▼前作で予告してたブツです 病院の構造とかマジでわかんない\(^o^)/ 雰囲気パロです
pixivより転載
降谷零という医師は、「男サークルクラッシャー」と呼ばれている。クラッシュしているのは主に職場だが。尤もこれはモノの例えで、一種の教祖として女性陣に崇められているので辛うじて職場の人間関係は成立している。なお男性陣からは「降谷に何かしたら女性看護師や女性事務員に嫌われて仕事が回らなくなる」ということで大概敬遠されているのが実情である。彼が親しい男性医師は院内でごく1部の人間だった。
彼は、この大学病院の小児科の医師だ。小児科とはつまり、子どもの患者を相手にするところで。しかし子どもの患者には母親がつきもので。
降谷は診察のときに、子どもに目線を合わせる。
「今日はどこが痛いのかな?」
「あのn」
「この子ったら昨夜からずっとお腹が痛いみたいで! それで今日は降谷先生が外来に出ると聞いて来たんです! あっイヤだ、降谷先生が名医師だからですよ! 下心なんてありません!」
「あ、あの、すいません。お子さんの方に……」
――しかし母親が食い気味に答えてくるのが日常だった。
「ゼロ先生、相変わらずお母さま方にモテモテだね」
「勘弁してほしい……」
院内のカフェで買ったコーヒーを片手に、降谷はぐったりと顔を覆って項垂れる。ただでさえ当直明け、カフェインが身に染みわたる。同じ小児科で幼馴染の景光が同じようにコーヒーを飲みながら彼を労わる。
「それだけ保護者の人から信頼されてるってことだよ。まぁちょっとだいぶかなり下心はあるだろうけど」
「僕が立場上応えるわけにいかないことはわかってるくせに……」
「あれ、立場が大丈夫だったら応えるつもりなの? まぁ年上趣味だったしね昔から。初恋の人は年上の女医さんだったし。医者を目指したのもそれがきっかけだったよね」
「ヒロ……」
「お、なんだどうしたお前ら」
「小児科暇なのか?」
そこに、松田と萩原が歩いてくる。心臓外科の2人だ。「爆弾処理班」とあだ名されているぐらい、若いながら腕の良い2人だ。彼らも同じカフェで買ったらしいコーヒーを手にしている。医者稼業は睡眠不足との戦いだ。お陰で寝付くときはほぼ失神しているが。この間比較的長時間休めたので、レッドブルやモンエナには今のところ手を付けていない。その2人がソファに並んで座る。松田がにやにや笑っていた。
「相変わらずモテてるみたいだなぁゼロ先生。聞いたぜ。またお前の外来の日の予約が突出して事務員がキレそうになってたってな」
「それもゼロ先生が『僕のためにすみません』って謝ったら瞬時に沈静化したって話だし。お前マジでその顔で病院傾けそう」
「お前ら……言いたい放題言いやがって……」
「でもゼロ先生は子どもたちにも人気だぞ」
「伊達先生。救急の方大丈夫なんですか」
とは、同じくコーヒーを片手にのんびり歩いてきた伊達だ。あそこのカフェ本当に人気だな……と降谷が現実逃避気味に思ったところで、「確かに」と景光は言う。
「病棟回診してると『ゼロ先生~』って子どもたちが手を振ってくれるし、何なら抱き着きに来る子もいるね。この間なんか、保護者のお父さんが一緒にいたのに『おおきくなったらゼロ先生のお嫁さんになる~!』って言い出した女の子がいて……お父さん涙目だったな」
「ちょっと待てヒロ、それはこいつらには秘密」
「おやおやおや、本当にモテモテですね」
萩原と松田が揃ってニヤニヤする。こういうときの悪ノリは天下一品だ。
「ゼロ先生年の差婚? 20歳ぐらいかな? やるねぇ」
「仕事が恋人のゼロ先生にもやっとお嫁さんができたんだから盛大に祝わないとね☆」
「……お前ら、本当に殴るぞ」
「年の差婚か……」
降谷がカップを片手に拳を固めていると、伊達が無精髭の生えた顎に手を添えて言った。
「正直患者さんのお母さんと不倫するかと思ってた」
「伊達先生!」
「先生方、患者さんがこちらを見ているのでお静かにお願いします」
通りすがりの男性看護師が窘めなければそのままリアルファイトに転じていたかもしれない。
このときは、まだ平和だったのだ。
1か月後。その、プロポーズしてきた少女が死亡するまでは。
「……ゼロ先生」
ソファに座り込む降谷。薄暗い廊下で、それを見かねた景光が静かに隣に座る。降谷は何も言わない。スクラブのまま、白衣も纏わず、手を組んでいる。物言わぬ2人。
やがて、ぽつりと降谷は言った。
「はじめてだったんだ」
「……」
「はじめて、死なせた患者さんだった」
「……」
「これから花開く年頃の女の子だったのに」
その少女のことを、景光も知っている。
なんということはない病気のはずだった。しかし子どもは些細なことで死ぬ。彼女もまた、病状が急変して死に至った。
降谷がはじめて死なせた患者だった。
項垂れたままの降谷は、こぼす。
「親御さんが、ちっとも僕のことを責めなかったんだ。どうして、だとかなんで、だとか。救えたはずじゃないのか、って。でも、ただ『頑張ってくれて有難う』って、それだけ」
「ゼロ」
「救えたはずなんだ……」
――降谷はまだ若い。これからも死に別れる患者と会うことだろう。
(それでも、きっとゼロは立ち直る)
「ゼロ」
「ゼロ先生」
「先生」
「松田、萩原……伊達も……」
景光が顔を上げると、物陰にでも隠れていたのだろうか。3人が集まってきた。それでもなお項垂れる降谷の肩を、それぞれが軽く叩く。
「辛いよな、ゼロ」
「患者さんが亡くなるのはいつだって辛い」
「でも、生きてる患者さんたちが、お前のことを待ってるぞ」
伊達が言った。
「少し時間がかかるかも知れないが、顔を上げられることは俺たちがよく知っているからな」
降谷は顔を上げなかった。それでも肩を震わせた。
それは幼い少女の命が、ある病院で儚く散った日の夜。
End.