ロニに続いてカイルも天井裏の隠し通路に上り終えると、骨仮面の少年は素早く穴を塞いだ。
「これで良し。お前たちが逃げ出したことはすぐにばれるだろうが、この通路は見つからないだろう。」
「なあ、助けてくれた事には感謝するけど、お前は一体何者だ?」
「答えてやりたい所だが、こんな所ではな。取り和えず、僕についてこい。」
そう言う少年に言われるがままにカイルとロニが少年についていくと、小さな扉があった。
「ここは隠し部屋の一つで、屋敷とは隠し通路以外ではつながっていない。ここならば騎士団には見つからないだろう。」
そう言って中に入って行く少年を追って二人も部屋に入る。部屋の広さ的には先程の地下牢よりも少々狭いくらいだろうか。それでも人が3人座って落ち着けるくらいのスペースはあった。その場に腰を下ろす三人。そしてロニは、そこでようやく少年の姿をはっきりと見ることができた。身長は恐らくカイルと同じくらいで、年齢も似たようなものだろう。少なくとも、自分よりは年下だとロニは思った。そして服装だが、やはり目に入るのは頭にかぶった骨の仮面。恐らく何らかの生物の頭蓋をそのまま使っているのだろうそれは、少年の顔をある程度は隠していた。大分大きな生物の頭なのか黒い髪の毛や紫の瞳など、顔の大半が隠れ切っては居ない。だが、要所要所は隠れているためはっきりとした全体像は想像しづらい。仮面以外の服装は、黒系統で固めてあることを除けば割と普通……かと思えば、袖口に紫のひらひらが着いて居たり、やけに目立つマントを羽織って居たりと、なんというか全体的に目立つ格好であることは確かだった。
(……あやしい。すごく、怪しい。)
まあ結局のところ、ロニの中での少年の印象はこうなるのであった。ロニはとりあえず、先ほどから聞きたかった事を尋ねることにした。
「それじゃあ改めて聞くが、あんたは何者だ? 何故俺たちを助けてくれたんだ?」
ロニの問いかけに、少年は少し考え込んだ後こう答えた。
「僕が何者か、は済まないが教える訳にはいかない。」
「おいおい、何かやましい理由でもあるのか?」
外見の件と合わせて、完全に怪しんでいるロニをカイルがなだめる。
「ロニ、やましい云々って牢屋に入れられてた俺たちが言えることじゃないよ。」
「いや、それはそうだけどよ。」
「まあ、怪しむなと言う方が無理だとは承知しているが、こちらにも事情があるんだ。詮索しないでくれると助かる。それで、お前たちを助けた理由はだな……」
そう言うと少年はカイルを指さした。
「そいつがスタンの息子だったからだ。」
「おいちょっと待て、何でカイルがスタンさんの息子だってこと知ってるんだ。」
少年の言葉にロニが疑問をぶつける。だが、それに答えたのは少年では無くカイルだった。
「ああ、それは俺が教えたからだよ。この人父さんの知りあいらしいから。」
「何?」
カイルの言葉に少年の方を向くロニ。
「えっとね、俺もさっきまでロニと同じように牢屋に入れられていたんだけど……」
そう言ってカイルは先程までの事を話し始めた。
「くっそー、まさか泥棒扱いされるなんて。皆大丈夫かなあ。」
ロニ同様牢屋に入れられていたカイルは、ロニ達の心配をしていた。
「ロニはまあ、俺みたいに牢屋に入れられている見たいけど、まあ平気かな……ロニだし。」
ただ牢屋に入れられているだけなら心配いらないはずだ。
「それよりも気になるのがアガレスさんたちとリアラか……」
自分と同じ状況だというならばとりあえず心配いらないであろうロニの事はさておき、サブノックに洗脳されたアガレスと騎士団員達、そしてリアラの事を考えるカイル。
「二人ともすぐには命の心配はないとは思うけど……」
騎士達の話を盗み聞きした限りでは、既に二人ともサブノックと共にアイグレッテに向かって出発したらしい。アガレスはサブノックに洗脳されたが、最初は殺すつもりだったのに洗脳に切り替えたということは何かがあったのだろう。ということは、アガレスが直ぐに殺されるということは無いと見ていいだろう。そしてリアラだが、理由はわからないがサブノックの彼女への対応は丁寧なものだった。ならばとりあえず目的地のアイグレッテにつくまでは安全だろう。だが、その後どうなるかが解らない。二人の会話を思い返してみるに、リアラはアイグレッテに居るエルレインの元へ連れていかれたのだろう。何故聖女エルレインが彼女に用があるのかは知らない。だが、サブノックの件もある。少なくとも愉快なことにはならない気がする。
「やっぱり、放っておけないよな。」
アガレスさんはロニの知りあいであるし、リアラには傷を治してもらった恩がある。それに何より、誰かが大変な目にあっているのを知っているのに放っておくなんて事はカイルには出来なかった。
「やっぱり一刻も早くここを出ないと。」
そうと決まれば、サブノックらがアイグレッテにつく前に何とかしなければ。そう思い、とりあえず傍にいた騎士団員に声をかけてみた。
「おーい!出してよー!俺は何もしてないんだ!」
「静かにしろ! 犯罪者は皆そう言うんだ。」
「だからやってないんだってば!」
「サブノック様が証人だ! 言い逃れできると思うな!」
そう言って牢屋から離れていく騎士。やはりサブノックの影響力は大きいようだ。カイルの言葉を信用する気ははなから無いらしい。
「……サブノック、か。」
ラグナ遺跡で戦った彼は強かった。カイルもまだ少年とはいえ、モンスター相手に相当の経験を積んだ剣士であり、強さにはそれなりに自信があったつもりだった。だが、サブノックの強さはそれをはるかに上回るものだった。自身があそこまで食らいつけたのは、偶発的に発動したスピリッツブラスターあってこそだということはカイル自身解っていた。アガレスとリアラを助けるということは、彼と再び戦う可能性が高いということだ。
「今のままじゃダメだ。もっと、もっと強くならないと。でないと、誰かを助けるなんてできやしない!」
(それに、父さんの代わりだなんて今のままじゃ言えない!)
そう声を上げるカイルの背後から、突然誰かの声が聞こえた。
「まあ、それに関しては同意するが、少し静かにしてくれないか?」
「へ?」
カイルが振り向くと、そこには変な仮面をつけた少年が立っていた。先ほどまでこの牢屋の中には、カイルしかいなかったはずなのに。
「だ、誰だ! 何時からそこに!?」
驚くカイルに、少年は呆れたような口調で話す。
「何時からと言うと今だな。300万ガルドのレンズを盗んだバカがどんな奴か見に来たんだが、なるほど、バカっぽいな。」
そう言って面白い物を見るような目で見てくる少年に、カイルは怒りながら反論した。
「バカって何だよ! 初対面なのに失礼だな! それに、俺は冤罪なんだってば! サブノックって奴にはめられたんだよ!」
「ほう、サブノックか。」
サブノックの名前に反応する少年。
「サブノックの事知ってるの?」
「エルレイン親衛隊の一人だからな。それなりに有名だ。しかし、何でそいつがお前に冤罪をかける?」
「それが……」
それからカイルは自分たちが何者で、何故ラグナ遺跡に出かけていったか、そしてそこで何を見たかを話した。デュナミス孤児院の事を話した時少年が、
「どこかの誰かみたいなその金髪ツンツン頭。最初に見た時から似ているとは思っていたが、お前もしかしてスタンの息子か?」
と聞いてきたので、
「うん、そうだよ。父さんはスタン。母さんはルーティ。」
と答えると、少年はしばし驚いた後に、
「……そうか。済まない、続けてくれ。」
とだけ呟いた。その時の顔は、仮面に隠れてよく見えなかった。
「どうかした?」
スタンには家族の事で借りがあると言った少年が語ると、それに納得したのかカイルは説明を続けた。
「そうしてアガレスさんに気絶させられて、気が付いたら……」
「この牢屋に入れられていた訳か。」
そうしてしばし考え込むと少年はカイルに向かって一つの提案をしてきた。
「カイル。さっきも言った通り、僕はお前の親には借りがある。だから、ここからお前が逃げ出したいなら、それを手伝ってやる。」
「え、それはありがたいけど、良いの? と言うかできるの!?」
そう言って驚くカイルに向けて、にやりと笑みを浮かべる少年。
「そもそもここに僕がどうやって入ってきたと思っている。この屋敷は元々オベロン社総帥の屋敷だ。そこら中に隠し通路や隠し部屋があるのさ。」
そう言って少年は傍にあった壁をトンと押した。すると、レンガがスライドして人一人通れるだけのスペースが現れた。
「行くぞ。隣に居るもう一人のバカも助けなきゃいけないんだろう?」
「あ、待ってよ!」
一人でどんどん壁の中へ進んでいく少年を追って、カイルもその中へ飛び込んだ。その後、レンガの壁は閉じ、後には誰も居ない牢屋だけが残ったのだった。
「ってことで、牢屋から連れ出してもらったって訳。」
と語るカイルに、我慢しきれなくなったロニがツッコんだ。
「いや、もう何からツッコんでいいか解らん! 何でそんな怪しい登場をした奴をあっさり信じてるんだよカイル!」
「いや、だって父さんに恩があるって言うし、尊敬してるって。」
「いや、尊敬してるとは一言も言ってないんだが。いや、尊敬してない訳じゃないが。」
カイルのマイペース発言に頭を抱える二人。ロニは、隣で頭を抱えている少年の顔を見つめた。スタンの知りあいでカイルとついでに自分を助けてくれたというなら、悪い人物ではないと思いたいロニだった。一応スタンの事も尊敬しているらしいしなおさらだ。しかし、
(うーん。やっぱりぁゃしぃ。そもそも隠す気があるのかどーかすら解らん仮面といい、胡散臭すぎるだろこいつ。と言うか仮面は顔を隠すためじゃなくて、もしかして趣味か? 趣味なのか?)
「ん? この仮面はやらんぞ?」
割と失礼な事を考えながら仮面を見つめるロニに、何かずれた事を言い出す少年。その発言に、やはりその仮面含めてそう言うファッションなのか!? とロニはさらに頭を抱えたのだった。
少年は、そんな彼を無視して話を進める。
「とにかくだ、今カイルが言った通り、スタンには僕の家族が世話になったんだ。だからその借りを返そうと思っただけだから気にするな。」
「まあとりあえずは信じとくか。実際、助けてもらったしな。」
「ロニ、こういうときは素直にありがとうでいいんだよ。助けてくれてありがとう……えーっと。」
そこまで言ってカイルは彼の名前をまだ聞いていないことに気がついた。
「えっと、名前なんて言うの?」
「さっきも言っただろ。僕の正体を言う訳にはいかないと。まあ、呼び名が無いのも不便か。好きに呼ぶといい。」
「じゃあ、『ジューダス』で!」
少年の言葉にすぐさま答えたカイルに、思わずロニと少年はずっこけた。
「はやっ! カイル、少しは悩めよ!」
「いや好きに呼べと言ったのは僕だが、まさか即座に出てくるとは思わなかったぞ!?」
そう言う二人に、カイルは頭をぼりぼり書きながら答える。
「いや、正直なところ、最近読んだ本で見た名前言っただけだから。」
「ああ、元ネタがあるのか。」
「いや、ちょっと待てカイル。その本ってもしかして孤児院の本棚にあった奴か?」
カイルの言葉に少年は納得したが、何かが気になったのかロニはカイルに問いかけた。
「うん、そうだけど。内容難しかったからななめ読みしてすぐ戻しちゃったけど。」
「あーもう、このバカイル!それだったら俺も読んだ事あるぞ。ジューダスって『神を裏切った男の名前』じゃねえか!」
「え、嘘!?」
「嘘じゃねえよ! ……ったく、済まないな。さすがにこの名前は無いわ。何か別のを今考える……ってどうした?」
「そうか……なるほど……ぷっ、あはははは!」
カイルとロニの会話を聞いていた少年は、何故か突然笑い出した。その様子にぽかーんとするカイルとロニ。
「いや、いいじゃないか。ジューダスか、僕に相応しい名前だ。」
そう言う少年に目を丸くするロニ。
「いや、お前がそれで良いって言うなら良いんだが。」
「ああ、これがいい。それに、せっかくスタンの息子がつけてくれた名前だ。ありがたく使わせてもらおう。」
そう言う少年……ジューダスの顔は、どことなく嬉しそうだった。
原作と違ってジューダスの名前の意味はそれなりに有名ってことで。某聖なる書物っぽい物語があるって感じで一つ。