TSした俺と交友関係NTRアンハッピーセットを食らって女性不信拗らせた親友 作:北京院
あれから数日、すっかり熱も下がり体調も落ち着いたある日。
今日の晩飯は何にしようとアプリで残高を確認したらそこそこの金額が振り込まれていることに気がついた。
母さんにねだった覚えもないしはてなんだろうかと見てみると名目は「セイフシエンキン」と書かれている。
……そういえば血液検査やらなにやらに協力したらもらえるという話があったような、なかったような。
ともあれちょうどいい臨時収入が舞い込んできた。
帰り道で翔太に声をかける。
「今度の土曜日、買い物行こうぜ」
少し考えるそぶりをしてから「何買うんだ?」と聞かれたのでついでに思いついた要件を伝える。
「ほら、新刊出ただろ」
何冊か読んでる漫画の新刊がでているはずだ。
電子書籍も悪くないけれど、本棚を満たすことで得られる達成感と本屋へ直接行くことで稀にある思いがけぬ出会いも好きなので、いいきっかけだろう。
「何時にする」
「んー……昼食って買い物ぐらいでいいだろ? 11時ぐらいで現地集合」
「わかった」
その日は適当に分かれ、あくる朝。
ちょっと遅くに起きて来て、髪をいつものようにセットする。
さて出かける準備はできたな、というところでふと思いついた。今日の出かける服装についてだ。
「あったあった……うーん」
冬物の服を買った時についでにと買い物かごへ放り込まれていたスカート。
制服ではすでにスカートに慣れて久しいが私服ではなんとなく着ないまま過ごしてしまっていた。
サイズは問題ないし、別に超ミニだったりするわけでもないシンプルなものだ。
今なら特に問題なく着こなせるだろう。
足を通してファスナーを上げてやるとなるほど見事な私服の美少女がそこにいた。
「ま、当然悪くないよな」
くるりと回ればスカートもふわりと応える。
おっ、めちゃくちゃ美少女っぽい……速度に気をつけないと下着丸出しの変態になるから気をつけないとだけど。
制服のスカートより幾分か短いのでめくれることには気をつけないといけないな。外はきっと寒いしタイツもつけておこう。
さてそろそろでかけようかと思ったタイミングで何故かインターホンのチャイムが鳴った。
やたらとゆっくり、押し込む音が鳴り終わるまで待ってから手を離す鳴らし方。
「……はあ?」
今日届く予定の通販だとかはないし、朝飯は済ませたから出前でもない。
というかまあ、もう心当たりしかないんだが。
ため息交じりにドアを開けると案の定翔太がそこにいた。
「現地集合っていわなかったか?」
「いや……クセで」
気まずそうに首をかくが、まぁ来てしまったものはしょうがないか。
準備はできているしカバンだけとってこようとしたところでもう一声かけられた。
「それよりお前……その服」
「ん。どうせだからな! リハビリ特別番外編だ」
さっきの経験を活かしてゆっくり回れば、完璧美少女アピールはばっちりだ。
翔太が目をパチクリさせている。珍しい顔だな。
「学校でのリハビリも効果あったしな。さらに一歩進めるぞ」
ふっふっふ、とわざとらしく笑ってやるとため息が返ってきた。なんだお前不満か?
「いや……そうだな。ありがとな」
「ん、お? ああ……」
かと思えば素直にお礼を言われてしまった。
まぁいいか。時間としてはちょうどいいぐらいだろう。
カバンを持ってきて外に出れば、冷たい風が少し吹いた。
並んで歩き出す。距離はいつもと変わらなかった。
もうこの距離は意識せずともできるようになったのか。
こんな美少女を横に置いといて意識しないとかそれはそれでリハビリになってないんじゃないか? とも考えたがポジティブに加点要素としておこうか。
ツッコミどころをもうひとつ思い出したので一応聞いておく。
「ところでクセでって途中で気づくだろ普通」
「いや……気づきはしたんだけどな」
じゃあなんでそのまま来たんだお前は。
言葉にするよりも先に返答が帰ってくる。
「だいぶ近くまで来てたからもういいかと思った」
「よかねぇよ」
別にいつ来ても困りはしないがそれはどうなんだまったく。
普通に買い物に行く時に俺の家に来られても基本何にもないぞ。
ともあれくだらない話をしながら歩いていくと、あっという間に目的地に到着していた。
駅前のショッピングモールはそこそこの人がいる。当然ながら女性客もいるが翔太はいつかのように縮こまることも顔を真っ青にすることもなく隣を歩けていた。
「ふーん……」
「……どうした? 本屋いくか」
「いやなんでも。それより腹減らね?」
なんとなく眺めていた俺に翔太が元々の目的地を親指で指した。しかしまあ焦ることもないだろう。
翔太は自分の腹に手を当ててから少し考えるそぶりをした。
「……ぼちぼちだな」
じゃあちょうどいいな。
モール内のファミレスへ2人で入ってメニューを広げる。
俺はとりあえず日替わりランチにした。土曜日も対応メニューがあるらしいので。
翔太はハンバーグランチにしていた。肉。ちょっとそれもありだったかもしれないと思う。
ドリンクバーをふたつつけて、注文を確定させた。
「ハンバーグもありだったかな」
「日替わりもハンバーグだったろ、白身フライとセットで」
「いや。和風ハンバーグとハンバーグは別だな」
確かに今日の日替わりメニューは和風ハンバーグと白身フライのセットだ。
しかし、ハンバーグランチのステーキソースのハンバーグと上に大根おろしの乗ったさっぱりとした和風ハンバーグは別物なのだ。
さっぱりしてて美味しいのは間違いないが、肉を食べるぞ! という時に食べると肉肉した感じが足りない。
口の中のリセットなんてものはライスに任せて肉のパワーを叩きこむ、そんなハンバーグステーキはとても魅力的なのだ。
まぁ、今回はわざわざやっぱり変更で! とまで言う気はないのだけれども。
机の端に置いてある調味料の瓶をくるくる回してみてみる。
「あ、そうだ。今日奢るわ」
「……なんでだ?」
伝えそこなっていたことを思い出して口に出す。
翔太は割と本気で理由がわからないらしい。大噓つきのくせに鈍いなこいつは。
「ほら、補助金。出るって言ってたろ? それでちょっとリッチなんだよ」
なるほど、と翔太がうなづいた。
……それから理由はもうひとつ。
「それに、この前の風邪の時。……助かったから。奢られとけよ」
「そうか。……ありがとな」
素直に伝えたら翔太が少し照れ臭そうに笑ったので、こっちも話を続けるのをやめて席を立った。
「じゃ、飲みもん持ってくるけどウーロン? オレンジ?」
「とりあえずオレンジかな」
「あいよ」
カップを2つ。ひとつには氷を、もうひとつは氷なし。
氷なしのほうにオレンジジュースを入れて、氷を入れた方には野菜ジュースを半分にカルピスをもう半分いれた。
お盆に載せて、ストローをふたつ。わざとらしく棒読みに「オマタセシマシタ」と言ってみた。
「さんきゅ」とそのまま盆の上のコップとストローを持っていかれた。
俺も座って、自分の野菜ジュースのミックスドリンクを飲む。カルピスの効果でカドがとれて甘くて飲みやすい。
いや、ドリンクバーの野菜ジュース自体がそんなに濃くないから飲みやすいものなんだけれども。自分でさらに美味くした、ということにしておく。
「白身フライって何かけるか毎回ちょっと悩まないか?」
「なんだ急に」
コップ丸ごと一気飲み、とはいかないのでふぅ、と息を吐いてから改めて視線を調味料へやって聞いてみる。
醤油とソースがそこにある。フライならばやはりソースが王道なのか。それとも、魚系統にはとりあえず醤油をつけておけばよいのか。
店によってはつけあわせとしてタルタルソースやマヨネーズがついていることもある。タルタルソースだとなんだかすごく得した気分になれるが、しかし魚よりもエビや鶏にこそ合うのではないか。
そんなことをとりとめなく話していると翔太は心底どうでもよさそうな顔をして聞いていた。
「で、どっちかける?」
配膳ロボが俺の注文した日替わりランチを持ってきたので問いかけてみる。
翔太が右を差したので醤油の入れ物を皿の横に置いた。まだ翔太のハンバーグは来てない。
「っと……お茶お茶」
「とってくる」
飲みかけの野菜カルピスを飲み干してご飯に合わせるお茶をとってこようとしたら翔太が立ち上がってコップを持っていってしまった。
どうやら自分の分も持っていっているらしい。まあ面倒がなくていいか、とドリンクバーのほうをみていたら配膳ロボが翔太のランチを持ってきた。
「ほいほいどうも」
皿をおろして翔太の机に置いてやる。
ロボが帰っていくのと翔太が両手でコップを持って帰ってくるのは同時だった。
「いただきまーす」
「いただきます」
手を合わせてから醤油をさっと白身フライにかけてやる。うん、ちょっとしょっぱいかもしれない。
和風ハンバーグを箸で割って食べるとおろしと和風ソースが優しく口の中を包んでちょうどよかった。
しかし……
「……和風ハンバーグと醤油だと系統が被ったな」
失敗したな、と思った。翔太は呆れた顔をしていた。
お茶をちみちみと飲みながら完食し、一息つく。
お茶を飲み干したコップを片手にドリンクバーに再び立つ。グラスへ氷をいっぱいに入れてコーヒーを注いだ。量を調整するために少し口をつけて飲もうとする。
「にっ……が……」
しかし口に入った時点であまりの苦さにひるんでしまい、ちょっと表面を飲むだけになってしまった。
ここのコーヒーこんなに苦かったっけ? まぁいいや。いやよくないが、ともかく氷が溶けたスペースとあわせてコップの半分程度は空きがある。
そこへ無糖の紅茶にウーロン茶を注ぎ、野菜ジュースを追加した。
真っ黒なままのドリンクからは、ほんのり遠くに野菜と紅茶の香りがしなくもない。カルピスをちょっとだけ最後に追加したが、残念ながらミルクのように色を押し返すことはかなわなかった。
しかしもとのコーヒーに比べれば濁った色合いになったそれを持って席に戻る。新しいストローももらってきていた。
「……何持ってきたんだ?」
「そりゃあもう、スペシャルだよ」
物欲しそうな顔をした翔太に応えると鼻で笑われた。
バカ野郎奇跡が起こるかもしれないだろ! とストローを突っ込んで飲んでみる。にがい。ほんのり甘みと野菜の香り……? えぐみ……? と紅茶がすっごく遠くで手を振っている。
よーし! これはだめだな!
「っぐ……いやあ、これは最高だな……そんなに飲みたいか! 仕方ないなぁ……!」
「いや、いらないからな」
ご期待に応えて一口分けてやろう、とコップを差し出す。
翔太は最初は拒絶したが、俺が手を引っ込めないことで観念したのか自分のストローをさして一口飲んだ。
ちょっとむせたのか「ん゚っ」と面白い音を出して眉間にすごい勢いでシワが寄った。
わははは、かかったなアホが!! 愉快なので指を差したら手で弾かれた。
ふと視線を落とす。なんだか懐かしいテンションのやりとりに、いつの間にかだいぶガニ股になっていた。
危ない危ない、そういえば私服だけどスカートだった。内股にしてスカートを腿の内側へ巻き込み直して顔を上げる。
翔太は俺のスペシャルドリンクを三分の一程度飲んでギブアップをしていた。
「……残りは飲めよ」
「善処する」
翔太が使っていたストローが抜かれ、俺のストローを戻す。飲んでみるが、やっぱりひどい味だ。
ぐだぐだとくだらないやりとりをしつつ、ゆっくりドリンクを飲み終わるまでに翔太は二度ほど自分のジュースをおかわりしていた。
会計を宣言通りに俺が支払って店の外に出ると思っていたよりも時間が経っていた。
本屋につくと、少年誌のコーナーまで並んで歩く。
目当ての本はすぐに見つかったので取って片手で持っておく。
そのまま近くの平積みの本を眺めてみると、初めて見る本や前から気になってた本などが目に入った。
予算的には余裕もあるし、何冊か買ってみようか。表紙買いにタイトル買いはこういう機会こそだ。
正面の背表紙しか見えない本の中にも気になるタイトルはある。どれを取ろうかな、と見ている視界へ、横から腕が横切った。
翔太の身体が俺と本棚の間を通って、逆側の本へ指をかける。近いな、と思った。
俺が選ぶのに邪魔だろ、と言おうか。もしくは選ぶのに邪魔だろうし、下がろうか。
どちらも選べなくって、やたらとゆっくりと近くで本を選ぶ翔太の後頭部を眺めることになっていた。
そうしてしばらくして、ようやく翔太が本を取りだして起き上がった。
「……なんか選んでたか。悪い」
「いや、別に」
起き上がった後の空間をなんとなく眺めたままの俺を見て翔太が謝ってきた。
とっさに答えたが、実際別になんでもない。さっきまで眺めていた本棚にはもう欲しいものは並んでいない気がした。
納得したのか「そうか」と短く応えて翔太がレジへ並んだ。
俺も結局もともと買う予定だった本だけ買うことにした。
帰り道もくだらないことを話しながら歩いた。朝と距離は変わらなかった。
そのままだらだら歩き続けて、家まで翔太はついてきた。
「……これもクセか?」
「いや。別に」
笑ってやってから、上がっていくか聞いてみる。
少し考えてから「今日はいい」と言ったので、ペットボトルをついでに一本持たせてやった。
「今日は8点ってところだな」
「……何の点だ?」
何の点、とは失敬な。
今日のリハビリ特別編の採点結果を教えてやったがピンと来ていないらしい。
「今日の特別メニューの採点だよ。あ、10点満点な」
「……結構いいな」
「だからご褒美な」
翔太がふっと笑ったので、こちらもちょっとニヒルに笑ってやった。
ペットボトルを手に持って「またな」と言われてこっちも「おう」とだけ言ってドアを閉めた。
買ってきたばかりの本をすぐに読む気にはならなかったので、足を投げ出して座った。
スカートが広がったけれど、咎められることも気にする必要もないからすごく楽だな、と伸びをした。
たくさんの感想、お気に入り、評価、ここすきありがとうございます。とてもモチベーションになっています!
当初考えていた展開からも少しずつ変わってきていて、二人が今どう動くのかを考え直していたらずいぶん時間が経ってしまいました。
今回でリハビリ編は終了、次回からクライマックスの『親友』編予定です。
当初のプロットから変わった部分もあるので、一度ここで少し書き溜め期間を取ろうと思います。ある程度ストックを作って、再開後は週2回くらいで定期的に投稿できたらいいなと考えています。
1か月ほどお時間をいただく予定です。少々お待ちください!
次回、『親友』編からまたよろしくお願いします。