劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
「相手クルセイダーの撃破を確認しました、しかし…これは」
あんこうチームの全員が、その出来事に違和感を感じていた。
曲がり角を曲がりきれず、旅館に激突したクルセイダー、その隙を見逃さず砲撃を撃ち、白旗も確認した。
「えと、比企谷を倒した…って事で良いの?」
「それにしては…」
あまりにも呆気ない…というのが本音ではある。しかし、クルセイダーの上げる白旗が何よりもそれを証明している。
「まぁ、比企谷さんらしいといえばらしいが…」
「………」
「みぽりん?」
「ううん、行こう」
西住 みほは少し考える素振りを見せたが先頭のクルセイダーを撃破したところでまだプラウダ高校の追撃が緩まった訳ではない。
先へと進むⅣ号、西住 みほは後ろをチラリと振り向き動かなくなったクルセイダーを見つめた。
ーーー
ーー
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「苦戦していますね」
「それだけ大洗というチームが強くなった、という事よ」
空き地にチャーチルを停め、堂々と椅子まで用意して彼女達聖グロリアーナのお茶会は試合中でも開かれる。
彼が聞けば文句の1つでも出そうなものだが、それが聖グロリアーナであるので仕方ない。
「確かに、練習試合の時とはずいぶん違いますね」
「人は成長するもの、あの戦車道全国大会はそれをされるのには充分な戦いだったという事よ」
そんな会話を交えつつ、ティータイムを楽しむ彼女達に1両の戦車が近付いてくる。
それを見たダージリンはからかうようにテーブルに添え付けた無線機を手に取った。
「あなたからすれば少し悔しいのではなくて?」
『…なんの話です?』
「例えあなたが居なくても大洗は立派な強豪チームという事よ、マックス」
ダージリンの無線は先程近付いてきた戦車、T-34/85へ。
『別に今までだって試合に出てた訳じゃありませんし、そりゃそうでしょ…』
そしてその搭乗者である比企谷 八幡へ向けて、繋がれていた。
ーーー
ーー
ー
試合前の作戦会議で思い付いた作戦がこれだが、別にからくり…という程特別な事は何もしていない。
「しかし、自分の撃破まで偽装しようとするとは…」
「やっぱりマックスさんですよね、ローズヒップさんが少し可哀想というか…」
「いや、別にクルセイダーを犠牲にした訳じゃないから…」
そう、ローズヒップと砲手子ちゃんは犠牲になったのだ、犠牲の犠牲に…、なんて事はもちろん無いと言わせて貰いたい。
結果的にあの後撃破されてしまったがクルセイダーがあのまま生き延びていたとしてもまったく問題はないし、なんならその方が良かったまである。
なんでも曲がろうとした所で倒れた信号機に引っ掛かって操縦不能になってしまったらしい、公共の物を壊すとはなんと卑劣な!!(目を背けつつ)。
「それにしたって、浮気性ではなくて?将来が心配ね」
「なんでダージリンさんがそこを心配するんですかねぇ…」
そもそも浮気は違反として罰せられるべきだが、俺は今回何も悪い事はしてない、そこは神にも戦車道連盟にも誓って言える事だ。
「だいたい、戦車の乗り換えが浮気とは言えんでしょ…」
「そんなにロシア戦車が良かったのね」
酷い!イギリス戦車とは遊びだったのね!!とでも言いたげである。あぁ…初っぱな嫌味っぽい事言われたのはこれのせいですか。
いえ、実はドイツ戦車が好きです。…とは言わない方がいいんだろなぁ。
答えを言ってしまえば単純な話だ、俺は乗る戦車をクルセイダーからT-34へと乗り換えた、ただそれだけだ。
戦車道の試合中、試合開始時の戦車から別の戦車へ移動する事は実はそう珍しい話ではない。
プラウダ戦の時にノンナさんもやっていたし、なんならうちも冷泉が雪に埋もれたルノーを脱出させる為に少し動かしていた。
つまり、完全にルールに則った正統派の作戦であり、これに文句を言える者はだれも居ないだろう。
「これで西住は俺がもう試合を降りたと思うはずです」
俺がクルセイダーに乗る事は試合前に伝えたし、それだって実際に先程まで乗っていたのだ、嘘は何一つついていない。
それも踏まえて、西住が俺を警戒しているなら。
「それで、あなたはどうするのかしら?」
「…そうですね、一番嫌なタイミングで一番嫌な事を狙ってみますよ」
その警戒意識も俺の撃破(仮)で多少は薄れた事を期待したい、そこを狙う。
「うわぁ…」
ペコが明らかに引いていた、そりゃもうドン引きだこれ…。
「やはり、マックスさんにはデータでは測りきれないものがありそうですね、しかしこれをどうまとめれば良いのか…」
アッサムさんなんかめっちゃ頭抱えてるし、むしろ俺のデータなんかあるのね…。
「…で、クラーラは納得しているのかしら?」
「あぁ…まぁ、そうですね」
…やっぱそこが一番重要だよね。
戦車をクルセイダーからT-34へ乗り換えた訳だが、そうなると問題は同乗者がガラリと変わる事だ。
戦車は一人では動かせない、俺がどれだけヤル気を出しても乗っている他の搭乗者のヤル気が無ければ意味がない。
そして俺が乗り換えたT-34の砲手といえば…。
「………」
彼女、プラウダ高校でロシアからの留学生としてやってきた…らしい、クラーラだ。
彼女が納得しているかと言われれば頬をムスッと膨らませて拗ねている。可愛い。
なんかごめんね。俺のせいでカチューシャさんと離ればなれになっちゃって…。
「…あの、マックスさんはロシア語が話せるんですか?」
ペコが心配してそう聞いてくる、クラーラは普段ロシア語で会話をしているし、通訳をしてくれるノンナさんはもちろん居ない。
そんなクラーラに指示を出すには俺もロシア語で話さないといけないのだろうが、そんなスキルはもちろんない。
「えぇ、実は話せるのよ、ねぇマックス?」
「…え?いや…そうでしたっけ?」
なにそれ初耳、俺の知らない所で八幡が本当はロシア語ペラペラとかどこの二次創作だよ、ちゃんと許可とった?
「準決勝の時、ロシア語でカチューシャに伝えたのでしょう?今日も美しい、一目見た時からそう思っていたって、あの子、お茶会の時に嬉しそうに話してたわよ」
「………」
やだ、お茶会コミュニティ怖い、主婦の井戸端会議より浸透率半端ない。
「…マックスさん」
ペコの目が怖い、顔は笑ってるのに目が笑っていない。
いや、それより怖いのは…。
「ーーー!!」
クラーラだ。その言葉を聞いた瞬間、頬を赤く染めてロシア語でめっちゃまくし立てながら迫ってくる。怖い。
いや、怖いは怖いが…これで同時に立てていた仮説も立証が出来たというものだ。
「クラーラ、お前日本語わかるだろ」
「ー…!」
ピタリとクラーラの動きが止まる、これを言って止まるという事は決定だな。
ダージリンさんが日本語で話した『俺がロシア語でカチューシャさんを誉めた』という言葉にクラーラはここまで反応している。
前々から少し思ってはいたんだが、クラーラは普段の会話こそロシア語だが、日本語で話していても反応はしているようだ。
つまり、日本語の内容くらいは理解できるのだろう、俺がロシア語を話せなくても簡単な指示くらいならなんとかなる…はず。
というかこれでなんともならなかったら俺の作戦が全てパーになるまである。…さて、クラーラの反応は?
「…カチューシャ様には内緒ですよ?」
クラーラは人差し指を口に当てると片方の目をつむり、しーっとジェスチャーをした。なにこれちょうかわいい。
先程迫られていたので距離も近く、そんな近距離でロシア少女にこのジェスチャーやられればドキドキしてしまうのは仕方ない。ダージリンさん?いや…あの人日本人だし。
「…てか、普通に話せるのかよ」
日本語が理解できるどころか、普通に日本語話せるのかよ…これは俺も騙されたわ。
「カチューシャ様の為に勉強しました」
ならなんでそのカチューシャさんに日本語で話さないんですかねぇ…ノンナさんと合わせてからかってるんだろうが。
「…とにかくこれで心配はなさそうだな、すまんクラーラ、頼めるか?」
とはいえ、彼女が協力してくれないと状況は変わらない、クラーラはあんまり俺に良いイメージ持っては無さそうだが…。
「この試合、ノンナさんと勝負しています」
「ノンナさんと?なんの勝負?」
てか、大洗・知波単との試合なんだけど…。
「もちろん、どちらがよりカチューシャ様のお役に立てるかです、比企谷さん、わかりますか?」
つまり、やってみろという事なんだろう。…むしろ失敗したらどうなるかわかってる?的なニュアンスまで感じる。
…しかしノンナさんよりかぁ。あの人、もううさぎチームのM3やら自動車部のポルシェティガーとか撃破してんだけど?
「まっ、フラッグ車を倒しちまうのが一番の手柄だしな」
それでも、試合終了の立役者になれるのなら間違いなく勝負の面で見てもこっちの勝ちだ。
「…という事でダージリンさん、俺は一度隠れますんで」
「えぇ、気を付けて」
この人も俺のやろうとしている事は理解しているのだろう、2つ返事で了承を貰えた。
大事なのは気付かれない事、そしてタイミングを見極める事だ、やられた人間が何度も復活する訳にはいかない。
しかるべき、狙える場面で確実に、西住の乗るあんこうチームのⅣ号フラッグ車を落とす。