「そういやロニ、あっちで彼女の一人や二人はできたの?」
「はっはっは、カイルくん、それを僕に聞くのかい?聞いちゃうのか?聞いてしまうのか?…お前って奴は鬼か!」
「ああ、うん。なんかごめん。」
「ちくしょう……なんだかとってもどちくしょう!」
次の日の朝、二人は朝食を食べながら、ルーティにラグナ遺跡に行く旨を伝えた。先日の件もあり少し心配していた彼女だったが、二人の実力自体は信頼している事、そして二人だけではなく、アタモニ神団の騎士達に同行することを聞き、それならば問題はないだろうとすぐにお弁当をこしらえてくれた。
むしろ孤児院を出るときには、
「やるからには、ガッツリ稼いできなさいよ、あんたたち!」
なんて言われてしまい、カイルとロニは苦笑いするしかなかった。
「確かに稼ぎに行くんだけどさ、ちょっと嘘ついてるみたいで気が引けたなあ」
「騎士団出し抜いて二人だけでレアモンスター倒してアイテムかっぱらってきます、なんて言えないだろさすがに。」
「そりゃそうだけどさ。」
そんなことを言った日には、帰ってきた日のロニのごとく、華麗な関節技の嵐が待っているに違い無い。いや、もしかしたら「しくじるんじゃないわよ!」と応援されるかもしれないが。たぶん後者の確率のほうが高い気もする。
「それに嘘はついてない。黙ってるだけだ。なに、見つけたらスペクタクルズ使って、さすがに無理そーだなーって思ったら、騎士団の連中が来るまで待ってりゃいいんだよ。何も命がけで戦わなきゃならない相手でもないんだし」
スペクタクルズは対象の情報を解析するレンズ製品だ。使っているレンズがごく小さい屑レンズの為に完全に使い捨てだが、敵の能力を解析してレベルという形で算出してくれるため、モンスターと戦う人々にとっては必需品と言えるアイテムだ。
同じような機能は、カイルたちが身に着けている晶術用のレンズの装飾部にも仕込まれており、疑似晶術を使うものは何時でも自信の能力を数値化して確認できる。これも、疑似晶術が広まった要因の一つだと言えるが、こちらは装備してる本人の情報しか見ることができないという欠点がある。技術的には可能だが、スペクタクルズが売れなくなると困る雑貨屋連合(そんなものあるのか知らないけれど)の息が掛かっているんじゃないかとか言われてるが真偽は不明だ。
「それもそうだね。別にそいつ以外にモンスターが居ない訳でもないんだし、気楽に行こうか」
「そうそう。それに二人で狩りに行くのは久しぶりだからな。どんだけ腕を上げたか見せてもらうぜ?」
「おう! そっちも、騎士団で鍛えた腕前楽しみにしてるよ、ロニ!」
その後、二人は宿に泊まっていたアタモニ神団の人達と面会した。そしてロニの(怪しすぎる)説得の効果が有ったのか無かったのか、特に怪しまれることもなく、善意の協力者と言う形でアタモニ神団に同行することができた。ちなみにラグナ遺跡までの道中は、本当に特に何もなかった。モンスターの一匹も現れない状況に、カイルたちは何か起こっているんじゃないかと疑心暗鬼に陥るほどだった。まあ、実際は騎士団がクレスタに来る道中、訓練を兼ねて周囲のモンスターを片っ端から蹴散らしたからだったりするのだが。道中のモンスターからのレンズも少なからず期待してたカイルらにとっては少々残念だった。
そして現在、ラグナ遺跡内部。最深部へのルートは遺跡への道中で既に手持ちの地図に写してある。あとは適当なところでアタモニ神団の人間をまいて、二人だけで揚々と最深部へ向かうだけだったのだが……運命の女神とやらは、見事にカイルらを嘲笑った。
「大丈夫か君たち! 怪我はないか!」
遺跡に入って最初の部屋の床が、カイルらが入った瞬間崩れ落ちたのだ。案内役として先を歩いていたカイルとロニは、仲良く下へと落ちてしまった。アタモニ神団の人達はどうやら無事のようだが、この時点で彼らに先んじて最深部に行くことはできなくなってしまった。二人が必要以上に距離を取ろうとすれば、また同じようなことになるかもしれないと言われて止められてしまうだろうことは容易に想像できる。むしろ絶対にそうなると、同じ騎士団員であるロニは確信している。と言うか自分でもそうする。
「大丈夫です! そちらこそ怪我はありませんか!?」
「こちらは大丈夫だ!」
「それはよかった!」
騎士の相手をカイルがしている間、ロニは周囲を見回していた。どうやら真下にあった部屋の天井が抜ける形になったらしく、そこまで高さがなかったため無事だったようだ。
「運が良いんだか悪いんだか……いや、怪我してないんだから良いんだろうけど、だったらそもそも落ちるなよ……」
などとぶつくさ言いながら部屋を見回していたロニだったが、ふとあることに気が付いた。
「今どこかにロープを結んで投げ入れる!少し待っててくれ!」
「わかりまし「いやちょっと待ってください!」なんだよロニ」
カイルの言葉を遮りながら、ロニが上に居る騎士達に話しかける。
「ここ、前に調査しに来たときに一度来た部屋です!記憶通りなら、ここから歩いてそちらと合流できるはずなので、先に進んでてください。しばらく一本道のはずなので、案内がなくても大丈夫なはずです」
「そうか? だがしかし……」
「それに、ロープを上っている間にモンスターに襲われる可能性だってあります。そうなったら、今度こそ下に落ちて怪我をするかもしれませんし。」
「ううむ、そうか。そうだな、解った。気をつけろよ。」
ロニの言葉に納得した騎士達は、部屋を後にして先に進んで行った。
「ちょ、ロニ! いいの? これじゃ先にあっちがモンスターやっつけちゃうよ!?」
「まあまあカイル。ちょい耳貸せ」
「?」
そう言ってロニは、カイルの耳元で囁いた。
(思い出したぜ。そこの通路あるだろ? あそこを真っ直ぐ行くと、ちょっと広い大部屋にでるんだが、なんとそこが新しく出来たっていう最深部への道のすぐそばなんだよ!)
(マジで!?)
(ああ。出発前に地図で場所確認したから間違いねえ。あとな、上の部屋を出た後しばらくは一本道になってて、本当に案内はいらねーんだが、ある地点からいきなりT字路やら横道やらがいっぱいになるんだ。最深部の入口ができた場所には確かにたどり着くだろうが、かなり時間を食う。元々はそこで適当な迂回路に誘導した後抜け駆けするつもりだったんだが……まだ俺たちは天に見放されちゃいなかったみたいだぜ)
そうなれば善は急げと、二人は全力で駆けだした。道中のモンスターなど、二人のレベルと比べれば雑魚同然。あっという間に蹴散らし(当然戦利品は回収しつつ)、二人は最深部へと急いだ。
「この奥がどうやら最深部みたいだな。」
二人は何事もなく、騎士団より先に最深部前へと到達することができた。だが、そこで別の問題が発生した。
「モンスター、居ねえな」
「居ないね、どこにも」
ここに居ると聞いていた、レアモンスターらしき存在がどこにもいなかったのだ。どこかで見落としたということはないだろうし、この部屋には隠れられる場所が見当たらない。最深部の方に引っこんでいるのだろうか?姿が見えないモンスターなのか?などとロニが適当にハルバードを振りまわしてみるが、カイルに当たりそうになって彼が怒るだけで終わった。
「とりあえず、奥行ってみる?」
「でもなあ、もし奥に居たとして、戦ってる最中に大型レンズに傷が付きでもしたら、大目玉所じゃすまねえだろ、絶対」
そう二人が悩んでいると、突然カイルの頭に影がかかった。
「上か! カイル、下がれ!」
とっさにロニがカイルの服をつかんで後ろに飛ぶ。次の瞬間、カイルが立っていた地面は大きくへこみ、その中心には巨大なモンスターが立っていた。
「こいつが例のレアモンスターか……って言うかこれ、空中都市の生体兵器じゃねえか!」
ロニの顔に焦りが浮かぶ。目の前に現れたのは、天地戦争時代に天上軍が運用していた生体兵器『ブエル』だった。騎士団時代の任務で何度か遭対していたロニには、それがどれだけ強いかが身に染みてわかっていた。少なくともこいつは騎士団員数十名で戦うような相手だ。自分たち二人だけでかなうような相手ではない。
こういった空中都市由来のモンスターは、昔にスタン達が排除したはずだが、通れなかった最深部にいたものはさすがに撃ち漏らしていたのだろう。あるいは、機能停止していたものが先日の崩落の際に再起動したのか。
(くそ、最悪だ。とにかく逃げねえと! だが、逃げ切れるか?)
下手をすれば後からくる騎士団員たちを巻き込む。準備ができていない所にこんな奴が来たら、どれだけ被害が出るか分かったものじゃない。だが、このままでは自分たちが危ない。最悪、自分が囮になってひきつけているうちにカイルだけでも逃がすべきか……そんなことをロニが考えていると、カイルは剣を構えて前に出た。
「おいカイル!何やってんだ!そいつはやべえ、勝てる相手じゃねえぞ!」
そう言うロニに、カイルは何でもないようにスペクタクルズを投げ渡す。
「落ち着いて、ロニ。こいつそんなにレベル高くないよ?」
「へ?」
カイルに言われてロニがスペクタクルズを使うと、そこに表示されていたレベルはカイルやロニとそう変わらなかった。よく見ると、この都市が落ちた衝撃でダメージを受けてたのか全身がズタボロで、かろうじて動いてるような感じだった。
「……まじか。焦って損したぜ」
なまじ知っているが故、敵の観察、分析と言う基本すら忘れ、正しく状況を判断できなかった自分を恥じるロニ。同時に、冷静にスペクタクルズを使って状況を正しく判断するカイルを頼もしく思う。
(しばらく会わないうちに、ずいぶん成長したみたいだな、こいつ)
そのことを嬉しく思うと同時に、少し寂しさも感じてしまう。まあ、そんなことは後で考えればいい。今は目の前の敵を倒すのが先だ。
「うっし、カイル! 全力で行くぞ!」
「おう! 行くぜ、ロニ!」
二人は武器を構え、目の前のモンスター目がけて駆け出して行った。
ゲームとは多少形は違うかもしれないけど、この世界の人達もレベルの概念は知ってますってことで一つ。