こいつが戦闘中に論理的思考するとは思えなかったので修正(ひどい
リアラが生み出した水の具現結晶『アクアリムス』が、自らが生み出したルナシェイドがぶつかり合う。
本来ならば二属性以上の具現結晶が同時に現れることは無い。理由は単純に『晶力』が足りないからだ。具現結晶とは、大量の晶力を、一つの属性に染め上げ、一点に集中させることにより精霊結晶を具現化する術。そして、この中でも最大のネックとなるのは晶力の量だ。具現結晶に必要な晶力の量は、疑似晶術用のレンズから一度に引き出せる晶力の量を超えている。だからこそ具現結晶は容易に使えるものではなく、たとえば長引く戦いの中、周囲に徐々に満ちて行く晶力を使うなり、スピリッツブラスターによるレンズの活性化によって必要量の晶力を用意しなければならない。
バルバトスが行ったのは前者であり、つまりこの大聖堂に満ちていた晶力はその時点でほぼ使い切られていた。にも拘わらず、リアラは具現結晶を作り出した。
そのからくりはバルバトスにはわからなかったが、それはさして重要な事では無い。問題はどのように眼の前の少女…いや、敵をねじ伏せるかだ。横道に其れた思考を切り替える。あるいは、放棄する。本能のままに、力を解き放っていく。
「いいぞ、貴様!俺をもっと楽しませろぉ!」
「っ……アクアリムス!」
刃を振るうルナシェイドを、アクアリムスが真っ向から迎え撃つ。
「ぶるぅぅぅぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁ!」
二人の意志に従い水と闇、槍と剣、青と黒がぶつかり合う。少なくとも目の前の相手は、自分と真っ向からぶつかりあえる程度の力はあるらしい。
「か、かはっ!くはははは!」
それがさらにバルバトスを歓喜させ、眼の前の戦いに集中させていく。
「は、ははは、はははははははは!」
「くっ、この人!?」
そうしたバルバトスの昂ぶりに呼応するかのように、ルナシェイドの剣戟も速さを増して行く。一撃目、二撃目、三撃目と一度に放たれる斬撃は徐々に速さと鋭さを増していく。
最初は互角だった撃ち合いは、徐々にアクアリムスの防戦となり始めていた。そうしてついに、アクアリムスがルナシェイドの攻撃を防ぎきれなくなり、斬撃をその身に受け始める。
「どうしたどうした!遅い、遅いぞぉ!」
「ま、まだよ!」
具現結晶はあくまで晶術。生物では無い為、傷を負うなどと言うことは無い。だが『アクアリムスと言う晶術』を構成する晶力自体が刃によって削ぎ落され、削り取られていく。だが、リアラはそれでも退かずにアクアリムスを操り続ける。だが、ついに致命的な一撃がアクアリムスの体を貫いた。
「終わりだぁ。少しはもったがしょせんこの程度か」
「……」
勝敗は決した。アクアリムスの輪郭が揺らいでいく。後数秒もしないうちにその体は霧散し、晶力へと還っていく。後は、バルバトスがリアラ本人を切り捨てれば終わりだろう。だが、
「何がおかしい?」
そんな状況で、リアラが浮かべていたのは笑みだった。それにバルバトスが違和感を覚えたのと、
「幻影刃!」
ジューダスの剣が、バルバトスの背を切り裂いたのは、ほぼ同時だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
(そうか、やはり彼女は)
リアラが具現結晶を作り出すのを見たジューダスは、何かに気づいたようだった。
(とはいえ、カイル達の話や今までの状況から見るに、あの女とは違うようだが)
そこまで考えた所で、ジューダスは思考を切り替える。今はバルバトスをどうにかしなければならない。今は2つの具現結晶はほぼ互角に見えるものの、結局は戦いの経験値が違う。遠からず押し切られてしまうだろう。
(ならばその前に、戦いの天秤を傾ける一手をうつ必要があるが……)
周囲を見回す。カイルもロニも、そして自分も、先程のエクセキューションによるダメージが目に見えて残っている。特にロニはカイルを庇い返そうと無理をした為、限界が近いように見える。
(どうする?)
今、無理にバルバトスに斬りかかっても、反撃を受けて終わりだろう。バルバトスもそれを解っているから、自分たちを放置してリアラに集中しているのだ。そして、リアラが倒されれば次は自分たち、そしてフィリアの番だ。そして最後に自分達。
(やはり使うしかないか)
そう思い、ジューダスは再び精神を集中させ、先程使おうとしていた切り札を使おうと考えたのだが、
(……まてよ?『アクアリムス』…水の具現結晶?)
ある事に気づき、リアラ達の方に再び視線を向けた。そうしてリアラが作り出したアクアリムスを再び見つめると、ジューダスは笑みを浮かべた。
「なるほど、あの娘も中々考えているじゃないか」
そう言うと、ジューダスはカイル達に向け、小声でこう言った。
「いいか、二人とも。もう少ししたら僕がバルバトスに斬りかかる。そしたらロニは全力で攻撃晶術を放て。カイルはさっきバルバトスを吹き飛ばした技をもう一度だ」
「待て、ジューダス。そいつは」
今の自分たちには無理だと言おうとしたロニも、そしてカイルもある事に気づいたらしく笑みを浮かべた。
「……いい考えだ。あいつに勝ったら。あのリアラって子に礼を言わねえとな」
「うん。ラグナ遺跡の事も含めて、全部。だから、まずはあいつを倒す!」
そうして3人は時を待つ。バルバトスがリアラに対して勝利を確信する、その瞬間を。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「貴様ぁ!」
バルバトスが叫びながら、斧を振り下ろす。だが、その動きにはキレがない。ジューダスが与えた傷は、決して浅いものではなかった。
「プリズムフラッシャ!」
続けざまにロニが光の晶術を放つ。上空から降り注ぐ七色の光の剣が、バルバトスの体を切り裂いて行く。
「ええい!うっとうしい!」
力任せに武器を振り回し、光の剣を弾き飛ばすバルバトス。
「おいおい、こっちに気を取られていいのか?」
「……!」
ロニがそういいながら指さした先では、ルナシェイドがその姿を揺らがせ始めていた。結局のところ術である具現結晶は、術者が居なければ形を保つ事はできない。元々戦士であり、術をメインに扱っているわけでもないバルバトスには、攻撃に対処しながら具現結晶を維持するのは無理があるということだろう。
「ちぃっ!」
ルナシェイドの姿が掻き消える。下手に維持しようとするよりも、目の前に集中するべきと判断したようだ。
「貴様ら、何故動ける!?」
「全部、彼女のお陰だ」
バルバトスの疑問に、ジューダスが答える。最も、舞うような剣戟で責めたてながらだが。
「アクアリムス。水の具現結晶は『回復術としての側面もある』。僕もそんな術に詳しいわけじゃないから、思いだすのに時間がかかったがな」
そう言うと同時にジューダスは地面を蹴り上げた。本来なら綺麗な床があったであろうそこは、先程までの戦いで地面が露出していた。ジューダスの蹴りにより、砂塵が舞い上がる。
「粉塵裂破衝!」
「むぅ!?」
ジューダスの持つ二本の剣が交差し、火花が散る。瞬間、巻き上げられた砂塵が小さな爆発を起こし、それを浴びたバルバトスは後ろを吹き飛ばされる。
本来ならば密閉空間に粉末が充満しているところに火を放つことによって起きる『粉塵爆発』と言う現象を、晶力で粉塵をまとめることで無理やり引き起こす技だ。流石のバルバトスも、突然目の前で起こった爆発にひるむ。
「うおおおおおおおおっ!」
その隙を、カイルは見逃さなかった。ジューダスと入れ替わるように放つのは、先と同じ空破絶風撃。だが、今度はジューダスが引き起こした爆発すら巻き込んで突き進んでいく。だが、いくら爆発で体勢を崩されているとは言え、バルバトスにその一撃は届くことは無い。その獣じみた反応速度で、再び剣を受け止められて終わるだろう。本来ならば。
「アクアスパイク!」
「ストーンザッパー!」
だがその瞬間、石の礫と水の螺旋がバルバトスに襲い掛かる。ロニとリアラが放った晶術だ。偶然タイミングが一致したそれが、バルバトスの反撃を阻む。
「きっさまらぁっ!」
「遅い!」
バルバトスの胴体に剣を突き立てるカイル。だが、その強靭な肉体のせいなのか、深く刺さらない。それを好機とみて、突き刺さった剣をつかもうとするバルバトスだが、カイルはもうそこにはなかった。バルバトスの目に移ったのは、
「空を絶つ!」
炎を纏い、今まさに突進せんとするカイルの姿だった。
「貴様ら如きにぃ!この俺がぁ!」
「父さんの仇、取らせてもらうぞ!バルバトス!食らえ!」
そうして放たれた二度目の絶破滅焼撃の炎がバルバトスを飲み込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
「やれやれ、彼にも困ったものですね」
そう言いながら、女は眼の前のレンズを覗き込んでいた。
「最初から全力を出さないから、隙を突かれて格下と侮っていたものに負ける。情けないですな」
そう言うのは別の声。女の傍に立つ男の物だ。
「まあ、そういう人だということは、知って居ますから。しかたありません」
そういって女は苦笑すると、眼の前のレンズに手を触れる。
「どうされるのです?」
「少し、手助けを。と言っても、あの場を離れさせるだけですが」
「フィリア嬢はどうされるのです?」
「元々、彼女は放置しても特に問題は無いと思っていました。本人もあくまで一司祭と言うスタンスでしたからね。あの男がどうしてもと言うから任せましたが、こうなっては仕方ないでしょう。放置します」
そう言う女の顔が笑っていることに、男は気づいた。
「もしや、こうなることは解っていたのではないですか?」
「買いかぶりすぎですよ?神ならざるこの身、未来を見通すことなどできませんから」
「しかし、フィリア嬢の元にあの方を預けたのでは貴方では?」
「ええ。ですから、あの子がフィリアさんを守ったとしても、それは私の関与することではありませんから」
そう言って微笑む女に、男はさすがですと笑顔で返すのだった。
一応バルバトス戦は決着。