次の瞬間、フォルネウスの死体が船底から抜け落ちた。大穴の姿があらわになる。
「まずい!」
ロニが慌てる。穴が広がり、一気に水が流れ込んでくるのを予想し身構える。だが、水は流れ込んでくるどころか、水位が下がっていった。
「どうなってやがる」
そうして、水がすべて引き切った後、ロニはフォルネウスが作った大穴を覗き込んだ。そこにあったのは、”水面”だった。そこから一つの事が頭に浮かんだ。
「まさか、船が浮いてる?」
驚愕するロニ。これほど大質量の物体を浮かせるなど、そんなことが晶術で可能なのだろうか。いや、不可能だ。ソーディアンのもつオリジナルのそれなら可能かもしれないが、少なくとも自分達が使う疑似晶術ではとてもじゃないがそれほどの出力を維持できないだろう。
(あの子は、一体……)
この現象を引き起こしているであろう少女を見る。突然現れたりと不思議な子ではあると思ったが、それでもここまでの力を秘めているとは思っていなかった。
(これじゃ、まるで……)
聖女エルレインの奇跡の力のようではないか。
(……警戒、しなきゃいけねえのか?)
フィリアを救ってくれた恩人に、疑いの眼は向けたくはない。だが、無条件で信じられるほどロニも純粋ではなかった。そういうのは、カイルの仕事だろうとロニは思う。
(ま、今すぐどうこうって訳じゃないだろうけどな)
今は彼女に感謝を。助かったことに喜びを。
「す、すごいよリアラ!」
カイルがリアラを称賛する。その顔には感動とか喜びといった色しか浮かんでいない。いや、浮かんでいるのはこの船なのだが。
「で、できた……けど……」
だが、対するリアラは何かをこらえるような表情をしていた。
「だ、大丈夫?」
「うん。だけど、そう長くはもたない……かも……」
リアラが苦しそうに言う。それを聞いて、カイルは階上に居る船員に声をかける。
「すいません!ここから一番近い陸地ってどこですか!?」
「もうここまで来たらアクアヴェイルは近い!このまままっすぐ行けばつく!」
船員の言葉に、安堵するカイル。だが、近いと言っても具体的な距離が分かった訳ではない。それまで、リアラはもたせることができるのだろうか。
「リアラ、もう少しだって!」
「うん。頑張ってみる……」
船が少し、揺れる。港に向かって進みだしたのだろう。
「間に合うといいんだが……」
ジューダスも不安は隠せないようだった。先ほどと比べて、リアラのペンダントが放つ輝きが弱まってきているのだ。どういう理屈で船が浮いているかはカイルにはさっぱりだが、その為の力が弱まって来ているのは間違いないだろう。船が再び着水した場合、フォルネウスの居ない分大きくなった穴から一気に水が入ってくる。そうなれば、沈没は免れまい。港に着くのが先か、沈むのが先か。全てはリアラにかかっていた。
「港が見えたぞ!」
船員の声が響く。その言葉に安堵するカイル達。
「リアラ、もう少しだ!」
「わかった……けど……」
だが、リアラにも限界が近いようだった。もうペンダントの輝きは弱弱しい。船も少しずつ水面に近づいているようだった。
「やっぱり、私なんかじゃ……」
リアラの顔がくやしさにゆがむ。ここまで来たのに、と。自分の不甲斐なさに打ちのめされている、そんな顔だった。それを見たカイルは、思わずリアラの手を握っていた。
「カイル?」
「大丈夫、大丈夫だよ、リアラ」
そういう彼の顔には、不安の色は一切ない。ただ、まっすぐにリアラの事を見つめていた。
「リアラが居なかったら、俺達はもっと早く海の藻屑になってた。だから、私なんかじゃなんて言わないでよ」
「でも」
「リアラが自分を信じられないっていうなら、俺がリアラを信じる!だから、あきらめないで!」
そういうカイルの目には微塵も揺らぎはなく。見つめられていたリアラは、意を決したように言った。
「わかったわ。私も、信じる。私を信じてくれる、カイルを。カイルが信じてくれる私を!」
瞬間、ペンダントが再び輝きを増し、船が再び水面から遠ざかった。
「行こう!アクアヴェイルはもうすぐだ!」
「うん!」
そうして、船は速度を上げ港へと一直線に……
「行ったところまでは、よかったんだがな」
ジューダスがため息をつく。確かに、船は港までたどり着いた。たどり着いたのだが……
「まさか勢いが良すぎて乗り上げちまうなんでなあ。こりゃもう修理とかそういうレベルじゃねえだろ」
ロニが苦笑しながら船を見る。船は港に半ば乗り上げ、半壊といったところだった。
「ま、まあ命が助かったんだしいいじゃない。ね、リアラ」
「そ、そうかしら……」
気まずそうにするリアラを必死に励ますカイル。実際彼女が居なければ、皆死んでいたのだし気負う事はないだろう。本人がどう思うかはともかく。
「船長さんもお礼言ってたし!」
「ひきつった顔してたけどな」
「もう、ロニ!」
「わりいわりい」
茶化すロニの頭をひっぱたくカイル。そんな二人を他所に、ジューダスはリアラに近づきこっそりと言った。
(良くやった)
「えっ?」
「な、なんでもない」
そういうと、ジューダスはじゃれあっている二人の傍に近づき、その頭をひっぱたいた。
「いつまでやっている」
「「っつ~」」
そんな様子を見て、笑うリアラ。その笑みは、何に対してのものだったのか。それは彼女にしかわからない。
ギャグ落ちですが、アクアヴェイル到着。とりあえず一章これで終わりということで。