劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
この小説とどっちが先に終わるのか、微妙な所になってきたかも(笑)
知波単とのお悩み相談も一段落という事で俺の手は自然とクーラボックスでキンキンに冷やしてあるマッ缶へと伸びる。
プルタブをプシャリと開けてグビグビと、糖分エネルギーが溢れる…高まる。
「…ふぅ」
普段ならマッ缶をキメれば多少落ち着くものがあるが今はどうにも気持ちが落ち着かない。…マッ缶は健全な飲み物ですよ?
『西住さん…いえ、西住みほさんは忙しそうでしたので』
『その調子でみほの事も助けて貰えれば助かるんだが…』
前半戦の結果だけを見ればそう悪いものでもない。
こちらは23両、向こうは24両と残った車輌数だけみればほぼ互角だ。…だが、肝心の中身の方はほぼ大学選抜側の狙い通りにやられている。
そもそも大洗側が最初に立てた作戦は何一つ機能していない。それどころかこちらが山頂を制圧する狙いを利用され、カール自走臼砲の一撃をぶち込まれた。
カール自走臼砲の存在は予想外ではあるが問題は大学選抜側がカール自走臼砲の運用をここまで効果的に発揮出来た事にある。
つまり…作戦は看破されていた、西住の狙いは見透かされていて、そこを狙い撃ちにされたのだ。
先ほど互角とは言ったが、結局敵撃破のメインはプラウダの相打ちと継続高校の奮闘があってこそでそれが無ければ試合展開は最悪だったといえる。
「………」
西住だってこんな大部隊の指揮を執る経験はあまりしてこなかったはずだ。黒森峰では姉住さんが隊長だったし、大洗はそもそも人数が少ないので大部隊の指揮なんて夢のまた夢(悲しいなぁ…)。
…少し、気になるな。
「なぁローズヒップ、ちょっと良いか?」
「はいですの!!」
「まだなんも言ってねぇよ…」
ローズヒップに指示を送る。少し編隊から外れる事にはなるが、まぁしばらく敵の動きも無い行軍中だ、問題は無いだろう。
…あいつの事だし、変に気負ってなけりゃいいんだけどな。
ーーー
ーー
ー
『西住さん、メンテナンスが必要っぽい戦車がいくつかあるみたいなんだけどどうしよっか?』
「わかりました、編成を組み直すので必要な車輌を教えて下さい。目的地に到着したら順番に整備していきましょう」
『オッケー、リストにまとめとくね』
…うーん、思ったより修羅場でしたか、このやり取りを見るに相手は自動車部なんだろうけど。
しかしメンテナンスができるメンバーがチームに居るってのは心強いな、試合中に完璧な整備ができるってのはまさに自動車部様々だ。
しかし様子を見に来たはいいが西の言う通り、やっぱ忙しそうだな…邪魔しちゃなんだし、ステルスぼっちを発動しつつ戻るか。
「…八幡君?」
と思ったらばっちり声をかけられてしまった…、こうなるとクールに去る事も難しい。
「お、おう…よくわかったな?」
ステルスぼっちは戦車までコーティングされないのか…いや、ローズヒップとかアリサが乗っているのでそもそも打ち消されている可能性も?
「うん、シャーマン・イージーエイトのエンジン音が近付いてくるのが聞こえたから、もしかして近くに居るのかなって思ってたんだけど」
…怖っ、西住流マジ怖っ!!
「…え?なにあの子、エンジン音だけで私達の接近に気付いたの?盗聴もドローンも無しで」
これにはシャーマン軍団を率いるサンダースのアリサもドン引きしている。ちなみに俺は後半2つが出てくるこいつの発想にドン引きしている。
「まぁこれが西住だからな…」
「私達にとっては西住さんのすごい所でも、比企谷さんには慣れたものなのですね」
いや、これでも充分驚いているんですが…。
「あら、比企谷さんがいらっしゃるのですか?」
「比企谷殿!シャーマン・イージーエイトの乗り心地はいかがですか?」
ひょっこりとIV号戦車から顔を出す五十鈴と秋山。
「操縦手がローズヒップだぞ、…察しろ」
戦車にクッションとか置いている大洗メンバーに対して何度か渋い表情をしていた俺が言うのは全力でおまいう案件なのだが、こうして乗ってみればなるほど。クッション、大事。
この尻へのダイレクトでくる振動が緩和されるならかつての俺をぶん殴ってでもクッションを敷きたくなってくる。やはり実際に長時間乗ってみないとわからない事もあるのだ。
「ありがとうございます!マックス様!!」
「そこで堂々とお礼を言えるメンタルの方は褒めてやりたいけどな…」
『…そういえばエキシビションマッチの時もローズヒップさんは比企谷さんの操縦手だったな』
冷泉はさすがに操縦中だし、通信か。…それにしても少し声色が妙な所はあるが。
「…どうした冷泉、なんかあったか?」
『…別に、乗り心地が良いなら良かったんじゃないか』
…あれ?これ拗ねてんのか?察しろとは言ったが、なんか察した上で間違えてない?
「マックス様からお菓子も沢山頂けましたので、その分ばっちり飛ばしてまいりますわ!!」
『お菓子!?うぐぐ…』
あ、これお菓子が食べられなくて拗ねてるのか。冷泉とローズヒップ、タイプは真逆だがお互い操縦手で甘いもん好きだしな。
まぁあんこうチームも事前にお菓子や飲み物の用意くらいはしているだろう。なんせ秋山が居るのだ、その辺りの事前準備に抜かりは無いはず。
だが、こいつは用意しているかな?
「まぁあれだ、一応前半戦が終わったって事で差し入れくらいはな」
取り出したるはキンキンに冷やしたマッ缶でございます。とわざとらしくマッ缶を指で摘んで見せてやる。
「貰っちゃってもいいの?これって八幡君の分なんじゃ…」
「ふっ…俺を舐めすぎだな、マッ缶の貯蔵だけならこの試合のどの戦車よりも確保していると自負している」
「比企谷さんの戦車が撃破されたらとても甘い香りがしそうですね」
まぁ場合によっては缶が破損して中身が溢れる程の衝撃を受ける事もあるだろうが。
…その場合、車内をマックスコーヒーの匂いで充満させてたら返す時、蝶野教官はどんな表情を見せるのだろうか。追加料金とか取られないよね?
「さすがは比企谷殿、マックスコーヒーの準備には抜かりはありませんね」
「そう言う秋山は用意して来なかったのか、ふっ…まだまだだな」
勝った、第一部完。いや、秋山がマッ缶用意してたらこの差し入れが無駄になるだろうし、ちょっと気がかりではあったんだが。
「はい…ココアや緑茶、スポーツドリンク等は一通り用意していいたんですけど」
…秋山はドリンクバーでも目指してんの?それとも自動販売機にでもなって迷宮探索がお好みなのか。
「ですがマックスコーヒーは比企谷殿が用意してくれていると思っていましたので、頂けて嬉しいです!!」
「…信頼されてるようでなによりだ」
あと秋山の用意していたラインナップに紅茶関連が無かったのも聖グロリアーナが用意しているからだろうな。餅は餅屋に任せている、というところか。
「…そういや武部はどうした?」
ふと、一番騒がしい奴がまだ顔を出していない事が気になった、IV号戦車の中には居るんだろうがさきほどから声も聞こえない。
「沙織さんですか?さきほどからずっと鏡を無駄に見ているんですが…」
「もーいきなり来るんだもん、女の子にはそれなりの準備だってあるんだからね…」
『沙織、さっきからずっと無駄に髪を触っているが、別に何も変わっていないぞ』
「無駄じゃないもん!!」
あ、居た。…何してたんだあいつ?あと五十鈴と冷泉は相変わらずの当たりの強さである。
「じゃこれマッ缶な、いよいよヤバいとなったらその時にでも飲んでくれ」
「これってそういう最終兵器みたいな扱いなの!?」
そうそう、こういうツッコミが無いとね。それによく言うだろ?【マッ缶だけは最後までとっておく】って。
「ありがとう、みんなで飲むね」
人数分のマッ缶の入った袋を西住に渡す。さて…どう言ったものかと思案して。
「…あー、まぁその、大丈夫か?」
…なんだそれ?こういう時に気の利いた台詞が素直に出てこない自分の悪癖に嫌悪してしまう。そもそも苦し紛れとはいえ、出てきたのがこの質問は駄目だろう。
「…うん、大丈夫だよ」
だってそれは西住の立場からすればそう答えるしか無い、なんの意味も無い残酷な問いかけだ。
部隊の大隊長が「大丈夫か?」と聞かれて「ちょっと大丈夫じゃないっすね」なんて答えれるはずがないだろうに…、それを俺はやらかした。
「…そうか」
だが、彼女が「大丈夫」と答えられたなら、これ以上俺が何かを言える事は無いのだろう。
「じゃ、渡すもんも渡したし…そろそろ戻るわ」
「あ…うん」
背中に西住の視線を感じながらもローズヒップに指示を送り、シャーマン・イージーエイトはその場から離れーーー。
「ストーーーーーップ!!」
ーーーようとした所でまさかのちょっと待った宣言。はて?と振り返ると武部がぶーと頬を膨らませていた。
「…なんだ?マッ缶足りなかったのか」
いくら貯蔵が充分とはいえ、あんこうチーム1人1人に2本も3本も渡していれば在庫も尽きてしまうんだが。
「比企谷も用があって来たのよね?なら普通そこで帰んないでしょ…」
「いやほら、差し入れも渡したし…その用事もすんだろ」
まぁ嘘なんだが。しかしその嘘がどうやら彼女の逆鱗に触れたようだ。
「…華!ゆかりん!砲撃準備!!」
「了解です!!」
「わかりました」
武部は素早く五十鈴と秋山に声をかけた。…砲撃準備!まさか相手チームが来ていたの…か?
…あれれー?なんでIV号戦車の砲塔がこっち向いてんのかなー?
「とりあえず比企谷はそこから動いちゃ駄目だからね!絶対だよ!!」
その宣言と同時にビッと指を刺される。えぇ…なにこれ?今俺、自分とこのチームの大隊長車に砲塔向けられて脅されてんの…?
「あの…沙織さん?」
西住もこの状況には困惑している。当然だ、車長の自分を差し置いて乗員が勝手やっているんだし。
「みぽりん、作戦会議だよ」
「えぇ~!?」
そう言いながら西住は武部に引っ張られるようにIV号戦車の中に引っ込んでしまった、もちろん五十鈴と秋山もである。
ただIV号戦車の砲塔はしっかりとこっちを向いてるんだよなぁ…。
「…なぁ、これ今どういう状況だと思う?」
「とりあえずあんたが全面的に悪いってのはわかったわ…」
「ですね」
「シベリア送りが妥当かと思いますが?」
困った、味方が居ない。
当たり前だな。やらかした質問をして、居心地が悪くなるのを感じたらさっさとその場から逃げようとする奴の味方なんて誰をしないだろう。俺だって嫌だし。
というか…作戦会議とは?もしかして俺をどう処するか決める会議じゃないですよね?
ーーー
ーー
ー
「えぇっと…沙織さん、どうしたの?」
沙織さんに言われてIV号戦車の中へ。…えぇっと、急にどうしたんだろう?
「駄目だよみぽりん!言いたい事はちゃんと言わないと…特に比企谷はアレなんだから」
さっき八幡君に見せた怒った顔…よりはずっと優しいんだけど、沙織さんは私にもぶーと頬を膨らませています。
というより…八幡君がアレって。うん…沙織の言いたい事がわかってちょっと否定出来ないかも
「みほさん、比企谷さんは私達の事を心配して来られたと思うのですが」
「わざわざご自分のマックスコーヒーまで持ってきてますもんね」
「ある意味わかりやすい」
…みんなももうすっかり八幡君の考えてる事がわかっちゃってるんだ。
「それはわかってるんだけど。でも…今は試合中だし」
これだけの大人数の大隊長をした経験は私には無いけど…それでも、お姉ちゃんを見てきたからわかる。
大隊長が弱音や弱気を見せれば、それは部隊全体の士気にも影響が出てくると思うから。
「うんうん、みぽりんの言ってる事は正しいと思う。今は試合中だもんね」
「ありがとう沙織さん、それじゃあキツネさんチームへの砲塔を戻して…」
「でもねみぽりん!恋や恋愛は常在戦場なのよ!!」
「えぇ~!?」
常在戦場…実家に居た時は戦車道関係でよく聞いていたんだけど、恋とか恋愛もそうなの?
「油断なんかしてたら、あっという間に差がつけられちゃうんだから」
なんか…説得力がすごい。
「で、でもほら…みんな試合中だからそんな暇なんてないんじゃないかな?」
「甘い、甘いよみぽりん!試合中だからこそ、つり橋効果だったり、普段なら絶対無いシチュエーションが生まれちゃうんだから」
「なるほど…確かに戦争映画にも恋愛を加えた名作は多く存在しますね」
「よくわからないけどたぶんそれよ!あとゆかりん、後でオススメタイトル教えてね!!」
「そういえば…比企谷さんから借りたラノベでもそういう展開は多かったな、ヒロインのピンチには毎回都合良く主人公が出てくる」
「そうそう!王道のパターンよね!!麻子、参考までにどんなのか後で教えてね」
「相変わらず恋愛が絡むと節操がありませんね…」
「あはは…」
やっぱり恋愛が絡んだ時の沙織さんは頼りになるなぁ…。もしかしたらこれも流派の一つになっちゃったり、とか思っちゃいます。
「ただでさえ比企谷はチーム組んで他の学園艦の人達と交流する事が多いんだから、気を付けないと」
「そういえば…エリカさんとはいつの間にあんなに話すようになったんだろう?」
なんか二人共気付いたら自然とスラスラお喋りしてるような気がしてて…ちょっと羨ましいな。なんて思ったり。
「それに、ダージリン殿がまだ大きく動きを見せていないのも不安ですよね」
「そう、それよ!いつ何を仕掛けてくるかわからないんだから油断禁物ね!!」
えっと…ダージリンさんは私達大洗を助けに来てくれたんだけど。でも…うん、それはそうかも。
「それにねみぽりん。確かに味方の士気を下げない事は大事だけど」
沙織さんは私に向けて優しく微笑んでくれました。
「みぽりんの士気を下げない事だって大事なんだから、隊長としては言えなくても…友達になら不安だって言っても良いと思うよ」
「…あ」
「えぇ、私達もいつでもお話は聞きますから」
「存分に頼って下さいね、西住殿」
「ちょうど比企谷さんから貰ったマックスコーヒーもあるからな、話の肴にもなる」
「みんな…ありがとう」
今までの私は自分自身の士気なんて考えた事もありませんでした、個人より全体の士気を優先する事なんて当たり前だったから。
それを私に気付かせてくれた。本当に、素敵なお友達に出会えて良かったと思います。
ーーー
ーー
ー
『という事でキツネさんチームの比企谷、ちょっとこっち来てね』
「いや、何がという事なんだよ?通信してんだから話ならこのままでいいだろ」
まさかのIV号戦車呼び出しである。いや、そこまで何かしたのかと…したんだろうなぁ。
『いいから早く来なさいよね、みんな待ってるんだから』
「強引だなぁ…」
何が強引かってIV号戦車の砲塔がこっち向いたままなのだ、強引ってか、脅迫なのでは?
「…いやほら、さっき自分の戦車ほったらかしにして他所に行ったばっかだし」
これは半分は言い逃れの手段ではあるが、もう半分は本音でもある。
車長がそう何度も自分の戦車を放置するものではない。そもそもアリサ達にもついさっき「もう二度としない」と宣言したばかりだ。
「…別に、行ってくればいいでしょ。どうせしばらくは敵も来ないんだし」
「カール自走臼砲を撃破しましたから、上からの砲撃を警戒する事もありませんしね」
「いやほら…要件も言わない呼び出しって一番不安になるじゃん」
具体的な話もないままでの「ちょっとこの後、時間あるかな?」は仕事をしている上でのデス宣言にも等しい。気になってその後の仕事が手につかず、更にやらかすまでがワンセットだ。…それ、呼び出した奴が悪いのでは?
「いいからさっさと行きなさいよ!あぁしてIV号戦車に砲塔向けられてると全国大会を思い出しちゃうのよ!!」
そういえば一回戦でフラッグ車だったアリサはIV号戦車に撃破されたか。ほう…経験が生きたな。
まぁ練習試合を換算するならIV号戦車撃破トップは間違いなく俺だろう、その程度でトラウマとかまだまだだな。
「…じゃあ行くけど、一応敵は来ないとは思うが油断するなよ」
「油断?違うわ!これは余裕ってやつなのよ!!…ほら、正妻の余裕っていうかごにょごにょーーー」
…なんか後半ごにょごにょ言っててよく聞こえなかったが、シシオーさんをリスペクトしてるのはわかった。
「何度も留守にして悪いな、次こそはもうしないから」
「なんだか比企谷さんのその言い方、何度も浮気を繰り返すダメな夫みたいですね」
「もはやシベリアへ送る必要ありません」
「いってらっしゃいませーですわ!!」
…笑顔でぶんぶんと手を振って送り出してくれるのはローズヒップだけでした。まる。
大洗連合チーム23両VS大学選抜チーム24両。