いつかの時代どこかの世界。肩書きに捕われない少女がいた。その少女は重いはずの肩書きを羽根のように軽々しく扱い、しかしその肩書きをほおりだす事はしなかった
そんな少女に惹かれた少女は数しれず。肩書きに捕らわれていたら反感をかうはずの友人も沢山いた。例えるならば、オタク根絶運動のトップなのに、そのオタクからは大変好かれているというような、矛盾している現実があった
そんな少女と幼い頃からの仲であり、双方にとっても最古の友人である。そしてそんな2人は、長い間他の友達がいたわけでもなく、その仲はエスカレートしていった
「おーい、霊夢ー」
颯爽と空から現れた少女は、その長い金髪が一層映えるような、黒の三角高帽を被っていた。黒い帽子が金色の髪を、金色の髪は黒い帽子を。それぞれがそれぞれの引き立て役となっており、黒と金のコントラストが映える
そして黒のスカートと上着、そして白いエプロン。その服装を総合すれば、魔女という言葉が余りに合っていた。重力という概念を無視して空からやってきた少女は箒に乗っており、それが更に魔女を体現していた
「あら、おはよう魔理沙。今日は少し早いんじゃない?」
その場に人間は2人しかいない。1人は空から飛んできた魔理沙と呼ばれる少女。もう1人は、朝から閑散とした神社で1人黙々と道を掃いていた少女。必然的に霊夢は彼女になる
霊夢と呼ばれた少女の服装で一番の特徴は、腋を出している事であろう。特に必要性のある状況ではなく、季節的にも腋を出すには不適切な季節で、それは奇っ怪な格好になっていた
さらにおかしなことと言えば、袖のようなものを二の腕から手首までを覆うように、着けるというのが適切だろう。肘の辺りから袖口までは受け入れ口が比例的に広がっており、動けばヒラヒラと動く
魔理沙の不吉な黒に対抗するかのように、大きいリボン、上着、スカートは全て紅く、袖のようなものや襟などは白で統一されており、めでたい色である紅白という言葉がピッタリだった
「いやーたまには早起きするのも悪くないな。風が冷たくて気持ちよくてな」
「その風のせいで風邪なんかひかないでよ。私のせいにされちゃうじゃない」
「そんときゃチルノ辺りの氷精にでも擦り付けてやるよ」
「それはそれでチルノからしたらたまったもんじゃないでしょうね」
何時ものようにたわいもない会話を2人は楽しむ。会話だけでも心が満たされるようになったのは何時からだったのだろうか。そんな事を2人は考えたことは無い。理屈ではなく感情で動く2人には、その感情が最優先だからだ
「それで?朝食位は食べてきたんでしょうね?」
「昼はご馳走になるぜ」
「はぁ・・・私の神社じゃご馳走なんて出せやしないけどね」
「私からしたらお前の料理がご馳走になるから大丈夫だぜ」
「あら、私は咲夜と張り合えるのかしら?それは初耳ね。今度料理対決でも申し込もうかな」
「その枠は妖夢が抑えてるから、もう遅いぜ」
いつの間にか霊夢は箒を動かす手をやめ、片手を脇腹にあてていた。魔理沙も同じ姿になっていた。それはまるで鏡のように
「アンタにはキノコでも出せばご馳走になるのかしらね」
「もしそうなら七輪で焼いてくれよな。後は酒も頼む」
「流石人の物を盗む魔法使い。酒と私の時間を盗む気かしら?」
「強欲巫女様には言われたくないな。まあその時は私の時間を半分ずつにしようぜ。酒とキノコと一緒にな」
「貴方が全て担当してもいいわよ」
「丁重にお断わりさせていただこう」
途中から2人は示し合わせたかのように神社へと向かっていた。その距離はとても近く、密着していると言っても過言ではなかった
パーソナルスペースという言葉が外の世界にはある。とは紫の言葉だった。その場にいた霊夢と魔理沙と早苗のうち、元外の世界の住民である早苗は理解をしており、知らない2人にパーソナルスペースについての説明をした
45cm以内だと極めて親しい人との距離。恋人や夫婦の距離はこれだと説明をした時に、早苗はふと気になり、その時に霊夢と魔理沙が縁側に腰掛けていた距離を測った。結果としては10cmという近さになった
『うーん。まあ確かに私自身も魔理沙とは特別仲がいいとは思ってるけど』
その距離を発表された際に、嘘をつくことのない霊夢は本心を口にした
親友ならこれくらいありえるでしょ。と付け加え、お茶を啜った
『まあ、霊夢さんと魔理沙さんの仲なら別段驚くことでもないですね』
『何時も抱き合ってるイメージあるもの』
紫は手に持っていた扇子で口元を隠す。習慣のように染み付いているそれは、もともと胡散臭いと言われる紫の性質を更に上書きし、強くさせる。しかしそれは紫にとって本心であるという裏返しでもあり、滅多な事では口元を隠すことをしない
『抱き合うまではしないな・・・でも言われてみたら・・・』
『確かに近いのかも。この前も魔理沙が本読んでた時に、後ろから顔を並べて読んだし』
『あーそうだったな。結局途中で飽きて私の背中に身体をあずけて寝だすんだよな』
何でもないように話す。事実それは二人からすればなんてことのない親友の延長上で。傍から見れば家族と化している二人からすれば、ただの日常なのだ
『ふーん。あーでもたまに見ましたねそういうの』
『それは、外の世界の話でしょうか?』
『ですね。私がまだ外の世界にいた時に、学校で今の霊夢さんと魔理沙さんみたいな2人がいましたしね』
その時のことを懐かしそうに言うでもなく、ただ報告するように淡々と語る
早苗は常識のある外の世界からやってきた、日本人の常識を覆す緑色の髪の毛を腰まで伸ばした少女である。外の世界では友達がいなかったわけでもなく、割と学生生活は良好だったらしいが、その時を思い出して後悔などをする素振りは見せたことがない
ー今を生きる私達人間にとって、過去は学ぶべきものであり、捕われるものではありませんー
幻想郷にも馴染んで来た頃に、魔理沙に外の世界への未練を問われた時に放った言葉である。このあと直ぐに、まあ偉人の言葉をアレンジしただけですけどね。と苦笑した
『2人のような、となると、手を繋いだりはしてたのかしら?』
『んーあーそう・・・だったかな?でも○○ちゃん大好き!って良く言い合ってましたね』
その時にどこかの男子がDaisukeとか言ってたので、後日調べてみたら笑っちゃいました。と蛇足
その間にも煎餅のあーんを2人はしていた。それはいつもどおりの日常風景だった
「お2人は結婚でもしてるんですか?」
カメラを持ち、黒い羽根を先程まで生やしていた少女が問う。2人はあっけに取られ、風すら吹かない静寂な時が訪れる
「あ、文?どうした?鳥頭にでもなったのか?」
「仮にそうだとしても、烏天狗である私の場合はかなり賢い部類になりますけど・・・というかそれは貶してるんですか?」
少女・・・本名を射命丸文。烏天狗は徹底的なまでの縦社会を築いており、年齢や種族によって地位が変わる。その中でも古参である文は発言力としても強い方であり、実際に上流階級に位置してもおかしくはない
しかしながら、射命丸文という少女はそれよりも新聞を作る方が幾倍好きらしく、そこそこの流通を誇る新聞作成に文字通り命をかけている
持ち前の素早さと、記事に起こす速さ、そして風を操る能力。それら三つが重なり、最速の烏天狗などと呼ばれている。人間ながらスピードでは妖怪にさえ勝る霧雨魔理沙とはいい勝負だが、やはり地力の差で文の方が速い
つまるところ、新聞用の写真を撮らせて貰おうとしたら、相手に近い側の手を絡め頬をくっつけ、余った手で2本指を立て、所謂ピースサインを行った。それまでの迅速で洗練された行動と、お互いを知り尽くしたかのような息のピッタリさに、もはや呆れがきていた
「そうよ。私たちはあくまでも親友よ?」
やや不満そうに霊夢が反論をする。魔理沙も頬を膨らませ、それに同意する
「はぁ・・・いや、ならいいんですがね・・・」