やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
それから総合評価400件です、ありがとうございます。
「へぇ…それで先輩はまだちょこっと吸血鬼なんですか」
「まぁそうだな。つっても歯磨きの時に歯茎から血が出にくくなったくらいだが」
「うわぁ地味…」
「うるせぇ、別にいいだろ便利なんだから。いくら派手でも役に立たなきゃ意味ねぇよ」
一色は、リアリストですねぇ、と微笑む。
あの日、俺が述べた提案。それは———全員が不幸を分け合う、というなんとも言い難いものだ。
だけど別に後悔はしていないとはっきり言える結末だった。
俺があの戦いの最中彼女の血を吸ったとき、僅かに感じた『人間に戻った感』。こればかりは感覚なので形容できるものではないのだが…まぁとにかくそれがなければ俺は思い当たらなかっただろう。
『限界までキスショットの血を吸い、俺は人間もどきとして、そしてキスショットは吸血鬼もどきとして生きていく』
そんな考えに気づきさえもしなかったと思う。あの時気づけて本当によかった、と自分から伸びている影を見ながら思った。
俺の影の中にいるのは、忍野忍。
アロハシャツのおっさんによって授かったキスショットの新たな名前だ。最初の頃は話してもくれなかったのだが、今では話好きな彼女の性質を取り戻しており、ミスドが大好きな生意気なロリと化している。
どこからどう見ても悪化してるんだよなぁ。
怪異殺しの威厳はどこに行ったんだよ。
「まぁそんな感じだ。他言すんなよ」
「は〜い」一色はあざとく返事をした。
思い出せば彼女とも長い付き合いだ。最初は彼女の態度に対して半信半疑だったのだが、今ではこの適当な返事から、彼女が約束を破るという事実を確信できるまで至っている。こいつもこいつで悪化してんなぁ。
「あ、でもですね、まだ聞いてない部分があるんですけど」
「あ?これで全部のはずだぞ」
一色はにやりと笑って「結衣先輩と雪乃先輩の話です」と言った。
ち、と軽く舌打ちをする。覚えてやがったか。なるべく忘れてくれるように最後だけとんでもなく情緒たっぷりに話したのだが効果はなかったようである。
「…つか、現状見てりゃ知ってるだろ」
「まぁそうですけど。まさか本当にハーレムにするとは…」
「とりあえず忍もお前もなんだけどハーレムって言い方やめない?」
俺がそう突っ込んだ瞬間、一色は何かに気が付いたのか目を丸くする。そして捲し立てる。
「もしかしてこの流れで比企谷ハーレムに私も加えようとしているんですか?流石にそれはちょっと引くというか私好きな人がいるので無理です。ごめんなさい」
「…さいで」
俺はもはや様式美となった彼女の『ごめんなさい』を軽く流した。一瞬だが、むぅ、と頬を膨らます一色の姿を視界で捉えてしまい、俺の頬は赤く染まる。仕方ねぇだろ。可愛いんだから。
あと比企谷ハーレムとか変な名前つけるなよ。語呂が良すぎて最悪流行るぞ。主に奉仕部で。
「先輩、本当に後悔してないんですか?」
再度一色が俺に問いかける。それはこれまで大勢の人間に尋ねられてきた質問だったため言葉はすぐに出てきた。
「してねぇよ。俺が選んだ道なんだから後悔とか有り得ん」
「おぉ〜先輩にしては格好いいこと言うじゃないですか。葉山先輩には及びませんけどね」
でも嫌いじゃないです、と一色。
だかだそういう言動が多くの男子を死地に送り込んで…いやこいつに限ってはそれを理解しつつやってそうだな。より一層たちが悪い。
「それにしてもおふたり遅いですねぇ」一色はふぁぁ、と欠伸をした。
「そうだな」俺はぶっきらぼうに返す。
と、噂をすれば何とやらとは本当の話のようで。
「やっはろー!」
「ご機嫌よう」
「あ!やっと来た!お疲れ様です〜」
「…っす」
「珍しいわね一色さんと2人きりなんて。比企谷ハーレムにもう1人加える話でもしていたのかしら」
「ちょっと待て命名お前だったのかよ」
何のことかしら、と雪ノ下。絶対にこいつがインフルエンサーだ、間違いない。こういう部分は昔から全く変わってない。悪化どころか元から悪いのだからもうどうしようもない。まずい、ちょっと笑えてきた。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。
「で、何の話してたの?」
俺が吸血鬼になってこいつらと付き合い始めてもう一年過ぎたのかと思うと色々と思うこともあるもんだ。
「いや別に大し」
「先輩が吸血鬼だったーっていう話ですよぉ」
「は!?おまっ…!」
なんで誤魔化そうとしたタイミングで全てバラすんだいろはすは、俺の焦りを見て首を右斜め45度に傾けた。
「え?隠す必要ありました?」
「いや、ないけどさ…」強いて言えば今更蒸し返してると思われるのも嫌なんだ。
「あぁ、そのことね。懐かしいわ」
「ほんとだよねぇ、そっからどんどん色んな怪異と遭っちゃうし…」
雪ノ下と由比ヶ浜も同じ気持ちだったらしく、感慨深げに頷いた。仲間外れにされた一色が再び頬を膨らます。そんないつも通りの風景がそこには広がっていた。
だがここまでの約一年間、年がら年中こんな感じだったわけではなく、怪異絡みの案件もそうでない案件もあり、紆余曲折をなんとかくぐり抜けて今に至るのだ。レイニーデビルとの戦いなんて中途半端な不死性のせいでまじで死ぬかと思ったのだが今となってはそれもいい思い出である。
俺たちの怪異の、物語はあれで終わりではないのだ。このあと、由比ヶ浜と『猿の手』、そして雪ノ下の『蟹』の話などさまさまな怪異と出会った。
忍野メメ曰く、『一度怪異に遭った人間は今後も怪異に遭いやすくなる』そうだ。だからきっと、今後もそういった類のものと出会い続けるのだろう。
全く、俺は当初予定していた学校生活とはずいぶんかけ離れたものになってしまった。平穏で、波風が立たないぼっと生活を送ろうとしていたのにいつの間にか吸血鬼になり彼女まで出来てしまった。
それも2人。
2人である。
『彼女持ち』『吸血鬼』、この二つの称号はどちらも俺にとっては荷が重いもので、別の世界線では誰か別の人間が吸血鬼になってるんだろうなぁと思う。なんなら『彼女持ち』だって神様のミステイクなのではないかとさえ感じるほどだ。
まぁ何はともあれ。
「…やはり俺が吸血鬼なのは、間違っている」
たけど別に、悪くはない。
♦︎♦︎♦︎
「そうそう、私昨日ドーナツ作ってきたんだよね!良かったら食べてみてくれない?」
「悪い、今日はちょっとお腹いっぱいなんだ」
「私も今朝から腹痛が止まらなくて…」
「あ、私そろそろ帰りますね!」
「ちょっとちょっとちょっと何で!?ヒッキーはさっきまでめっちゃみかん食べてたしゆきのんは顔色元気だしいろはちゃんは私の料理食べたことないじゃん!」
「お前ほんとツッコミ上手くなったよな…」
「そ、そうかな…?えへへ」
「由比ヶ浜さん、褒められてはいないわ」
冗談はさておき折角由比ヶ浜が作ってくれたドーナツだ。見た目も悪くないし味も大丈夫だろうから是非頂こう———と思ったら自分の影から腕が伸びてきたので一半分に分けてやる。まだ日は出てるのにどうして起きてるんだお前。食い意地張りすぎだろ。
「えーっとこれがプレーンでこれがイチゴでこれがカレーだっけ」
「「「カレー?」」」
「いやぁ調べてたら出てきてね?私も半信半疑で作ってみたら意外と美味しかったんだよね」
「貴方が初めて奉仕部に来てクッキーを作ってからここまで成長するなんて、感慨深いわ」
「あぁ、やべっ、涙腺が」
「酷くない!?」
「…結衣先輩のクッキーってそんなに不味いんですか?」一色が訝しげに問う。
「それ本人に聞くなよ…まぁあれだ。呪霊の味がする」
「どういうこと?」
本当に分からないのだろう、由比ヶ浜が尋ねる。そら当たり前だ。俺が彼女が確実に知らないであろう言葉をチョイスしたのだから。ちなみに意味は『吐瀉物を処理した雑巾の味』である。バレたらバレたでウケを狙おうと思って発言した内容だったが発した後で「あれ、これ大丈夫か?」と冷や汗がダラダラ出てきた。あぶねぇ、まじでバレなくて良かった。
…あ、ちなみに冗談だよ?
「結衣先輩、それの意味はですね吐瀉」
「お前ちょっと黙れ!!!」
「ふが!ひょっほひひははへんたい!!」
「今変態っつったか!?」
「いや、ノータイムで女子の口に手を被せるのは変態だと思うよヒッキー…」
「…比企谷くん、あとで分かっているわね?」
本気の目だった。最悪腸を引っこ抜かれる覚悟くらいはしておいたほうがいいかもしれない。
「…わーったよ。一色もまじでやめろ?」
比企谷変態ごめんなさぁい、と一色はいやらしい笑みを浮かべながら返事をした。やっぱわざとじゃねぇか。流石に失礼、噛みました、とはいかねぇぞ。反省のかけらもないだろこいつ。
ったくもう…。
———それから俺たちはドーナツパーティーを楽しみ帰宅した。自室へ入り、一色に長話をしたせいからか(一色が吐瀉物と言いそうになるたびに騒いだからか)疲労が著しかったのでベッドへ倒れ込む。
それと同時に影からスルスルニュルニュルと金髪美少女の姿が現れる。
忍野忍。
元キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
「なぁ、忍」彼女が完全に出で来てしまったのを横目で確認しながら呼びかける。
「なんじゃ」
「お前、俺でよかったと思う?」
「随分と気持ち悪い質問をするの。まぁお前さんより人格者でハンサムで目の腐っていない人間はいくらでもおるだろうな」
「はっきりしすぎだろ。泣くぞ俺」
「———じゃが、儂にはお前さんしかおらん」
「はっ……そうかよ」
そう呟いた瞬間、下の階から小町が「お兄ちゃん晩御飯できたー!」と叫ぶ声が聞こえたので感傷に浸るのは一度ストップする。
「今行く」と返事をして階段を下った俺を待っていたのはいつも通りの、満面の笑みを浮かべた小町だった。
「さ、食べよ食べよ!」
慌ただしいなおい、と笑いながらも日常の尊さを噛み締めた。
世界は回り続ける。同じように、俺の人生は果てない時間の波を流れ、最期の時に着々と近づいていく。
時間が過ぎゆくのはあまりに早い。あの地獄のような時間を過ごし、満足している場合ではない。人生はこれから始まったも同然だ。
———傷物たちの物語が、今始まる。
<終>
あとがたり。
『やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。』をここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
最初は執筆中だった『過負荷の刃』に行き詰まったときの休憩みたいな作者のための小説だったのですが、皆さまからの感想や、増えていく評価を見ているとこりゃ休憩なんて言ってる場合じゃねぇなと気がつき急ピッチで書いていきました。
それから過負荷の刃を見ていた皆様申し訳ございません。
まだそちらのモチベは上がりそうにないです、はい。
僕が書いていた俺ガイルファミリーの姿はどうだったでしょうか。原作と違って不満だった原作通りだったのか…正直自分では全く分かっていないので感想とかで教えてくれると嬉しいです。
まぁ何はともあれ駄文に付き合ってくれて感謝感激雨嵐です。自分で読んでても駄文なので皆さんから見ていたらどうだったんだろうか…。
それから次に書く話についてもお話ししておくと、
①鬼ガイル 続
②兄ガイル(本作とは無関係。小町のラブコメ)
③花より男子8(現在執筆中)
が候補としてありますがどれがいいですか…③を選んだ場合これ一本で暫く書いていくことになります。アンケートを設置しておきますのでよろしければ。
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アンケートの結果を見てこの作品の続きを書くことにしました。ありがとうございます。以下のURLから飛べます。
https://syosetu.org/novel/278613/
次の小説はどれがいいですか?(3つ目は現在途中まで投稿済み)
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鬼ガイル 続
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やはり兄の青春ラブコメは間違っている。
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花より男子8(エイト)