劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
そしてガールズ&パンツァー、もっとラブラブ大作戦の映像化おめでとうございます!!まだまだガルパンコンテンツの配給があるとは…スピンオフ作中含めてガンガンやっちゃいましょう!!(笑)
要約すると文科省の目論見はこういう事らしい。
今年から戦車道を再開した大洗学園、当然戦車道履修生徒は素人ばかり。
その素人集団を指導し、戦車道全国大会優勝までのチームを作り上げた西住。
大洗の生徒なら、その西住の指導を受けているのでノウハウを知っている。
知っているなら、大洗戦車道チームを学園艦ごと解体し、全国の学校に派遣すれば全国的な戦車道のレベルアップが出来るだろうと。
「全ては世界大会に向けてのこの国の戦車道の為に、というのが文科省の言い分です」
「…この国の戦車道の為に?違うでしょ」
「さて、なぜそう思われるのですか?」
「失敗した時に文科省が本来取るべき責任、そのリスクを最小限に抑える為の計画でしょ、これ」
おそらくこの人だって気付いている。だからこそ言い分という言葉を選んだのだろう。
「なんせ実際に現場出て指導するのは大洗の生徒になるわけですから、計画失敗時の言い訳なんていくらでも用意ができる」
仮にこの計画が実現したとして、それでも全国的な戦車道のレベルアップが失敗したとしてもそこはすでに文科省の関わっていない所だ。
現場の生徒の指導不足、能力不足と自分達が言い逃れのできる理由がいかにも作りやすい。
「戦車道全体のレベルアップは狙いたい。しかし、自分達が直接関わって失敗すれば責任問題にはなる。それは避けたい」
世界大会に向けての戦車道全体のレベルアップ、これはまぁ…嘘ではない。プロリーグ設立と、その為に西住流のしほさんを委員長に構えようとしているくらいだ、そこは文科省も本気なのだろう。
「だから策を巡らせ、押し付ける相手を探した。ちょうど良かったのが大洗だったって話でしょう」
戦車道の全体的なレベルアップに繋がれば大洗を解体した自分達の功績、失敗すれば現場で指導した生徒達の責任。
ほんと、良い計画考えたもんだ。なお、ここでの良い計画とは頭に『自分達にとって都合の』と入るが。
「…比企谷 八幡君」
「…え?あ、はい?」
急に名前を呼ばれたので思わず素で生返事を返してしまった、思いの外熱くなっていたのか。
「あぁ、ごめんなさい。改めてあなたの名前を覚えておこうと思っただけですので、お気になさらず」
「いや、それ普通にめっちゃ気になるんですが?」
「それで、あなたならどうしますか?」
なんなら普通にスルーされたんですが…島田流の家元直々に「てめーの名前、覚えたぜ」される恐怖。
「どうって…なにがです?」
「全国的に見ても全国大会に出場すら出来ない学校が多くあるのも事実でしょう。だからこそ、文科省も今回の計画に踏み切ったと言えます」
「んな回りくどい事しなくても、もっと手っ取り早い方法があるでしょうに」
「では聞かせて貰いましょうか」
島田さんがスッと目を細める、試されているのか、どうにもここまで誘導されている気がしないでもない。
「そりゃもちろん金ですね、もっと助成金ばらまかないと」
「…ずいぶん現実的な話ですね」
「元々大洗が廃校になった理由もソレですからね。私情抜きにしても戦車なんて金食い虫、お金はいくらあっても足りないくらいです」
練習で動かすだけでも燃料代、砲弾代、壊れれば修理代にパーツ代、とまさに貴族の遊び。大洗は自動車部無かったら詰んでた説。説…てか、実際詰んでた。
「上手くいけば新しい戦車だって買えますし、アホな計画立ててる暇あるなら文科省は全国の学校にさっさと助成金ばらまくべきでしょ」
「予算の問題もあるのでしょう」
「本当に戦車道全体の未來を思っているなら、未來ある若者の為に文科省のお偉いさんが給料やら退職金からでも予算を回すもんじゃないですかね?」
サンキュー兵藤会長。本当に日本戦車道の未来を思ってくれてるなら余計な事せずにビシバシ送るもん送るべきなのだ…!!
「ふふっ…ずいぶんと過激ね」
「少なくとも学園艦一つ解体してそこに住む万単位の住民と生徒全員を巻き込むよりかはずっと健全だと思いますよ」
それだって住民の再就職の斡旋や転校手続きのあれやこれやでどれだけの金が動いているか…。
「文科省の計画は責任逃れのやり方として“だけ”見るなら参考にしたいくらいですが、失敗の見えてる計画にその予算を使ってるって時点で話になりませんね」
「失敗…と断言するのね。仮に派遣されたとして指導するのはあなたのチームメンバー、彼女達の事を少しは信頼しても良いのではなくて?」
「絶対失敗します」
「そ、そう…?」
いや、だって、そもそも派遣されてやって来るのが大洗学園の戦車道メンバーだよ?
根性根性ど根性なバレー部メンバーの誰かが派遣された学校は根性根性ど根性な戦車道になるだろうし。
風紀委員なそど子さんが派遣された学校はもれなく戦車道チーム全員のおかっぱ頭が義務付けられそうだ。
筋肉ムキムキなネトゲチームメンバーが派遣されれば、筋肉ムキムキな学校が出来上がる。…いや、これは普通に強そうなんだけど。
だいたい、丸山が派遣された学校どうすんだよ?未だにあいつが喋ってる所見たことないんだが。
通訳できる他の一年チームも居ない。話さない丸山、気を使う生徒達…うーん、地獄かな?
「西住の指導を真似て他所の学園で指導?あいつらがそんなお行儀良い事できるはずありませんよ」
「…なるほど、それもまた一つの信頼という事ですか」
千代さんが柔らかく微笑む、先ほどまで感じたプレッシャーのようなものは少し緩くなった気がした。
「文科省は西住流であるみほさんと、彼女の産み出した結果しか見ていませんがあなたはきちんと大洗を見ている、差はそこにあるのでしょう」
まぁ上部の情報しか知らない文科省からすれば全ては西住の功績に見えるのだろう。西住流の娘という看板はそれほど大きい。
「戦車は一人で乗るものではなく、戦車道もまた、1両で競うものではありません。あなたの言う通り道を外れた文科省の計画は失敗に終わるでしょう」
「最初からわかってて言ってるでしょう?」
「…さて、どうでしょうか?」
…とぼけるつもりなんだろうが、さすがにここでシラを切らせる訳にもいかない。
そもそも俺ばかり質問に答えているのもフェアじゃない。
「…そこまでわかってるなら、なんでこの試合受けたんですか」
文科省の計画は失敗する、それがわからないこの人ではないだろう。
それでも試合は成立し、島田流の後継者と大学選抜強化チームという最悪の敵としてこの人は立ちはだかるという。
「西住流を徹底的に叩き潰す絶好の機会、という事にしておきましょうか」
「容赦ないですね」
「どんな形、どんな思惑があったとしても、こうして試合として成立した以上こちらが手を抜く事はありません」
…知ってた。なんなら試合を受けた理由だっておおよそ見当はついているが。
流派を背負う看板という物はそんな俺の見当より、もっとずっと重いのだろう。
「試合前に話せて良かったわ。お礼に大学強化チームの掲示板への不正アクセスと、それによる愛里寿への妨害工作は不問としましょう」
「…へー、誰だかわからないですけど、悪い奴も居るもんですね」
「えぇ、本当に」
しっかりバレテーラ…、アリサがこの場に居なくて助かった、島田流家元から直接言及とかされたらあいつ、ヒステリック以前に倒れるのでは?
「これがあなたの戦い方なら、ふふっ…試合ではどのような戦い方を見せてくれるのでしょうね?楽しみにしていますよ、比企谷さん」
それはアレですか?次また娘さんにへんなちょっかいかけたら許しませんから的なニュアンスを感じるんですが…。
ーーー
ーー
ー
「お待たせしてしまったかしら?」
来賓席に戻った島田 千代は西住 しほの隣に座り込む。
「…もう良いのですか?」
「えぇ、気になる事は全て聞けましたので。ふふっ…今日、この試合が成立した理由がわかった気がします」
千代は楽しそうに微笑むのを隠すように口元に扇子を広げる。
「戦車道連盟を動かし、文科省と対立し、私達を巻き込んだ男子生徒がどのような人物かと思ったら…なるほど、話してみると面白い子ね」
「えぇ、なんせ我々西住流の推薦ですから」
「あら、とはいえ彼は西住流の門下生…というわけではないのでしょう?」
「ふっ…」
「ふふふっ…」
ーーー
ーー
ー
「…なんか寒くない?」
「むしろ暑いくらいですが…」
いや、どっちかっていうと悪寒というか…悪寒?いや、おかん?
「いや、おかん的な意味の悪寒というかだな…」
「ちょっと何言ってるかわからないです」
うん、クラーラが理解出来ないのも無理は無い、なんなら言ってる俺ですらよくわからんのだから、日本語難しいね…。
「しっかりしなさいよね、そろそろ始まるわよ」
「ぶちかましてやりますわよー!!」
「かますなかますな…」
ローズヒップを宥める事で多少は気持ちも落ち着く事ができたので空を見る。天気は晴天、夏休みを過ぎた頃合ながらまだまだ暑い。
その上戦車に乗っているのだ。中は当然蒸され、セルフサウナ状態ともいえる。一試合これがずっと続くのだ、試合の敵は相手チームだけではないといえる。
とはいえ、そこは問題ないだろう。サウナ自体は嫌いじゃないし、むしろ好きな部類だ。サウナ部屋に入ればそこは誰もが一人で己の限界と向き合う場、ギリギリを見極めて入る水風呂の開放感、そして温度差のジェットコースターからの外気圧…あぁ、なんかもう、今すぐ整いたい。
予報ではどうやら雨も降るらしいが今の所その様子はない。雨天時の戦闘は出来れば避けたいがこの試合の規模を考えるとそこは望み薄だろう。
「上がったわよ!!」
しゅるしゅると狼煙のようなものがその晴天の空へと打ち上げられる。この合図を見るのは別にこれが初めてという訳でもない。
…とはいえ、この立場からこれを見るのは初めてだろう。
狼煙は上空で、それほど大きくもない規模の花火のようにパンッと音を立てて弾けた。…そういえば宇宙の帝王様も惑星ベジタブルの王子様も花火の事知ってたけど、花火文化とかあったりしたのかね?
「ふーん…あんたでも緊張するのね」
「お互い関係が悪くなって争いの起こりそうな緊張状態って意味ならよく知ってるが?」
誤魔化しにくだらない事を考えていた意味をアリサにバレるのもなんなので適当に流しておく。
あの狼煙は開幕の合図だ、あれが上がったという事は当然…。
『これより、試合を開始します』
蝶野教官による試合開始のアナウンス。デュエル開始の宣言だ。
「…始まりましたね」
「では比企谷さん、号令をお願いします」
「あー…まぁ、やっぱそうなるか?」
「他に誰が居るのよ、車長」
「私、いつでもいけますわよー!!」
ローズヒップが早く早くと急かすようにそわそわと操縦席からこちらを見てくる。…散歩に行きたい犬かな?
ただ少し、ほんの少しだけ待って欲しい、こっちだって心の準備というものはやっぱりあるのだ。
短く息を吐いて呼吸を整える。さて、最初の一言は何にしようか?
男の子なら誰もが「八幡、いっきまーす!!」や「キツネチーム、出る!!」、「全速前進だっ!!」みたいなのに憧れるものだ、一度は言ってみたい台詞、というものはある。
ただいろいろ考えたとしても、やはりここで言うべき言葉はこれだろう。
「キツネチーム、パンツァーフォー!!」