・カイルの寝起きの悪さは、ルーティの教育の成果か野宿では解消されている。多少ふらふらするけど。と言うか野外で死者の目覚めとかモンスター呼び寄せすぎるし出来ないでしょ。ベッドとか安眠できるときに寝すぎる感じで。
・カイルはグミは割と好き。ロニはグミ嫌い。でも特にそれでどうこうなる予定はなし。
「カイル、着替え持った? 剣の手入れの道具は? グミ持った?」
「ちょ、母さん。大丈夫だから!」
ルーティの出した条件を見事クリアし、カイルはロニと共にアイグレッテに行く許可を貰った。その後すぐに旅立ちの準備を始めたのだが、この調子である。事あるごとにチェックを入れてくる母に、カイルもさすがに文句を言う。
「母さん、さっきの一撃で俺の事認めてくれたんじゃないの?」
「旅に出るのは認めたわよ? でもあんたはまだまだ子供よ子供。その証拠に、今朝だって起きられなかったじゃない」
「それを言われると何にも言えないけどさあ」
そうしてまた準備に戻り、ルーティにチェックされるカイル。そんな二人の様子を見て、ロニは自分がアイグレッテに働きに出た時の事を思い出していた。その時もルーティは今のようにロニに、あれは持ったか、忘れ物は無いかとしつこいくらいに聞いてきていた。
「諦めろカイル、俺んときもそうだった」
「そういやそうだったね」
笑いながら言うロニの言葉に当時の事を思い出したカイルは、ため息をついた。ちなみにそんな事があったからかどうなのか、ロニは夜のうちに準備は全て終えていた。最も、元々カイルが許可されるされないにかかわらずロニは旅立つのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
「後は……あんたたち、ちょっと待ってなさい」
カイルの準備が終わった後、ルーティは自分の部屋から箱を2つ持って来た。そんなに大きくはないが、鍵が付いた割としっかりとした作りの箱だ。
「母さん、その箱何?」
「ふっふっふ、積立貯金よ」
そう言って彼女が片方の箱を空けると、そこには少なくない額のガルドが入っていた。それを見て目を丸くするカイル。
「母さんこれは!?」
「あんたが稼いできてたお金の一部を貯めておいたのよ。元々は、あんたが独り立ちするときに渡そうと思ってたんだけどね。あんたが今使ってる武器や防具は長いこと修理しながら使ってたし、この際だから街を出る前に、武器屋で剣や防具を新調してきなさい。命あっての物種よ?」
「ありがとう、母さん!」
母に礼を言うカイル。実際、カイルの装備は大分痛んでいた。元々古かったのに加え、ここ最近はラグナ遺跡からダリルシェイドの地下水路、そしてクレスタまでの道中とマトモに手入れ出来ないまま戦いっぱなしだったためボロボロになっていた。
「お礼は良いわよ。元々あんたが稼いだお金だしね」
そう言うと、ルーティは今度はロニに開けていなかったもう片方の箱を差し出す。
「はい、ロニ。こっちはあんたの分よ」
「え、俺の?」
箱の中身を確認すると、そこにはカイルの箱と同様にガルドが入っていた。カイルが受け取った箱より中身は少ないが、それでも相当の額が入っている。
「ルーティさん。俺の分は俺が騎士団に入るときに受け取ったはずですが?」
首をかしげるロニ。ロニも今のカイルと同じような積立貯金箱を、昔旅立つ日に受け取っていた。そのため彼が受け取るべき貯金箱は、もう無いはずだ。
「あんたが孤児院出てから送って来たお金から、また積み立てておいたのよ。あんただけじゃなくて、孤児院から独り立ちしてって、仕送りしてきた子たち一人一人に貯金箱作ってあるのよ? あんたたちが、もし大怪我したり、病気にかかったりしたときの為にね」
「ルーティさん……」
思わず涙ぐむロニの肩をバシバシ叩くルーティ。
「そんな訳だから、それはロニのお金なんだから遠慮なく持って行きなさい! ただし、無駄遣いはダメよ? カイルもね!」
二人に向けて注意するルーティに、二人は頷いた。
「解ってるよ。大事に使う!」
「ええ、当然です!」
「ん、よろしい!」
そう元気よく返した二人に、彼女は満足そうに頷くと、手を叩きながら他の子供達を呼び寄せた。。
「よし、じゃあ皆! カイルとロニに行ってらっしゃいの挨拶をしなさい!」
ルーティの声に、別の部屋にいた孤児院の子供達が一斉に集まってくる。集まった皆はカイル達の元に我先にと押し寄せ、言葉をかけていく。
「気をつけてね、カイル兄ちゃん! ロニ兄ちゃん!」
「怪我しないでね!」
「カイルー! ロニー! お土産買ってきてねー!」
「ロニー! カイルに迷惑かけるなよ!」
それを受けて顔を綻ばせるカイル達。
「ありがとう、皆!」
「次に来るまで元気にしてろよ! 後、最後の言ったの誰だ! 逆だ逆!」
そんなこんなで子供達にしばらくもみくちゃにされた後、二人は孤児院の扉に手をかけた。扉を開けようとする二人に、ルーティが声をかける。
「二人とも、やるからにはどんだけ時間がかかってもいい。全部キッチリけりをつけてきなさい。途中で投げ出すんじゃないわよ? それから、ちゃんと無事に帰ってくるのよ!」
「解ってるよ、母さん。いってきます!」
「それじゃあ、行ってきます。ルーティさんもお元気で!」
ルーティの声に拳を上に掲げて答えると、二人は扉を開けて外へと歩き出した。そんな二人の背中を、ルーティはじっと見つめていた。
(スタン、あの子たちを見守っててあげて。まだ、あんたの所に連れてっちゃ嫌だからね?)
こうして皆に見送られながら、カイルとロニはデュナミス孤児院を後にした。
その後、クレスタの武器屋で新しい武器や防具、グミなどの薬を買ったカイル達は、街の出口でこれからの行動について最後の確認をしていた。
「これから俺たちはアイグレッテを目指す訳だが、俺たちはダリルシェイドには立ち寄れない。これは良いな?」
「うん、まだ冤罪が晴れてないからね」
ロニの言葉にうなづくカイル。冤罪どころか、おそらく今は脱獄の罪も加わっている事だろう。こっちは冤罪でも何でもなく事実だから困ったものだ。そんな二人がダリルシェイドの街に近づこうものなら、もれなく通報されて再びあの地下牢行きだ。
「ああ、だから騎士団の連中に見つからないようにしないといけない」
そう言ってロニは荷物の中から地図を取り出し、クレスタからダリルシェイド、そしてアイグレッテへの街道を指でなぞった。
「本来ならクレスタからアイグレッテには、街道を通ってダリルシェイドを経由、その先にあるハーメンツヴァレーにかかってる橋を渡って進む。だが、お尋ね者の俺たちがそんなルートを進んでたら、ほぼ確実に騎士団の奴らに見つかっちまう」
そう言うとロニは指をクレスタに戻し、今度は街道では無く周囲の森をつなぐ形に指を動かしていく。
「だから、俺たちは街道をなるべく避けて行く。当然、旅人用の小屋もだ。クレスタを出たら、森から森へ進みながら移動する。アイグレッテに向かうならどうしてもダリルシェイドの近くを通らなきゃならないが、そこは仕方ないから夜まで待って一気に抜ける。ダリルシェイドを抜けたら、また森から森へ進んでアイグレッテを目指す。問題はここだ」
そう言うと同時にロニの指が、アイグレッテの手前で止まった。そこにはハーメンツヴァレーと書かれていた。
「こちら側からアイグレッテに行くには、この谷に渡された長いつり橋を渡る必要があるんだが、ここに騎士団が待ち受けてる可能性が高い。なんせ脱獄犯がアイグレッテに入ったら大変だからな」
「それじゃあどうするの? 橋を渡らないとアイグレッテに行けないんでしょ?」
カイルが質問すると、ロニはハルバードの柄で地面に絵を書き始めた。
「確かに谷を渡らないとアイグレッテにはたどり着けないが、別に橋を渡らなきゃならないって訳でもない。こんなふうに谷を降りて、下の方で渡ってまた昇れば橋を使わずとも向こう側には行けるさ。時間は多少かかるし、モンスターは居るだろうがな。後は騎士団に気をつけながらアイグレッテの街に入って、情報を集めてストレイライズ大神殿に潜入ってのが大まかな流れになるな」
そこまで言うとロニは地図を荷物の中に戻した。
「なるほど。でも今の俺たちってお尋ね者だよ? 情報収集とかうまく行くのかな?」
「そこについても考えてあるさ。アイグレッテに着いたら、反エルレイン派の司祭や騎士に接触するつもりだ。彼らに協力を仰ぐ」
「でも、反エルレイン派だからって、犯罪の容疑が掛かってるロニの話を聞いてくれる?」
いくらエルレインをよく思っていないとは言え、犯罪者を見逃すかどうかと言うのはまた話が別のはずだ。
「それなりに親しくしてた奴らだからな。それにアガレスさんもアイグレッテに行ったってんなら、あいつらも洗脳されてるあの人の不自然な様子に気づいてるはずだ。俺たちに、と言うか俺にかかった容疑についてもおかしいって思うだろうし、話を聞かずに拘束されるって事は無いだろう」
「解った。それじゃあそろそろ行こう。いくらある程度安全だとしても、確実じゃない以上リアラやアガレスさん達を助け出すのは早い方がいいよ」
カイルの言葉にうなづくロニ。確かに彼らが危害を加えられないだろうというのは自分たちの勝手な憶測に過ぎない。ハーメンツヴァレーで時間がかかることが解っている以上、行動は迅速に行うべきだ。
「そうだな。行くぞ、カイル」
「おう!」
こうしてカイルとロニはアイグレッテを目指して旅立った。
橋で不審者を待ち構える騎士団と聞いて、何かを察したあなたはたぶん正しい。というか脱獄した人間が普通にダリルシェイドうろつける原作世界がちょっとおかしい気がするのは自分だけだろうか。