・ジューダスは紙装甲(確信)
それから数分後、カイル達は屋敷の物置部屋の天井裏に居た。地下の物置を地下牢に改装した為、騎士達の仕事部屋の横が物置として使われており、そこにカイルやロニの荷物も置かれていた。
「俺の剣と、薬入れと、ガルド。うん、全部ある!」
「俺のも大丈夫だ。お、こっちはラグナ遺跡でモンスターから頂いたアイテムとかレンズとかだな。正直、300万ガルドのレンズの補填だとか言って全部売られてたらどうしようかと思ったぜ」
「おい、隣に騎士達が居るのを忘れるな。とっとと移動するぞ」
荷物の無事を確認し、ほっとする二人をジューダスが急かす。
「わかってるよ。ロニ、行こう!」
「おう」
すたこらさっさと隠し通路に入る3人。隠し通路の入口が閉じたその直後に見回りの騎士が来たが、カイル達の荷物が無くなっている事に気づくことは無かった。
「しっかしなんでこんなに隠し通路だらけなんだよ、この屋敷」
ロニが疑問を口にする。確かに元々一般の邸宅だったにしては隠し通路や隠し部屋が多い。その疑問にジューダスが答える。
「元々ここはオベロン社総帥のヒューゴの屋敷だったことは知ってるな?彼……正確には彼を操っていたミクトランか。奴が隠れてコソコソやるために作ったと聞いた。」
「ふーん。」
「まあ、今はそんなことはどうでもいいだろう。まずは脱出が先だ。ここを抜けたら地下水路入口はすぐそばだ。行くぞ。」
脱出には、ダリルシェイドの地下を流れる水路を通ることになった。普通にダリルシェイド市街に出る通路もあったのだが、今のカイル達は犯罪者扱いだ。街中をうろついていたらすぐ見つかってしまうだろうということで、水路を通って一気に街の外に出るのが最善だろうと言う訳だ。
そうして地下水路へとたどり着き、一息ついたところでジューダスがカイルに質問をした。
「所で、外に出たらどうするつもりだ?」
「そりゃあ、とにかくサブノックを追いかける。アイグレッテにつく前に皆を助け「バカか」バカってなんだよ!だってアイグレッテに着いたら、洗脳されてるアガレスさん達はまだしも、リアラが何されるか解らないじゃないか!」
「それは確かにそうだが、そのリアラと言う少女がラグナ遺跡で殺されなかった以上、アイグレッテに着いたからと言ってすぐ殺されるということはあるまい」
「それは……そうだけど……」
「それによく考えてみろ。ただでさえお前たちより強いサブノックとオセに加えて、洗脳されたアガレスや騎士団員達も居るんだ。洗脳を解く方法が解っているならともかく、普通に突っ込んでもボコボコにされて捕縛。良くてまたここに逆戻り。最悪死ぬぞ」
「うっ、確かに」
ジューダスの言葉に考え込むカイル。確かにそれはどうしようもなく真実であった。そこにロニがさらに付け加えた。
「ジューダスの言う通りだな。アガレスさん達を助けるなら、あいつらがアイグレッテに着いてからの方がいい。それにだな……カイル、忘れてねえか?」
「何が?」
「俺たち、ルーティさんにラグナ遺跡に行くって言って出かけたままだぞ。ただでさえ予定の日程オーバーして心配かけてるんだ。一度帰った方がいい」
「あ、そうだった……」
頭を抱えて震えだすカイル。恐らく帰った時の母親のお仕置きを想像しているのだろう。あれがああなって、うわあなどとぶつぶつ呟きながらその場でしゃがみこんでしまった。
「心配かけたんだから仕方ないって。ああ、俺の関節もつかな……」
そう言うロニも、一応笑ってはいたが顔色は悪かった。同じように、ルーティのお仕置きを想像しているのだろう。
「……ルーティの奴、一体何をしたんだ」
そんな二人の様子を見て、ジューダスはこっそりため息をつくのだった。その後もしばらく話し合った結果、結局一度クレスタに戻り、そのあとアイグレッテに向かうことにしたカイル達だった。
「散葉枯葉! 牙連蒼破刃! ってこれでもう30匹目だよ。多いなあ」
目の前のモンスターを切り捨てながら、カイルが愚痴る。方針を決めた後、カイル達は地下水路を下流に向けて進んでいた。だが、どこからか入り込んだのか地下水路はモンスターの巣窟になっていたのだ。そのためカイル達は、先程からずっと戦いっぱなしだった。
「街の下なのにモンスター多すぎだろ! 空破特攻弾!」
それに同意しながら、ロニが敵に向かって飛び込む。アガレスの空破爆炎弾に似た技だが、炎の代わりに気を纏い、回転することで相手を弾き飛ばす奥義だ。
「仕方あるまい。モンスター避けのレンズの力も地下までは通じないからな。ストーンザッパー! スティングレイヴ!」」
ロニに吹き飛ばされて体制を崩したモンスター目がけて、ジューダスが岩弾を放つ。その岩弾がモンスターに直撃すると、さらにその足元から、岩石の槍が飛び出してモンスターを襲った。岩弾で動きが止まったモンスターはなすすべも無く岩の槍で串刺しになった。土属性の下級晶術『ストーンザッパー』と、そこから連携させる下級昇華晶術『スティングレイヴ』だ。
「へぇ、昇華晶術か。やるじゃねえか」
「これくらい大したことは無い」
関心するロニにそっけなく答えるジューダス。長剣と短剣の二刀流、そして晶術による全距離対応のアタッカーがジューダスのスタイルだった。剣の腕はカイルよりも上、晶術も昇華術まで使いこなすほどの実力と、攻撃面では恐らく今のカイルやロニではかなわないのは確かだった。だが、彼には一つだけ明確な弱点があった。
「おいジューダス! 後ろだ!」
「くっ!」
彼の外見は珍妙な骨の仮面と黒づくめの服装に目が行きがちだが、もう一つ特徴があった。それは華奢さだ。カイルと同じか少し低いくらいの身長と、カイルよりも筋肉がついて居ない体は、少女と言っても通じるくらいだろう。最も声は普通の少年のそれなので、はっきりと男とわかるのだが。そしてその華奢さはそのまま彼の弱点になってしまっていた。つまり、
「ぐあっ!」
「ジューダス! このっ!」
彼は打たれ弱いのだ。それも、似たような体格のカイルと比べてかなり。モンスターの不意打ちを受け、ジューダスの体がくの字に折れ曲がる。素早くカイルがフォローに入り、ジューダスを攻撃したモンスターを切り捨てた。
「ジューダス、下がって!」
「すまない。」
「いいっていいって」
ジューダスの剣の腕は先程も言った通りかなり高いものだったが、それでもどんどん現れるモンスターの攻撃を全てさばける訳では無い。そう言ったわけで、三人の陣形は自然と決まってきていた。つまり、カイルが前に出て敵の注意をひきつけ、ジューダスはその隙に剣や術で攻撃。ロニは術で回復に専念といった感じだ。打たれ強さだけで言うならばロニが前に出る方がいいのだが、この中で回復術が使えるのはロニだけ。アイテムの補充も期待できない状況では、なるべくその消費を減らす方がいいということでロニは後衛に回っていた。
「そら、ジューダス。回復だ」
「ありがたい。カイル、下がれ!」
ロニのヒールで回復したジューダスが晶術を詠唱すると共にカイルに合図する。ジューダスの声に反応してバックステップしたカイルを追うモンスターの真下から影の刃が飛び出した。
「シャドウエッジ!」
ジューダスが唱えた闇属性の下級晶術『シャドウエッジ』の刃によって、モンスターは串刺しになって絶命した。どうやらこれで周囲のモンスターは最後だったようだ。
「大丈夫? ジューダス。」
「ああ、ロニのおかげで大したことはない。先を急ごう。いつまたモンスターが来るからわからんからな」
「そうだね」
そう言って歩き出すジューダスを追うカイル。二人の背中を見つめながら、ロニは一人考えていた。
(あのジューダスって奴、俺たちに敵意は持っていないが……正直信用できるかって言うと……)
珍妙な外見はともかく、俺たちを助けてくれている事は事実だ。だが、
(アイツ、『騎士団の詰所の地下牢に、バカな罪人見たさに忍び込む』ような奴か?)
出会ってからほとんど経っていないが、ジューダスの性格は多少なりとも見えてきていた。冷静沈着で皮肉屋とツンツン尖がった奴かと思えば、割と周囲に気を配り、自分やカイルのしょうもない会話に巻き込まれそうになった際も、積極的では無いもののこちらを拒絶するということは無い。大人びてはいるが不器用な少年と言った印象だ。つまり好奇心で後先考えず動くようなタイプではなく、わざわざくだらない事の為に危険を冒すとは思えない。先ほどのカイルの会話では、カイルやロニの顔を見に来ただけ見たいな事を言っていたが、そんな訳は無いだろう。つまり、何か別に理由があったと考えるのが自然だ。
(もしかして、最初からカイルが目当てで屋敷に忍び込んだとかか?)
最初からジューダスはカイルがスタン・エルロンの息子だと知っていたんじゃないだろうか。だとすれば何のために? 本当にスタンに恩があって、その息子に借りを返そうとしているのか。それとも逆に復讐とかそう言うたぐいなのか。
(まあ、考えてても解るもんじゃねえな。とりあえずカイルに危害を加える気がないなら放っておこう。俺もアイツ自体嫌いじゃねえし。)
そこまで考えて、ロニは二人の後を追って歩き始めた。カイルに危害を加える気だったら、そのチャンスはいくらでもあったはずだし、おそらく前者なのだろう。ならば無理に追及することも無い、そう思った所でロニの頭の中にもう一つの可能性が浮かんだ。
(まさか『偶然カイルを見かけて、スタンさんに似てるからつい話しかけて、後はでっち上げでごまかしてそのままここまで』……なんてわきゃねえよな)
いくら何でもそんな行き当たりばったりな行動をする奴でもないだろう。それは無い無いと頭を振り、ロニは先を急いだ。
だが彼は知らない。後に真実を知った時、この時の事を思い出して思いっきり頭を抱えることになるということを。
そこからさらに数十分後、三人はようやく地下水路の出口までたどり着いた。
「し、しんどかった。本当にしんどかった」
「事前準備なしでの魔物との連戦とかもうやりたくねえ……」
「まさか……水路の主まで現れるとはな」
あの後もモンスター達は現れつづけ、ちぎっては投げちぎっては投げ進んでいた三人。そしてもう少しで出口だと言うところで、カイルとモンスター達の戦いの音を聞きつけて、巨大な蛇や竜のようなモンスター『ヴァサーゴ』まで現れた。モンスターとの連戦でボロボロだった三人だったが、水路の主らしきそれを何とか打ち倒すことは出来た。出来たのだが、完全に精魂尽き果てていた。恐らく次にモンスターに襲われたらなすすべも無くボコボコにされてしまうだろう。
「今日ほど俺、ヒールを覚えておいてよかったと思ったことは無いぜ。もうグミないし」
「ほんと、ロニが居てくれて助かったよ」
「二人とも話すのは後にしろ。モンスター達が襲ってきたらかなわん。水路の外ならば、さすがにモンスターは居ないだろう。休むのならばそれからでも遅くない」
ジューダスの言う通りだという事で、3人は急いで地下水路を出た。水路の中からモンスターが追ってくるということも無く、三人はようやく一息つけたのだった。
しばらく三人は人目につかない所に座り込んで休んでいたが、日が暮れる頃になってジューダスが一人立ち上がった。
「そろそろ日も暮れる。そろそろ歩くくらいの体力は戻っただろう。夜の闇に隠れてクレスタまで戻れ」
そう言うとジューダスは、一人歩き出そうとする。
「ところで、お前はこれからどうするんだ?」
ロニの質問に、ジューダスはしばらく考え込んだ後答えた。
「特に何をすると決めては居ないが、いい機会だ。旅にでも出ようかと思う」
「そっか。ジューダス、本当にありがとう、」
「気にするな。僕の方もお前の親への借りを返しただけだ」
そう言って、ジューダスは去っていった。その背中を見つめるカイルとロニ。
「良い人だったよね。ジューダス」
「怪しい奴でもあったがな」
そう言うロニだが、その顔は笑っていた。恐らく冗談半分なのだろう。だが、もう半分ではジューダスの事を疑っているだろうことはカイルにも想像はついていた。だが、その事について言う必要はないだろうと思ったカイルは黙っていることにした。
「さて、俺たちも早く帰らないとな。まずはルーティさんに謝って、そのあと事情を説明だな」
「うん。急ごう、ロニ!」
「急げるほど体力無いだろ俺たち。とりあえず、街から離れた所で休める場所を探そうぜ?」
そうしてダリルシェイドを離れた二人は、近場にあった旅人用の小屋で一泊。クレスタにたどり着いたのは、地下水路を脱出した翌日の夜の事だった。
ジューダスが加入して即離脱。原作ではアイグレッテで合流でしたが、どうなるかは未定。