ラグナ遺跡、それは18年前の神の眼の騒乱の際、空から落ちてきた空中都市の一つだ。都市としての正式名称は別にあるのだが、騒乱で心に傷を負った人々は、その名で呼ぶことを避けて新たに名前を付けたのだとカイルは聞いていた。
ちなみに、神の眼があったダイクロフトは神の眼破壊の余波で完全消滅。他の都市も海へと沈んでしまい、結果残っているのはラグナ遺跡だけと言うわけだ。
「でもあそこって、数年前に騎士団で調査とかしてなかったっけ?」
カイルが疑問を口にする。ラグナ遺跡の中に元々存在した強力なモンスター達は、落下の際に大半が死滅。残ったモンスターもスタン達が片づけたのだが、元々草木が生い茂っていた都市だったため、周囲から動物が住み付き、中に残っていたレンズを摂取。あっという間にモンスターの巣になってしまった。最も、残っていたレンズはそこまで大型の物はなく(一説には空中にあった時に某レンズハンターが回収しつくしたとか)、住み付いたのも小動物ばかりだったので、生まれるモンスターも街の人間でも十分対処できるレベルだった。そのため、当初はそこまで問題にはならなかったのだが、時がたつにつれてさすがにモンスターも増えてきた。
そのため、6年ほど前にアタモニ騎士団がモンスター討伐に乗り出したのだが、その際せっかくだからと遺跡内部の調査も行われたのだ。確か、既に騎士団に所属していたロニも参加していたはずだ。ちなみに、ロニがクレスタに最後に帰ってきたのもその時だった。その際も、ルーティの歓迎は関節技たったのだが、今は置いておく。カイルの質問に、ロニは頭をかきながら答えた。
「それがだな、あの時俺たちが中を調べたときは、最深部らしき場所に通じる通路が塞がってて通れなくなってたんだ。だから、最深部へは立ち入らずに戻って来ちまったんだ。どうせ、大したもんも無いだろうってな」
「あれ、じゃあ今回レンズが見つかったのは?」
「それがだな、この前地震があったの覚えてるか?あの後、ラグナ遺跡の中でモンスターを狩ってた奴らが、最深部に通じる道を見つけたらしいんだ。何でも、今までそこは床が崩れてたせいで行き止まりだったらしいんだが、地震で崩れた壁とか天井のガレキが足場になって、奥に進めるようになってたらしくてな。そんでそいつらが奥へ行ってみると、なんとそこには!!!」
「ちょ、ロニ! 唾! 唾飛んでるって!」
「あ、悪い悪い。でもってそこにはなんと!部屋を覆い尽くすほどの大きさの木と、その幹に埋もれる形で鎮座する超大型レンズがあったって訳だ。」
なるほど、だとすると発見した人たちは運がいい。偶然地震の後にラグナ遺跡に行ったおかげで、偶然道ができているのを見つけ、さらにそこで恐れずに奥へ進んだおかげで巨大レンズを発見できたのだから。
「あれ?でもそれだったら、その人達、普通にレンズを持って帰って売ったらよかったんじゃ?なんでわざわざアタモニ騎士団に報告したのさ」
「それがだな、あんまりにも大きくて、ちょっとやそっとじゃ持ち運べなかったってのが一つ。もう一つは、その最深部の部屋にモンスターが住み付いていたらしくて、命からがら逃げだしてきたそうだ。たどり着いた時は夜だった上、スペクタクルズも切らしていたから、どんなモンスターかはよく解らなかったらしい。だが、見覚えがない奴な上、かなり大型で、さらに相当強かったって話だ」
けどまあ、強かったって言ってた連中も、突然の大型モンスターの襲撃にパニクってた所があったみたいだからあんま当てにならないけどな、とロニは笑った。
「ああ、なるほど」
とりあえず、先ほどの運が良かったというのは撤回するべきだろうか。発見した人たちはずいぶん悔しい思いをしたことだろう。などとカイルが考えていると、ロニがぐいっと顔を寄せてきた。
「それでだな、カイルくん。ちょいとばっかし相談があるんだが」
そう言うロニの顔は、兄貴分としての頼れるそれではなく、孤児院に居た頃一緒に悪戯をしていた悪ガキ仲間としてのそれだった。ちょっとだけ嫌な予感がする。
「俺と一緒に、ラグナ遺跡に行く気はないかね? ん?」
「ラグナ遺跡って、まさかレンズを先回りして獲っちゃおうとか考えてないよね!?」
ロニの発言にカイルは慌てる。なんせ先程この男はアタモニ神団が気にくわないと言い放ったばかりなのだ。そこに渡すくらいなら自分たちで使ってしまおうとか考えても不思議ではないんじゃなかろうか。だが、そんな心配は杞憂だった。
「バカ、さすがにそんなことしねえよ! そんなことしたら、もめるだろ絶対! ……いや、孤児院が借金まみれだったら、ちょっと考えなくは無いが「ロニ?」いや冗談だって! それに、そんなに高いレンズだったら、さすがにエルレイン派の連中も神殿に飾っておくよりも、売るなり晶術用レンズの材料にするなりして、人々の為に使うだろう。そのまま神団の連中に持って帰ってもらうさ。それに、値段が値段だ、反レンズ優先主義の連中の声も大きくなるはずだ。さすがのエルレインも決して無視できねえだろってどうした? カイル」
そこまで話したところで、ロニはカイルがぽかーんとしていることに気が付いた。
「いや、ロニって意外と考えてるんだね。驚いた」
弟分の口から出たその言葉に、ほほう?とロニの眼が怪しく光る。
「カ・イ・ル・く・ん? 君は普段この俺をどういう目で見てるのかな?お兄さん怒らないからちょーっと正直に白状してみようか?」
「いや、冗談だから! ロニ! ごめん! 俺が悪かったからくすぐるのだけは……あはははは!」
それから数分の間、カイルはロニのお仕置きを受け悶絶するハメになった。口は災いの元である。
「し、死ぬかと思った……それじゃあ、ラグナ遺跡に一体何しに行くんだよ。ロニ、今は休暇中だろ?」
「目的は、レンズじゃない。ヒントは、『その前』にあるものだよ」
そう言ってにやりとするロニ。それを聞いてようやく得心したカイルも、同じようににやりと笑う。
「つまり、見つけた人達が襲われたって言う大型モンスターを倒して、レンズや素材を頂いちゃおうって訳か!」
「そういうことだ。誇張が入ってるだろうが、そんな大型で強い、しかもレアモンスターだ。レアなアイテムも持ってるだろうし、体から取れる素材も高く売れるはずだ。レンズもおそらく比較的大き目の物が出に入るだろう。需要が減ってるって言っても、晶術用のレンズを作るためにまだまだ売れるからな。敵の強さにもよるが、たぶん雨漏りの修理費くらいにはなるだろ」
そういうことなら話は別だ。カイルとしても協力しない理由はない。むしろ、久しぶりにロニと一緒に冒険ができるとなれば大歓迎だ。そうとなれば善は急げだ、とカイルはそばにあった剣と道具袋を掴んで立ち上がる。
「いいぜ、ロニ。そうと決まれば善は急げだ!さっそく出発しよう!」
「まあ待てカイル。こういうのは順番があってだな。」
だが、今にも飛び出しそうなカイルをロニが制する。
「下手に神団の連中より先に最深部に行ってみろ、レンズが目当てか!とか言われて、もめるのは目に見えてる。」
「ロニだって騎士団員だし、問題ないんじゃ?」
ロニの言葉に首をかしげるカイル。
「俺は今休暇中だしなあ。それに俺はアイグレッテ勤務だから、ダリルシェイドの連中とはあんま面識ねえんだよ。と言う訳だから、こういう時は先にそっちに話を通す」
「どんなふうに?」
「予定通りなら明日、神団の連中はこの街で1日宿を取った後遺跡に出発する予定だ。だから、そこで偶然を装って神団の連中と接触する。いくら面識が無いとは言え、街に居る間なら説明して納得してもらう時間くらいあるだろ」
アタモニ騎士団のエンブレムとか持ってるしな、とロニはにやりと笑った。
「そんなのあったんだ」
「おう。邪魔くせーから普段は荷物入れんなか放り込んでるけどな!」
「ダメじゃん!」
呆れるカイルを無視して、話を進めるロニ。
「そして、『私はこの街出身で、以前ラグナ遺跡の探索も行ったことがあります。レンズの前には高レベルモンスターも居ると聞きますし、ぜひとも私めに道案内をさせて頂きたい』なんて言ってついていく。まあ、久しぶりの遺跡だし?途中で道を間違えたりして神団の連中がはぐれちまったり、その間に俺たちが最深部に先に着いちまっても仕方ないよな?」
「ロニ、一言いい?」
「ん?なんだ?」
「せこい」
「こういうのは、頭がいいって言うんだよ」
そう言うロニの顔は、完全に孤児院時代の悪ガキに戻っていた。その様子に少し呆れながらも、昔と変わらぬロニに、カイルは思わず笑い出した。そうなれば、手早く残りの修理を終わらせてしまおう。明日は騎士団の説得と出かける準備で大忙しになる。そう思ったカイルは道具を手に駆けだそうとして、
「うわった!おわた!?」
「あ、あーあ。やっちまったバカイル」
盛大にすっころんで、手に持つ道具類を盛大に床にたたきつけすっころんだのであった。床には穴が開き、修繕作業の時間が大幅に伸びたのだった。
いくら孤児院の為とはいえ、300万ガルドのレンズをかっぱらうのはどうなのよ?ってことで拙作ではこういう流れになりました。いや、あれ別にアタモニ神団の物って訳じゃないですけど。
「でもさ、そのモンスターの素材も本当なら騎士団が手に入れてるって考えると」
「カイル君?これはみんなのためでもあるんだよ?僕達はモンスターの素材が手に入ってほくほく、騎士団のみんなは余計な戦いをしなくてすんでほくほく。ウィンウィンの関係ってやつだ。何もやましいことはない!」
「……ぇー」