劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
ちなみにですが…その、年齢の方はおいくつに…おや?誰か来たようだーーー。
島田 千代。
戦車道二大流派として西住流と対とされる島田流、その家元。
大学戦車道連盟の理事長であり、大学選抜チーム隊長、島田 愛里寿の母親。
俺がこの人について知っている情報なんてせいぜいその程度だ、この試合を取り付ける為の署名を貰う時も結局、直接この人とやり取りをする事は無かった。
「三人共ありがとう。私は彼と少しお話があるのであなた達は下がっていいわ」
「しかし家元…」
島田さんはミミミ三姉妹の三人をそう言って離れさせる。…さすがに島田流家元の前だとこの三人の雰囲気も先ほどとまるで違う。この人達、ついさっきまであなたの娘さんによこしまな気持ち向けてましたよ?
「お願いね」
「…わかりました」
しかし言葉や態度こそ柔らかいものだが、有無を言わさないこの圧力…しほさんもそうだが、戦車道の家元クラスにもなると標準装備のスキルだったりするんだろうか。
というか…見た目、若くね?いや、しほさんも見た目若いし、なんならあの人の場合、上に高校三年の娘さんがいるのよね…とてもそうとは思えない見た目だけど。
戦車道アンチエイジング。これは武部もノリノリで続けるだろうなぁ。なお、モテるかどうかはまた別の問題である。
「さて、比企谷さん」
「…はい」
ミミミ三姉妹が完全に離れた事を確認すると島田さんは改めて話をするべく俺に視線を向ける。
わざわざ試合を前に名指しで俺と話す為に呼び出したのだ。心当たり?そんなもの腐るほどあるに決まっている。
そもそもこの試合、本来なら大学選抜チームは全くの無関係だったものに巻き込まれたのだ。
巻き込んだのは条件を付けてきた文科省だが、その文科省をここまで追い込んだのは大洗学園、…主に会長だと思うんだが(すっとぼけ)。
もしくはやはり情報リークの件だろうか?アリサは自分が特定されるようなヘマはしないと思うが、あのタイミングでの情報リークだ、まぁやった相手の検討くらいはつくものだろう。
…なにが来るにしろ、ここは口八丁手八丁で乗り切るしかないが。
「愛里寿とは以前から知り合いだったのかしら?」
「………はい?」
いろいろと考えていたあらゆる想定がぶっ壊れた。え?その事?
「えぇ、珍しくあの子があなたの事を意識していたので」
え?なにそれ怖い。愛里寿くらいのちっちゃな子に意識されるとか、社会的に怖いのもあるが一番怖いのは意識している相手が対戦相手として戦車に乗ってやってくる事である。
しかしその理由はすぐにわかった。あのボコミュージアムでの一件、間違いなくそれが原因だ。
彼女は大学生とはいえあくまで飛び級、戦車道を離れれば西住と同じボコが好きな一人の少女に過ぎない。…西住さん、13歳の子と同レベルかぁ。
そんな彼女の目に、あのボコミュージアムでの俺はどう映ったのか?きっとボコを苛めてる連中と同じ役回りだろう。
…そもそも最初にボコが喧嘩を売っているのでは?八幡はボフと共に訝しんだ。
「だ、男子で戦車道ってだけで異質ですから、単にそれで意識しているだけなのでは?」
「ふふっ…比企谷さん」
うーん…さすがに苦しいか?
「あの子がたかがそれくらいで揺らぐはずがありません、そんな風には育てていませんから」
うーん…苦しいなぁ、俺が。
いやもうこれ、言っちゃえばそんな娘さんが敵意向けてるって事ですよね?島田流の戦車団体が攻め込みにやって来そうだなぁ。
その考えがなんかデジャブだと思ったら西住流でも同じ事考えてた気がする。ここまで混戦になるならもういっそ西住流VS島田流VSダークライで良いじゃん…。俺抜きで勝手に争ったりしてくんない?
「では情報交換、というのはどうでしょう?」
「…情報?大学選抜チームの編成とか教えてくれるんですか?」
「…ここでそれを聞ける度胸は買いたい所ですが、こういうのはどうでしょう?」
まぁ、言うだけならタダですからね。むしろこう言ってはぐらかせば深く追及される事もないだろう。
島田さんには悪いがわざわざ話す事もない、そもそもあれは俺が勝手にやった事だ。
「文科省がなぜこうまでして大洗学園を廃校させようとしているのか…知りたくはありませんか?」
「………」
島田さんは持っていた扇子を広げて口元を隠す、きっとその口は微笑んでいるだろう。
「知っていれば今後の文科省に対しての牽制に繋がると思いますよ」
…柔軟で和やかな口調を前につい忘れそうになっていたが、気付けば完全にこの人のペースだ。
島田さんの持ちかけた情報は文科省の真意を知る唯一の機会、こちらが呑む以外の選択肢が無い事をわかってやっている。
しかもこの情報、元々文科省の情報なので実際この人はノーダメージ、全ての負債は文科省に押し付けられるときている。
西住流、しほさんがあらゆる障害を正面突破で破るとするなら、この人はそれを変幻自在に突破する。
どっちがより厄介だって?んなのどっちも相手にしたくないに決まっている。
「…受けましょう。って言っても、こっちもそんなたいした話はできませんが」
とはいえ、こっちも試合に関わる話をする訳じゃない。となればお互い、有意義な情報交感とするべきだ。
ボコミュージアムでの一件、バイトの報酬を貰う俺とそれを目撃した愛里寿。そしてそこから始まる俺の陰の実力者的黒幕ムーヴ。
…しかし、こうしてある程度時間がたった今冷静に振り返ると。
『あの熊の様子がおかしかったって?そりゃそうだ、俺が事前にちょっと痛め付けてやったからな』
ーーーなにこの恥ずかしい奴!?13歳の少女を目の前にしてなにイキッてんの!!?
…やっぱり陰の実力者になんてなりたくないなぁ。
「…まぁ、その時はその子が娘さんだとは知らなかったんですがね」
「…なるほど、ボコミュージアムのスポンサーはそれで」
「…スポンサー?」
「いえ、こちらの話です。おかげでいろいろと合点がいきました」
はて?あの潰れる寸前のミュージアムにスポンサーの話とか来るんだろうか…?スタッフの皆さん良い人そうだったし、今度小町も行きたがってたから存続して欲しいとは思うが。なお、俺はもう出禁である。
ちなみに出禁の理由は単純にその少女、愛里寿との今後の遭遇を避ける為だ。スタッフの皆さんは庇ってくれたがこればかりは仕方ない。
なかには「ボコとして就職すれば解決だよね?卒業したら待ってるよ!!」とかにこやかに微笑んでくれた人も居たんだが…ボコボコにされる事が確定してるブラック職場だよ?誰が行きたいって思うの?
ん?いや...職場なんてたいていどこもブラックでボコボコにされるものか。…生涯働きたくないなぁ。
「…あなたにはお礼を言わなければならないようね」
「別にそんなんじゃありませんよ、バイト代に色付けて貰ったんで、その分多めに働いただけです。借りた物は返す性分なんで」
なんせこちとら元エリートぼっちですから、他人に借りを作らずをモットーに清く正しい…ん?んー…今回集まってくれた大洗連合。
うわっ…私の借り、多すぎ…?
「では、こちらもきちんと返しましょう」
パンッと島田さんは持っていた扇子を畳むと手のひらに打ち付ける。
「島田流の家元として、今回の文科省の目論みをお話します」
それだけで空気がほんの少しピリつくのを感じた、思えば最初会った時、この人は愛里寿の母親と自己紹介をしてくれた。
もちろんそれも間違いではない。だが、今目の前に今居るこの人は娘を心配する母親から島田流の家元に雰囲気を変えたのだ。
まだ変身を残しているとか、やっぱりラスボス枠じゃないですかー!!
「大洗学園、戦車道全国大会の優勝、おめでとうございます」
「…え?あぁ…まぁ、ありがとうございます?」
突然の賛辞に思わず空返事をしてしまう。突然の事もそうだが、なんだか酷く遠い昔の事のように思えてしまったのだ。
「大洗学園は今年から戦車道を始めた生徒が多いと聞いてますが、指導はやはり西住みほさんが?」
「まぁ、多いというか全員素人でしたから、経験者の西住が指導するしかない状況でしたよ」
たまに蝶野教官が来てくれたりもしたんですが、あの人、ガーッとやってバーンとする指導方法でしたから...。
「…そう」
「…?」
島田さんが何を言いたいのか掴めずこの人の次の言葉を待つ、少し間を開けたのは言葉を考えているのか、それとも俺の心が落ち着くのを待ってくれているのか。
「短期間で全国大会優勝までの選手を育てたみほさんの指導力、そしてその指導を受けた生徒達、彼女達を全国の学校に転校という形で派遣し、戦車道全体のレベルを上げる、それが文科省の目論みです」
「馬鹿じゃないですか?」
島田流の家元という、ビックネームを持つ人を前にして何一つオブラートに包む事なく、スラッと思ってる事が口から出てしまった。
いや、だってねぇ…これだけ荒唐無稽で馬鹿げてる計画を聞かされれば誰だってこうなる。
「それ、本気で成功すると思ってるんですか?」
「少なくとも文科省は思っているのでしょう。だからこそ、ここまで強引に大洗の廃校を進めているのですから」
つまり…どういう事だってばよ?
西住の指導を受けた生徒なら、他の学校でその指導のやり方を真似してそこの学校の戦車道も強く出来るでしょって?
なんとガバガバで成功の保証が何もない計画、学園艦に住む万単位の人々を巻き込んでやることがこれとか、お粗末にも程がある。
そんな馬鹿げた計画の為に大洗学園艦は解体、優勝は否定され、あいつ等はバラバラにされるという。
…ふざけてんな。
「文科省って全員縁故採用とか天下りが集まって出来てんですかね」
「世界大会を前に日本の戦車道はまだまだ力不足、彼等もまた必死なのでしょう」
その必死がなぜこうも明後日の方に向かれるのか…前にダージリンさんと話していた無能な働き者が一番タチが悪いという話を思い出す。
「だからってんな回りくどいやり方、今時ジュラル星人だってやりませんよ?」
この際ジユラル星人が今時なのかは置いておく。なんなら文科省全員、正体は変装したジユラル星人の仕業に違いない!!
「ふふっ…確かに回りくどいやり方は似てーーー、コホンッ」
…おや?なにやら珍しい反応、普通この手のネタは通じないのがお約束というものだが。
「…えーと、島田さん」
「…なにかしら?比企谷さん」
「…もしかして、このネタ知ってます?」
「なんの話でしょう?この話を終えたいのなら私は構いませんが」
「いえ、なんでもありません」
さすが有無を言わさぬ圧力。しかしこんな古いアニメのネタが通じるとは…意外、いや、意外か?逆にもしかしてリアルタイムで見てた世代?
ははは…まさかねぇ、この見た目でそんな事はないだろう。うん、無いと信じよう!今時この手のネタなんてどこにでも転がってるもんだしね!!