・・・どっか間違えたかなあ?
突然の光と衝撃、消えたレンズ、そして現れた少女。混乱からいち早く立ち直ったのはサブノックだった。彼は少女に問いかけた。
「貴様、何者だ?」
警戒しつつそう問いかけるサブノックだったが、少女は答えない。彼女の視線は、傷だらけのカイルに向けられていた。そのままカイルへと駆け寄って行く。何事かと警戒したカイルだったが、それは杞憂だった。
「貴方大丈夫!? 大怪我してるじゃない!」
「え、えーっと……」
そう言って慌てる少女の姿に、何を言っていいのかわからなくなるカイル。思わずサブノックを見るが、あちらはあちらで再び混乱していた。
「一体なんだというのだ……」
なんて呟いているのが聞こえる。そんなのこっちが言いたいとカイルは思う。オセもどうしたらいいかわからず、主の足元で指示待ちをしている。
「えっと、あの……」
「ちょっとしゃべらないで! 今手当てするから!」
「それどころじゃ……」
「黙って!……うん、初めてだから頑張らないと!」
カイルの言葉に対し、少女は聞く耳持たない。手当てしてくれるらしいのはありがたいのだけれども、少しはこちらの話も聞いてほしい。悪い子ではないのだろうけど。これがあれだろうか。昔ロニから聞いた『天然系』というやつだろうか。
「うん、準備OK! 行くわよ!」
そう言うと少女はカイルの体に手をかざして目を閉じた。そして少女の持つレンズから光が溢れたかと思うと、その光はカイルを包み込む。
(これは……回復晶術? でもロニのよりずっと強力で……なんか、あったかい?)
そして光が止んだ時、カイルの傷が完全に治っていた。あれだけ深い傷が一瞬で治ったことにカイルは驚く。恐らく上位の回復術だったのだろう。……先ほどの初めて云々が少々気になるが、治してもらったことだし聞かなかったことにした。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。あ、貴方も怪我してるのね、今手当てするから!」
「……貴様、いや、貴女は……まさか……」
サブノックの言葉を聞いてるのか聞いていないのか、彼女はサブノックにも同様の事を行い傷を癒していく。
「お前、何か知って「ねえ貴方、名前は何て言うの?」うわ!?」
何かに気づいたらしきサブノックを問いただそうとするカイルの言葉は、目の前に割り込んて来た少女に遮られた。
「えっと、俺はカイル。カイル・デュナミス。」
「そう、よろしくカイル。 私はリアラ。それでね?これからあっちの人達の手当てをしようと思うんだけど、手伝ってもらえるかしら? 」
そう言って返事を待たずにアガレス達の方へ向かい治療を始めるリアラ。しかしそれをあの男がみすみす見逃したりはするだろうか。サブノックの方へ目をやる。が、
「これは、やはり彼女は……ならばあの方に……」
などとぶつぶつ呟いており、まるでこちらを気にしていないようだった。いや、オセは警戒態勢をとっているから、不意打ちとかはできないだろうけど。おかしい。自分たちはさっきまで死闘を繰り広げていたはずなのだが、その空気が完全にどこかへ行ってしまった気がする。
「さ、早く!」
「あ、うん」
リアラにせかされ、自分もアガレス達のところへ向かう。何と言うか、良い子だというのはわかるのだが、空気は読めないっぽい。
(ま、まあ治してくれるのはありがたいんだけど)
とりあえずカイルは、皆の手当てを手伝うことにした。一応サブノックの方に注意は向けていたが、リアラが治療している間、彼はぶつぶつ何かをつぶやいたり、リアラの様子を眺めていたりはしたものの、何故かこちらを攻撃しようとはしてこなかった。
少女の『手当て』を受けたサブノックは気づいた。あれは回復晶術などでは無い。目の前の少女が行ったのは、彼が仕える聖女の起こす『奇跡』そのものだと。
「……どうする?」
少女の出現によって水をさされたが、彼には『任務』がある。そのためには今アガレス達を癒そうとしている彼女は邪魔でしかない。
(斬るか?)
それが一番簡単だろう。カイルという少年にも今の万全な状態ならば、遅れをとることはない。二人を始末して、その後任務を遂行するのが一番確実だ。しかし、
(斬っていいものか?彼女を)
聖女の奇跡と同様の力を振るう少女。それを自らの一存で排除していいものか。だが、そう思案している間にも、少女……リアラはアガレスを治療し始めた。斬るなら今しかない。そう思い刀を構えようとした瞬間、彼は背後に気配を感じた。
「む!?」
その気配は、彼の師匠であるガープの物だった。思わず振り返るがそこには誰も居ない。代わりに、黒いレンズが落ちていた。それを拾い上げると、頭の中にガープの声が聞こえてきた。どうやら何かしらの術を使っているようだ。
≪エルレイン様からの指示だ。彼女をアイグレッテへとご案内しろとのことだ≫
頭の中に響くガープの声に、サブノックは問いかける。
「あの少女は一体?エルレイン様はご存知なのですか?」
≪エルレイン様曰く、『あれは私と同じ。彼女はもう一人の聖女』だそうだ≫
「そうか、やはり彼女も……」
ガープの返答に、納得したようにうなずくサブノック。どうやら彼にはその一言で全てが理解できたようだった。
「そう言うことならば了解しました。丁重にお連れするとしましょう。しかし、アガレス老はここで始末する予定では?」
(予定が変わった。『奴』が目覚めたそうだ)
「なんと! しかし、大丈夫なのですか?何年も眠っていた奴に、大役が務まるとは……」
≪そのためのアガレス老だ。問題ない。エルレイン様も納得している≫
「それならば良いのですが……」
その後、サブノックに『指示』を伝えて、ガープからの念話は途切れた。
(全ては我が神とエルレイン様の為)
サブノックは黒いレンズを手に、手当てを続ける少女へと歩き出した。
「いつつ……ありがとよ、嬢ちゃん。リアラって言ったっけか」
「どういたしまして」
リアラによって傷を癒されたロニが目を覚ました。どうやらスプラッシュによって地面に叩き付けられたことにより気を失っていただけで、傷自体はそこまで深くなかったようだ。アガレスや他の騎士団員の治療も既に終わっているが、彼らは傷が深かったためか、未だ目覚めていない。
「っ、来た!」
そんな時、治療中もずっとサブノックに注意を向け続けていたカイルが剣を抜いた。
「っ、サブノック!」
近づいてきたサブノックに気づき、ロニもハルバードを構える。だが、サブノックは刀を抜かなかった。それどころか、刀を後ろについてきたオセへと放り投げてしまった。
「心配するな、今はもう戦う気はない」
「信用できるわけないだろう」
「そもそも戦う気があるなら、彼らの手当ての前に仕掛けていたはずだが?」
確かにサブノックは何故だか分からないが、リアラが手当をしている最中はこちらに近づきさえしなかったことは確かだ。だが、それとこれとは別の話だろう。そもそもこの戦い、先に仕掛けてきたのはあちらのはずだ。
「今、用があるのはお前たちではない。其方のお方だ」
そう言ってサブノックは、その場に跪いた。
「エルレイン様から、貴女様を招待するように仰せつかりました。どうか、ご同行願えまえせぬか?」
『エルレイン』の名前を聞いた瞬間、リアラの雰囲気が先ほどまでの普通の少女のものから、別のものへと変わった。突然の変化に戸惑うカイルとロニ。
「私は彼女とは別の道を行かなければなりません。それが、あの方の望みです。それはエルレインもわかっているはず」
「そのエルレイン様からの指示です。手荒な真似はしたくありません。どうか、ご同行ください」
「ですから、無理です」
「ならば、力づくでも」
「!」
そう言うと、サブノックは跪いたまま手に持っていた黒いレンズを頭上に掲げた。レンズから黒い光が溢れだし、それは倒れている騎士団員やアガレスの体に吸い込まれていく。直後、立ち上がる騎士団員たち。だが、その目はうつろだった。
「全ては、我らが聖女エルレイン様の為に」
「全ては、我らが聖女エルレイン様の為に」
「全ては、我らが聖女エルレイン様の為に」
「全ては、我らが聖女エルレイン様の為に」
異様な光景だった。その場にいる騎士団員たちが、皆口をそろえて同じ言葉を発し始めた。その中には、あのアガレスの姿もあった
「アガレスさん! 皆!」
「てめぇ、何しやがった!」
「何、我らが聖女に敵意を抱く者達に、その偉大さを理解する手助けをしたまで」
そう言うサブノックにロニが激昂する。
「洗脳って言うんだよ、そう言うのは!」
「ふざけんなこの野郎!」
そう言って飛びかかろうとするカイルとロニを、他の騎士団員たちが押さえつける。
「くそ、お前ら正気に戻れ!」
だがロニの呼びかけもむなしく、騎士団員達は拳を振り上げる。
「ガッ……く……そ……」
頭を殴られ気を失うロニ。そしてカイルも。
「ロニ!うぐ!?」
「全ては、我らが聖女エルレインの為に」
「そんな、アガレ……ス……さ……」
アガレスの一撃により、カイルの意識は刈り取られた。
「カイル!」
「リアラ様、おとなしく一緒に来て頂けるならば、この者達にこれ以上手出しはしません」
リアラに向かってサブノックが言う。その言葉を聞いたリアラは、カイルとロニを一瞥した後、
「わかりました。一緒に行きます。だから、彼らには」
「……約束は、守ります。アガレス殿、彼女をダリルシェイドまでご案内してくれ」
「はっ。こちらへ」
「おい、この二人をダリルシェイドまで運べ」
「はっ」
そうしてアガレスに連れられてリアラ、続いてカイル達を担いだ騎士たちが部屋を後にした。一人残されたサブノックがオセに対してつぶやく。
「やはりこういう手段は好かぬな」
彼は武人肌の人間だ。本来ならば、このような洗脳まがいのことは好き好んでやりはしない。
「だが、これも神の世の為。全ての人の幸せの為だと言うならば」
彼には信ずるものがある。そのためならば、自身の心を殺し汚れ仕事もいとわない。それが彼の覚悟だった。
そしてサブノックとオセも部屋を後にした。彼らが向かう先は古都ダリルシェイド。今は亡き、セインガルド王国の首都である。
※シリアスさんは前半どこかへ行っていたようで。
いや、リアラの性格を思い出そうといろいろ考えてたら、
最初英雄を探しているのオンリー>後から、『必死だったから』発言>後のバカップルっぷりから、あれ、この子割と空気よめねーよね?となり
空気読めない+思いこんだら一直線=天然?
一応最初から後半の性格を出そうと思ってたはずなのに、なんか違ってしまった気がする。なんか彼女の性格が一番改変されて行きそうだ。
それはさておき、サブノックさんはこんなキャラになりました。原作の出番少ないから、どんどんオリキャラ化が進行しそうで怖い。