先に向かったアガレスたちを追いかけて、カイルらも最奥の部屋に続く階段を駆け上がっていく。だが、何か上の様子がおかしい事に気がついた。
「何かあったのかな?」
「モンスターでもいたのか?まあ、あの爺さんが居るなら特に問題はないと思うが、遅れたら遅れたでどやされそうだ。カイル、急ぐぞ!」
そうして急いで階段を駆けあがる二人。近づくにつれ、戦っているらしき音が聞こえてくる。だが、階段を上がりきったが目にしたのは、モンスターと戦う騎士団員たちではなかった。
「大丈夫ですかアガレスさーん。ってこれは一体!?」
「何だこりゃ。どうなってやがる!?」
彼らの目にまず入ってきたのは、話に聞いていた巨大レンズ。巨木の幹に埋まるように鎮座しているそれは人一人分ほどの大きさがあった。確かにこれは数百万ガルドの値が付くだろう。だが、それを気にしていられなくなるような光景が目の前に広がっていた。
血まみれになり、地面に倒れ伏す騎士団員たち。
「貴様! 何故このようなことをする!」
「全ては我が信念の為、あのお方の為也!」
そして獣の頭を模した兜を被った剣士と打ち合う、アガレスの姿がそこにあった。そして、ロニはアガレスと戦っている男に見覚えがあった。
「アイツは確かサブノック! エルレインの親衛隊が何でこんな所に居るんだよ!?いや、それ以前に、何で奴が騎士団員を襲う!?」
サブノックはロニ達と同じアタモニ騎士団に所属する騎士の一人だ。だが、彼はエルレインの親衛隊に属していて、アガレス達の派閥とは対立関係にある。だが、だからと言って同じ騎士団員が騎士団員を襲う理由にはならないはずだ。突然の状況に混乱するロニをカイルが叱咤する。
「ロニ、そんなこと気にしてる場合じゃないよ! 今はアガレスさんを!」
「あ、ああ! 加勢します、アガレスさん!」
アガレスの加勢に駆けだす二人。だがそれは、突如飛び出してきた影に阻まれた。とっさに跳びのく二人のすぐ前の地面を、鋭い爪が抉り取った。
「グルルルルル……」
「ね、猫?」
「いや、豹だろ。しかしマズイな、オセの奴まで居るのかよ」
二人の目の前に現れた、白い豹型のモンスター、オセはサブノックの相棒だ。サブノックと共に戦場を駆け抜ける姿は、ロニもよく覚えている。特徴的な獣頭の兜と相棒の獣から、サブノックがどのような異名で呼ばれていたかを思い出すロニ。
「獣剣士サブノック、か。カイル、こいつは俺が引き受ける。お前はアガレスさんを頼む!」
「わかった! ロニも気をつけて!」
騎士団員であるロニは、サブノックの実力を嫌と言うほど知っている。当然、その相棒であるオセとの連携の恐ろしさもだ。このコンビを同時に相手にしたら、今の自分たちでは三人がかりでも負けるだろうということが容易に想像ができた。
だからこそ彼はアガレスの加勢に向かうのではなく、オセの相手をする事を選んだ。ロニの記憶が確かならば、サブノック個人の強さはアガレスとそう変わらなかったはずだ。誰かの助けがあるならば、アガレスはサブノックに負ける事はないだろう。
問題はオセだ。野生のモンスターでさえ時には訓練された騎士団員を手こずらせる強さを見せることがあるというのに、目の前の相手は徹底的に訓練された、戦うために育てられたモンスターだ。サブノックとの連携を封じなければならない以上、カイルかロニのどちらかが足止めに残る必要があった。だが、このオセと言うモンスターは、サブノックと肩を並べられるだけあり相当の強さだ。初見のカイルでは分が悪いと判断しての、指示だった。
駆け出すカイル目がけてとびかかろうとするオセ目がけて、ロニは光の下級晶術であるデルタレイを放つ。高速で飛来した光弾の直撃を受けて、わずかにだがオセの動きが止まる。
「来いよ猫ちゃん。俺が遊んでやるからよ」
そういって挑発するロニの言葉を理解したのかどうかは定かではないが、オセは顔をロニに向ける。その目には、明確な敵意が浮かんでいた。
「へっ、こんなことならマタタビでも持ってくりゃ良かったかな」
そう軽口を叩くロニだったが、顔は真剣そのものだった。ハルハードを握るロニの手に汗がにじむ。これでも、騎士団員として戦ってきたという自負はある。簡単に負ける気は無いが、無事に済ませられる相手でもないことも解っていた。
「グォォォォォ!」
「まあ、やるしかねえか!」
ロニ目掛けて飛びかかったオセの爪と、ロニのハルハードの刃がぶつかり合った。
アガレスとサブノックは、ほぼ互角の戦いを演じていた。サブノックの刀とアガレスの鉄棍がぶつかり合い、文字通り火花が散るその戦いは、少しずつサブノックが優勢になってきていた。いくら強いとはいえアガレスは高齢であり、体力も全盛期と比べれば少なからず衰えている。対してサブノックは若く、体力も有り余っている。その差が技のキレに現れてくるまでそう時間はかからなかった。
棍を弾かれたアガレスの無防備な胴体目掛けて、サブノックの一撃が放たれる。だが、それは駆けつけたカイルが放った蒼破刃によって弾かれた。続けざまに追撃の蒼破追蓮を放つ。上下二段の斬撃はサブノックには避けられたが、それによってアガレスから引き離すことには成功した。カイルはアガレスを庇うように二人の間に割り込む。
「アガレスさん、助太刀します!」
「カイル君か、助かる!」
「童、なかなかできるな。名はなんと言う」
突然の乱入者に焦る様子もなく、サブノックはカイルに名を問う。
「カイル、カイル・デュナミス」
「なるほど、善き名だ。ならば我も名乗らせてもらおう。わが名はサブノック! 信念に命を賭する騎士なり!」
そういって刀をかざすサブノックの姿に、『騎士じゃなくて武士なんじゃ?』なんて言葉が出かけたカイルだったが、直ぐに意識を切り替え、逆にサブノックに問いかける。
「お前もアタモニ騎士団の騎士だっていうなら、何で同じ騎士団員を傷つけるんだ!」
その言葉を聞いた瞬間、サブノックの雰囲気が変わったのをカイルは感じた。
「否。同じにあらず」
その返答にはまるで感情がのっていなかった。だが、カイルにはまるで激しい怒りが込められているように感じられた。
「あのような偽りの神の徒と一緒にされては不本意なり。我は『アタモニ神の騎士』にあらず! 我が神は『真なる神』なり!」
「え?それは、」
どういう意味だ。と言うカイルの言葉は、サブノックの刀によって遮られた。カイルは咄嗟に剣で受け止める。
「問答は無用。我が信念の前に散るがいい」
「そう簡単にやられるかよ!」
話を聞く気はないと理解するカイル。浮かんだ疑問を振り払い、剣に力を籠める。だが、押し切れない。鍔迫り合いが続く。
「筋は良い。だが、まだまだ未熟!」
地力の差か、はたまた経験の差か。徐々に押されて行くカイルだったが、そこにアガレスが加勢に入った。振るわれた棍棒を避け、飛びのくサブノック。
「ふう、漸く息が整ったわい。カイル君、君は同年代の子と比べて相当な強さじゃ。だが、まだサブノックの奴にはかなわん。あいつと直接打ち合うのはワシがやる。君は晶術で援護を頼む!」
その言葉に一瞬言い返しそうになるカイルだったが、一方で彼の冷静な部分は、自分とサブノックの力量を正確に分析していた。アガレスの言うことは正しい。悔しいが、自分は目の前の戦士に技量も経験も及ばない。自分が前に出てもまず自分が倒され、その後アガレスも、と各個撃破されるだけだ。
「解りました、お願いします!」
アガレスの言葉に従い晶術の準備を始めるカイル。こうして、ロニ対オセ、カイルとアガレス対サブノックの戦いの火蓋は切られたのだった。
そして同じ頃。部屋の奥にある巨大レンズに変化が起きていたことに気づいたものは、まだ誰もいなかった……
そんなわけで、なぜかこのタイミングでサブノック登場。本来はハイデルベルグ城襲撃事件で戦うただの中ボス程度の扱いの彼ですが、拙作では出番が増える予定。
彼以外にも何人かのボスは出番増えそうです。
まあ、本編での出番少ないから、口調真似てるだけの別キャラになる恐れがありますが。