劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
そういう事で無線やらの通信会話描写はだいぶゆるゆるになっておりますのでご了承ください。やっぱ他の戦車チームともいろいろ会話させたいじゃないですかー!!
『こちら大隊長車』
「ん…」
大隊長車、西住からの通信が入ってくる。
『相手の動きはまだ確認できてません、まずは慎重に行動しましょう』
…なんつーか、新鮮というか、妙な気分というか、何気にこうして試合で西住の指示を受けるのって始めてなんだよな。
いや、校内でも練習試合の数合わせでちょくちょく戦車には乗っていたんだが、何故か西住とは毎回敵チームに配属されていたんだよな。
…いや、おかしいでしょ。よくよく考えたらなんで毎回ボス戦やらされてたの俺。会長の采配には悪意しか感じないんだが。
そして俺が試合に出る事となったエキシビションでは見事に敵チームに分かれたという事で西住の指揮下での試合はこれが初である。…あれ?俺って大洗学園の生徒ですよね?
『えぇっと…キツネさんチーム。…あの、八幡君?』
「あっと…悪い、了解だ西住」
俺からの返事が無かったのが気になったのか、名指しで声をかけられた。まぁ他の車長が返事してるのに1両だけ無視してたら無線の不備も疑われるしな。
『…えっへへへ、うん!!』
「いや、急になんだよ」
『あ…ごめんね、八幡君とこうして無線でおしゃべりするのって初めてだから、なんだかちょっと新鮮だなって』
いやほんとそれな、マジわかる。ただなんかすっごく嬉しそうに言うのはちょっと自重しませんか?
『聞こえていますわよ、大隊長さん』
ちょっとそこに怖〜い人が目を光らせている気がするんで…。
『す、すいませんダージリンさん』
『ふふっ…構いません事よ、戦いを前に緊張していないようで何よりですわ』
…と思ったがなんだ。案外場を和ませる為のこの人なりの英国式ジョークみたいなものか、さすが英国淑女。
『それに、私は前回のエキシビションで彼とのおしゃべりは存分に堪能させて頂きましたので、今日はお譲りしますわ』
ダージリンさん!?英国式ブラックジョークにしてはちょっと黒効かせすぎなのでは?なにその「私の方が先ですから」的マウント…。
『ちょっと比企谷!エキシビションマッチ中ずっとダージリンさんとおしゃべりしてたって事?』
『私達より、ダージリンさんのお相手の方が楽しかった、という事でしょうか?』
そして何故かこちらに飛び火してくるし、なんなら話が大きくなってない?格言聞かされるのがおしゃべりに入るのか…。
『ちょっとダージリン!ハチューシャに初めて指示を出したのは私よ!カチューシャがハチューシャの一番なの!!』
いや、なんかもうややこしいんで入ってこないでください…。
『ズルいですよ!!』
「うわっ…びっくりした。おい秋山…あんま大声出して割り込むな、通信の基本だろ」
直接会話をしない通信の仕様上、いきなり大声を出されては普通に驚いてしまう。それがわからない奴じゃないはずだが。
『す、すいませんつい…、ですがズルいです!比企谷殿ばかり命令されるなんて!!』
『…そこか?』
『だって冷泉殿、命令を受けるのは優秀な戦車乗りの誇りなんですよ!!』
うん、まず俺に命令する権利を取り合ってる事に疑問を覚える所から始めようか?
『む〜…みぽりん、今日は比企谷にいっぱい命令してやろうね!!』
「言い方ぁ…」
いや、間違っちゃいないんだけど…西住大隊長だし、立場的に指示は命令という形にはなるんだけどね。
なんだろ…指示と聞くとまだ健全なのに命令となると一気にいかがわしく感じる気がする。つか、確実に感じる。
…だいたい、西住の性格上そんな言い方したら逆に命令しにくくなるのでは?
『うん、任せて』
…西住さん?え?任されちゃったよこの子。
『私、頑張ってたくさん命令するから…ちゃんと聞いてくれるよね?八幡君』
「お、おう…」
同い年の女子に命令という形で好き勝手に使われちゃうとか…なにこの刺さる人にはぶっ刺さるシチュエーション。うっすい本も分厚くなりそう。
なお、ここでの好き勝手に使われる命令とは単騎で敵陣に突っ込め的な意味で、決していかがわしいものではないので、各々妙な想像はしないように。…いや、それだって充分いかがわしいのでは?
『任せて、私も比企谷に向けてばんばん電波飛ばしてやるんだから!!』
『重いな』
『重いですね』
「重いなぁ…」
『なんでよ!?ちゃんとアマチュア無線の資格も持ってるんだから!!』
いや、資格とか出されると余計に重いから…ハム(アマチュア無線技士の事)的な意味でも。
『あっ!そうだ比企谷、アリサさん居るよね?』
「アリサ?そりゃ居るが」
武部がアリサに声をかけたようだが返事がない、はて?とアリサの方を見てみると。
「なんなのよ…せっかく同じ戦車に乗れたっていうのに、これじゃイチャイチャしてるのを目の前で見せつけられているだけじゃないの…」
こっちはこっちでなんか小声でずっとぶつぶつ言っている…。
「おい、アリサ?」
「ひぃっ!?い、いきなり話しかけないでよ!!」
「いや、声はかけたんだが…、なんか武部がお前に用があるっぽいぞ」
「IV号の通信手が私に?なんの用よ、まさか宣戦布告じゃないわよね!!」
いや、なんの対決するつもりなんだよ…。同じ通信手として通信勝負始めんの?勝敗の決め方がもうわかんねぇな。
『アリサさん。2級アマチュア無線の資格を取った時の事なんだけど、詳しい参考書とかいろいろ教えてくれてありがとう』
「…別にそれくらい。良かったわね、落ちなくて」
『今度改めてお礼するね、あ!恋愛相談とかだったらいつでも受け付けるんだから、まっかせて!!』
うーん、相変わらずのこのコミュ力、こうしてアリサは対たかし君戦において最強の味方、恋愛マエストロ(自称)をゲットした訳だ。…よかったよかった。
「ライバルに恋愛相談なんてできるわけないじゃないのよぉぉぉぉお!!」
おぉお、またヒステってる…。まぁ、お互い通信手というポジションだし、ライバルと言えなくもないけど。
ーーー
ーー
ー
「ローズヒップ、ちょっと速度緩めてくれ」
「私、もう少しスピードを出せますわよ?」
「今は交戦中という訳でもありませんし、少しくらいは良いのでは?」
「いや、ダメだ、少し前に出てる」
キューポラから半身を乗り出して外の様子を眺める。西住にあれほど危なくない?と言ってはいたが、なるほど、これは確かに良い。もちろん、ドンパチが始まったら大人しく戦車内に潜るつもりだが。
まず風だ。動く戦車から半身を乗り出す事で風を直接受ける事になるがこれがなかなかに心地良い。よくわからないがバイクとか乗るとこんな感覚になるんだろうか?
そしてなにより壮観なのがーーー。
「よし、これで綺麗な隊列が出来たな」
右を見ればずらりと戦車、左を見ればずらりと戦車。それらが横一列に並んで草原を走るこの光景のなんと眼福な事よ。
「何か問題があったのでしょう?」
「いや、無いでしょ。まだ相手も見えてないんだから、ちょっとくらい前に出てても問題なんて無いわよ」
は?クラーラもアリサもわかってねぇな、俺達がちょっとでも前に出てると重大な問題が出てくるだろうが…。
「俺らが前に出るとこの隊列が崩れちゃうだろ、総勢30両の戦車が草原を横一列で一斉に駆けるシチュエーションが大事なんだよ」
「変な所こだわってて面倒くさいわね」
「私、もっとぶっちぎりたいのですが…」
いや、男の子のロマンってやつだから、これ大事なんだよ!!
『では、これより三隊に分かれて特定の進路を取って下さい、パンツァーフォー!!』
とはいえ西住からの命令…じゃなくて、指示がくる。残念だがこの光景もこれで見納めとなるだろう。
…この作戦が終わる頃にはこの中からどれだけの戦車が減る事になるのか、いや、そもそも自分達が残る事をまず考えるべきだろう。
「それで、私達はあさがお小隊という事ですが」
「あぁ、あさがお、たんぽぽ、ひまわりの三隊編成だ」
「そのチーム名はなんとかならなかったのかしらね」
アリサが大洗一般生徒Eさんみたいな事を言う。前々から思ってたけどちょっと似ているよね、この二人。
「カチューシャ様と離れ離れになってしまいました」
「まぁカチューシャさんの居るプラウダ組は主力だからな」
同じく主力である黒森峰と合わせて、重戦車で構成された中央のひまわりチームがこの三隊のメイン火力だ。
「このひまわりチームを山頂に陣取らせるのが今回の作戦の肝だな、俺達あさがおは左翼、西住達本隊は右翼からそれを援護する事になる」
「山頂を取れれば戦局的に優位に立てますからね」
戦車戦に限らず、戦いにおいて高地を取れば有利なのは基本だ。なんなら日常的に見ても上から押し付けるとはよく言ったもので何事も高い所に居たほうが有利なまである。
戦車道全国大会でも圧倒的戦力差の黒森峰相手にだって成果を上げた戦術だ、間違ってはいない。
『ヘイ、エイトボール、私達は森に入るわよ』
「了解です、ケイさん」
あさがおの進む左翼は森林地帯だ、平原、高地、森林、更には遊園地跡もあったり、今回の試合会場は戦車道全国大会の決勝戦会場よりもさらに広い上に多種多様なフィールドが用意されている。
しかし、その中でも今回ひまわりチームが目指している高地山頂は露骨だな…、いかにもここに陣取れば有利になりますと言っている気がする。
…なーんか引っかかるな。
「あさがおチーム、隊長は良いんだけど…あっちは大丈夫なのかしら?」
「あー…うん、そうだよなぁ」
アリサの言う隊長は少しややこしいがケイさんの事だ、あっちというのは…。
「比企谷さん!同じ小隊メンバーとして、こうして共に戦える事を光栄に思います!!」
「お、おう…」
あっちの人が意気揚々とこっちに来ちゃったよ…。
知波単学園…、突撃大好きっ子達で構成された粉骨砕身特攻野郎Aチームの皆々様。いや、野郎じゃないんだけど。
大洗学園廃校の危機にこうして、しかも結果的にその大半が待機とはなったが戦車の大部隊を連れて救援に駆け付けてくれた彼女達の事をあまり悪く言いたくはないんだが。
…言いたくは無いんだが、先のエキシビションマッチで命令無視からの戦局崩壊をやらかしたのもまた彼女達なのだ。多少不安に思うくらい許して欲しい。
ま、まぁ…彼女達もこの試合が大洗学園の命運がかかったものだと理解しているはずだ、自分勝手な突撃なんてやらかす事はないだろう。
「そして!共に突撃できる誉れを我々知波単学園は生涯忘れないでしょう!!」
…ん?
「戦車道界初の男子生徒との初突撃…に、西隊長!こんな名誉な事があって良いんですか!!」
…ん〜?
「男子生徒と共に散る!こ、これは我々知波単学園初の快挙でもあります!!」
え?俺も散るの?
「西隊長!早く突撃の指示を!!」
「私、最早辛抱なりません!!」
「みんな落ち着け」
…良かった、さすが隊長なだけあって西はまだわかってくれているみたいだな。
「ちゃんと突撃の指示を待つのだ、それに比企谷さんにも心の準備というものがあるだろう」
いや!突撃の心の準備とかしませんけど!?
「突撃しますの?」
「いや、しねぇよ…」
ローズヒップがワクワクした表情で操縦桿を握りながら上目遣いで俺を見てくる。…リードが外れた犬かな?
知波単怖いよぉ…、何が怖いってこんな会話しながら全員自信満々に腕組んで威風堂々と待機してるんだよぉ。
これから玉砕覚悟の突撃かます気満々な人達の待機モーションがこれなんだよなぁ…、ちょっと西住さん?俺にこの人達をどう扱えと?