近づいたカイル達を獲物と見定めたのか、巨大な水性生物『フォルネウス』の触腕がカイル達に襲い掛かる。
「させるかよ!」
だがそれは、ロニのハルバードによって弾き飛ばされる。その隙に、陣形を整えるカイル達。カイルがまず前に出て、そこからロニ、ジューダス、リアラと続く。回復が使えるリアラがパーティに加わった事で、回復役として後ろに下がり気味だったロニも遠慮なく前にでることができるようになっていた。その為比較的撃たれ弱いジューダスをロニがフォローするような形だ。
「こいつ、船底に大穴開けてやがる!」
フォルネウスの姿を見て、ロニが言う。見れば、その巨体が船底に空いた大きな穴にすっぽりはまるような形になっていた。
「まずいな、下手に倒すと余計水が入ってくるぞ」
「そんな!」
「そんなこと言ったって、ほっといたらほっといたで船が壊されちゃうよ!」
だが、フォルネウスはそんなカイル達の葛藤など知ってか知らずか、触腕を叩きつけてきた。
「っと、あぶない!くそ、やるしかない!」
触腕に剣を叩きつけて避けながらそういうカイルに、全員がうなづいた。まずは、目の前の脅威を何とかしなければ、この場でお陀仏だ。
「まずは邪魔な蝕碗をどかすぞ!」
「わかった!」
カイルとジューダスが前に出る。それに対し、蝕碗を振るうフォルネウス。二人はそれを剣で受け流しながら、その根元へと駆け寄る。
「散葉塵!」
「月閃光!」
二人の斬撃を受け、ひるんだのか触腕が少し引っ込む。それによってできた防御の切れ目目掛けて、三発の炎弾が上から降り注ぐ。
「バーンストライク!」
リアラの唱えた火の中級疑似晶術が、フォルネウスの体を焼き焦がしていく。しかし、まだまだ致命打には程遠いらしい。カイル達が抑えてるのとは別の触腕が、リアラ目掛けて襲い掛かる。
「させっかよ!雷神召!」
だが、それはロニが放った雷撃によって防がれる。戦況はカイル達が有利に見える。だが、あちらは最悪船が沈むまで待って居ればいいのに対して、こちらはそれがタイムリミットだ。決着は早々に着けなければならない。
「どんどん攻めるっきゃねえな!」
「わかってる!ロニはそのままリアラを守ってて!俺とジューダスでガンガン攻める!」
「リアラは多少詠唱が長くてもいい。大技を狙っていけ!」
「わかったわ!」
リアラが上級術の詠唱を始めると同時に、再びカイルとジューダスが駆けだす。今度は触腕ではなく本体狙いだ。
「グアアアアアアアア!」
「遅い!」
二人目掛けて、無数の触腕が襲い掛かる。だが、二人はその隙間を縫ってフォルネウスへと肉薄する。まず仕掛けたのはジューダス。
「粉塵、裂破衝!」
「ギャアアアア!?」
ジューダスの引き起こした爆発が、フォルネウスの無数にある眼を焼く。痛みからか、やたらめったらに振り回される触腕を避け、ジューダスが距離をとったのと入れ替わりに今度はカイルが仕掛けた。
「空翔斬!」
「ぐううううおおおお!?」
空中から叩きつけるように放たれた斬撃が、フォルネウスの脳天を直撃する。だが、カイルの攻撃は終わらない。
「空翔!裂風!」
カイルの拳がフォルネウスの顎を打ち上げ、無防備にさらされた顎部に向かって風をまとった剣が突き上げられる。ドリルのように渦巻く風が、フォルネウスの体を削っていく。
「ぐ、ぐ、グアアアアア!」
だが、それでもまだ相手の体力は有り余っているようだ。先ほどよりさらに苛烈に、蝕碗を振り回し始める。ジューダスに眼を焼かれた為狙いこそまばらだが、それを速度と数で補おうとしているのだろう。
「く、速い!」
「これでは近づけないな」
だが、二人に焦りはない。既に目的は達しているのだから。
「二人とも、行くわよ!」
リアラの声が響く。それを受け、フォルネウスから距離を取る二人。声の意味を理解しているのか否か、フォルネウスの触腕が再びリアラ目掛け襲い掛かる。
「学習しないねえ、どうも」
だが、それは再びロニによって防がれる。上から降りそそぐ光の刃が、蝕碗を床に縫い留めていく。
「プリズムフラッシャってな。いけ、リアラ!」
「うん!古より伝わりし、浄化の炎!」
リアラの声に合わせて、フォルネウスの頭上に高濃度の火の晶力が集まっていく。
「ぎゅおおおお!?」
防御しようとしているのか、フォルネウスは触腕を頭上へと伸ばしていく。
「落ちろ!エンシェントノヴァ!」
だが、その行為もむなしく、頭上から落ちた熱線はフォルネウスの体を触腕ごと焼き尽くし、直後起きた爆発により、その肢体は粉々に砕け散ったのであった。
「すごい、やったよリアラ!」
「ううん、みんなのおかげよ」
「初めてにしては、いいコンビネーションだったな」
そう感想を言い合う三人に、ジューダスがため息をつく。
「それもいいが、今はやることがあるだろう」
「あ、そうだ。船をどうにかしないと」
カイルがフォルネウスの方を見ると、上半分が砕け散ったフォルネウスの体が船底の穴をある程度塞いでいた。だが、やはり隙間から水が入ってきている。このままでは遠くないうちに船が沈んでしまうだろう。
「どうしようか……修理するにしても穴が大きすぎるし」
「というか下手にモンスターの体をどかすと一気に水が入ってくるな」
「あいつの体ごと氷漬けにするっていうのは?」
「疑似晶術でか?いくらなんでも長時間はもたないだろう」
「うん、ちょっと無理だと思う」
ああでもないこうでもないと意見を出すがまとまらない。そうこうしてる間にひざ元まで水が入ってきていた。
「うわ、やばいよ!どうすればいいんだ!」
「上の方も騒がしくなってきたな。他の乗客もさすがにヤバいって感じ始めたか」
「こうなったら仕方ないか」
そういうと、ジューダスはリアラの事をじっと見つめた。
「今、この船の人々を皆救えるのはお前だけだ。この意味が解るか?」
「っ!?それは……」
カイルとロニには、それがどういう事かはわからなかった。だが、ジューダスの言葉を受けてリアラの瞳が不安に揺れたのは見て取れた。それが何に対する不安だったのかはわからないが。
「リアラ、なんとかできるの!?」
「それは……」
「ぐずぐずしている暇はないぞ」
だが、何やら踏ん切りがつかない様子のリアラ。そんな彼女を見て、カイルはその手をそっと握った。
「あっ……」
「リアラ。俺、リアラが何をしようとしてるのかは知らないし、何を不安に思ってるかもわからない。でも、リアラなら大丈夫だよ!俺は信じてる!」
「カイル……」
その言葉を受け、リアラは一度目を閉じた。そして再び開いたその目に、不安はひとかけらも見えなかった。
「わかった。やってみる!」
リアラがそういうと同時に、彼女のペンダントが強く光り輝いた。
「うわっ」
「一体何が起きるんだ!?」
「何か、そうだな……」
さらに光が強くなり、船が揺れ始める。船体が発する音の中、ジューダスの言葉は誰に聞かれるでもなく虚空に消えていった。
――――――奇跡、とでも言っておくか―――――
文章力が欲しい……