けど、覚えてる人いるのかなあ、これ(滝汗
ロニが神殿の壁に大きな傷跡を刻み込んだのを、偶然部屋の窓から見ていたジューダスは大きなため息をついた。
「……馬鹿か?あいつは」
そういう彼の顔は笑っていた。何か、懐かしいものを見たかのように。
「スタン、ルーティ、あの二人は確かにお前たちに似てるよ。強さも……」
そういうと再び窓の外に目をやる。眼下に移るのはペコペコ頭を下げているロニの姿。それを見て、彼は再びため息をついた。
「馬鹿なところもな。そこまで似なくてもいいだろうに。特に片方は血がつながってないだろう、まったく」
そういうとジューダスは椅子に腰かけ、テーブルの上に広げてあった地図に目をやった。彼の視線は自分達が今いるストレイライズ大神殿から、東のアクアヴェイル、そして南西にいきファンダリアに向けられていく。
「しかし次はアクアヴェイル……アクアヴェイルか。フィリアの殺害に失敗したから予定を変えたか?いや、アガレス老がアイグレッテを出たのはフィリアが襲撃される前だ」
となると、最初からアクアヴェイルに何か目的があったのだろうか。
「しかし、どういうことだ?ファンダリアに向かわせておくならわかるが……」
四英雄を始末するなら、フィリアを襲撃した後に情報がいく前にウッドロウを襲うほうがいい。それに関連してアガレスをファンダリアに向かわせたというならわかる。だが、彼が向かったというのはアクアヴェイルだ。
「次はウッドロウだと思ったんだがな……」
スタンが死に、フィリアが襲われ、残る四英雄はルーティとウッドロウの二人。目的がアタモニ神団の影響力拡大ならば、1孤児院の院長に過ぎないルーティは捨て置き、次はウッドロウが狙われると思ったのだが。
「待てよ?」
そこまで考えて、ジューダスの頭に一つの疑問が浮かぶ。
「次はウッドロウだと? いや、まずはウッドロウを狙うべきじゃないのか?」
『神の眼の騒乱』の英雄の排除が目的だとして、後に回して一番困難になるのがウッドロウだ。何故ならば、彼は一国の王。他の四英雄が襲われたと知られ、警備が一番厳重になるのも彼だろう。ならば、まず行動を起こすならば、ウッドロウから狙うのが一番楽なはずだ。何より相手には、バルバトスを逃がした転移術がある。あれで王座の後ろからでも奇襲をかければ、いくらウッドロウとは言えなすすべもないはずだ。
「だが実際は、最初にスタンとルーティ、そして次にフィリアだ。何故その順番になった?」
しかも、スタンとルーティに至っては、襲われたのは十年前だ。その間、行動を起こさなかったのは何故だ?
考えれば考えるほど、疑問が浮かんでくる。
「バルバトスがスタンとの戦いで深手を負うなりしたから中断した?いや、そもそもバルバトス以外の駒を奴が用意できなかったとも思えない。そもそも、それなら十年も待つ必要はない」
ジューダスは目を閉じ、口元に手を当て考えこみ始めた。そして十分程たった後。
「ダメだな、いかんせん情報が足りなさすぎる」
大きく息を吐きだすと、背もたれによりかかった。今手元にある情報では結局結論は出せない。
「今はとりあえずアクアヴェイルに行くしかないだろう。相手が行動を起こすとわかってる場所を放っておくわけにもいかないからな」
そしてジューダスは部屋の片隅に視線を向ける。
「ああ、次に今回のバルバトスの時のような事態になったら、今度はお前の力を貸してもらうさ」
そういうジューダスの視線の先には、一本の剣が置いてあるだけだった。
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「……よかった」
部屋を出ていくカイルを見送った後、リアラはそうつぶやいた。
「ええ。カイル君、元気そうでよかったですね」
「はい」
リアラは、フィリアの方を見た。目に映るのは、彼女の優しい微笑みと、その体に巻かれた包帯。
「……」
傷は目立たなくなったとフィリアは言ってくれた。だが、それは目につく部分だけの話だ。背中など服に隠れて見えない部分は、まだ傷が残っている。そんなリアラの様子に気が付いたのか、フィリアはそっとリアラの手を取った。
「リアラさん。私、本当にあなたには感謝していますよ?だから、そんな顔しないでください」
「フィリアさん……」
「ところで、話は変わりますが……これからどうするかは決まりましたか?」
「いえ、まだ……」
フィリアの言葉に、リアラはうつむいた。エルレインの配下にアイグレッテに連れてこられたリアラ。彼女は当然、エルレインが自分に合おうとしているのだと思っていた。だがエルレインが彼女の前に姿を現すことはなく、通されたのはここ、フィリアの部屋だった。
エルレインから、
「特別な客人が来るのですが、しばらく手が離せない仕事があるので、数日の間彼女の相手をお願いします」
と頼まれていたフィリアは、リアラのことを最初は疑いとまではいかずとも、探るような目で見ていたが、一日が過ぎるころには打ち解け、それからはリアラはフィリアと語らったり、大神殿の中を見て回りながら過ごしていた。その間に大神殿の人間にエルレインの事も聞いては見たものの、今はいない、お会いにはなれない等の返事が返ってくるだけだった。
そうしてバルバトスの襲撃があり、怪我を負ったフィリアやカイルたちの手当を終えたリアラの元に、エルレインからの使いを名乗る人間が訪れこういった。
「ここからは、あなたの自由にしてください」
その言葉の意図はまったくわからなかった。ほぼ強制的に大神殿に連れてきたかと思えば、合いもせずに放っておき、そして自由にして良いとはどういうことなのか。
とは言え、リアラにとってその言葉は悪いものではなかった。彼女にも『彼女の目的』がある。そのためには、「私は、どうすればいいのだろう」
同時に、エルレインを放っては置けないとも思ってしまった。カイルの手当が終わった後、仮面の少年ジューダスはリアラにこう言った。
「今回の件は、エルレインが絡んでいる」
と。
リアラはエルレインの『役割』を知っている。だが、その役割と今回の事件はまるで一致しない。それどころか反していると言える。
故に、リアラはエルレインの真意を問いただしたいとも思っていた。このまま彼女を放っておいては、何か良くないことが起こる気がした。それ以上に、誰かを傷つけるようなことをするのは許せないと感じた。
(でも……)
だが、『自分は役割を果たすための存在』だと、リアラは思っている。エルレインと同じように、自分にも『役割』が与えられている。それなのに自分の思いを優先していいのだろうか。ここ数日、彼女はそれを悩んでいた。そして、それを相談していた相手がフィリアだった。
「リアラさん。あくまで私の意見なのですが」
うつむくリアラに対して、フィリアはゆっくりと口を開いた。
「人は、自分が感じたままにしか動けないものだと、私は思います。いくら頭で考えていても、最終的には心に従うもの」
「心に従うもの……」
何かが、すとんとリアラの中に入ってきた気がした。何故、自分が悩んでいたのか。何故、自分が役割と思いの間で悩んでいたのか……
「フィリアさん、ありがとうございます」
リアラは顔を上げた。その顔は、少しだけだが明るくなっていた。
「私、まだわからない事が多いですけど、だからこそ、とりあえず自分の心に従ってみることにします」
「そうですか。では、とりあえずはカイル君達と一緒に行ってみるのはどうでしょう?」
「え?」
「彼らは、エルレインの動きを追うつもりです。彼らと行動していれば、エルレインと会う可能性は高いでしょう」
フィリアの言葉に、リアラはうなづいた。
「でも、突然一緒に行きたいと言っても、迷惑じゃ……」
「そのあたりはたぶん大丈夫だと思いますよ?彼、お父さんに似てますし」
「え?」
懐かしむように言うフィリアに、リアラはこてんと首を傾げた。
体調いいうちになんとか続きかきたいなあ