『ブエル』は空中都市に配備されていた、カタツムリの殻のような武装ユニットがついた虫とでも言うような形状をした大型の生体兵器だ。攻撃としては武装ユニットからの光弾や、足での打撃、体当たり等多彩で、考えなしに突っ込めば返り討ちにあう。それはボロボロになっている今も変わらない。こいつ相手にバカ正直に正面から突撃すれば、その多彩な攻撃によって返り討ちにあうだろう。
そんなことを知ってか知らずか、カイルはブエル目がけて突撃する。それを見て、カイル目がけて光弾を放つブエル。
「残念、遅いよ!」
しかし、カイルの姿は既にそこにはない。ルーティに徹底的に戦い方を仕込まれたカイルは、小柄な自分が真正面から相手にぶつかることの愚かしさを知っている。だからこそ彼は、戦闘に置いては速度を活かし、フェイントや晶術を駆使して相手を翻弄する戦法をとる。カイルは突っ込んだ勢いを殺さずに、そのまま真横に飛び退いたのだ。それによって、ブエルはカイルを追って向きを変える。 つまり今、その注意は完全にカイルに向かっており、すぐ傍に近づいて来ていたロニに気付くことができなかった。機能が万全ならまた違ったかも知れないが、ブエルの体は既にボロボロであり、センサー類も当然不調だったのだ。
「隙だらけだぜ? 雷陣招!」
ブエルがロニのほうを向くよりも早く、ロニがハルバードを振り上げる。すると、何もない空中から、ブエル目がけて雷が降り注いだ。雷神召は詠唱ではなく意志、闘気によって晶力を操り雷を作り出す技だ。詠唱を使わずに放たれる雷は発動までの速度は速いが、威力は晶術を用いて起こす雷には及ばない。
だが、問題はない。相手は生体兵器で、"生身の部分が存在する"。つまりは雷撃によって一瞬なりとも動きが止まる。ロニの予想通りブエルは動きを鈍らせた。しかしそれも一瞬だけで、今度はロニに向けて攻撃を仕掛けようとする。だが、その一瞬の硬直をロニは見逃さなかった。
「もらったぁ!」
ドゴォと言う音と共にブエルの体が地面にめり込む。雷神召で振り上げた武器を力任せに相手に叩き付ける技、雷神光燐がブエルの無防備な体を捕らえる。ギシッとブエルの表面の装甲が軋む音がする。
「よし! ロニ、下がって!」
攻撃の間に晶術の詠唱を終えたカイルが合図すると、ロニはブエルをハルバートの柄で突き、その反動を利用して後ろに大きく飛び退いた。炎の晶力が、カイルに収束していく。
「いけぇ! カイル!」
「おっしゃ! 燃えろ! バーンストライク!」
次の瞬間、ブエル目掛けて上空から三発の火炎弾が降り注ぐ。地面にめり込んで動けなくなったブエルは避けることもできず、火炎弾の着弾とともに発生した爆炎に呑み込まれた。
バーンストライクはそれなりに長い詠唱が必要な、中級に分類される疑似晶術だ。巨大な火炎弾を三発降り注がせるこの術は、現在カイルが使える術の中では最大の威力を持つ術であり、その直撃を受けた以上それなりのダメージは受けただろうとカイルたちは思ったのだが。
「ギギギ」
「まだ動くのかよ!」
「ちっ、カイル!」
事実、ブエルの装甲は爆炎によって焼け焦げていた。だが、ブエルは体勢を建て直すと、そのボロボロさからは想像できないスピードで、詠唱を終えて無防備になっていたカイルに向かって突っ込んできた。カイルはとっさに剣で受け止めるが、小柄な彼では勢いを殺しきれず、そのまま壁に押し付けられる。
「かはっ」
「くっ、この野郎!」
咄嗟にロニがハルバードを叩き付け、斧の部分を引っかけて思いっきりひっぱる。そして僅かに拘束が緩んだ隙に、カイルを引きずり出すことに成功する。そのままロニは、カイルを抱えて後ろに飛び退いた。
「おいカイル、無事か!?」
「な、なんとか」
カイルは特に傷を負ってはいないようだったか、ロニは念のためヒールを唱えた。癒しの力が込められた光が、カイルを包み込む。
「ありがとう、ロニ。にしてもアイツ、強くはないんだけど結構しぶといね」
「ああ。だがあんまり時間かけてると、騎士団の連中が追い付いちまうしな」
ロニは少々考え込むと、カイルを手招きした。
「よし、カイル耳貸せ。あーしてこーしてだな」
「ふんふん、りょーかい! 行くよ、ロニ!」
カイルがブエル目掛けて駆け出す。先程と同じように光弾を放つブエルだが、今度はカイル目掛けてではなく、周囲にばら蒔く形で放たれた。先程の連携を警戒して、周囲に近寄らせないつもりなのだろうそれは、確かに有効な一手だっだ。
「ウインドスラッシュ!」
カイルに『近づく気があれば』の話だが。カイルはブエルの傍に寄ってはいなかった。途中で足を止めて詠唱をしていたカイルが放った風の刃が、光弾を切り裂く。それに慌てたのかブエルが再び、今度はカイルを狙って弾を放とうとするが、既にそこにカイルの姿は無い。
「もらった! 空破、」
晶術を放った後、すぐさま駆け出していたカイルは、既にブエルに肉薄していた。勢いのままに突き立てられた剣は、装甲を貫くまでは行かないものの浅くない傷をつける。だが、カイルの攻撃はまだ終わらない。
「絶風撃!」
ほんの少し下がった後、ほとんど同じ場所に先程よりも強烈な突きが放たれる。二段階の突き技を受けた装甲は粉々に砕け散り、下にあった生体部分に剣が深々と突き刺さる。そして、カイルが放った奥義『空破絶風撃』の本領はその先にあった。
「!?!?!?」
凄まじい勢いで吹き飛ばされるブエル。初段の突きで生まれた空気の渦の中心を、更なる風を纏った二段目の突きで貫くことにより生ずる爆発的突風により、相手を後方に文字通り『吹き飛ばす』。それが空破絶風撃の真価だ。そして吹き飛ばされた先には、ハルバードを振り上げたロニが待ち構えていた。
「おりゃああああっ!!!」
気合いと共に降り下ろされるハルバードの一撃を受けたブエルは、ロニの目の前に叩き落とされる。そしてそのまま、タックルで巨大なブエルの体を押し込んでいく。マリー直伝の奥義『割破爆走撃』だ。カイルがそうされたように、今度はブエルが部屋の壁に叩き付けられる。
「続けて食らえ!」
ロニは腕に気を籠めると、ハルバードをブエルの足にひっかけ、力任せにブエルをひっくり返した。完全に無防備になった生体部分が上に向けられる。ひっくり返した勢いのままに、ハルバードを頭上に放り投げそのまま飛び上がり、空中でハルバートをつかむと、全力でそれをブエル目掛けて降り下ろした。
「貴様を屠る、この俺の一撃!クリティカルブレード!」
「!!!!???!!!」
落下の勢いを利用して放たれた秘奥義『クリティカルブレード』によって、ブエルの巨体は真っ二つになった。流石の生体兵器もこれには耐えきれなかったのか、しばらくもがいた後、その機能を完全停止した。
と言うわけで特に何事もなくブエル君退場。最新生体兵器(製造当時)も、数による劣化と、空中都市の落下には勝てなかったようです。まあ原作でも最初のボスらしく、そんな強くないですよね。
・・・私、何回か負けましたが。