そうしてカイル達一行がアイグレッテを出立する日となった。目指すはアクアヴェイル。アイグレッテから見て東にある海洋国家。洗脳されたアガレス達が向かったという情報以外に手がかりはないが、それでも行くしかない。
「カイル、体の調子はどうだ?」
「うん、完璧とまでは言わないけど戦えるくらいには回復したと思う」
「ならばいい。倒れられても僕たちが迷惑するだけだ」
「やれやれ、素直に無理するなよって言えないのかねえ」
そんな感じでカイル達が話していると、フィリアとリアラがやって来た。
「あ、二人とも見送りに来てくれたんですか?」
「ええ、”私は”そうですよ」
「私は?」
フィリアの言葉に首をかしげるカイル。ロニもきょとんとしている。だが、ジューダスはやはりかといった顔をしていた。
「あ、あの!」
「は、はい!?」
リアラの勢いに、思わずカイルも仰け反る。それを見て、ロニも察したようで笑いを浮かべた。
「わ、私も一緒に連れていってください!アガレスさんを助けに行くんでしょう?」
「え?」
「きっと役に立てますから!お願いします!」
「わ、わかったから頭上げてよ!」
深々と頭を下げるリアラに、やはりわたわたするカイル。そんな二人を見ながら、ジューダスはフィリアに言った。
「彼女はエルレインが連れてきたんだろう?大丈夫なのか?」
その言葉にはどんな意味が込められていたのか。だが、フィリアはうなづく。
「大丈夫、だと思いますよ。リアラさんをここにとどめて置きたいにしては、監視の目が無さすぎますし」
「確かにそうだな」
「おそらくですけど、彼女がここに来たことで目的は達してるのかもしれません。あるいは、あのバルバトスの襲撃もその為だったのかも」
「それは……なるほど、そういうことか」
得心がいったようにうなづくジューダスと、それをうなづくフィリア。それは昔馴染み同士の会話のようにも見えた。だが、それに注意をやるものはこの場に居なかった。何故なら。
「だから変にかしこまらなくていいって!年も近いんだし、もっと肩の力抜いてって!初対面の時みたいにさ」
「あ、あの時は慌ててたというかその……でも、そっちの方がいいって言うなら……」
「うん、そっちの方がいいと思う」
「そ、そう。じゃあよろしく、カイル!」
「うん。よろしく、リアラ」
「青春だねぇ」
顔を赤くしながらわたわた喋るカイルとリアラ、そしてそれを眺めてニヤニヤするロニしか他にこの場には居ないからだった。どっとわらい。
「じゃあ、改めて行きますか!」
「フィリアさん、お元気で!」
「フィリアさん、色々ありがとうございました」
「気を付けろよ。またあの女が何かを仕掛けてくるとも限らないんだからな」
そう、思い思いの事を言って去っていくカイル達を見送りながら、フィリアは16年前の旅の事を思い出していた。あの旅は、確かに大変だった。でも、同時に楽しくもあったと。その中心に居たのは、金髪の剣士と黒髪のトレジャーハンターの二人。
「スタンさんとルーティさんの息子ですか。これも何かの運命なのかもしれませんね」
そういう彼女の目は先ほどまでと違い、真剣な物だった。
「願わくば彼らの道行きに幸あらん事を……」
アイグレッテを離れてから小一時間。一行は港にたどり着いた。
「ここがアイグレッテ港か。思ったより小さいんだね」
「まあ元々大都市でもなかったからなあ、アイグレッテは。とは言え最近は人や物の行き来も増えたし、そろそろ大規模な改築工事をしようって話もでてるな」
「そうなんだ」
「お前たち、雑談もいいがとっとっと船のチケットを取るぞ」
「わかってるよ、ジューダス」
そうしてチケット売り場に向かうカイル達。特に問題なくチケットも購入でき、4人はすぐにアクアヴェイル行きの船に乗船することができた。
「これが船……」
「あれ、リアラって船乗るの初めて?」
「ええ。話には聞いていたけれど……」
「というかカイル、お前も初めてだろうが」
「じゃあ、この中で船が初めてじゃないのはロニだけ?」
「いや、僕も乗った事はあるぞ?」
「ぇー。じゃあ船が初めて同士、中を見て回ろうよリアラ」
「ええ。行きましょう、カイル」
そういって部屋を出ていく二人を、ロニは生暖かい目で見送った。
「青春だねえ」
「……あれはまだ、色恋とかそういうのではないと思うぞ?」
「わーってるよ。そもそもカイルの奴、こんなに遠出するのは初めてなんだ。やるべきことがあるとは言え、息が抜けるところでは気楽に過ごさせてやりたい」
「ん、そうなのか?それにしては戦いなれしてると思ったんだが」
「基本はクレスタの近郊。遠くてもダリルシェイドあたりまでだな。そもそも数日で行って帰ってこれる距離じゃないと、ルーティさんが心配するし」
「なるほど」
「俺が騎士団に入ってからも、そこは基本変わってないと思うぜ?ルーティさんと一緒なら別かもだが、そもそもルーティさんが孤児院をあけるとかできないからなあ」
そう、ロニとジューダスが話している時だった。突如、船体がドォンと強く揺れた。
「モンスターだ!」
「でかいぞ!」
外から叫び声が聞こえてきた。直後、船体が再び大きく揺れる。部屋の中に先ほど出かけたカイルとリアラが飛び込んできたのは、それとほぼ同時だった。
「わあ、キレイ!」
「リアラ、あんまりはしゃぐと危ないよ?」
カイル達は甲板に出ていた。空は快晴。青い海が、水平線まで見渡せる。
「でも、本当に綺麗だ。陸から見るのとはまた違うな」
「でしょう?」
そういって笑うリアラに、「君の方が綺麗だよ」なんてセリフが浮かんで思わず首を振るカイル。そういうのはあの
そんな事をカイルが思っているとも知らず、リアラは海を眺めていた。だが、突然その顔が驚きに染まった。
「どうしたの?リアラ」
「カイル、大変!今海の中に」
リアラがそこまで言った時、船が大きく揺れた。体勢が崩れたリアラをとっさに受け止めるカイル。
「大丈夫、リアラ!」
「ええ。でも、そんなことよりモンスターが!」
そういうリアラの声と重なるように、船の中から
「モンスターだ!」
「でかいぞ!」
と船員の声らしきものが聞こえてきた。
「行こう!」
「うん!」
二人は、自分達の船室へと走って行った。
装備を持った4人が船底に通じる部屋に行くと、そこには怪我をした船員が倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。だが船底にモンスターが取り付いて……このままじゃ沈んじまう!」
「俺たちに任せて!いこう、みんな!」
「ああ。とっとと片付けちまおうぜ!」
「ええ、急ぎましょう!」
「気をつけろよ、相手はでかいぞ」
船員に見送られ、4人は下の部屋に降りる。
「な、何あれ……」
「予想よりも大物だな。お前たち、気をつけろ!」
「言われなくても!」
そこに居たのは、無数の触手を持つ怪物だった。
次は何時になるやら……