能の塊、そんな彼女が自分達を頼り、大洗の廃校問題とも真っ向から向き合うと宣言したのだ。

 

「この試合、一切の遠慮はいらない。大洗学園に日本で最強の大学チームなのだという矜持を見せてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー 

 

 

「…なるほど、あなたは全てを救うつもりなのね、愛里寿」

 

その様子を遠くから眺めていた千代は満足そうに微笑んだ。

 

「娘の成長はもちろん喜ぶべきなのでしょうが…」

 

だが、彼女はまだ西住しほの居る観客席に戻るつもりはない。

 

つけるべき、落とし前を彼女はまだつけていないのだから。

 

「ですが、本来ならこの手の盤外の問題には愛里寿をまだ関わらせるつもりは無かったのも事実。この一件を仕掛けたのは」

 

大洗学園側で間違いない。

 

だが、大洗の隊長である西住流の娘の彼女がこの手の手段にでる事はない。という確信が千代にはあった。

 

だとすれば、この試合に関わるイレギュラーであろう、彼が仕掛けた事に間違いないだろう。

 

そもそもがこの試合を仕掛け、文科省から大学選抜チームを試合の場に引き取り出させた、ある意味全ての元凶とも言える男子生徒。

 

「愛里寿のあの反応も気になりますし…、さて、比企谷 八幡君、あなたに少し興味がわいたわ」

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