劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
「ところでマックスさん、おやつはまだですの?」
高地山頂を目指すひまわりチームを援護する為に森林を駆ける俺達あさがおチームだが、ここでローズヒップが唐突にもぐもぐタイムを要求。
「…はぁ?おやつって…試合中に何言ってんのよ」
これにはアリサも苦言をさしてくる。うーん…一周回ってこの普通の反応が最早懐かしい。
「ダージリン様ならここで必ずおやつタイムを挟みますの!!」
…挟みそう。これはダージリンさんの教育の賜物だなぁ。
「それはおやつタイムではなくティータイムなのでは?」
ローズヒップにとってはお菓子が食べられる…という点でどちらも同じなんだろう、お茶よりもメインはお菓子という事か。
「だいたい戦車にお菓子なんて積んでるはず…」
「あるぞ」
まぁここまでは予定通り、と俺は予め積んであったバッグからお菓子類を取り出す。
「なんであるのよ!?」
そりゃ前回のエキシビションマッチでローズヒップの燃費の悪さは経験済みだ、特に今回は長期戦もありえるので備蓄は充分用意しておいた。
「呑気ねぇ…二人はそれでいいわけ?」
「アンツィオでは戦車道の練習よりおやつタイムを優先させる生徒も多いので…」
「カチューシャ様ならここで更にお昼寝タイムも挟みます、とても可愛い」
「…あれ?私がおかしいみたいになってない?」
まぁアンツィオは言うに及ばずだがプラウダは長期戦が得意という事だしこういうのにも慣れてるのだろう、さすがにお昼寝タイムは取るつもりはないが。
「まだ会敵まで時間はあるだろうしな。ほれ、飲み物もあるぞ」
今はお互い高地山頂の奪い合いで移動がメインだ。だったらローズヒップがガス欠になる前にここで補給を済ませておく方が良いだろう。
あらかじめクーラーボックスでキンキンに冷やしておいた、俺がこの試合に向けてチョイスした唯一無二の飲料。
しかし戦車内でお菓子と飲み物ねぇ…なんだかんだ言って俺もだいぶあいつらに毒されてるのかもしれない。
…いや、毒されてるのはどっちかって言うとダージリンさんになのでは?あの人マジ猛毒みたいな人だなぁ。
「飲み物って…どーせアレでしょ?」
「肉体疲労時の栄誉補給、脳疲労時の糖分補給、精神疲労時の安定補給に最適な完全飲食、選ばれたのはマッ缶なんだよ」
これ一本で過激な戦場も安心安全、軍は今すぐにでもマッ缶を携帯飲食として採用すべき、と蝶野教官に進言したいくらいだ。
「知ってました」
「選んだのは比企谷さんですが…」
「てか、何本買ってんのよあんた」
まさかこの試合一番の出費がマッ缶代になろうとは…生徒会経費で落ちませんかこれ?
プシュとプルタブを開けてマッ缶を流し込む、糖分が全身を駆け巡るこの感覚が堪らない。
『あー!比企谷先輩だけズルい!!』
『私達にもマッ缶くーださーい』
甘い匂いに誘われたのか、隣にやってきたのはМ3リー、ウサギチームだ。
『あ!あとおやつも欲しいです!!』
「やってきて早々に食い物要求してくるとか、お前ら山賊かなんかなの?」
いや、ここ森だから森賊…?そういや海賊や山賊がいるんだから森賊ってジャンルがあっても良さそうなのに何故か無いよね。
「一人一個だからなー」
『『『『『わーい!!』』』』』
「あげるんですね…」
「マックスさん!私、私が一番ですわ!!」
自分のお菓子が取られそうなのを危惧してか、ローズヒップが口をパクパクと開けてアピールしてくる。
「あー…はいはい」
「てか、操縦してるんだからお菓子なんて食べられるはず無いでしょーーー」
「ほい、ローズヒップ」
「あーむっ…、ん〜美味しいですわ!!」
口を開けてスタンバイしてるローズヒップに美味しい棒状のスナック菓子…略して美味い棒を放り込む。…別に変な意味じゃないよ?どっちの意味でも。
「な!な!何をしてるのよ!そして私は何を見せられてるのよ!?」
何って…んー、ワンチュールのCMとかですかね…。
「先ほどのウサギさんチームの皆さんもそうでしたが、比企谷さんってなんだか年下の人に慣れてますね」
「そうか?まぁ妹いるしな」
小町もこの試合の事は知っているが、さすがに試合会場である北海道まで応援には来れないそうで大変悔しがっていた、もちろん俺も悔しい。小町の応援があるとの無いのではモチベーションが段違いだ。
『それでも小町は小町で重要な任務をみほさんから任されちゃったので充分なのです!!』
…とは試合報告時の小町の弁。重要な任務?はて?と小町に聞いてみた所。
『お兄ちゃんには内緒だよ☆』
と、どこぞのピンク髪な魔法少女みたいな発音で答えが返ってきた。あまりにも一致しすぎて声優さんが降臨しちゃったかとそれ以上追及するのも忘れちゃうくらいの破壊力だったぜ…。
これ、西住に聞いても答えはぐらかされたんだよなぁ…、試合とは関係ないからって。
「年下が好みならカチューシャ様の素晴らしさもわかるはずですが」
「いや、あの人(一応)年上なんだが…」
「えぇ、それが特に素晴らしい」
クラーラさんちょっと闇深くありません?この人の留学目的って…。
『何?私の話してるの?クラーラ今カチューシャの事何か言ってなかった?』
「ーーーーー」
『だから!ちゃんと日本語で話しなさいよ!ハチューシャ、クラーラは大丈夫なの!?』
すげぇ…、カチューシャさんから通信が入った瞬間にシームレスにロシア語に切り替えたよこの人、慣れてんなぁ。
「あー…まぁ、カチューシャさんが素晴らしい、みたいな話ですよ、たぶん、知りませんけど」
『そこは知っておきなさい!素晴らしい私は早速高地梺まで到着したんだから!!』
『私達…でしょ、何自分の手柄みたいに言ってるのよ』
『こちらひまわり、高地梺に達した』
そんなこんなでひまわりチームが高地梺に着いたようだ、さすが黒森峰のプラウダの連合軍、進軍も統率がとれている。
『敵の気配は無し、大隊長の判断を請う』
中でもまほさんはさすが、こちらの欲しい情報を簡潔に述べてくれる。
「敵の気配は無し、か」
「…何か引っかかりますか?」
「高地を取れれば戦局的に優位に立てるのは明らかだ、てっきり序盤はここの奪い合いになるかと思ったんだが」
だからこそ、当初の作戦では主力部隊のひまわりに高地を取らせる為にあさがおとたんぽぽがそれぞれ両翼から援護するつもりだったんだが…。
『М26なんて登るの遅いんだから、ここは行くしかないわよ』
まぁ、向こうより先に着いたんならこのまま登って山頂を取れればベストではある。
「あのー比企谷先輩、М26ってどんな戦車なんですか?」
通信を聞いていた澤は気になったのか、俺からマッ缶を受け取るついでに聞いてくる。
М26パーシング…、大学選抜チームの細かい編成は未だ不明だが、相手の主力戦車はこれだ。…これかぁ。
「梓!私も知ってるよ!!М26パーシング!!」
「知ってるの?桂里奈ちゃん」
ほう?知っているのか阪口、秋山こと秋ペディアがいないならここは阪ペディア先生に任せてみるか…。
「うん!パーシングはね!怪獣映画の名脇役だからよく怪獣に踏みつぶされたり、炎とか吹かれたりしてるんだよ!!」
「…やられ役じゃん」
「なんか弱そ〜」
【悲報】阪ペディアウィキ、知識がアニメ、特撮に全振りな模様。
「…怪獣映画に出てくる戦車ってのは怪獣の引き立て役になる、弱い戦車に引き立て役が務まると思うか?」
「えーっと…つまりは?」
「ガチ強い」
ていうか、怪獣相手にするなら光の巨人とか、汎用人型決戦兵器とか持ち出さないと勝負にならないんだからさぁ…。
「わかりやすく例えるなら…そうだな、サンダース大学付属高校があるだろ」
「え?私達の事」
そう、サンダース大学付属高校、タフで強力なシャーマン軍団を率いる強豪校。
「試合で戦ったからシャーマン軍団の強さはよく知ってるよな?」
「はい」
「ふふん、当たり前よ、次試合したら絶対うちが勝つに決まってるんだから」
ドヤ顔のアリサは…まぁここでは置いておこう。そもそもあの試合の敗因って通信傍受機の打ち上げにあったのでは?とは言わない優しさくらいは俺も見せる。…この後に言う事が言う事だし。
「向こうの編成はほぼそこの上位互換だと思えばいい、火力、装甲共にマシマシだ」
いやほんと、ラーメン屋のトッピングじゃないんだからさぁ、もうちょっとこう…手心とかありませんかね。
「…ヤバくないですか?」
「ヤバいんだよなぁ…」
そもそもパーシングって大戦末期にアメリカがドイツの重戦車相手に対抗する為に開発されたもんだから。
「…あんた!その本人達が居る中でよくもまぁシレッと言えたものねぇ!!」
まぁ事実だし…とはいえ、いくら文科省の後ろ盾があるとはいえ主力戦車パーシングで揃えてくるってどんだけだよ。
「なんか…試合相手の戦車ってどんどん強くなっていってませんか?」
「ほんとそれな」
大洗は戦車こそ増えてはいるが既存戦車のアップグレードは予算の関係で望めない。
相手だけどんどんインフレしていくバトル漫画とかインフレする前に打ち切り待ったなしだろうに、それを平然とやっちゃうんだもんなー…。
「ヘイラビット達、そんなに悲観する事ないわよ」
「ケイさん?」
話を聞いていたのか、ケイさんの車両が少しスピードを緩めると俺達に速度を合わせてきた。
「どんな戦車も乗っているのは人なんだから、あなた達大洗だってどんどん強くなっているのは間違いないわ。大会で始めに戦った私が保証するんだから!!」
「そ、そうですよね!私達だってやれますよね!!」
「そうだよねぇ、決勝戦じゃ重戦車も倒したんだし〜」
「おー!やったるどー!!」
グッと親指を立ててニカッと笑みを浮かべるケイさん。ウサギチームが気負いしているのを感じてすぐにフォローにやってくるとか…さすが、大所帯の隊長だな。
「それに向こうは選抜チームといえば聞こえは良いけど、バラバラな大学から集められたメンバーが普段乗り慣れていない戦車に乗っている、とも考えられない?」
そこまで言ってケイさんはチラリと俺を見る。
「例え下位互換な戦車でも、充分勝機はある。そうは思わないかしら?ねっ、エイトボール」
…しっかり聞こえてましたかそりゃそうですよねすいません。なんかその立てた親指をそのまま下に向けるか首をかっ切る動作されそうで怖いんですが。
「ついでに私にもコーヒー貰えるかしら?」
「…どうぞ。っても、バラバラなのはうちも大して変わらないんですがね」
言い方を良くすれば精鋭を集めたといえるが、悪く言うなら寄せ集めのメンバーだ、上手く統率が取れるものだろうか。
特に不安なのはーーー。
「サンダースの隊長は何やら難しい話をされているのであります」
「はっはっは、なんだ福田、そんな事もわからないのか」
「簡単な話じゃないか」
「先輩方!お二人はお話の意味がわかるのでありますか!さすがであります!!」
「要するに我々の突撃の技術は戦車の性能をも凌駕する、という話だろう!!」
「うーむ、どこか違うような、あっているような…」
…これなんだよなぁ、チハで考え無しにパーシングに突撃とか、技術だけでどうこうって話じゃないんだが。
「チハタンズのみんなが心配?」
チハタンズ…、チハたんズ、なんかアイドルユニットみたいな名称だなぁ、歌って突撃できるアイドルかぁ…炎上(物理的に)しそう。
「まぁ前回のエキシビションで一度やらかしてますからね、無謀な突撃で作戦がご破綻になるのだけは避けて欲しいんですが」
「ぷっ…あっはっはっはっは!!」
「え?何?」
「…げっ」
急に笑いだしたケイさんに呆気に取られたがアリサはうんざりした表情で呟いていた。
「チハタンの突撃で作戦がゴハタン!あーっははは!ナイスジョークね!!」
えぇ…これで笑うのこの人。てか、別にジョークで言ったつもりじゃなかったんですが。
「…あーもう、あんた何余計な事言ってんのよ」
「いや、俺のせいなのこれ?」
てか、周り誰一人として笑ってねぇし…ちょっと、なんか俺がスベったみたいになってない?
「まったく、これから大事な試合なのに笑わせちゃ駄目よエイトボール…ぷっははは!もーお腹痛い!!」
まだ笑ってるし…この人の笑いの沸点って…。
「ちなみにこれ、しばらく続くわよ…」
「…マジかぁ」
収まる前に敵が来ない事を祈ろう。
「比企谷先輩、紗希が食べたいお菓子があるって言ってまーす」
「…ん?」
ほう、丸山が主張とは珍しい…いや、主張してきたのは山郷で丸山の奴はたぶん無言なんだろうが。
「お菓子の要求どころか中身のリクエストまですんのかよ…で、何が良いんだ?」
「ちゃんと聞いてあげるんですね…」
「やはり年下には甘いのですね」
いやまぁ…普段あまり、というかまったく自分から主張してこない丸山が食べたいって言うくらいだし、それくらいはね。
「紗希がカ◯ルが食べたいって」
「カー◯?えらくシブいチョイスだな…」
◯ールといえば農家のおっさんがメインキャラクターとして描かれたスナック菓子だ、なんでこのおっさんをメインキャラクターに決めたのだろう…。
「っても…悪いが無いぞ。そもそもあれ、全国販売はもうしてないから、わりとレア物なまである」
確か生産規模を縮小して西日本の一部でしか販売していなかったはず…悲しいなぁ。
「…ん?いや待て、なんか一つ混ざってんな」
持ってきたお菓子に混じって農家のおっさんのパッケージが一つ。はて?こんなレア物、用意してきたっけ?
まぁ、あるんだからあるんだろう。まさか!丸山はそれすら把握してカ◯ルを要求してきたというのか!!
まさに予言の巫女!いつも彼方を無表情で見つめている彼女は実は未来を見つめていたのだ…。
「ほい、カー◯のチーズ味」
「わーい!ありがとうございまーす!!」
「そろそろ相手も来るだろうから、手短に食べろよー」
「「「「「はーい!!」」」」」
まっ…そんな訳ないない。あんまり妄想を飛躍しすぎるとどこかのライドー君みたいになるんじゃね?と自重しよう。
「…カール」
…なんか今聞き慣れない声が聞こえた気がするんだが、それは戦車のエンジン音に掻き消される。たぶん、気のせいなんだろう。
あのお菓子が全国販売を止めたと知り、絶望した人は多いはず!!
そして劇場版であの戦車…戦車?が出てきた時、これを連想した人も多いはず!!