・街の人の認識 カイル:いい子 ロニ:悪ガキ
カイル達がクレスタに着いてまず心配したのは、自分たちの罪状がここまで伝わっているかどうかだった。300万ガルドのレンズを強奪したのが、孤児院の人間。もしそれを街の人が信じていたら、孤児院にまで迷惑がかかる。そう心配していた二人だったが、それは杞憂に終わってしまった。
「いや、お前たちがそんなことするわけないだろ?」
結論から言えば、二人の罪状については既にクレスタに伝わっていた。だが街の人々は、夜街にたどり着いたカイルとロニを温かく迎えてくれた。
「カイルはそんなことする子じゃないしね。それにロニもついて行ってたからね。」
「おばちゃん……」
そんなことを言う雑貨屋のおばさんに、思わず涙するロニ。だが、
「だな。ロニだったら騎士団が来た後から強奪するよりは、来る前にとっとと盗み出すだろ」
宿屋の親父さんがそんなことをいい、周りが一斉にうなずくのを見て盛大にずっこけた。
「なあ、カイル。俺、信用されてる……んだよな?」
「あはは。ごめん、ノーコメント」
ロニのつぶやきに、カイルはそっと目をそらす。街の人達からの自分の扱いにロニは泣いた。いろんな意味で。その後、ルーティを早く安心させてやれと言う町の人たちに送り出され、カイル達は孤児院へ急いだ。
「カイル! ロニ! 二人とも大丈夫!? 怪我とかしてない?」
「お帰り、二人とも!」
「だからいったろー、あの二人なら大丈夫だって」
「そう言うお前が一番心配してたじゃないか!」
孤児院に戻った二人を迎えたのは、母ルーティの暖かい抱擁と、孤児院の皆の出迎えだった。
「大丈夫だよ、母さん。心配かけてごめんね、皆」
「すみませんルーティさん、ご心配おかけしました。お前たちも心配かけたな」
謝る二人を離すと、ルーティは台所に向かっていく。
「無事に戻ってきたから良いわよ。さ、ごはんにしましょ。生憎皆食べ終わっちゃったから、あんまり残ってないけど」
「やったー! 俺もう腹ペコだよ!」
「カイル、まずは手洗ってからな?」
そのまま食卓に着こうとするカイルを引き留めるロニ。
「と言うか、よく見たらあんたたちドロドロじゃない! 手だけじゃなくて全身綺麗にしなきゃでしょ! お風呂先入ってきなさい!」
二人を見て、ルーティが言う。二人ともダリルシェイドの地下水路からロクに体を洗うことも出来ずにクレスタまで帰ってきた為、全身汚れていた。
「「はい!」」
ルーティにどなられ、二人は風呂へと走って行く。そんな二人を見て、ルーティの後ろから子供たちがはやし立ててる。
「やーい、怒られてやんの」
「はっずかしー!」
「あんたたちも早く寝なさい!」
「「はーい」」
そんな彼らも、ルーティの一喝で部屋へと戻って行った。
風呂を済ませ、着替えを終えた二人は、ルーティお手製のシチューを食べながら、何があったかを話していた。アタモニ神団の近況と、ラグナ遺跡でも襲撃事件を聞いて、険しい顔をするルーティ。
「そう、フィリアの所そんなことになってたのね。噂では聞いてたけど、アタモニ神団が本当に真っ二つに割れてるなんて」
「真っ二つって言うかほとんどエルレイン派の方が主流になってるんですけどね」
そうして夕食を食べ終え、片づけを済ませると、二人はルーティに話があると伝えテーブルに着いた。二人に続きテーブルにつくルーティ。
「あんたたち、話って?」
「ルーティさん、俺は明日にでもアイグレッテに戻ろうと思ってます。サブノックの奴があんな強硬手段に出たとなれば、他の奴等も何をするかわかったもんじゃない。それに、世話になった人を放っては置けない。」
「母さん、俺もロニと一緒にアイグレッテに行くよ。俺、このまま何もしないなんて出来ないよ!」
「本気?」
「「本気!」」
ルーティは二人をじっと見つめると、ため息をついた。
「あんたたちがそんな顔をした時って、絶対あたしが何言っても聞かないのよねぇ。本当はそんな危ないことに首突っ込んで欲しくないんだけど……」
そう言ってロニを見るルーティ。
「ロニはもう大人だし、やると決めた事にあたしが口出しするものでもないわ。ただし、くれぐれも無茶しない事! いいわね!」
「はい!」
ルーティに笑顔で返すロニ。それを見て満足そうにうなずいた後、彼女は今度はカイルを見つめた。
「そう、ロニはもう大人。だけどカイル、貴方はまだ子供よ。それは良いわね?」
「うん。それでも俺は皆を!」
助けたいと言おうとするカイルの口は、ルーティの指でふさがれた。
「わかってるわよ。あいつとあたしの子供だもの。言い出したら聞かないってのは。ダメって言っても何度も説得しようとして、それでもダメならこっそり行くくらいの事はしそうだし」
「そ、そんなこと……ない……よ?」
「お前、図星だったんだな?」
ルーティににらまれ、カイルはそっと目をそらした。その様子を見て、ロニはくくっと笑った。
「あんたは決して弱くない。少なくとも、この近辺のモンスター程度だったら決して負けないくらいに鍛え上げたつもりよ。それでも、あんたはそのサブノックって奴に負けた。そしてたぶん、他の親衛隊の騎士にも勝てない。それでも行くの? 言っておくけど、ロニが居るから大丈夫ってのは無しよ?」
淡々と事実を突きつけるルーティの言葉に俯くカイル。
「行くよ。俺は行く」
だが、彼は俯いたまま答えた。
「牢屋の中や帰ってくる途中、俺も考えたんだ。今の俺はサブノックに勝てない。アイグレッテまでの道中で多少は強くなれるかもしれないけど、それでも勝てないと思う」
そこまで言うと、カイルは顔を上げた。その瞳には強い意志が宿っていた。
「でもさ、ダメなんだ。サブノックに勝てないとか、他にも母さんに心配かけるからとかいろいろ理由考えてさ。孤児院でおとなしくしてよう、ロニに全部任せちゃおうって思おうとした。だけど、」
そう言って拳を握るカイル。
「誰かが助けが必要だとわかっているのに動かないなんて、俺にはそんなこと出来ない!」
そんなカイルを、ルーティは感慨深い目で見つめていた。
「……まだまだあんたも、おちびちゃんたちと変わらないと思ってたんだけどなあ」
そう言うと、ルーティは隣の部屋から2本の木剣を持ってきて、その一方をカイルに投げ渡した。
「正直、あたしはあんたを行かせたくない。さっきも言ったけど、ロニは大人だけどあんたはまだ子供。それでもあんたが行くと言うなら、私を納得させてみなさい」
そう言ってルーティはカイルに剣を突きつけた。
「カイル、戦って勝てない相手にはどうすればいいの?」
「えっと、『正面から戦って勝てなさそうなら、絡め手インチキ何でも使って勝て、それでも勝てない相手ならそもそも戦うな』、だっけ?」
ルーティのいきなりの質問に戸惑いながらも答えるカイル。それは、モンスターと戦う時にルーティがカイルに教えていた言葉だった。とにかくどんな状況でも生きることを優先してほしい、それ故の言葉だ。その答えを聞いたルーティは満足そうにうなづいた。
「そう。でも、逃げるにしても実力は必要。だから、明日あんたの実力を確かめさせて。チャンスは10分間。その間に一発でいいわ。あたしに攻撃を当てられたら、ロニと一緒に行くことを認めてあげる。いい? カイル」
「わかったよ! ありがとう母さん!」
「ただし! 10分で一撃も入れられないようなら、ロニに任せること。良いわね?」
「うん」
「よろしい。じゃあ今日はもう寝なさい。ダリルシェイドからここまで歩いてきて、疲れてるでしょ」
「うん。お休み、母さん」
そう言って部屋に戻って行ったカイルを見送った後、ルーティはロニに話しかけた。
「ごめんね、ロニ。途中から蚊帳の外に置いちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ。それにしてもいいんですか? あの条件で」
「何が?」
ロニの質問に、何が言いたいのかわからないと言った顔のルーティ。
「10分の間に一撃だったら、たぶん成功させますよ? カイルの実力は見てきたから確かです。ルーティさんに勝て、だったら無理だけど」
そう言うロニに笑って答えるルーティ。
「そうね、私も手を抜くつもりはないけどたぶん成功しちゃうわよね」
「でも、ルーティさんやっぱりカイルを行かせたくないんじゃ?」
ロニはルーティの気持ちは解っているつもりだった。亡き夫スタンの忘れ形見であるカイル。それは孤児院の子供達を皆等しく自分の子として見ているつもりの彼女にとっても、やはり特別な存在なのだ。そんなカイルを危険な旅には出したくないだろう。だが、ロニはカイルの気持ちも解っていた。だからこそ、カイルが皆を助けに行くという意志をダリルシェイドで見せた時、否定することも肯定することもしなかった。それはルーティの役目だと思ったからだ。
「うん、でもねロニ。やっぱり子供は巣立つものなのよ、遅かれ早かれ。あんたみたいにね。それがちょっと早かっただけ。」
だが、ルーティはカイルの背を押すことを選んだ。それが親である自分の責務なのだと、ほんの少しだけ、子離れしたくない親としての悪あがきにも似た条件をつけて。
「だから、カイルのことお願いね。もちろん、あんたも無事に戻ってきなさいよ?」
「わかりました、ルーティさん。不肖ながらこのロニ・デュナミス、全部かたづけてカイルと一緒に帰ってきます!」
次の日の朝、カイルはルーティと戦い、彼女に見事に一撃を入れ旅立ちの権利を手に入れたのだった。戦いの内容は特筆することもないので割愛する。だが、戦い終えた後のルーティの顔は、すっきりとしたものだったことだけ記しておく。
拙作のルーティ母さんは割とすんなり送り出してくれました。旅立ちとかは次回。尚、カイルのトラウマからくる歪みに関しては未だ誰も気づいていません。と言うか表にもあまり出てません。まだ一般常識のレベルです。『まだ』。